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竜王様のへタレな恋  作者: Ara
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求婚1

 ああ、まだ言い訳をする心の準備が出来ておらんというのに。

 本当の訳は言いたくないから、代替案の言い訳を考えた。

 あの夜の行き当たりばったりの言い訳のような稚拙なモノではなく、よく練り上げだ高等な言い訳だ。

 それは、竜族の存在は公表されていないため、番い以外には口外出来なかったとするもの。

 これは竜王国の決まりで嘘ではない。

 ただ、ローリーは番い候補であったのだから、言っても全く問題はなかったのではあるが、このへんは言わなければバレないと思う。

 だが、この後が問題だ。

 言い訳はこれで良いとして、依然として、時間を巻き戻す事が出来ない役立たずの竜王問題は残っている。

 出来れば、ローリーの周囲状況を把握して、時間を巻き戻さなくても解決出来る方法を見つけてから告白したかった。

 実のところ先程までは、ローリーに訊かれても笑って誤魔化して、何とかそうしようと目論んでいたのだ。


 ああ、ローリーの驚きに凍りついた顔が、徐々に歪んだものに変わっていく。

 我はそれを見た途端、言い訳などどうでも良くなった。 

「ああ、ローリー、済まぬ済まぬ、許してくれ! 嫌いにならないでくれ! 言おうと思ったのだ、本当に言おうと思ってた! 嘘ではない。これには深い事情があって!」

 いてもたってもいられなくなって、すぐさまローリーの足元に膝をつき懇願して許しを請うた。


「アル、いいの。いいのよ。そんなに一生懸命に謝らないで。事情があったのだもの、仕方がないわ。それに、アルはジョシュを救ってくれた恩人よ。嫌いになるわけない」


「本当に? 許してくれるか?」


「当たり前じゃない。アル、わたしこそ謝らなきゃ。疑って氷漬けにしてごめんなさい。そして、わたしやジョシュやみんなを助けてくれてありがとう」

 そう言って、ローリーがぎゅっと抱きしめてくれた。

 嬉しくて我もぎゅっとし返し、二人で抱き合い喜び合った。

 

 やがて、ローリーはゆっくり体を離すと膝をつき、真剣な面持ちで我を見上げる。

 そして両手を胸の前で組み、我に祈るように話し始めた。

 

「アル、いいえ、竜王様、お願いがあります。七年前、両親は私達を守るため、闇の魔法使いと戦って瀕死の重傷を負いました。わたしが両親の元に駆けつけた時には虫の息で、治癒魔法も回復魔法もかなわない状態でした。わたしは当時七歳、時間が経てば両親が死んでしまうと怖かった。無我夢中でわたしは魔法を発動し、時の流れを止めました。両親を救うには、襲撃により負った怪我をなかったものにしなければなりません。わたしには時を止められても、巻き戻す事は出来ません。このような事は竜王様にしか出来ません。どうかお願いです、両親の時を巻き戻して命を救って下さい。お願いです!」

 

 涙をハラハラと流し我を見つめるローリーに、なんと言えば良いのか途方にくれてしまう。

 弟の方もやって来て、ローリーの隣に同じように膝をつき、お願いしますと頭を地面にこすりつけた。

 ローリーのあと少し壺一杯になるまでと、一生懸命お金を貯めていた姿が思い起こされる。

 あのような場所で道案内をしていたのも、何もかもみな、今この時、我に両親を救ってもらいたい一心でした事なのだ。


 我が何も言わないのに気付いたローリーは、ハッと何かを察知した素振りを見せ、顔を歪めた。


「嘘! 嘘でしょ!? アル、出来ないの? 竜王様だもの、出来るはずよ! あんなにすごい火だって簡単に消しちゃうんだもん。ね? そうでしょう? お願い、アル、そうだと言って!」


 最後には叫ぶように我を責め、縋り付いてくるローリーに、我はただ残酷な真実を告げる。


「済まない。我に時間を巻き戻す事は出来ぬ。我だけでない。おとぎ話の竜王も時間を巻き戻したわけではないのだ。あれは恐怖を与え、人間が攻めて来ないように、幻影を見せたのだ。ローリー、本当に済まない」


「そ、そんな、嘘よ、嘘、うそにきま・・・」

 ローリーの体から急に力が抜けた。


「ローリー!」

「姉様! 姉様!」


 しまった。ローリーの体にまだ我の魔力が馴染んでいないのだ。

 我はローリーを抱き上げ、周りの人間を見回して言った。

 

「休ませたい。どこか寝かせてやれるところはないか?」

「姉様はどうしたんですか? どうして倒れたりなんか」

 ジョシュアが心配そうに尋ねる。

「魔力を使い果たしてしまったのだ。それで、応急処置に我の魔力を入れたのだが、馴染むには時間がかかるゆえな。だが心配はいらない。休ませてやれば大丈夫だ」


「そうですね、屋敷の部屋はどこも使えませんが、ここを離れるわけにも参りませんしね。ああ、そうですよ、あの部屋に戻りましょう。ジョシュア君どうですか?」

 我がハイネケン家を守護するように頼んだ者のうちの一人であるエリックが、我の問いに答えた。


「はい、それで結構です。それに、竜王様にも見ていただけますから、ちょうどいいです。僕が案内します」


 部屋に案内してもらい、明かりが(とも)されて見た光景に、我は言葉を無くした。

 屋敷の他の部屋はほとんど焼けていたのに、結界が張られたこの部屋だけは無傷のまま存在していた。


「私も初めて見たときは驚きました。竜王様にハイネケン家を見守るように言われて、様子を窺っていたのですが、いきなり大勢に囲まれまして撃退することは叶わず、屋敷の中の人間だけでも逃がそうとジョシュア君に接触しました。竜王様の御名を出したらすぐに信用して貰えたので、皆さん、ご存知なのだとばかり。えっと、あの、先ほどは申し訳ございませんでした」


「いや、まあよい。いずれは話さねばならなかったのだ。それで?」

 我は話の続きを促した。


「ところが、両親を置いて逃げることは出来ないと言うんです。そして、案内して貰ったのがこの部屋です」


 そこは、なんの変哲も無い書斎のような小さな図書室のような部屋であった。

 ただ、それを異様に見せているのは、至る所に飛び散った血痕は生々しく、ひっくり返った椅子や散らばった本の間に、体中から血を噴きだし、その血溜まりの中に、今にも息絶えんとしている二人が倒れていたからである。

 部屋の中をよく見れば、あちらこちらに焼け焦げたところや衝撃にえぐられてできたような穴があり、凄絶な攻防があったものと思われる。

 そして、ひっくり返った邪魔な椅子を元に戻そうにも、ピクリとも動かない。

 血溜まりすら、生々しく見えるのに、手で触れても血がつくということはなかった。




 

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