一人ぼっちの最終戦争 後編
魔物が先陣を斬る。
魔物の種類は雑魚といわれるスライムから
強敵と言われるドラゴンまで豊富な種類がいた。
キリュウは魔物使いと呼ばれる職業であり、
それなりに珍しい職業だったため、能力の解明などが
されていないという点では奇襲に最適だった。
門が開いていない、これは実は大した障害では
ない。ただ、壊す手間が省ける上に音でばれない。
そそれだけ。壊すことは容易い。ドラゴンが一息
吹けばその時点で木製の扉などないのに等しい。
その扉を見て、仲間を思い出しつつ
ドラゴンに壊させた。
扉が壊れると共に魔物がまちになだれ込む。
しかし、仲間の裏切りによる迎撃は
来なかった。
仲間である男は、どっちも裏切れなかった。
仲間であり親友のキリュウ、祖国である魔族の国。
だから、その親友はキリュウを捨て、祖国を捨てた。
見方によっては最善とも最悪とも取れる。が
この第三の選択肢がその親友にとっての
せめてもの感謝の気持ちなのだろう。
その事実をキリュウが知ることはない。
しかし、親友の行動をキリュウは予想はできた。
だから、その可能性に気付き涙を流しそうになる。
だが、流れそうになる涙を無理矢理押し留め、
意識を目の前に向ける。
既に市街地に魔物は到達し、辺りの住宅や建物を
無差別に破壊し始める。
魔族だけあって、ただの国民でも戦闘能力は高い。
少しずつ魔物の数が減っていく。
そんな状況をみたキリュウは早速、新たな技を
使う。死んだと思われる魔物や魔族の死体
を蘇らせ、自らの配下として使う。
禁忌と言われる、技である。いわゆるゾンビと呼ばれる物を作り出し、また襲う。その繰り返し。
町は壊れ始める。その異変に気付いたのか王城の方から幹部が飛んでくる。流石は幹部というべきか
ゾンビのシステムを直ぐ理解し、死体を残さずに
殺していく。魔族のゾンビは流石に躊躇を
しているようだが。
キリュウは王城へ向かう。突然現れた魔物の影響で
幹部はほとんど出払っている。
今がチャンス。そう思い、王の間を思いきり
蹴り飛ばし中にはいるが、
ブシュ。
何かがキリュウの胸を貫いた。
「キリュウ、お前か?この事態を起こしたのは?」
魔族軍No.1の座に数百年ほど前から居座る
人物。
「く、クロノ。お前は行かなくていいのか?」
名前はクロノ。あらゆる武器の使い手で
どんな武器でも達人を越える腕前の持ち主。
特殊な技はなにも持っていないがその腕前と
経験により今の地位まで成り上がってきた。
現国王は椅子に深く腰掛け、権力で腐った顔を
している。他の奴らの前では絶対に見せることは
ないであろう顔だ。
「キリュウ。残念だよ、お前も俺に殺されるなんて
お前の親父も俺に勝てなかった。クロノもいる
この状態でお前に勝ち目はないぞ。」
まず勝ち目はないだろう。
最初に、クロノに負わせられた傷。クロノの投げた
槍がキリュウの胸を貫き、キリュウの胸には
穴が開いている。
ましてや前国王だけなら勝機があった。この際に
幹部が全員出払っているはずだったこの時を
狙うはずだったのだが、どういうわけかNo.1
のクロノがいる。
「クロノ、両手両足を切り落とせ。その後、俺が
直々にこいつを殺してやる。」
「だそうだ、キリュウ。覚悟してくれよ。
俺も面倒くさいんでさっさと仕事を終わらせる
けどよ。」
「クロノ、お前も落ちたんじゃねえか?そんな平和
主義とか言って裏では色々やらかしてる奴の下に
おさまるなんてよ。」
クロノとキリュウは対峙する。
「俺も好きでついてるんじゃねえよ。んなことより
呑気に話していていいのか?」
キリュウは気づく。剣が手足4本に向かい飛んできて
いることを
「くっ。」
軽く舌打ちをし、右に回避しようとするが
回避しきれず、左腕が切断される。
「あぁー。いてぇじゃねえか。」
流れる血は直ぐに止まった。何故なら、切られた腕の
ところから寄生虫という名の虫が全てを吸いとった
からだ。
寄生虫は見るからに大きくなり、クロノに
飛び込んで行く。が、それは一瞬のうちに小間切れ
にされた。
だが、キリュウには十分とも言える時間だった。
次々と魔物を召喚する。辺りは魔物でいっぱいになる。
「頼むから、切られてくれないかな?
俺もさ、暇じゃないんだぜ。」
その刹那、無数の武器が魔物を襲い、
キリュウの回りには味方がいなくなる。
「実力差は出てるんだぜ。昔とは違う、俺もお前も
大きくなった。大きくなると共に強さも身長も
何もかもが変わった。まぁ、身長は
負けてるが。いいか、お前じゃ俺に勝てない。」
「んなもん、分かってる。でもな、やらなきゃ
いけないこともあるん、ガハァ。クロノ、
てめぇ、卑怯だぞ。」
キリュウが喋っている途中、クロノは
黙って聞いているのを止めた。
キリュウの背後から武器を作り、キリュウに
放ったのだ。普段なら、気付き回避できたであろう
一撃も冷静さが欠けていたこの時は
気付くことすらできなかった。
「王よ。キリュウは完全に拘束した。
後はご自身でどうぞ。俺はもう行く。」
「クロノ、私は切れと言ったのだぞ。」
現王がこう言うのも無理はない。手足を
完全に拘束しただけなのだから。つまり、キリュウ
は左腕がないだけでほかは一応ちゃんと
繋がっている。
「ぐちぐちうるせいぞ。文句でもあんのか?
俺にだって事情っつうもんがある。」
思いきり睨み付けると反抗はしなかった。
「まぁ、いい。さて、どう調理してやろうか?」
クロノは立ち去り際、キリュウに近寄り耳元で
「悪く思うな。お前のやろうとしていることぐらい
分かってる。でもな、俺にもやらなきゃならない
ことがある。俺はこの国からとんずらするよ。
お前のダチも救ってやる、なんの心配もしないで
やっちまえ、幼馴染みとして友として俺は
お前を応援する。」
そのまま、クロノはキリュウに背を向け、
煙のように消えた。
「さて、お前の親父には感謝しているよ。
この魔王になれたんだかな。)」
そう言いながら、身動きのできないキリュウを
思いきり蹴りあげた。
「クズめ。動けない相手じゃないと
殴ることもできないくせに。さっさと俺を殺して
みろよ。」
キリュウの挑発に腹が立ったのか、
現王は魔法を唱える。
「お前なんか燃え尽きろ《地獄の業火》」
突如、上空に現れたとても大きな火球。
速くはないが確実にこのままだとキリュウに当たる。
そして、キリュウに当たるというその瞬間、
キリュウはニヤリと笑ったのだった。
その瞬間、大きな爆音が魔王城で鳴った。その規模は
王城を破壊した。
爆発がきっかけとなり、城下町である町の
なかで暴れていた魔物が次々と大きな爆発
を始める。
中には、魔物と応戦しているなかで魔物の爆発に
巻き込まれた者もいる。
魔物が全て爆発した。文字どおり、死んだと思われた
魔物も全て。
その爆発により魔族の国は壊滅した。