驚愕の事実1
次の朝、目覚めてから恥ずかしそうにもじもじしていたローリーであったが、我らに向かって、すまなかったと頭を下げて謝ってきた。
自分の事情に巻き込んだことや力不足で危険に晒したことは、自分勝手な振る舞いであったと。
そして、それは自分が自身を過信し、驕っていたからなのだとしょんぼりして言っていた。
その後、助けた礼を言われ、魔獣狩りの中止と元の道に戻ることを告げられた。
元の道に戻ると言っても、来た道を戻るわけではなく、先で合流するという。
洞窟を出てから、ローリーは口を閉ざしたまま、黙々と歩き続ける。
ディーンが泣き疲れて寝ちまうなんてガキだよなーとからかっても、そうだねと受け流すだけで、いつものように喧嘩になることもない。
ディーンもそんなローリーを心配そうに眺めている。
そんなローリーを見ていると我も悲しくなってくる。
我は前を歩くローリーに近付き、捕まえると肩の上に乗せた。
「あっ」
ローリーが驚いて声を上げる。
「もう、また? いいよ、降ろしてくれよ」
「嫌だ」
「もう、そればっかだな」
はぁーとため息をついたが、その後は何も言わないで肩に乗ったままじっとしていた。
しばらくして、また大いにため息をついた後、
「アルってほんとに変わってる。ディーンもだけど、二人とも優しすぎるよ。こんな子供の機嫌なんて伺ってさ、ほんとおかしいよ。こんなことされたら、落ち込んでふてくされることも出来ないないじゃないか」
ほんとに困るんだけど、とぶつくさ文句を言った。
そして気分を変えるように我に話しかける。
「アルってものすごく強いんだね。一発で仕留めてさ。オレの魔法もディーンの剣も全然効かなかったのに」
「いや、あの時は我も必死だった。仕留め損ねて、お前達を巻き込む事があってはならぬとな」
「ふーん、それとさ、なんでかわからないけど、この辺りに魔物が一匹もいないんだ。昨日のレッドグリズリーとの戦いの影響かなあ? こんなことオレ初めてだよ」
「・・・・・・」
「まあ、面倒くさくなくていいけどね。それより、もう少し行くといいところがあるんだ。そこに寄って行こう」
ローリの言ういいところとは、美しい大きな湖だった。
「うおー!! すげー!!」
ディーンはもう服を脱ぎかけている。泳ぐ気満々だな。
竜族は水浴びが好きだ。
これだけ大きい湖ならば、竜体でも十分に泳げる。気持ちいいだろうな。
我も竜だから当然水浴びが好きだ。
「ディーンは泳ぐつもりだな。ローリーはどうする?」
ローリーを肩から降ろして聞いた。
「オレ、泳げないから。アルは泳いで来て良いよ。ディーン行っちゃったよ?」
ディーンは水を得た魚のように、ウキウキワクワク潜ったと思ったらとんでもない方向に顔を出し、奇声を発して泳ぎまわっている。
「ディーンが湖の中が綺麗だから見に来いと言っておる。一緒に行こう。我の背に乗って行けばよい」
水辺で手と足を浸すローリーに話しかけた。
「うーん、オレはいいよ。アルだけ行って・・・・・・」
躊躇するローリーの上着を脱がすと、有無を言わさず抱き上げ、水の中に入る。
「ちょっと! おい、やめろよ!!」
「泳げない子供は皆同じだ。初めて水の中に入るのは怖いものだ。ディーンだってそうだった。でも、今はあの通りだ。ローリーだってすぐにうまく泳げるようになる。我がいる。怖い事は何もない」
ディーンの時は水に放りこんでやったが、ローリーにそんなことはしない。
人間だからな。決して嫌われるのが怖いわけではない。
水に十分慣れさせてから、背に乗せて湖の中央に向かって泳いで行く。
「息を思いっきり吸って、鼻をつまめ。水の中に入ったら目を開けるんだぞ。さあ、行くぞ」
二人で眺めた水の中は本当に美しかった。
ローリーの息は長く続かないので、何度も同じ動作を繰り返すうち、我にしがみ付いていた力が自然に抜けていく。
水の中を夢中で見入っているうちに泳げるようになっていた。
岸に上がるとディーンがいつの間にか捕ってきた魚を焼いていた。
濡れた服はローリーが魔法で乾かしてくれる。
ディーンが焼けましたよと言って魚を差し出すので、受け取って食べた。うまいな。
ローリーにも食え食えとしきりに勧めている。
するとローリーがうまいうまいと食べながら、あれ?なんで涙が勝手に出てくるのかな、と泣き始めた。
「ど、ど、どうした? 骨が刺さったか?」
我は喉に骨でも刺さったのかと焦っていると、そうじゃないと首を振る。
「オレ、こんなふうに面倒を見て貰ったのが久しぶりだったから。なんでかな、嬉しいのかな。アルには泳げるようにしてもらって、あんなに綺麗なものが見れた。ディーンには魚を食わせてもらった。すごく楽しかった! ありがとう。いい思い出になったよ!」
泣き笑いの顔で言うローリーに、ディーンは満足気に頷いているが、我はローリーの最後の言葉にそれどころではなかった。
いい思い出になった? 思い出? 我はハッと気付いた。
あぁ!! 我は失念していた!
我はローリーを道案内に雇っただけの客だった。
我は毎日が楽しくて、一緒にいるのが自然すぎて、このままずっと三人で旅を続けて行けるような気がしていたのだ。




