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竜王様のへタレな恋  作者: Ara
31/77

暗雲3

 部屋に戻ると二人とももう起きていて、食堂に行く準備をしていた。

「ローリー、おはよう」

 我はコワゴワローリーに挨拶をした。

 顔つきから考えるに、やっぱりまだ怒ってるみたいだ。


「アル、夜中なのにどこに行ってたんだ?」

 ローリーは我とは目を合わせようとはせず、冷たい声色で問うてくる。


「え? あ、ああ、散歩だ。目が冴えて眠れなかったのでな、それで、」

「ああ、言い訳はもういいよ! しばらくアルとは口を利きたくないから、話しかけないでくれよな」

「え? え? そんな、ローリー」

 ローリーは我の声は聞きたくないとばかりに、先に行くと一人で食堂に行ってしまった。


 ああ、しまった! 我は頭を抱えた。

 我の幼稚な言い訳など、聡いローリーに通じるわけがなかった。

 何と言うことだ、また、怒らせてしまった。

 しかし、では、何と言えば良かったのだ?

 本当の事は言えないのに。

「ディーン、ローリーが・・・」

 ディーンに向き直り助けを求めたが、肩をすくめるばかりで何の役にも立たなかった。

 

 食欲はとうに消え失せたが、ローリーの様子も気になるので、二人で食堂に向かった。

 ローリーは一人隅の方の席にぽつんと座って食べていた。

 隣が空いていたので、黙って座った。

 話しかけるなとは言われたが、隣に座るなとは言われていない。

 

 ディーンがしきりに、軽い調子で話しかけるが、ローリーは答えない。

 我は話しかける事を禁止されているので、話しかけたいが出来ない。

 もぞもぞしているとローリーがため息をつき、

「ごめん。しばらく話す気分じゃないんだ。気持ちが落ち着くまで待ってくれ。頼むから」

 くるりと我の方に首を回し、諦めたように言った。 

「分かった。我はローリーの気持ちが落ち着くまで話しかけない」

 我はしっかりと宣言した。

 分別をわきまえた大人だからな、ちゃんと待てるぞ。


「でも、しばらくってどのくらいなのだ? 食事の間か? 終わったらいいか?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」 

 

 誰も答えてくれない。


 ああ、そうか、なるほど! 我は手を打った。 

 今がまさに”しばらく”の時間だから、話しかけてはならぬのだ。

 慌てて口をつぐみ、我は黙って食事をすることにした。

 

 話しかける事は出来ず、あ~んは状況を鑑みるに無理っぽい、寂しく黙々と食事をとっていると、急に周りがざわざわし始め、不穏な内容の会話が漏れ聞こえてきた。


「おい、聞いたか? サンドール男爵家が三日前襲われたらしいぞ」

「ああ、俺も今聞いたところだ。男爵様は重傷、一番下の令嬢は攫われちまったらしいぞ」

「男爵様と言えば、有名な魔法使いだろう?」

「確か、そうだな。なんだか、数年前に起こった事件を思い出すな。まさか、また奴らが動き出したんじゃあ」

 

 さらに、バタバタと一人の客が食堂に駆け込んで来て、皆に聞こえるように一報をもたらした。

「大変だ。コッペン子爵家が昨夜襲撃に遭って、一家全員行方不明だ!」

 

 コッペン子爵?

 昨日立ち寄ったところがそんな名ではなかったか。

 近いな。

 我はただそう思っただけだった。


「もう、間違いない。また、奴らが動き出したんだ」

 食堂にいる者達が口々に言い合っている。

「それで、王宮付きの魔法使いが派遣されて来るらしいぞ」

「へえ-」

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・


 食堂にいる皆が口々に話しているのをしばらく黙って聞いていた。

 もう、食事をする手は完全に止まっていた。

 

 昨夜、我はディーンからサンドール男爵家の事を聞いている。

 サンドール男爵家以外にも、実は王都近辺の都市で散発的に襲撃事件が発生していたらしい。

 そして周囲に知られないように巧妙に隠されていた襲撃が、ここにきて大ぴらに見せつけるように起き始めた。

 まだ、王都内で襲撃事件は起こっていないようだが、今日にも起きないとの確証はない。

 もしやと思い動いておいて良かった。


「オ、オレ、帰る」

 立ち上がって言ったローリーの顔は青ざめて、そして体は小刻みに震えていた。

「途中で悪いけど、ここで辞めさせてもらう。金はいらない。じゃ、先に行くよ」

 只ならぬ様子にローリーの周囲で何かが起きているのだと思った

 

 足早に出て行こうとするローリーを止めて、我らも共に王都に戻ろうと申し出た。

「これから馬車を探して向かうより、一緒に乗って戻った方が早い。遠慮はいらぬ」

 ローリーはしばらく迷う素振りを見せたが、決心したように頷き、皆で馬車へと急いだ。

 

「あ、そうだ。ローリー、今日から新しい御者になる」

 ディーンが思い出したようにローリーに御者が交代したことを告げる。

「え? なんで?」

 ローリーは立ち止まり、怪訝そうにディーンに尋ねる。

「急用かなんかが出来たらしい。済まないっ謝っていたよ。でも代りの御者がいるんだから、別に構わないだろ?」

 ローリーは納得のいかない顔をしていたが、何も言わずに馬車に乗り込んだ。

 

 それからは、馬も可能ならば換え、とにかく先を急いだ。

 その間にも、新たな襲撃事件の報が舞い込んできて、ローリーはその度に爪を噛みながら、焦りを必死に堪えているようだった。


 ローリーの様子から、緊迫した何かが起ころうとしているのが分かる。

 何らかの危機に直面しているのではないか、巻き込まれてしまうのではないか。

 我もまた焦りを感じていた。

 

「ローリー、困っている事があるなら我らに出来ることはないか? ローリーの手助けをしたいと思う。どうだろう、話してみる気はないか?」

 

 今まで何度となく繰り返してきた言葉を、再びかける。

 しかし、ローリーはやはり黙ったままで、何も言わない。


「七年前の襲撃事件に関係しているのだろう? 両親の事もローリーにかかっている魔法の事も。また襲われる可能性があるのか? ローリーの家は平民派なんだろう?」

 

 番いの危機に狼狽しない雄などいるはずもなく、我は我慢しきれず問い詰めてしまった。

 ローリーは我らに襲撃事件についての知識がある事に驚いたようで、ハッと俯いていた顔を上げ、目を皿のように見開き我らを見つめる。

 呆然として何を考えているのか、顔色はますます悪くなり、唇を噛んで何かに耐えるような素振りさえ見せた。


「ああ、すまぬ、ローリー。我はただローリーが心配なだけだ。問い詰めるつもりなどなかったのだ」

 我はまた失敗してしまった。

 しかし、どうすれば良いのか全く妙案など浮かぶはずもなく、おろおろする我に、険しい顔をしたローリーが覚悟を決めたように口を開いた。


「分かった。アルがそこまで言うなら、話してもいい。王都に着いたら話すよ」

 

 

 


 

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