求愛作戦1
ディーン、うるさいぞ。
ローリーが起きるではないか。
「ど、どうして? どういう事ですか?」
「どういう事も、こういう事も何もない。出来ぬものは出来ぬ」
「でも、ローリーは竜王様にしか出来ないって!」
「そうだ。だから言えなかった。失望されたくなかった。それにローリーの唯一の希望を打ち砕くような真似も、我には出来なかった」
「では、時間を巻き戻せるのは、おとぎ話に出てくるあの竜王様だけって事ですか?」
「いや、そうは思わぬな」
思わずため息が漏れた。
「ローリーの思い違いだ」
「思い違い? それは、どういう意味ですか?」
「我は、あれは幻影魔法であったのではないかと思っておる。死んだ者が生き返ったのではない。もともと死んでおらぬのだ。そのように思わせただけだ。王子が首を刎ねた三人は生き返らなかった。それに時間を巻き戻したのなら、記憶が残るのもおかしい」
「そんな・・・」
「それにな、時間を操るという事は、そもそもそんな簡単な事ではないのだ」
「しかし、ローリーの時間は止まったままです。そんな簡単な事ではないという事なら、ローリーに魔法をかけた奴は、竜王様よりもすごい魔法使いって事ですか?!」
ディーンが怒ったように、不甲斐ない我を責める。
「我が思うに、ローリーの魔法は、あれはローリー自身がかけたものだ。ローリーは魔法にかかっているとは言ったが、かけられたとは言ってないだろう?」
「!!」
「時の流れというのは大河の流れに似ておる。一時的に止める事なら我にも出来るだろう。だが、七年もの間止めおくなどという事は出来ぬ。だから、あれはローリーが得意な複合魔法だと思う。おそらくは、自分の時の流れだけを凍りつかせたのではないだろうか」
「なぜそんなことを・・・」
「さあ、それはローリーに聞いてみないことには分からぬな。ただ、言えるのは発端は七年前の襲撃だ。それにより、何らかの事が起こったのだ」
「そこでだ、我は何としてもローリーの愛を得たい。役立たずの竜王である事をいずれは白状せねばなるまいが、それまでに少しでも仲良くなっておきたいのだ」
「・・・まあ、そうでしょうね」
「どうすれば良いと思う?」
昨夜はディーンと求愛作戦なるものを考えた。
今日からは、それらを実行することに集中する。
今朝のローリーの機嫌は上々だ。
我の人探しの任務を早々に完了させようと張り切っている。
「アル、早く! 行くよ!」
我を馬車に押し込むように乗せると、ローリーは我をチラチラ窺いながら、そわそわしている。
「アル、あのさ、シュヴァイツ侯爵様ってどんな人? 年は? 男性だよね? 確かレノルドと違ってイシュラムは男性しか爵位を継ぐ事が出来なかったはずだから」
・・・・・・
「優しい人だったらいいのにな。オレのお願いを聞いてくれそうかな? アル、どう思う?」
ローリーは心配そうに我の顔を窺いながら、話しかけてくる。
期待と不安で一杯のローリーを見ていると、罪悪感がハンパない。
我はつい、ため息をこぼしてしまった。
それにローリーは反応して、すぐに我に謝る。
「ごめん。今はアルの方が先だった。アルだって大事な任務の最中なわけだし、自分の事ばっかりで、本当にごめん」
「いや、そうではない。我こそため息などついてすまなかった。でも、どうしてシュヴァイツ侯爵の事が知りたいのだ?」
「だって、これからお願いをしに行くわけだろ? だから、何か手土産だって持って行きたいし、オレ自身を気に入ってもらえるように対策を考えないといけないじゃないか。それには、相手がどういう人か知る必要がある。当たり前の事だろ?」
「そうなのか?」
我は誰かにお願いをしに行った事がないので、当たり前の事と言われたものの、ちっともピンと来なかった。
するとディーンが盛大にため息をついて、我をじと目で見た。
「ローリー、お前はほんとにえらいよ。まだほんの十数年しか生きていないのに、自分でちゃんと何をすべきかが分かってる。つくづく感心するよ」
「?」
ローリーはキョトンとしている。
「おう、そうだ」
忘れていた。
今日から求愛作戦を実行するのだった。
ディーンがローリーを褒めているところを見て思い出した。
求愛作戦その一。
つまり、褒め褒め作戦だ。
誰だって褒められれば嬉しい。
褒めてくれた相手には、良い印象を持つはずだ。
「我もローリーはえらいと思うぞ。ディーンが思っているよりも、ずっとずっとえらいと思っている」
「? あー、うん。えーと、褒めてくれてありがとう? って言えばいいのかな?」
「それに、ローリーは魔法も上手だしな、おまけにお金を稼ぐのも上手い。他には、おしゃべりも上手だな。我などディーンにいつもやり込められてばかりなのだが、ローリーはディーンに負けておらんだろう? 立派なものだ。それから」
「アルベルト様」
「なんだ。途中で遮りおって。今、調子に乗ってきたところなのに」
「ローリーはそんなことより、シュヴァイツ侯爵について知りたいようですよ。教えてやってはどうですか?」
「そうか?」
ローリーの方を見て確認すると、目を輝かせて頷いている。
ふむ。しかし、なんと答えるべきか、悩むな。
「まず、男性であることには間違いない。年は微妙だな。長い年月生きてはおるが、見た目はそう年寄りというわけでもないな」
「ふぅ~ん、じゃあ、ダンディなおじさんって感じかな。じゃあ、性格は? 優しい? オレのお願いを聞いてくれそう?」
「あー、ローリーの事はきっと好きだと思うぞ。だから、ローリーの願いならば、きっと聞いてくれるだろう。ただ、ローリーの願い通り叶えられるかどうかは分からぬが、努力は惜しまないと思うぞ」
「本当? 良かった! 安心した! 子供好きの優しいダンディなおじさんかー、どんな人かなあ」
ローリーは頭の中で、想像を膨らませているようだ。
「んーと、あれ? なんかアルみたい」
・・・・・・