ローリーの逡巡
短編で、親友(男)が女だったという漫画のような話と続・親友(男)が女だったという漫画のような話を投稿しました。良かったら覗いてみてください。
朝、目覚めるとローリーはもう起きていて、魔導コンロで何かを煮ていた。
魔法使い以外の人間は魔法が使えない代わりに、自分達に役立つ道具をたくさん作り出した。
魔導コンロはその中の一つで、小さな魔石を燃料に火を作る事ができる器具の事である。
「おはよう。朝メシの用意ができたよ」
ローリーが我が起きたのに気付いて、声をかけてくる。
「今日は女神の泉まで行くから、食べたら出発だ」
そう言って、我とディーンに穀物と野草を一緒に煮込んだものを渡して寄こした。
ディーンが思わずといった様子で問う。
「おい、いつものやつはどうした? カネはとらないのか?」
「え? あっ、そうだね。忘れてたよ」
壺を取り出し、我の方に差し出しニッコリ笑う。
「忘れてた? お前が? カネの亡者のお前が?」
「ソレ喧嘩売ってんの?」
「いや、そうじゃなくて、心配してるんだよ。お前、大丈夫か? 何があったんだよ? なあ、俺達に話してみろよ、聞いてやるぞ?」
「はあ? 何言ってんだよ。変な奴。馬鹿な事言ってないで、早く食えよ。置いていくぞ」
ローリーは一瞬泣きそうに顔を歪ませたが、すぐに気持ちを立て直す。
そして心配するディーンをさらりといなし、食事を終えるとさっさと出発の準備を始めた。
しかし、出発してからもローリーはおかしかった。
ずっと難しい顔をして考え込んでいる。
ディーンがからかっても素知らぬ振りで相手にしない。
我はローリーに近付いて、顔を覗き込んで尋ねた。
「昨夜はよく眠れなかったのか? 具合でも悪いのか?」
「え? なんで? そんなことないよ。昨日は珍しく夢も見ないで、ぐっすり眠れたし。元気一杯だよ?」
「ずっと、心ここにあらずの有り様で、難しい顔をしているぞ」
我は徐にローリーの頭に手をやってヨシヨシした。
「そ、そうかなあ? そんなことないと思うけど」
ローリーが渋い顔をして、とぼけるように言う。
我はヨシヨシを続ける。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ねえ、なんでずっとオレの頭撫でてんの?」
「なんとなく?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ねえ、やめてもらってもいいかな?」
「いやだ」
「なんで?」
「なんとなく」
「歩きにくいんだけど」
「じゃあ、我は手を繋ぎたい」
「はあ? なんで?! いやだよ!」
ローリーは我を振り切って走って行こうとしたが、我の方が早かったし、力も強かった。
ローリーを捕まえて、肩に乗せた。
「おい、何するんだよ! 降ろせよ。何考えてるんだよ!あー、もう!!」
じたばたと暴れていたが、我は知らん顔をしてそのまま歩き続けた。
我は心が不安定に揺れ動いているローリーを放っておく事が出来なかった。
「仕方がないではないか。頭を撫でるのも手を繋ぐのもダメというのだから。しかし、肩車するのは懐かしいな」
ローリーを肩に乗せて歩くのは、普通にかなり楽しい。
自然に顔がゆるむ。
隣でディーンが、キモいキモいとうるさい。
「昔はよく子供達を肩に乗せた。ディーンもそうだ。ディーンはかなり大きくなっても我の肩から降りようとしなくてな、宰・・・いや、エルランドというディーンの兄貴分に引きずり降ろされるまで乗っておったのだぞ。余程、居心地が良かったのだろう、なあ、ディーン?」
「うっ・・・・・・、はい。とても」
「ははっ、くくっ、ディーン、黒歴史を暴露されてんのー、いい気味。でも、ま、ディーンの気持ちは良く分かるな。見える世界が違うもん! オドロキだよ! 高いところって気分がいいんだね! ラクちんだし、何より楽しい!」
ローリーははしゃいで子供らしく笑う。
「それにここは、なんというか、すごく安心できる」
そして、ポツリと小さな声で呟いた。
しばらくして、頭に張り付いているローリーが、探知魔法を用いてあたりを探っている気配がする。
「何かいたか?」
「魔物はあたりにいないよ。今夜の獲物がいないかなーと思って探してるんだけどさー、もう少し先に草っぱらがあるから、そこにウサギがいるかも知れない」
ローリーの言うとおりすこし歩くと草原があって、ローリーを降ろすとあっという間に駆けて行き、ウサギを2羽捕まえて帰ってきた。
「これで今晩のご飯が調達できた」
そのまま歩いて行こうとするので、我は呼びとめて肩に乗せようとすると、
「もう、いいよ。アルが重いだろ? 楽しかった! ありがとう」
と言う。
「え? 全然重くないし! むしろ羽みたいに軽いし! 我は乗せたい!」
思わず必死さが滲み出てしまった。我もローリーが頭に張り付いていると安心できる。
「ははっ、ほんとにアルもディーンもなんか変わってる」
そう言ってローリーは我の手を掴んで歩き始めた。
「ほら、行くよ」
「え? ああ」
ローリーが手を繋いでくれたことに感動して、嬉しくて、固まっていたようだ。
歩き始めてしばらくするとローリーが我の手をぎゅっと握って、俯いたまま言った。
「あのさ、女神の泉に着いたら、相談したいことがある」




