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第2廻 6月5日の初陣


 ~6月5日 月曜日 16:10 スペースコロニー〝ノア〟 72番モジュール~



 謎のロボット〝スロヴァイドⅢマワル〟に搭乗した琳桐ヨシカ。非常事態からの生存の為にスロヴァイドの操縦を決断するも、その為の同意項目に答えていたら、突如目の前に、謎の光る美少女が現れてヨシカに口付けをして来た。少女は手と唇をヨシカから話して、身体の末端から光の紙吹雪の様にして消えていった。スクリーンに赤・青・黄色・緑・紫・ピンクの6色の線が入り混じった映像が流れる。


 ヨシカはそれを食い入る様に見届け、左手をレバーの上に置いた。少し呼吸し、全てを捨て去る様にゆっくりと吐き出して、スクリーンを見据える。戦闘機がチェーンソーを振りかぶると、ヨシカはトリガーを引いた。それに合わせてスロヴァイド(きたい)は低い駆動音を響かせながら腕を伸ばしてパンチする。敵の攻撃よりも先に戦闘機のコックピットを潰し、機首をひん曲げ、叩き落とす。


 爆炎が周囲に広まり、辺りを火の海になるも、その中でロボットは関節部が軋む音を上げ、地面を大きく揺らしながらゆっくりと立ち上がる。そして大きく膝を曲げて屈むと、天井の穴目掛けて一気に飛び出した。


 コックピット内のヨシカは、スクリーンからの突然の光で瞼を閉じた、ゆっくりと目を開く。


「これは……」


 球体状のモニターに映るのは繁華街。しかし何時もの様な煌びやかで賑やかなあの街並みはもう無い。所々で無数の黒煙の龍が昇り上がり、我が物顔で欧州合衆連合の戦闘機が飛んでいた。視線を更に下にしてよく見ると、粉塵に紛れて何かが横たわっている。センサーがヨシカの行動を理解してか、視線の先の画面にウィンドウが表示されて拡大画像が映し出された。


「う……!」


 ヨシカは口に右手を当てて顔を反対方向へと向けた。ウィンドウに映っていたのは死体だった。瓦礫に潰された死体、敵の攻撃で手足が千切れた死体、血や内臓をぶちまけた死体。流れ出る血溜まりには白い眼球が浮かんでいる。胸の内から吐き気が込み上げた。肉眼でその場の匂いをも一緒に捉えていたら吐瀉していただろう。


 気持ちを切り替えてヨシカは向き直す。周りの現状もそうだが、自身の身の危険に気を配る事が一番重要だからだ。そして自身が機体を操縦している事に意識を傾ける。


「……分かる。何となく……いや、覚えている(・・・・・)――?」


 モニターが敵機体をロックすると、その横に機体の情報が書かれたウィンドウが映し出された。


 [〝F―140〟 2047年、ベラトニクス社製で欧州合衆連合に配備された戦闘機であり――]


 そこから先は専門用語ばかりなのでヨシカは軽く読み流す。次に手前にある左ディスプレイを見ると、レーダーになっていて、戦闘機が光点として映されていた。


「数は全部で9機……」

『――琳桐ヨシカさん』

「うわっ!」


 突然名前を呼ぶ声に反応して驚くヨシカ。右ディスプレイを見ると、先程の少女が映し出されていた。


『私の名前はサク。当機のAIの様なものです。今後は攻撃の通知といったヨシカさんの戦闘補佐をさせて貰います』

「あ、ご丁寧にどうも……」


 ヨシカはディスプレイの少女に向かって頭を下げて挨拶した。


『操縦方法は分かりますね?』

「ああ、分かるよ。何でか分からないけど……」

『当機が起動する際、6色の光の映像が映ったのは知っていますね?』

「ああ、あの線みたいなのが流れたの?」

『あの映像には特殊な仕掛けをしており、見た者に操縦方法を刷り込ませるんです』

「さいですか……」

『12時の方向、下方からミサイルが来ます。距離70』

「――!」


 ヨシカは咄嗟に左操縦桿を引いて右ペダルの踏み込む。それに従い、宙に浮くスロヴァイドは倒れる様に落ちて振り返り、地面と水平になる様姿勢を直すと、黒翼から翠光の正三角形が現れると一気に加速した。


「うぐっ!」


 ヨシカの身体は急加速でシートに叩き付けられ、声が漏れる。黒翼を左に向けて正三角形の翠光を出したスロヴァイドは機体も捻って右方向に曲がり、進行方向先の前方のビルに左半身をぶつけて壁面を抉ってビルの間をを駆け抜けた。


『下手ですね』

「初めてなんだぞ!」

『因みに前に映る稼動数値には気を付けて下さい』


 ヨシカはモニターとレーダーでミサイルが背後から追い掛けて来るのを確認しながらも、中央ディスプレイに目を向ける。画面の左上に白地に黒字で〝9902/9999〟と表示されていた。


『右は初期数値。左は残り稼動数値です』

「秒って事?」

『詳細については機密保持の為、説明出来ません』

「そんなあんまり――」

『ミサイルを迎撃しないのですか?』

「話を逸らすな! それと武器は!?」

『右下に映し出されているアイコンが使用可能兵装です』


 ヨシカは右操縦桿のダイヤルを回して武装を選ぶ。ディスプレイには兵装のアイコンの上に表示され、名前を確認した。


「〝20mm側頭部近接防御砲塔〟……これで!」


 ヨシカは操縦桿のトリガーを引いた。スロヴァイドは身体を反転させてミサイルと向き合うと、側頭部にある銃口から、緑色の光を上げながら弾丸は放って迎撃する、弾丸と接触したミサイルは爆散し、周囲のミサイルも誘爆していった。


