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第5廻 6月12日の狼鳥

修正報告。第2廻の契約内容を「くれますか?」から「ください」に変更しました。



 ~6月12日 月曜日 13:04 スペースコロニー〝ノア〟繁華街跡地~




『直上から高熱源体接近ッ!!』


 敵機を撃墜して次の行動へと移ろうとする最中、突如のサクの声に反応して琳桐ヨシカは顔を上げた。頭上から迫る閃光に、スロヴァイドを後退させて離脱を試みた。翼を前に出してルクス・フォルマを展開、バックする。しかし下がった拍子に上げた右足が、閃光の濁流に呑み込まれて爆発した。


「なああああッッッ!!?」


 左脚、更には眼下の地上からも太陽の如き強烈な閃光と大爆発が起こり、爆発の衝撃でヨシカは操作を止まり、操縦を失ったスロヴァイドは末端を失った右脚から煙を上げながら墜ちていく。


『ヨシカさん、機体が急降下してこのままでは墜落します。操縦を』

「分かっている!!」


 ヨシカは操縦桿を操作してペダルを踏み締める。スロヴァイドは体勢を立て直すも、直上から弾丸の雨が襲い掛かる。


「次から次にぃッ!!」


 スロヴァイドは攻撃に耐えてビルの陰に隠れると、その場から距離取る。


「サクさん、敵影は……」

『周囲に強力な電磁場が発生しており、レーダー索敵が期待出来ません』

「何なんだ……――?」


 機体を動かし続けるヨシカは、ビルとビルの間から浮かぶ巨大な影を捉えた。


「何だ、今の」

『先程の影は、恐らく一連の攻撃を仕掛けて来た相手と思われます。画像解析を行います――解析結果出ました。先程の機影は機体後部。全長は50mを超える物と思われ、現在欧州連合で単独で運用するそのサイズの戦闘機は製造されておりません。しかし開発計画が企画されたもので〝C-170〟という機体が該当しました。機体各所にスラスターを搭載した宙域戦用大型戦闘機ですが、現在も開発中で試作機が12機のみです』

「試作機持って来たのか!?」

『宙域戦対応の試作機を重力下で運用は異常です』

「それでもあんな真似して来たんだ、馬鹿に出来るものか!」

『上空から敵機接近』

「――ッ!」


 サクの声に反応して見上げるヨシカ。スクリーン上方には、一直線に伸びる人工太陽の光を遮る巨大な影がこちら目掛けて急降下していた。咄嗟に操作して敵の接近から離れると、一瞬だがその全貌をヨシカは捉えた。


 淡い閃光を放つ筒を幾つも携えた長い板状の翼。翼と同じ幅を持つ巨大な脚とそこから伸びる巨大な3本爪。そして機首と思わしき部分は鋭く尖っていた。その外見は、まさしく鋼鉄で出来た大鷲だった。


「鳥……――だからって!」


 機械で出来た巨大な鳥という外見に慣れないヨシカはその得体の知れなさに恐怖も抱くも、自己暗示の様に言葉を放って恐ろしさを払拭すると、前腕部に装着したトレフォイル・アンクロームを投擲した。三つ葉の刃が回転しながら巨鳥へと襲い掛かる。対して巨鳥C-170は左腕を前に出すと、関節部付近から炎が勢い良く吹くと機体から分離して飛び出した。


「なッ!?」


 小さな三つ葉に正面から向かう巨大な爪。アンクロームは爪に弾かれ、爪はスロヴァイドの左脚を掴んだ。


「しまっ――」


 拘束から逃れようとするも、機体と爪を接続するワイヤーが巻き取られ、スロヴァイドはC-130へと手繰り寄せられる。抗うスロヴァイドと引き寄せるC-170。機人はその場に漂う様に滞空する形になると、敵機は背面の複数のハッチを開いてミサイルを撃ち出した。


