一騎討ち 健治 前半
名も無き島、岩山にて。
「お前だけは許さないからな。」
「何を許さないんでしょう?私には理解できない
感情ですね。」
健治の滅多に見せない怒りではあったが
ネジが飛んでいるような博士には滑稽な
物にしか見えないらしい。
「それが理解できないところが一つ目の
許せない所だ。」
「それはそれは残念ですね。」
相変わらずの応答しかしない博士に
飛び込んでいく健治。
しかし、あっさりと再び召喚された魔物が全身をもって、守ろうとする。衝撃の事実を聞いたばかりの
健治には現実が辛すぎた。
魔物が斬れない。硬い皮膚や鱗を持っていて斬れない
のではなく、ただ、嘘か本当かどうかも分からない
情報に困惑してしまう。
「おやおや、どうしました?さっきまであんなに
魔物を斬っていたのに真実を知って尻込みして
しまいましたか?では、あきらめて私の実験台に
なって貰えませんかね?あなたのように丈夫な
素材を探していたんですよ。」
その姿を見た博士は自分の希望を述べる。
しかし、健治も捕まる気は毛頭ない。
次々と襲ってくる魔物を峰打ちでノックダウン
させていく。
さすがは魔物と言うべきか耐久力や防御力が
かなり高い。ノックダウン出来るのよりも
出来ないほうが多い。
悪戦苦闘、それは正に今のようなことをいうのでは
ないか?そこまでの相手ではないが数が多い。
今となってはただのわるい魔物だが
元は人間、殺せない。
「殺してくれ、コロシテクレ、」
声が聞こえた。
「コ、ロシ、テクレ、コロ...クレ、」
また、聞こえた。健治は周りを見回すが
そこにいるのは博士と魔物だけ。
「コロセ、コロシテクレ。」
三回目でようやく分かった。
この声は魔物が発しているのだと。
それは、三回目の声を理解した時に訪れた。
突如、健治の脳裏に浮かぶ記憶。
自分のものではない記憶。
その男が生まれて来てから、命を失う
その時までが頭に浮かんでは消え、違う記憶へ
移り変わっていく。
「お母さん、お父さん。」
幼少期の記憶。
「ラキ、結婚しよう。」
好きな人にプロポーズし、
OKをもらった時。
「こいつが俺の息子...。」
自分の息子が生まれたとき。
「ら、ラキ、逃げろ。ここは俺が食い止める。
最後くらいカッコつけさせろよな。」
自分の命を懸け、命を失ったとき。
そして、魔物へと姿を変えてしまう。
体は自由に動かない、が意思は残ったまま。
初めて、人を殺した。自分ではない
体だとしても。挙げ句の果てには...。
それもこれも全て、健治に伝わった。
意識は覚醒する。目の前の魔物が
健治に記憶を見せた。泣いていた。その魔物は
とても悲しそうに涙を流していた。
「お前なのか?」
健治はその魔物に問いかけるが返事はない。
それどころかまばたきをした瞬間に
涙は嘘のように消えていた。
「そうか...、辛かったよな、苦しかったよな。
俺が終わらせる、お前の苦しみを全て
受け止めるよ。」
それだけ言うと目の前の魔物に意識を
向けた。その時、魔物は飛びかかってくる。
健治はそれを正面から受け止め、
そのまま思いと共に断ち切った。
「少しは救われたか?」
ただ、呟く。冥福を祈るように。
「さて、博士。ここからは全力で
いかせてもらう。」
挙げ句の果てには...。
想像に任せます。




