魔獣狩り3
翌朝、レッドグリズリーの巣があるという洞窟に向かった。
洞窟に着くと、もともとの作戦通りローリーが火魔法を使って中の獲物を炙りだし、飛び出て来たところを我とディーンが首を落とすということになった。
ローリーが洞窟入り口で、中に向けて火炎を放つ。
しかし、出て来ない。
「居ないのか?」
「いや、いる。まだ、奥にいる。もう少し、火炎を強くしてみよう」
もう一度、火炎を強くして暫く放っていると、来たっ!とローリーが叫ぶと同時に、巨大なレッドグリズリーが飛び出して来た。
そしてそれはローリーの火炎にも怯むことなく襲いかかってくる。
グリズリーはディーンに任せ、我はローリーを抱えて、横に飛び退いた。
「くそっ。剣が効かないっ」
グリズリーは剣を突き立てようにも、氷魔法によって氷の鎧に身を包んでいた。
そして容赦なく氷魔法をディーンに向けて放つ。
ディーンはそれを避け、グリズリーに剣を振り下ろすが氷の鎧に弾かれてしまう。
ディーンが避けた氷の塊がそこかしこに出来上がる。
「ディーン!!」
ローリーが叫び、ディーンを助けようと火炎をグリズリーに向けて放つ。
横から攻撃を受け、グリズリーがこちらに気付いてしまった。
グリズリーが我らの方に向かって氷魔法を放ちながら駆けてくる。
「チッ」
「ローリーを守れ」
慌ててこちらに走ってくるディーンにローリーを突き飛ばし、我はグリズリーが振り下げた爪を大剣で受け止める。
我はローリーからグリズリーを引き離すべく走って、ある程度距離をとると、グリズリーに向き直った。
「おぬしの相手は我がしよう」
「アルっ!! ダメだ!! そいつは手強過ぎる」
「アルベルト様がこの程度の魔物に遅れをとる事はない! 大丈夫だ。見ていろ」
「アル!! アルっ!!」
我はローリーがディーンの元に居るのを確認すると、レッドグリズリーに向けて、竜気を放った。
そして、相手が怯んだ隙に間合いを詰め、飛び上がると首に狙いを定めて、一気に力を込め大剣を振り下ろす。
氷の鎧がぱりんと割れて、首がゴロッと転がった。
首なしの体がドサリと倒れると、見る間に霧散し消失する。
後には巨大な魔石が残っていた。
我は魔石を拾い上げ、ローリーの元へ持って行った。
「ほれ、大きな魔石があったぞ。良かったな」
ローリーは泣いていた。
「泣くほど嬉しいのか。まあ、これはなかなかの大きさだから、高く売れるだろう」
しかし、手に持たせてやろうとしても首を横に振って受け取ろうとしない。
すると突然、ローリーが我の腰に抱きついて、大声で泣き出した。
「アル、ごめん! アルが無事で良かった! ほんとにごめんっ。うっ、オレのせいで、オレのせいで、うっ、うわーん・・・もうちょっとで、うえーん、みんな死んじゃうかと思った、うわーんうわーん・・・」
「俺は大丈夫だって言ったんですけどね、信じなくて。随分心配してたみたいです。えっと、魔物は俺が始末しなきゃいけなかったのに、お手数を掛けて申し訳ありませんでした」
ディーンがバツが悪そうに頭を下げて言う。
「いや、まあよい。あれは魔法を使いおったからな」
ローリーはまだ号泣している。
今、ディーンは何と言った? ローリーが我を心配? 心配?! 心配!!
なんだか嬉しい。いや、すごく嬉しい。
「顔が緩んでますよ」
「むむっ、ローリー、我は大丈夫だ。心配せずともあの程度の魔物など、大したことはない」
顔を引き締め、しがみついて泣くローリーを安心させるように、頭を撫で続けた。
「ん? ローリー?」
泣き疲れて眠ってしまったようだ。
「なんだかんだ生意気なことを言いますけど、泣き疲れて寝ちまうなんて、ガキはガキですね」
我はローリーを抱き上げ、休ませてやれそうな場所を探す。
レッドグリズリーの巣だった洞窟にするか。
巣の主はとうに魔石になってしまっているのだから、問題あるまい。
「ディーン、洞窟の中を見てこい。休むことが出来そうなら、今日はそこで一晩過ごす事にする。」
問題はなさそうということで、今晩は洞窟の入り口付近で寝ることにした。
焚火をおこし、辺りを警戒する。何もいないようだ。
まあ、我が竜気を封印せず、出しておれば近付く魔物はおるまい。
しかし、万が一のこともあるゆえ、ディーンを見張りに立てておく。
我はローリーをあぐらをかいた膝の上に寝かせたまま、昨夜と同じように、睡眠魔法と魔力の補充をした。
下に寝かせてローリーが冷えるといけないからな。マントも掛けてやろう。
我の腕の中に囲いこんで、寝顔をじっと眺める。
「アルベルト様?」
かわゆい顔で寝ておる。
「アルベルト様?」
「アルベルト様?!!」
「なんだ? 急に大きな声を出しおって。ローリーが起きるではないか」
「・・・・・・」
「アルベルト様はどうしてそんなにローリーを気にかけるのですか? 俺、ずっと気になってたんです。同情ですか?」
「同情?」 我は考える。
「同情なのだろうか?」 うむ。
「我にもわからん。ただ、ローリーを哀れには思う」
「しかしそれだけではない。共にいたいと思う。毎日顔を見て、声を聞きたい。力になってやりたいし、我に頼ってくれるなら嬉しいと思う。我慢などさせたくないし、喜ばせてやりたい。ローリーが嬉しいと我も嬉しいからな」
「・・・微妙・・・だな」
「ん? なんか言ったか?」
「いえ、では、ローリーにキスしたいと思いますか? おでことかほっぺとかじゃないですよ。唇です」
「な?! 何を言うのだ、急に。おかしな事を訊くな!」
我がさっきほんのちょっびっとだけ考えた事が、なぜバレたのだ!
「お、おかしな事を言ってないでさっさと見張りに戻れ! そうだ、ついでにその辺を見回ってこい」
「えー、見回ったって何もいませんよ。竜気ガンガンに発してるんですから。分かってるくせに。まあ、いいです。行きますけど、最後にもう一つ。俺とキスしてみます?」
「なんで我がお前とキスしなきゃならんのだ。お前は雄ではないか。妙な事をごちゃごちゃ言ってないで早く行け」
あ、焦った。
ごちゃごちゃ言うディーンを追い出して一息つく。
なんとか誤魔化せたはず!
しかし、よくよく考えてみると、子供にチューしたいっておかしな事か?
もしかして、誤魔化す必要などなかった、とか?!