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竜王様のへタレな恋  作者: Ara
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おとぎ話「竜の国」1

「ローリーよ。我の言うことを聞いてくれ」

 

 我は青ざめ怯えるローリーをやんわり腕に包み込み、頭を撫でながら話した。


「我とローリーは知り合って間もないゆえに、ローリーが我を信用出来ぬのも分かる。それに、ローリーにはローリーの事情というものがあるだろうしな。我とて、自分達が何者で何を目的として旅をしておるのか、話したくとも話せぬ事情があるのだ」

 

「・・・・・・」 


「だがな、我もディーンもローリーを大切に思っている。それも事実なのだ。力になれるものならなってやりたいと思う。我は、一人で苦しんでいるローリーを見るのが、とても辛い」


 ローリーがびくっと体を揺らし、身じろぎしたが、黙ったままで口を開こうとはしない。

 体も硬くしたままだ。



「では、ひとつだけ教えてくれ。先程、竜の王様と言ったが、ローリーは竜の王様を知っているのか?」


 ・・・・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・


 ローリーが言って良いものか、どうなのかと迷っているのが分かる。


「知らない」

 やがて、ローリーは俯いて言葉を絞り出すように言う。

 

 

 そしてしばらくの沈黙の後、顔を上げ我に自身の思いを悲痛に訴える。

「だけど、会いに行きたいと思ってる。助けて下さいってお願いするんだ。だって、竜の王様にしか出来ない事だからっ!」


「竜の王様にしか出来ない?」


「そうだよ」


 そして、我らに問う。


「おとぎ話の”竜の国”って知ってるか?」




昔々、そのまた昔。

この大陸のあちこちに、人間に化けられる竜がたくさん住んでおりました。

竜は自由に空を飛びまわり、力も強くて、魔法も使えます。

そのころ、人間はまだ数が少なくて、小さな集落で助け合って住んでいました。

時が経つにつれて、人間は数を増やし、大きな国を造りました。

大きな国に悪い魔法使いがやって来ました。

そして、王様をそそのかします。

「王様、王様、竜の生きた心臓を食べると十年寿命が延びます。食べ続ければ、王様はずっと王様でいられるのです」

王様は死にたくありませんでした。

そして、王妃様をそそのかします。

「王妃様、王妃様、竜の生き血を浴びると十年美しい若い肌のままでいられます。浴び続ければ、王様の愛はずっとあなたのものです」

王妃様は王様の愛が冷める事をとても恐れていました。

そして、宰相様をそそのかします。

「宰相様、宰相様、竜の生き肝を食べると十年病気が良くなります。食べ続ければ、病気の苦しさからずっと逃れることが出来るのです」

宰相様は病気で苦しんでいました。

王様と王妃様と宰相様は竜を捕まえる事を兵士達に命じました。

たくさんの竜が捕まり殺されました。

どこに逃げても人間達はやって来ます。

竜達は考えました。

人間達が来られない竜の谷へ行こう。

竜の谷は竜達の墓場です。

竜は死が近付くとそこに行って静かに死ぬのです。




「それで、竜達は竜の谷に逃げて、竜だけが住む国を造って、幸せに暮らしました。めでたしめでたし。となるんだけど、逃げた方向が国によって違うんだ。北の国であるレノルドやスタンでは南に逃げる。そして西の国オーティスでは東、アル達と会ったゼフィラスでは地域によって南と東に分かれる」


「それの意味するところは何か、つまりこれは史実だということ。作り話じゃないんだ」


「そして、その場所はイシュラム国の東南、オルレアンとの国境だ。竜が多く住んでいた渓谷があるという言い伝えが残っている。ただし、現在イシュラムに竜の谷に当たる渓谷は存在しない。おそらく、結界によって隠されているのだと思う」


 我は息を呑んだ。ローリーの推測は全て正しい。


「そして、ここからが本題だよ。じゃあ、そのイシュラムでは、おとぎ話はどうなっていると思う?」  

 

 我らが答えに窮して黙っていると、ローリーはさらに話を進めていく。


「本筋は変わらない。でも、最後が大きく違う」


「他の国の人間は竜の谷を見つけられなかった。だから、それ以上追われなくて、めでたしめでたしなんだ。

 だけど、イシュラムの人間は竜の谷を知っていた。だから、続きがある」




この国の人間は竜の谷の場所をよく知っていました。

他の国の人間が探しに来ましたが、知らないと嘘をついて追い払いました。

竜をひとりじめするためです。

王様と王妃様と宰相様は、たくさんの魔法使いとたくさんの兵士を集めました。

そして竜を捕まえるように命じます。

魔法使いが結界を壊し、兵士達が攻め込もうとしたその時です。

竜の王様が現れました。

「我は墓守り。同胞の眠りを妨げる者は誰であろうと許さぬ」

しかし、魔法使いや兵士はほうびに目が眩んでいて退きません。

怒った竜は火を噴いて、辺り一面を火の海にしました。

そこにいた人間は全て焼き殺されてしまいました。

そして、雷を落とし、この世の終わりのような大嵐を起こして、人間達を懲らしめます。

しかし、その国には賢く勇敢な年若い王子がおりました。

王子はこのままでは国が滅びてしまうと、王様と王妃様と宰相の首を刎ねました。

そして、竜の王様の前に膝まずき、頭を地に伏せてお願いしました。

「悪いのは我々で民ではありません。私の首も差し上げますから、どうか民をお許し下さい」

竜の王様は言いました。

「そなたに免じて許してやろう。だが、次はないと心得よ。我は全てを焼き尽くすであろう」

言い終わると同時に、竜の王様は消えていました。

そして王子が頭を上げてあたりを見回すと、焼き殺されたはずの人間が生き返っているのです。

王子はとても喜びました。

生き返った人間は、焼き殺された時の恐ろしさに震え上がり、二度とこのような事はしませんと言いました。

そして助けてくれた竜の王様への感謝のしるしに、王子と共にこの竜の国を守ることを誓うのでした。




「王子が殺した三人の首だけはそのままだったけれど、他は全てが元通りになってたんだ。オレは、その竜の王様が時間を巻き戻したんだと思う。いろいろ調べたけど、時間を巻き戻す方法なんてどの魔法書にも載っていないし、他には聞いたこともない。それが出来るのはやっぱり竜の王様だけなんだ」





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