一騎討ち 健治 中編
なかなか終わらん。
「それはそれは楽しみですね~。」
健治の本気の言葉を聞いてまでも恐れることも
なく不敵に笑い続ける。
声は出している訳ではないがフフフフと
不思議と聞こえる。
そんな博士を睨み付け、かつてないほどの
怒りを浮かべている健治。
真実を知り、魔物を倒すことができなかった
健治はやっとのことで魔物を倒す決心が着く。
「最低条件をやっとクリアできたあなたに
勝ち目があるとでも?なんのためにこの世界に
来たんです?まさか、救うためなんて言いません
よね。そんなに勇気がないのに。笑って
しまいますよ。」
「確かに俺は勇気がない。この世界を救おう
なんて自惚れていた。でもな、夢を見ないなんて
そんなつまらないのは人生でもなんでもない。
俺はこの世界を救うっていう夢をみるんだ。」
健治のそんな夢物語に聞きあきたのか
途中で魔物を呼び出し、自分は
あくびをしている。
そして、律儀に最後まで聞き終わったと
その瞬間に事態は急変する。
魔物は健治に飛びかかると誰もが思った。
しかし、それは叶わなかった。誰も足すら
地面から離すことなく息絶えたからだ。
ふと、健治に目を向けて見ると剣についた血を
振り払い、鞘に納める。
「もう終わりだよな?」
よくよく見てみると百体はいたであろう魔物は
全て死体と化している。
「フムフム、このスピード、正確性。さすがは
イレギュラーと言ったところでしょうか?さて...」
再び、魔物を召喚しようとする博士であったが
「もう終わりだ。お前はここでリタイアだ。」
すぐさま、健治に踏み込まれ剣先が頬を切る
ところまである。普段であればここまでは
しないだろうがすこしばかり、健治も
壊れていた。
「どうした?自慢の魔物がやられて声も
出ないか?」
事実、声はでなかった。だがそれは、
決して強さの違いからくる恐怖などといった
ものではない。
「ククク。そうですね~。私が魔物に頼る
ことしか出来ないとでも思っているのですか?
私も本気を出しましょう。」
そういったあと、白衣のポケットから取り出したの
は注射器。中は毒々しい緑色であったが
博士は躊躇うことなく首にさした。
すると、さした所からじょじょに体が大きく膨張
していく。
「これが私の実験の賜物。そうですね...。神をも
超えることの出来る存在。《|神への反逆者
(ゴッドレブル)》とでも名付けましょうか。」
「とうとう魔物に成り下がったか。それでも
彼らの気持ちは分からないだろう?残念だよ。
俺はお前に容赦出来そうにない。」
「何を言っているのですか?皆、私に感謝している
に決まっているじゃないですか?
あなたも直に私の実験台になることで
私に感謝しますよ。」
イカれている。健治はそう思ったが、博士に対して
言えば誉め言葉になりかねない。そう考えると
口には出さなかった。
一瞬の沈黙。その沈黙を最初に破ったのは
健治だった。博士の懐に入り込んだと思うと
刀を下から上へと振り抜いた。
そこらの魔物は回避出来ないであろう一撃は
博士に対しては有効とはいかなかった。
その反応速度は刹那の単位であろう。しかし、
健治の抜刀の速さも刹那の単位であった。
結果としてどうなったか?というと
博士の右手を切り取っただけで終わった。
「速いな。だが...。これで。」
「これで有利になったですか?それは
残念ですね。違います。」
切り取ったはずの右手があった場所、そこには
さっきと同じように存在している。
ふと、切り取った方の右手をみてみと
落ちたままであることから
生えて来たということが想像できた。
「流石にここまでくると化け物だ。
同情はしないぞ。」
「同情なんてされる気もする気も
ありませんよ。さて、私もこの状態は初めてなので
手加減は出来ないですよ?」
博士は健治に向かって大きく踏み込む。健治は
その巨体が速いのが意外だったのか声を
失うが直ぐに正気に戻り剣を握り直す。
思いきり腕を振り回し健治に攻撃をするが
そこまで慣れていないのか攻撃が単調だった。
そんな単調の攻撃をただただ食らう健治ではない。
向かってくる腕を剣の峰の方で受けながそうと
したがそれは叶わなかった。
その腕は健治の剣が当たることなく、
通り抜け、健治に当たる。
「くっ。どういうことだ。」
これはアニメでもなく、漫画でもない。命をかけた
勝負。そんな命の駆け引きをしているときに
この質問の答えが返ってくるとは考えられな
かったが聞かずにいられなかった。




