求愛作戦2
※ディーン視点
「あれは何なんですか」
「何なんですかとは何なんだ?」
竜王様は憮然として、問い返して来た。
やっぱりこのヒト何にも分かっていない。気付いてもいない。
「さっきの、これ見よがしにローリーを褒めてたやつです」
「ああ、あれはな、昨夜、お前が褒めろと言っていただろう? それを思い出したのだ」
竜王様はやり遂げた感をぷんぷん出して言ってきた。
やっぱり。はっきり言いますけど、全くのダメダメですからね。
昨夜のだって、俺に丸投げとか!
六百年生きて来たいい大人が生まれてまだほんの少しの小娘に人生訓を教わるなんて。
「俺は褒めろとは言いましたけどね、まさかあんなふうに、これみよがしに羅列するとは思ってもみませんでしたよ。しかもなんですか、お金を稼ぐのが上手いとか、ディーンに負けていないのがすごいとか、全然それ褒め言葉じゃないですからね!」
俺がきっぱりとダメ出しすると、ムッとして言い返して来る。
「なんで褒め言葉ではないのだ。我が褒めたのだから、褒め言葉だろう! それに、我はうわべだけ褒めたわけでもないしな。本当にローリーは素晴らしいと思っているのだ。嘘などついておらぬぞ!」
そうでしょうとも! そうでしょうとも!
「それは分かっております。ですが、客観的に竜王様の言葉を拝聴いたしますと、このように聞こえます。よろしいですか? 魔法が上手いは、これはよろしいです。ローリーは魔法使いとして、高いプライドを持っておりますからね、自尊心をくすぐられて良い気分になったことでしょう。次のお金を稼ぐのが上手い。これは、お金に汚い、守銭奴、やり手、ずる賢いと言ったも同然、また、私に負けていないというのも、大の男をやり込めるほど生意気、礼儀知らずと嫌みを言っているように聞こえます。つまり、竜王様は褒めているつもりでも、当の本人が褒められたと思わなければ、何にもならないということです。分かりましたか? それから、褒める時は、さりげなくしてください。あのように、これ見よがしに羅列してはいけません」
「・・・分かった」
竜王様はむっつりした顔で、い・ち・お・う納得してやったという言い方をした。
「では、馬車に戻りましょう」
俺は竜王様に声をかけた。
ここは、リストの令嬢のうちの一人である男爵家の屋敷の前である。
もう花嫁は見つかっているが、交遊を深めるまでは時間稼ぎに振りをする必要があるからだ。
そこで、ローリーを馬車に残し、二人で確認してくると言って出て来たのだった。
馬車に戻るとローリーが声をかけて来た。
「もう、いいの? 令嬢に会わなくていいの? ここから見てたけど、屋敷の前で話をしてただけのように見えたけど」
全く、ローリーはうちの竜王様と違って、観察眼が鋭いというか、抜け目がない。
「ああ、違うって分かったから、もういいんだ」
「会ってもいないのに?」
「ああ、アルベルト様は会わなくても分かるんだよ」
「どうして? なんで? どうやって?」
ローリーがなんでなんでとしつこく聞いてくる。
ああ、もう! メンドクセーな!
「超能力なんだ。内緒だぞ。アルベルト様には超能力があるんだ」
「超能力?」
「魔法の親戚みたいなもんだな。いや、それよりももっと特別な力だ」
「特別な力・・・」
ローリーはオレが言ったテキトーな言葉を呟きながら考え込んでいる。
あー、やれやれ、やっと黙った。
竜王様遅いな。まだ、反省してんのかな?
一緒に連れて戻って来た方が良かったな。
ああ、早く、戻って来てくれ! ローリーがまたどちて坊やになる前に!
「なるほどね! オレ分かったよ! そうか、そうだったんだな、ディーン」
今まで黙っていたローリーが急になんか一人で納得して、話しかけて来る。
俺にはさっぱり何の事だか分らん。まあほっとこう。
「アルは超能力なんていうすごい特別な力を持ってるんだから、ヘンテコなのは仕方ないんだ。天才とば〇は紙一重って言うもんな」
・・・・・・
そこで竜王様が戻って来た。
「お帰り!! お疲れ様!! やっぱり超能力なんていう特別な力を使うとすごく疲れるんだろう? それって、」
「おい、内緒だって言っただろ」
俺は慌ててローリーの口を塞いで小声で言った。
「あ、ごめん。でも、」「黙れ」「分かった」
小声でやり取りをしていると、竜王様がぽつりと言った。
「お前たちは仲良しでいいな」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ま、マズイっ!!と俺もローリーも警戒したが、予想に反して竜王様はいじいじしなかった。
そして、いじいじしなかったどころか、馬に水を飲ませるために小川の畔で休憩した時には、二人で何やらイイ感じで話をしているのが見えた。
俺は邪魔をしないように、馬車の中に入って待つことにする。
しばらくすると、両手で顔を覆った竜王様が馬車に飛び込んで来た。
どうしたのか聞くと、なかなか恥ずかしがって言わない。
落ち着くのを待って、もう一度聞くと、どうやらローリーに花束を作って渡したらしい。
そして、人間は求婚する時には、花束を渡すのだろう?と言うから、そうですねと答える。
どうやら、その時の事を想像して、とても恥ずかしくなったようだ。
ローリーが戻って来た。
手には何も持っていない。
「アル、ちゃんとあげて来たよ。喜んで食べてたよ」
ローリーはにっこり笑って竜王様に話しかける。
「「え?」」
「馬はクローバーが大好きだからね!」
どうやら、クローバーの花束?は、竜王様の想いと共に馬の腹の中に消えたようだった。