いつだって
先輩はことあるごとに
「ほのちゃん可愛いね」
って言ってくれた。
言ってくれただけ。
最初の出会いは入学式の次の日の新入生歓迎会。
その時はまだ生徒会の先輩を初めて遠くから見ただけだった。
そこから1年私はいつだって先輩を目で追っていた。
そして私が2年生の春、
生徒会の仕事で各部活をまわってる先輩が私たち吹奏楽部のところへきた。
「あ、ほのかちゃんだよね?」って突然聞いてきた時は驚いた。
目立ったことをした記憶も何もない。
「いやさ、後輩がよくほのかが〜ほのかが〜って話しててね」
ああそうだった。私は生徒会のけいちゃんと仲がいい。そしたらいつの間にか先輩の中にも私がいたわけか。
「後輩が言ってた通り、ほのかちゃん可愛いね〜」
突然可愛いだなんて言われて驚くし嬉しかった。けど、先輩はこういうことをさらっと言ってしまうんだろうなと言う諦めも少しあった。
その日は少しだけ話して終わったのだけど、それからは私から話しかけることができた。自然と話す機会は増えた。
「先輩!私合唱祭で指揮者やるんで見ててくださいね!」
「おっ、かっこいいじゃん。見れたら見るね〜」
「ほのちゃんカッコよかったね〜小さくて可愛かったし〜」
なんて都合のいいことを言って。私見てましたよ先輩が寝てるの。
でも「ありがとうございます!」
って言ってしまったの。
「ほのちゃん何の競技でるの〜?」
「私さっき3人4脚出てましたよ!見てました????」
「もちろん!それ以外でるのかなって!可愛かったね〜」
なんて都合のいいことを言って。私見てましたよ先輩が友達としゃべるのに夢中だったこと。
先輩が走ってる時誰よりも大きい声で応援してたの気づいてましたか?
「吹部の定期演奏会、今度の土曜日なんですけど来てくれますか?」
「ほのちゃんの頼みなら行くさ〜」
なんて都合のいいことを言って。先輩の友達から聞きました。その日遊びに誘ったけどバイトで断られたって。
「俺もとうとう卒業だ〜。ほのちゃん今までありがとね〜。相変わらず可愛い奴だなぁ」
「そんなことないです。先輩、写真撮りましょう」
「あとでね〜」
「今がいいです。今すぐ、今にでも」
「どうしちゃったのさ突然」
「どうもこうも先輩ずるいです。いつだって後でね、とか見てもいないのに見てたよって。」
「そんなことないよ、見てたよ」
「嘘です。案外視線なんて分かりやすいものですよ。先輩いつだって私のことまともに見てなかったです。私の気持ち気づいてました?気づいてたから逸らしてたんですか?軽蔑しました。体調悪いので私保健室行きますね。」
「ちょ、ほのちゃん、ついてこっか?」
「いいです。みんなで写真でも撮って卒業惜しんでてください」
そういって去ったきり、私と先輩は言葉を交わすことも会うこともなくなった。もちろんあんな捨て台詞、後悔しかなくて保健室に行くふりをしてトイレで泣き尽くした。
時は経って
次の年の文化祭に先輩はきた。
いつも通り私は「私たちのクラスの劇は見てくれましたか!?!?」って聞いた。
先輩もいつも通り「見たよ〜」って返してくれると思ってた。でも違った。
「ごめんね、その時間忙しくて見れなかったや。」
思ったより嘘って優しいものだなって感じた自分がいた。
「もちろん明日は見てくれますよね!お昼過ぎです!余裕ですよ!」
「ごめん」
「先輩学校近いですもんね!お昼まで寝てからでも自転車でこれちゃう!」
「ごめん」
「だ、だって、私たち今年で、最後!だし!」
「ほのちゃん」
「吹部の定演とかだって!見に来てくれな」
「ほのちゃん!」
「…。」
「ごめん。」
「…。」
「俺、明日彼女とデートなんだ…」
「そ、そうです、よね!彼女さんと幸せそうですもんね!楽しんできてくださいね!」
「ほのちゃん、その、卒業式の時のこと、ごめん」
「なんのこ…」
「分かってたんだよ、気持ち。でもさ、ほのちゃんは可愛い後輩としてしか…」
「分かってるんで、もうやめてください。これ以上言われると泣いちゃうんで。私も明日も頑張るんで、先輩も頑張ってくださいね」
「ごめんね。ありがとう。」
そう言って先輩は私の頭を撫でるとじゃあねって言って帰ってしまった。
先輩が見えなくなるまで辛抱するつもりだったのに、向こうを向いてしまった瞬間に距離を感じて涙が溢れ出てしまった。先輩にも気付かれたんだろうけど、ある意味優しさで振り向かずにそのまま行ってくれた。
先輩はいつだって後輩の私に優しかった。
いつだってただの後輩としてしか見てくれていなかったけど。