グランブベア
もっと頑張らなくては。
収穫祭二日目。
ギルドには、柄の悪そうな人が四割を
占めていた。
「今日、討伐してもらうのはトキの林に
出てくる魔物です。収穫祭の二日目には
ここで討伐するのが決まりに
なっていてですね...。」
長い、長すぎる。俺たちが思い始めてから
二分後には、
「長い前置きはいいからさっさと
狩りに行こうぜ。」
前の方にいた、乱暴者ぽい男の一言で
解散となった。その男は、体つきがよく
筋肉がいい感じに引き締まっていている。
服装は、虎柄のシャツ一枚に半ズボンが
一枚。背中にこん棒をかけている。いや、
正直、笑いそうだった。
それはおいといて、ギルドから出ていくなかで
出ていかないでいると、他にも出ていかない人
がいた。
「レナさんじゃないですか。」
そう、最初の町で出会ったレナ・コリスだった。
「えっと。カズオだったかしら。今度は
どうしたの?借金でも返せるように
なったのかしら?」
「そ、それはまだですね。残念ながら。ここには
たまたま来たんで。レナさんこそどうして
ここへ?」
「ここは、有名なのよ。特にグランブベアの
丸焼きはね。それを食べにきたんだけど
この有り様よ。ところで、その人たちは?」
「えっと。俺の故郷の知り合いかな?
こっちが舞で...。」
「舞です。」
「俺は健治だ。」
「あぁ、そう、あなたたちもギルドの厄介事に
巻き込まれたの?」
「どっちかっつうと、カズに巻き込まれた
って感じかな。」
「レナさんも討伐に行くんですよね?じゃあ、
一緒にやりません?」
「それもそうね。じゃあ、一緒に
行きましょうか。」
といった感じでレナが仲間になった。
そして、トキの林までやってきた。
トキの林はソナの町の南門からでて
直線で五百mほど行ったところにあり、
林のわりには随分デカイためそこに数十年
通いつめている狩人でさえ
迷うことがあるという。
カズ達一行が着いた頃には、ほとんどの冒険者が
入り終わったところだった。最後に入っていった
のは、さっきの虎柄のシャツをきた人たちだ。
「私たちも行きましょうか。」
林に入って、最初に遭遇した魔物は
ゴブリンだった。和男には少し恨みがゴブリンに
対しあるがそんなことはどうでもよかった。
あまり戦いたくなかったのだ。
「健治、やれるよな?」
「そりゃ、やれるけどよ...。」
「じゃあ、頼む。」
「へいへい。」
健治はそういったあと、走りだし先頭にいた
ゴブリンを頭から真っ二つに切り裂き、
他のゴブリンに顔を向けると
「居合い《影抜き》」
何とも和風っぽく忍者でも使いそうだ。健治は
これを使っているときは全く動かない。
もちろんそれを見たゴブリンは気味の悪い
笑みを浮かべ健治に近づき、
襲いかかるがその瞬間
スパパパパパパ。
ゴブリンの首が一斉に飛んだ。あまりの速さに
顔を変えることも出来ず、つまり笑みを
浮かべたまま、死んでいったということだ。
ゴブリンをはじめ、誰もその抜いた剣すら
見ることを叶わなかった。正にチート、
もうこいつが主人公でいいんじゃないか。
「終わったぞ。」
俺ら冒険者に課せられたノルマは、
入ってから、三時間はその狩り場で
監視を続けること。他にもゴブリンやオークが
出てきたが、すべて健治の糧となり、
三時間が経過した。
「じゃあ、帰ろうか。」
三時間さえこえれば、いつ抜けてもいいしくみに
なっているため、三時間がたてば自動的に
抜けようという話になる。が、
「ここ、どこだ?」
「健治、お前一人で行くから知ってると思っていたん
だけど知らないのか?」
「分かる訳ねぇだろ。舞ちゃん、ここ分かるか?」
「ううん、全然。」
「私も分からないわ。」
「そうか。じゃあどうするかな。」
迷ってしまった。だが、和男には考えが
無いわけでもなかった。
「俺たちはソナの町の南門からきたんだから
方角さえ分かればなんとかなるかもしれない。」
が、言ってみたものの方角の確かめ方など
習った記憶もやったこともない。
北極星を探せばいいかも知れないが
この世界は異世界。つまり、地球とは
違うのだ。
「方角なら分かるわよ。」
レナが不意にこんなことを言った。
「「は?」」
「だから、方角なら分かるわよ。というか
何で知らないのよ、常識でしょ。まぁ、
南門のことは失念していたけど...。」
そう言って、レナは右手を伸ばし
胸の高さまでもって来ると
「オステーション」
手のひらから見慣れた方位磁針のようなものが
でてきた。
「これで分かるでしょ。」
「あぁ、ありがとう。これって誰でもできる
のか?」
「基本的にはね。さっさと帰るわよ。」
ちょうど帰ろうとして、回れ右をしたとき
のことだった。振り向いた目の前に大きな熊
が現れた。
「グランブベアよ。なんとしてでも捕まえる
わよ。出来れば生け捕りね。分かった?」
必死だ、ものすごく。初めて見たかも
しれないレナの必死な顔をみるのは。
となると健治では難しい。
「舞、頼む。」
「うん、分かった。《クラティア》
《クラッチ》」
あっという間にグランブベアは
生け捕りされた。
「今夜は、ご馳走ね。」
その後、町に戻ってきた俺たちは、ギルドへの
報告をし、グランブベアで
夕食を食べることにした。




