疑惑2
む、むむむ、ローリーの顔をじっと穴が空くほど覗きこんでも、確証を示すものは見付からない。
我は顔から視線をそらし、チラっとある場所を見た。
このもやもやをスッキリさせるのに、とても効率的な方法があることを我は知っている。
脱がすか握れば良いのだ。
しかしその方法は事後に大きな代償を払う事になる。
もし、我の想像が正しかった場合、寝ている乙女の股間を握るという卑劣極まりない行為であるばかりでなく、確実にローリーから嫌われる。
では、そうでない場合はどうか。
冗談だ、ハハハーとごまかしたとして、笑って許してくれる相手ではない。
恐ろしい報復を受けること間違いなしだ。
あげく、報復を大人しく受けても決して許すことはなく、口も聞いてくれなくなるだろう。
胸はどちらにしてもツルペタだろうしな、何かないかと探していると、視線を感じた。
ディーンが起きて、こちらをまじまじと見ている。
「どうした?」
「いえ、その、アルベルト様こそ、どうかされたのですか?」
「え? あ、ああ、ローリーの事なのだが、」
言いかけたが、本人がいつ起きるか分からない状況で話すのは、憚られた。
「あ、いや、何でもない」
それに、根拠となるものも、何もないのだ。
しかし、一度そう考えてしまうと、不思議な事にそうとしか思えなくなってくる。
第一に、グローリアは宰相が五重丸をつけるくらいなのだ、魔力の高さは群を抜いているのだろう。
そして、ローリーも魔力は歪みのせいで正確には分からないが、魔法は秀逸を極めている。
第二に、両者共に7年前の襲撃の被害者である可能性が高い。
第三に、ローリーはお金を貯めて、医者か魔法使いかは分からないが、両親を救える者を探している。
グローリアの両親は、襲撃を受けてさらわれたか、死んでいるかは不明である。
襲撃により瀕死の大怪我を負わされて、医者か魔法使いを必要としている状態である可能性は大いにある。
そして、当のグローリアも行方知れず。
なぜならローリーとして存在しているから。
つじつまは合う。
我がそう思いたいだけなのか?
宿屋に入り、食堂で夕ご飯を食べる事にする。
ローリーがメニューを見て迷っている。
我はローリーが迷って注文しなかった方の品を頼んだ。
隣で食事をとっているローリーを眺める。
やはり所作に上品さが滲み出ているように感じる。
小さく開いた口から真っ白な歯が見えた。ドキリとする。
俯いて自分の食事をとった。あ、そうだった。
「こっちも少し食べてみるか?」
「えー、いいよ。自分の分あるし」
皿をローリーの前に差し出してやるが、遠慮して受けとろうとしない。
我は一口分をフォークに乗せて、隙をみてローリーの口に入れてやった。
驚いた顔をしていたが、吐き出したりせずそのまま咀嚼し、美味いねと言って笑った。
笑った顔があまりに愛らしくて、顔が熱くなるのを感じた。
恥ずかしかったので、俯いて自分も食事を再開する。
そして、その使っているフォークが今まさにローリーの口から出てきた物だと意識すると、さらに顔が熱くなった。
ローリーの顔が見たいのに、恥ずかしくて見れない。
夜は夜でまた困った事になった。
一昨日の宿屋では、ローリーと一緒に眠りたかったので、ベッドは三つあったにもかかわらず、我はローリーのベッドに潜り込んで寝た。
今日だって一緒に寝たい事にもちろん変わりはない。
それにベッドは二つだし、ローリーも一緒に寝るつもりのようだ。
だが、け、けっこん前の乙女のベッドに潜り込むのは、やはり紳士としては、あるまじき行為なのではないだろうか!
・・・・・・
でも、気が付かなかったら、当然同じベッドで寝ていただろうし、ローリーだってそのつもりなのだから、そのまま知らんぷりをしておけば良いのではないか?
我の中の天使と悪魔が互いの主張を繰り広げる。
ジャッジは我がすることになるのだが、なかなか決められない。
どうしようどうしようと逡巡している間に、ローリーは先にベッドに入って眠ってしまった。
ディーンがベッドを譲りましょうかと申し出てくるのを、考え事をするからと断り、長椅子に陣取って腕を組みウンウン唸りながら考えた。
しばらくの考察の結果、寝ているところへ潜り込む行為はNGで、お誘いを受けた場合は相手に恥をかかせてはいけないからOKということにした。
穏健派の我は天使と悪魔の両方の意見を採用することにした。
ちょっと潔くない小ずるい感じがしなくもないが。
そうして、考え事に集中していると、いきなりローリーが悲鳴をあげ、泣き始めた。
しまった! ローリーとのベッドインについての考察に集中するあまり、いつもの睡眠魔法をかけてやるのを忘れた。
我は慌ててローリーの下に駆けより、抱きしめて、どうした?怖い夢でも見たのか?と声をかける。
すると、寝ぼけながら「アル?」と問う。
「アル、どうしよう。お父様とお母様が死んじゃう。なんとかしなきゃ、なんとか。なんとか。私、竜の王様にお願いを、あー、でも、どうしたらいいの」
我に縋り付き、泣きながら訴えるその中の、竜の王様という言葉に我は凍り付いた。
そして、ローリーの悲鳴で飛び起きたディーンも困惑の表情を浮かべている。
「どうして知っているのだ? ローリー、ローリー?」
うわごとのように繰り返すローリーを揺さぶり、問い詰める。
「え? あれ? アル?」
目がはっきりと覚めたようだ。
そして、しばらく考え込むように黙る。
「あは、なんか寝ぼけたみたい。ごめん。怖い夢でも見たのかなー、はは」
ごまかすように笑うローリーの顔色は悪かった。




