おとぎ話「竜の国」2
「そうか、なるほどな」
我はなんと言ったらいいのか良く分からなくて、ただそれだけ言った。
「でも、そこからが問題なんだよ。大体の位置は分かったけど、範囲があまりに広過ぎて、どこに行けばいいのか分からないんだ。それに、おとぎ話の最後にあっただろ。生き返った人間は王子と共に竜の国を守る事を誓ったって。イシュラムでは竜の国の話をすること自体がタブーなんだよ。だから、イシュラムに行って誰かに尋ねたとしても教えてくれる人はいない」
「それで、何か良い情報が無いか、大森林地帯で道案内をしながら、聞き耳を立ててたってわけさ。お金も稼げるしね、一石二鳥だよ」
「あ、それが、あの大商隊の連中か!」
ディーンが声を上げた。
ローリーがうんと頷く。
「シュヴァイツ侯爵領が怪しい。オレはシュヴァイツ侯爵が竜の国を守る役目をしているんだと思う。だから、この旅が終わったら、イシュラムのシュヴァイツ侯爵に会いに行くつもりなんだ。いくら会いたくても、結界の中にいる竜の王様に簡単に会えるとは思えないからね」
・・・・・・
ディーンが何か言いたげにこちらをチラチラ見ている。
「なあ、ローリー、ローリーが一つ教えてくれた代わりに、我も一つ教えよう」
我はローリーの目を見てきっぱり言った。
「我らはイシュラムから来た。そして、シュヴァイツ侯爵の事も良く知っている」
ディーンの視線が刺さる!
嘘は言ってない!
あそこは一応イシュラムの一部でもあるし、それに本人なんだから良く知っていることに間違いはない。
「え? それほんと? 本当なの?」
「本当だ」
「ねえ! じゃあさ、オレをシュヴァイツ侯爵のところに連れて行ってくれよ! 頼むよ!」
ローリーは必死の形相で我に取り縋り懇願する。
「もちろん、ただでとは言わない。カネは出す。お礼の品だって用意する。欲しい物があったら言ってくれ。だから、アル、お願いだよ!」
「必死だな、お前」
ディーンが横から口を出した。
その言い様に、ローリーが怒ってディーンに向かって言う。
「当たり前だろ! 七年間だ! 七年経って、やっと手に入れた手掛かりなんだよ! この時のために、カネだって、頑張って、頑張って、貯めて来たんだぞ! 必死になるのは当たり前・・・だっ! ディーンのバカヤロー、ぐすっ」
涙が一粒ポロリとこぼれたと思ったら、次から次にぽろぽろと流れ始めた。
「ああ、ローリー、泣かんでいい。泣くな。泣かんでくれ」
我は慌てた。
ディーンの馬鹿者め!
「連れて行ってやる。連れて行ってやるから、泣くな、な?」
ローリーが我を涙に濡れた真剣な眼差しで見つめる。
「アル、本当? 本当に? 絶対?」
「絶対だ。約束する」
我が約束の言葉を出すと、ローリーが顔を輝かせた。
「ありがとう! 本当にありがとう! アル達に会えて幸運だった! 本当に良かった!」
ローリーはまだ涙を流していたが、これはうれし泣きだと言う。
何度も何度も我に礼を言うのだった。
我はそれを黙って聞いていた。
「じゃあ、明日からアルの人探しの方、頑張って、さっさと終わらせよう! 早く見つかるといいな!」
ローリーは明日のために早く寝よう、と言って我をベッドに引き込む。
えーとこれはさっき決めた、断って女性に恥をかかせてはいけないというのに該当するかな?
我は黙ってされるがまま、ローリーと共にベッドに入った。
だが、我はまだ眠るわけにはいかなかった。ディーンと話さねばならん。
ローリーが寝入るのをじっと待って、起きることがないよう睡眠魔法をかけた。
「ディーン、起きているか?」
「はい」
「話がある。驚かないで聞いてくれ。我はローリーが好きだ。あれは我の番いに間違いない」
「やっぱり。驚きはしませんよ。アルベルト様の様子を見ていれば分かりますから。しかし、驚いたのは、黒竜っていうのはみんなショタなんですかね。三千年も昔からなんて年季が入ってますよね。これにはさすがに俺も驚きました!」
血筋ってコワイデスネーなどとディーンがほざいている。
「でも、どうして正体を明かさなかったんですか? ここでローリーに恩を売って、一気に攻めないと!! 現況ははっきり言って芳しくありません。巻き返しを図らないと、逃げられてしまいますよ」
・・・・・・
「大体、アルベルト様はですね、美しい美貌をお持ちなんですから、シャキっとしていれば渋くていい男なんです。それなのに、ストーカーまがいの行為をしたり、乙女のように恥じらったり、奇妙奇天烈な事ばかりするから、ローリーに変人扱いされるん」
「もう、よい」
我はディーンが話すのを途中で止めた。 泣くぞ?
「我が不甲斐ないのはよぉーく分かっておる」
「・・・はい」
我はディーンに、ローリーの正体がグローリア=ハイネケンではないかと疑っている事を話した。
確証はないが、その根拠はある。
そして、おそらく番いに違いないと言った。
「つまり、ローリーは女だ」
だから、我はディーンが言うような小さな男の子が好きなショタではないということだ。
ローリーは小さな女の子だからな!
「女? とても女には見えません。しかも、伯爵令嬢ですよ?」
「容姿は幻影魔法を使って、誤魔化しておるのだろう」
「!!」
ディーンは目を皿のように見開いて言う。
「では、なおさらじゃないですか!! ローリーの望み通りに、ちょいちょいと時間を巻き戻してやって、好感度を上げましょうよ!」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「そうしたくとも、出来ぬ」
「え? 宰相様の魔法を使うなっていう言い付けの事ですか? 番いのためです。宰相様だって許してくれますよ」
「そうではない。出来ぬのだ」
「?」
「時間を巻き戻すことなど、我には出来ぬ!」
・・・・・・
・・・・・・
「えー!!」 ディーンが絶叫した。




