お、おじさん?
お、お、おじさん?
今、子供から放たれた言葉が何気に我の胸を貫いたぞ。
お、おじさん? 子供はおじさんと言ったか?
思わず我はディーンを指してじゃあこっちは?と子供に尋ねた。
「は?何が?」
「こっちもおじさんか?」
子供はディーンの方を見て、我を見て、もう一度ディーンを見て、言った。
「お、お兄さん?」
「なんで、こっちはお兄さんで、我がおじさんなのだ」
いや、確かに実年齢で言えば我は年寄りの部類に入るかも知れないが、『竜王様は全くトシヲトリマセンナア』とか『いつまでもオワカクテウラヤマシイ』とかいつも言われるし、宰相になど『その見かけは最早サギデスネ!』とネチネチ嫌味を言われておる我が!!
まぁ、宰相は若ハゲだからな、フサフサの我に嫌みのひとつも言いたくなる気持ちは分からんでもない。
ああ、あまりの衝撃に現実逃避してしまった。
「えー、そんなのどっちでもいいよ」
子供はめんどくさそうに言う。
いや、どっちでも良くないぞ。
おじさんは、お父さんと同列のような気がする。
お父さんはダメだ。
絶対に駄目だ。
「えーっと、じゃあ二人ともおじさんで、・・・いやお兄さんで!」
子供は空気を読んで答えた。
「・・・・・・」
不思議ではあるが、我はどうしてもこの子供にだけは年寄り認定されたくなかった。
「ちょっとよろしいですか、アルベルト様」
今まで脇で黙っていたディーンが我を呼んだ。
「どういうおつもりで、あのような事を?」
一応子供を気にしてか、小声で文句を言ってくる。
「ほら、我らはここは初めてで、よく分からないから、道案内があった方がいいだろう?」
言い訳くさくなったがまあ仕方がない。このまま誤魔化して押し切ってしまおう。
「いいじゃないか。水魔法も火魔法も使えるみたいだし、便利だと思うぞ」
「便利?・・・便利なのでしょうか? 逆に子供が一緒では不便では・・・」
ディーンが不満気に反論して、なかなかうんと言わない。
やはり、手強い奴だ。それに気が利かない。
こういう時は主人にうまく誤魔化されてやるのが従者の務めではないのか。
「えーい、いちいちうるさいぞ。あんまりごちゃごちゃ言うなら置いて行くぞ」
ディーンは我の言葉に驚いている。
あんぐりと口を開けて固まってしまった。
我はその隙に自己紹介をすることにする。
「我はアルベルトだ。アルと呼んでくれてかまわない。で、こっちはディーンだ。よろしく頼む」
「オレはローリー。じゃ、早速だけど金貨15枚だ。前金でもらうよ」
ローリーはそう言って、呪文を唱えた。
すると子供が抱えるにはかなり大き目の壺のようなものが目の前に出現する。
「収納魔法も使えるのか」
「ああ、そうだよ。荷物で預かって欲しい物があったら、入れてやるよ?」
ただし、一個につき金貨1枚、別料金だけどねーと言って、我にその壺を差し出した。
「この小さな穴の中へ金貨を15枚入れてくれ」
壺には蓋が付いており、中身は見えなかった。
なるほど、蓋には細長い小さな穴というよりは隙間がある。
「この蓋はオレが魔法でくっ付けたから開かないよ。割らないと中身が取り出せない仕組みになってるんだ」
言っとくけど、これは落としても割れないし、防犯に恐ろしい魔法がかけてあるから、盗もうなんて思わない方がいいよ。そう言ってローリーは不敵に笑った。
「おいっ!道案内するだけで金貨15枚とは高すぎるぞ。知らないと思って舐めるなよ」
横からディーンが割り込んできた。
我には金貨15枚が高いのか普通なのかよく分からない。
別に高かろうが安かろうが払ってやればいいのにと思ったが、子供の同行についてはもう文句を言わなかったから黙ってディーンの言うことを聞いていた。
我は藪蛇という言葉を知っている。
「しょうがないなー。金貨15枚はAプランでセット料金なんだ。それが嫌だというならBプランを勧めるよ」しぶしぶ子供が提案する。
「Bプランは基本料金とオプションサービスに分かれていて、基本料金は金貨5枚だ。これは前金でもらう。オプションサービスはそれぞれサービスを受けるごとにに支払う。サービスを受けなければ金貨5枚で済むということだ」
「オプションサービスの内訳は、まず水だな。革袋1袋につき銅貨4枚だ。食事は1食につき銅貨4枚、魔コンロ貸出1回につき銅貨4枚、火起こし一回につき銅貨3枚、毛布1回1枚につき銅貨3枚、それから・・・」
ディーンが長々と内訳を言うローリーを遮って言った。
「あー、説明はもういいよ。また、サービスを受けたくなった時に聞くから」
「ふぅ~ん、まだ説明が終わってないんだけど。聞かなくてほんとにいいの? じゃあ、そういうことで! それで、Aプランにするの? Bプランにするの?」
ローリーがニヤニヤしながら面白そうにディーンに問いかける。
「Bプランに決まっているだろう!」
「わかった。Bプランだね。じゃ、早速金貨5枚をこの中に入れてくれよ」
そう言ってローリーはにんまり笑った。




