アルベルトその後
※ディーン視点
竜王様がやっぱりおかしい。
初孫を溺愛するじじいっぷりは通常運転だが、今は立派なストーカーに成長している。
昨夜は、何を血迷ったのか茶番を繰り広げてローリーを怒らせ、朝からは邪険にされ続けても、ずっとローリーにまとわりついている。
しかし、ここで珍妙なのは、ストーカーのくせにイジイジいじける竜王様も竜王様だが、ローリーの方もストーカー相手に同情して慰めてやるって、何コレ?
ただ、いちゃいちゃしているバカップルのように見えるのは、俺の気のせいか?
竜王様の気持ちが全くよく分からない。
初孫を溺愛するじじいに見えなくもないが、何か邪な事を考えているフシも見受けられる。
ローリーに心配してもらった時も、ずっとニマニマデレデレしていて、ローリーの事も抱き上げたまま、離そうとしなかったし。
ちょっとカマをかけたら、動揺して挙動不審になるし。
それに、竜王様の言葉はまさに番いに感じるソレと思えなくもないんだよな。
ただ、ローリーは男だ。おまけに子供だし!
美少女と見間違える、というほど容姿が優れているわけでもない。
竜族ではあまり聞いたことがないが、人間には同性や子供を深く愛する者がいるという。
竜王様もそうなのだろうか?
古い竜族の者達は黒竜の血がどうのと口うるさく言うかも知れないが、俺は竜王様が幸せになるなら、相手は血が繋げない雄でも構わないと思う。
竜王様の恋を応援してやろう。
あのローリーを落とすには、一筋縄ではいかないだろうからな。
竜王様の恋を応援すると決めた気持ちが今、かなり揺らいでいる。
俺は今とんだ羞恥プレイを受けている。
「今晩は我が馳走する」と言って、獲物を捕まえ、肉を焼いてくれたまでは良かった。
竜王様は、ローリーが食べあぐねているのを見て、何を考えているのか、いや、竜王様にとっては純粋な好意からに違いないが、他人が食べる物なのに食べやすいようにと、食いちぎっては吐き出すという暴挙に出たのだ。
ここまでも、まあ、竜王様のいつもの奇行と思えば、まあ仕方がないと思うことも出来る。
しかし、その暴挙に驚いて固まっているローリーを見て、何故か恥じていると勘違いした竜王様は、俺の小さな頃のエピソードを披露し始めた。
「ディーンが子供の時に狩りに連れて行ったのだがな、獲物を仕留めたのだが、なかなか食おうとしないで我を悲しそうに眺めるのだ。どうやら骨が固くて食べられなかったみたいでな、我がカミカミして前に出してやったら、嬉しそうに食っていた」
「誰でも子供のうちは口が小さいのだから、恥じる事はない」
竜王様がカミカミ? 俺の記憶にこのように竜王様が口から吐き出したものを食った覚えはない。
断じてない! と記憶を必死に遡って否定している俺に竜王様は、なあ、ディーンよと同意を求めてくる。
ローリーはローリーで、俺と例のモノを交互に眺め、原因はお前かという目で見てくる。
いえ、と言いそうになって、狩り?というところに引かかる一つの記憶を思い出した!
あー!! あー!! あぁ~・・・・・・
それって子竜の俺、竜体じゃん・・・・・・
竜族は本能で狩りも魔法も操るが、ハーフの俺はどちらも出来なかった。
それで、出来そこないの俺のために狩りの仕方を教えるため、竜王様が狩りに連れ出してくれたのだ。
その時の事を竜王様は言っているのだ。
だから俺は仕方なく、恥ずかしかったが、「はい、その通りです」と答えた。
すると、何故かローリーが大きなため息をつく。
そして、俺に例のモノを押し付けて、代わりに持っていた肉をひったくっていった。
え? もしかして俺にコレを処理しろって言ってんの、ローリーさん?
そしていつの間にやら持っていた小刀で器用に肉を削ぎ、食べ始めた。
モシモシ? さっさとあなたがそうやって食べれば、このようなコトにならなかったのでは!?
俺が抗議をしようと口を開き掛けたその時、爆弾が投下された。
「騙すつもりも、隠すつもりもなかったけど、こんな姿なのには理由があってさ。説明するのが面倒だからいつもはそのまま誤解させとくんだけど、もうオレ、アルがオレの事を小さな子供扱いするのがいたたまれないよ。だから、白状する。オレ小さな子供じゃないんだ」
ローリーは軽い調子で言っているが、俺達にしてみれば天地がひっくり返るほどの驚愕の真実である。
「えー!? 子供じゃないって? ど、ど、どういうことだ?」
「だから、見た目はこの通り7歳くらい?だけど、実際の年齢は違うってことだよ」
どういうことだ? 俺達と同じ竜族? いや違う、同族の感じはしない。まさか、魔族とか?
「じ、じゃあ、実際の年齢はいくつなんだ?」
おそるおそる訊いた。
「十四」
あ、ちょっと安心した。
「人間、だよな?」
「人間だよ? 他に何に見えるっていうのさ。都市伝説の魔族とか? 人間の社会に紛れ込んでいるっていう噂があるよね」
「すまん。茶化しているつもりはないんだ。驚いて、その、訳が分からないから。そうだ、理由があるって言ったよな?」
「うん。事情があって、魔法がかかってるんだよ。でも、これ以上は話したくない。だから訊かないでくれ」
気にはなったが、そう言われてしまった以上訊くわけにもいかず、ふと思い出して隣を見た。
竜王様は未だ固まったままで、先程の衝撃からまだ立ち直っていなかった。




