決着4
※※評価を入れて下さった方へ※※
高い点数を入れていただき、ありがとうございました。
嬉しいです。お礼申し上げます。
両腕にディーンとフランを抱え、転移魔法で火柱の立つ場所へ一気に飛んだ。
空中で静止して、下方を見た瞬間目に飛び込んできたのは、囲まれ攻撃を受けている番いの姿だった。
すぐさま囲んでいる奴ら全ての頭上に怒りの雷を落とす。
ドサドサドサとローリーを攻撃していた人間達が地面に崩れ落ちたのを確認して、我はホッと一息ついた。
しかしローリーは、そんな周囲には目もくれず、ただ一人の魔法使いに狙いを定め、杖を振り上げ魔法を放った。
カキンと弾かれたような音が響くと同時に、ローリーの体が力が抜けたようにパタリと倒れる。
え? 一瞬の出来事で我は何がどうしてローリーが倒れたのか、頭が真っ白になって、何も考えられない。
ローリーの元に行かなければと思うのに、身体は凍りついたように動かない。
怖ろしさに身が竦む。
現実を突き付けられるのが怖くて、何もかもを拒絶しかかったその時、下方からフランの声がした。
「アルベルト様、大丈夫です! 生きております! 早くこちらへ!」
生きていると聞いて、慌ててローリーの元へ駆け寄った。
抱き寄せ呼びかける。
「ローリー! よ、良かったっ! ローリー! 無事か? ローリー?」
「外傷はございません。おそらく魔力を使い果たしてしまったのでしょう」
フランの落ち着いた声に我もやっと安心することが出来て、ローリーをじっくり観察した。
フランの言うとおり、魔力が枯渇しているようだ。
魔法使いにとって魔力は生命力に等しい。
こままでは命の火が消えてしまう。
やつれ果てたローリーの瞼がかすかに動いた。
「ああ、ローリー、良かった。生きているのだな! もう大丈夫だ。ローリー、我の魔力を受け取れ」
ローリーに言い聞かせるように言って、口移しに魔力を注ぎ込んだ。
「これこれ、そのように強請るでない」
しばらく魔力を注いでやると、ローリーの力の入っていなかった体がピクリと動き、ゆっくりと腕が持ち上がり我の首に回され、もっともっとと強請るように小さな口が吸いついてくる。
「いっぺんに入れるのは体の負担になるゆえ、」
口を離そうとすると、その口を追いかけて吸いついてくる小さな番いの口。
「ああ、分かった分かった、もう少しだけだぞ」
とても我慢など出来るはずもない。
たとえ敵が目の前でイライラと我とローリーの睦まじい姿を睨みつけていたとしても。
「アルベルト様、お楽しみ中申し訳ないですが、そろそろよろしいですか?」
遠慮がちにフランが声をかけて来た。
それと同時にローリーも目を開け、きょろきょろと辺りを見回している。
「あれ?! アル?! え? なんで?」
「ああ、気がついたか。良かった良かった」
我はぎゅっとローリーを抱きしめた。
とそこに空気を読まぬ不粋な輩の声が割り込んでくる。
「おい、お前がグローリアの師匠か? 見かけない顔だな。やはりレノルドの者ではないのか。グローリアを助けに来たというわけか? これはお前がやったのか?!」
矢継ぎ早に何やら問いかけて来るこの偉そうな男、フランを見るとそうですとばかりに頷いている。
こいつがどうやら首謀者のようだ。
ふむ。
我はこいつをどうすべきか考えた。
優先順位として、ローリーの無事は確認できた。
だが、まだ屋敷の火は消さねばならぬし、うん、やはり我はこのような男の相手をしてやっている暇はないな。
「フラン、ディーン、この男の相手をしてやってくれ。死なない程度に痛めつけて、逃げぬように縄で縛ってその辺に転がしておけ」
「な、なんだと!? おい、貴様、私が聞いた事に答えぬつもりか! いいだろう、それならこちらもそのつもりで、」
我は後ろにいる残りの魔法使い達に、先ほどと同様の雷を今度は死なないように慎重に落とした。
殺すのは簡単だが、証人は必要だからな。
先にやった方は手加減する余裕がなかったので、まあ、ローリーを攻撃した時点で手加減する必要はないが、全員死んでるだろう。
バタバタバタと味方の魔法使い達が倒れて行くのを見た首謀者の男は、言いかけた言葉を飲み込んで、ひぃーという悲鳴とともに震え上がって、その場に座り込んでしまった。
本当にこんな小物の男が闇の魔法使い郎党の首謀者なのだろうか?
ひかかるものはあったが、まあ、それを追求するのは我の仕事ではないな。
我は番いと番いの大事な人間が無事であれば、正直どうでもいい。
くだらない人間はフラン達に任せて、我は我の仕事をしよう。
「あ、ア、アル、魔法が使えるの? それともこれも超能力の一種なの?」
ローリーが一部始終を見て、驚きの声を上げた。
我はそれには答えず、ローリー抱き上げたままゆっくり浮上し、燃える屋敷を見下ろす。
「アル! お願い! 屋敷の中にみんながいるの! 結界は敷いてあるけど、この業火じゃあいつまでもつか、あぁー、う、あぁーん、わ、わかんないっ。アル、お願い、助けてっ」
縋りついて泣くローリーを宥めるようにしっかり抱きしめ、頼られた歓びを噛み締めながら言った。
「大丈夫だ。我に任せよ」
我は屋敷の上に厚い雲を呼び、ザーッと大雨を降らせた。
すると業火は瞬く間に小さくなり、やがて消えた。
あっという間の事だった。
「え? アルって一体何者なの? こんなに簡単に消しちゃうなんて」
驚きに目を丸くして尋ねるローリーに、我は笑って誤魔化し、皆の無事を確かめに行こうと促した。
下に降りると、フランとディーンが散らばって倒れていた魔法使い達をひとところに集めているところだった。
その中には、顔をボコボコにされ、足や手がおかしな方向に曲がっている、おそらくはあの男だと思われる者も混じって転がされていた。
ローリーが降ろしてくれと言うので、あまり気がすすまなかったが、降ろしてやった。
ちょうど黒焦げの屋敷の中から人が出て来たからだ。
「ジョシュ!」
ローリーはふらふらしながらも、弟と思われる、屋敷から出て来た中の一人に駆け寄り抱きついた。
そして、我も屋敷から一緒に出て来た人間の中に見知った顔の二人を見つけた。
二人も我を見つけて、駆けて来て膝を付く。
あ、まずいっ!!
「竜王様!」
制止したが間に合わず、その声にローリーが反応した。
そして、振り返り、衝撃に凍りついたような表情で我を見た。




