表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

それは事故02

 目覚めると俺は白い部屋にいた。天井も白い、ベッドも、何もかもが白い。カーテンが白いから、窓から差してくる陽の光さえ白かった。

 なんてことはない、ただの病院だった。ただの一人部屋。

 よく首を回してあたりを見れば、誰が持ってきたのかわからないけれど花瓶にいくつか花がさしてあったし、その近くのテーブルの上には果物の詰め合わせがあった。

 俺の腕はどちらもあったし、足も両方ついていた。眼も両方見えていたし、体を動かそうとすると少し軋む感覚があったけれど、どこかすこぶる調子が悪いというところはなかった。

 あれは夢だったのか、それとも現実だったのか。


「わっかんねえなあ」


 思わずそうつぶやいた俺のベッドの脇に白衣の精悍な中年男性が腰を下ろしていた。


「目が覚めたんだね」


 それに思わず、俺は脊髄反射的に返す。


「え、誰ですか」


 我ながらずいぶんと頓珍漢なことを聞いたと思う。白衣を着ている時点で医者だろうに。


「私?私はお医者さんです」


「そうなんでしょうけど、いつからいたんですか」


「いつからって、さっきだよ」


 さっきってなんだよ、まわりを見てたときにはいなかったように思うけれども。


「さっきっていつですか」


「さっきはさっき。つい何分前、とかそんなふうに言えない、言わないときに使うんだよ。さっきって」


 まるで一休さんのようにそんなことを言って、おっさんは俺の瞼を指で開いて眼を見開かせた。


「これ、何本だ」


 そう言っておっさんは俺の目の前で人さし指を立てた。


「なぞなぞですか?」


 おっさんは大きく笑って、首を横に振る。


「違う違う、君の眼に異常がないか確認したいんだ。ほら、これ何本だ」


 再びおっさんは人さし指を立てる。


「一本」


「じゃあこれは?」


 今度は人さし指と中指を立てる。


「二本」


「違うよ、これはピースだよ。またはブイサインなんていうかな」


 は?何言ってんだ。

 おっさんはケラケラと軽く笑った。


「君が目覚めてくれてよかったよ。これでも私はお医者さんだからね。命が救えてピースだし、君は生き延びてピースだ」


「あ、ありがとうございます」


 こんなふざけた、というか少し堅気から足を踏み外しているような人だけれど、きっと医者に変わりはないし、根はいい人ってやつなんだろうな。


「さて、それじゃ、私は行くよ。またあとでくるからね」


「ああ、はい」


「それじゃあね、元気で」


 そう言っておっさんは手を振りながら部屋を出ていった。くたびれた白衣のポケットに片手を入れて。少しその姿が印象的に思えた。

 それにしても元気でね、とはなんだ。体はいたるところが正常ではないけれども、俺は元気が有り余っているような状態だし、別に今生の別れでもないだろうに。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