「ちぃぃッッ!!」


 敵の攻撃に対して、スロヴァイドは防御砲塔とトレフォイル・ショットガンランチャーでミサイルを迎撃。前方が爆炎と煙に包まれた。スクリーンの端から端が灰色と赤と黒の3色で満たされ視界を閉ざす。謎の敵の続け様の拘束・攻撃に咄嗟の迎撃と、それに生じた爆発の勢いで、ヨシカは一瞬放心状態に陥った。額に冷や汗が滴り、腋汗が身体とスーツを濡らす。初めての絶体絶命の状況で生じた僅かな隙は、スロヴァイドの操縦にも影響を与えた。


 突如煙の幕を貫いて巨大な爪がスロヴァイド目掛けて襲い掛かった。咄嗟に両腕を組んでガードするも、余りの勢いで前に出した左腕上方が窪み、滞空していたスロヴァイドも機体が上方に浮き上がる。コックピット内ではヨシカは反射的に機体を操作するが、突然の衝撃に前方に身体が前のめりになろうとするも、ベルトで固定されている為にそれは起こらず、代わりに首がガクンと勢い良く前へと紛った。バイザーに顔がぶつかり、脳も前に揺さぶられて頭痛が起こる。その時不意にヨシカはペダルを踏み込んだ。攻撃で機体が上がるスロヴァイドは、ウィングスタビライザーからルクス・フォルマを展開、更に上昇しようとする。


 しかし左脚を敵の爪に掴まえられている為に急には飛べず、鈍い金切り声を上げながら爪が更に装甲に食い込んでいき、大部分を抉り取らせてその拘束から脱出した。


「くぅ……――あぁぁあああああああッッッ!!」


 身体に掛かったGがヨシカに襲い掛かる。全身に掛かる圧力を、歯を噛み締めて耐えるも苦しみで声が漏れ出した。ペダルから足がズレて外れると、機体は上昇速度を緩めていく。


 Gの呪縛から解放されたヨシカは飛び上がる様に姿勢を正すと、ゼェゼェと過呼吸気味に息を吸い込むと、下方にいる敵戦闘機を睨み付けながら武装を選択してトリガーを引いた。スロヴァイドは太腿部の砲身を展開して弾丸をありったけ周囲に発射した後に降下、ビルの足元へと逃げ隠れた。


「はぁ、はぁ、はぁ……死ぬかと……思った……はぁ、はぁ……」

『ヨシカさん。周囲の解析結果が出ました』

「こんな時に……解析……? 何を?」

『周囲の索敵障害……――電波障害についてです。周囲にイオン化した金属原子による重イオン――〝荷電粒子〟が検出されました』

「荷電粒子って……電荷した粒子だろ? なんでそんなものが……」


 ヨシカの脳裏に、先程突如空から降り注いだ強烈な閃光の事が過った。


「あの光……まさかアレが? 荷電粒子砲って確か、5年位前にやっと出来たって……」

『粒子の電荷と収束、それらの機構の小型化、発射後の磁気等による直射阻害要因の解決として、全長300m級の大型航空母艦で搭載する事でようやく運用出来た兵器です……それを1/6にまで小型化、そしてエネルギーコスト問題も解決出来たのならばノーベル物理学賞間違い無しでしょう』

「そんな事出来るんならスロヴァイド(コレ)無くて良いでしょ……」


 疲れと相手の異常さに頭を垂れて抱え込んだ。


『しかし荷電粒子砲は連発出来ないでしょう。私が戦術プランを提示します。ヨシカさんなら勝てます』

「勝てますって……」


 頭を上げると、目の前にはルクス・フォルマで姿を出現させたサクがヨシカの目の前にいた。


『私がサポートします。ヨシカさんを負けさせたりなんかさせません。勝してみせます』


 サクのその目は、絶対的な自信と意思が込められた目をしている。ずっとこちらを見詰める美少女に、少年はたまらず目を右に逸らした。


「……――分かりました……。このまま放って置けないし、多分1人だと勝てないし……――頼みます」


 少年の申し出に、少女は笑みで応えた。


『はい、分かりました』


 ヨシカは前方に備え付けられたディスプレイに目を向けた。稼働数値は7000を切っていた。


「まだいけるか……――よし、行こう」

『はい、一緒にがんばりましょう。――やはり、ヨシカさんはウブなんですね。色仕掛けが効果的です』

「うっさい!!!」

『私はそんなヨシカさんは好きですよ?』

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