『2時方向からF―140、2機が接近中。距離50』

「チィッ! 〝トレフォイル・ブーメラン〟ッ!!」


 翠の巨人は振り返り際に腰の右リア・アーマーに取り付けられた3枚重ねの板を右手で取り出して頭上に掲げた。掲げた勢いで板はY字に展開され、F―150目掛けて振り下ろす様に投擲。ブーメランは回転しながら風を切って戦闘機を両断、撃墜する。戦闘機の爆発からブーメランは弧を描きながら帰ってくると、スロヴァイドはキャッチした。


『敵戦闘機、第2波来ます』

「くっ!」


 接近する敵機の内1機目掛けてスロヴァイドはブーメランを再度投擲。ブーメランの向かう先にいた戦闘機は機体後方の推進器を下にして、上昇する様にこれを回避。だがスロヴァイドは瞬時に急加速して距離を詰め、もう片方の手に持った別のブーメランで機首を叩き切る。残ったF-140も右腕の機関砲で攻撃するも、巨人は急上昇して回避。


 戦闘機は再度攻撃するも、先程投げたブーメランが帰って来て、死角から機体に切り裂いた。ブーメランを回収すると、スロヴァイドは滞空しながら静止した。


『4方向からそれぞれ敵機接近』


 四方から挟み撃ちにされるスロヴァイド。ヨシカは右ペダルを思いっ切り踏み込むと、機体は一旦屈む姿勢をしてから、跳躍する様にして一気に上昇。そのまま身体を捻って自身を太陽に背を向けて重なる瞬間――。


「えっと……〝トレフォイル・ショットガンランチャー〟ッ!」


 ヨシカが武装を選択すると、太腿部の装甲が展開、環上に並ぶ6つの銃口が露わになり、銃口からは幾つもの小さな三角錐の水晶が発射された。水晶の雨は敵機に刺さると爆発、敵機を炎に包みながら破砕した。


「やった!?」

『――前方に機体が接近中』


 ショットガンを回避した1機のF―140が、左腕のチェーンソーを構えながらスロヴァイドに突っ込んで来た。スロヴァイドは咄嗟に上半身を捻って避けるも、胸部装甲に一筋の切り傷が刻まれる。


『胸部装甲破損。損傷は軽微。戦闘行動に支障ありません』

「っく! ――〝トレフォイル・アンクローム〟ッ!!」


 スロヴァイドは右腕を突き出すと手甲を覆う刃が展開。トレフォイル・ブーメランのよりも大振りの3枚刃を、三角錐を広げる様になってそれを投げ放つ。半透明の刃先を持つY字の刃は中心部と腕がワイヤーで繋がっており、回転しながら真っ直ぐ戦闘機に突っ込んだ。戦闘機はチェーンソーを振りかざして、刃を弾き飛ばすと、スロヴァイドは腕を回してワイヤーを自身の腕に巻き付けてアンクロームを鞭の様に扱い、振り下ろす。


 迫る刃に敵機は攻撃を回避をするも、アンクロームが主翼を切り裂いてバランスが崩れる。スロヴァイドは武器を手元に戻し、投擲。刃は機首を突き刺し、スロヴァイドも敵機に近づいてアンクロームを掴んで押し込み、戦闘機を両断した。


「終わった……?」

『はい、現時刻16時28分を以て状況を終了します』

「はあ……」

『ですがこのままでは当機が目立って騒ぎになります。指定するポイントまで移動してください』

「分かった」


 スロヴァイドは両翼を後方に向けると先端から正三角形の翠光を放ち、その場から飛び去った。向かった先は繁華街から約1kmにある湖。普段から人気は無い鳥獣達の安らぎの場に、不釣り合いな鋼鉄の巨人が空から降りて、地面を揺らして着地した。コックピット内にあるディスプレイに表示された数値は〝2207〟だった。


『ヨシカさんが降り次第、当機は湖に機体を沈めます。帰路は分かりますね?』

「昔来た事あるから大丈夫」


 ヨシカの太腿に密着していた板が外れてシートに収納されると、ヨシカはサクに問い掛けた。


「この板何?」

『シートベルトみたいなものです』

「針で刺されたみたいな痛みがするシートベルトなんかあってたまるか」

『その前にヨシカさんには栄養ドリンクを飲んで頂きます』

「栄養ドリンク?」

『はい。当機は機体性能は従来の機体を上回りますが、同時にパイロットに多大な疲労を与えます。朝起きたら全身に激痛が――』

「で、栄養ドリンクとの関連性は?」


 ヨシカがそう言うと、サクはしょんぼりした様な表情を浮かべる。


『ノリが悪いですね。栄養ドリンクにはタンパク質やビタミン、ミネラルを始め、リラックス効果のある成分が入っています。これを飲めば翌日は元気になれますが、副作用として飲んだ後の数時間後に一部の筋肉痛が起こります』

「筋肉痛はやだな……」

『文句を言わずに飲んで下さい』


 サクがそう言うと、左モニターには、〝お・ね・が・い♡〟と文字が出ていて、サクも上目遣いでヨシカを見たりと、明らかに言動が真逆だった。


「……はいはい、分かりました」

『色仕掛けが有効ですね』

「黙らっしゃい!!」


 ヨシカは機体を降り、スロヴァイドの背後へ行った。遥か上にある機体の背部からコックピットへ搭乗するのと同じワイヤーリフトが垂れ下がると、ヨシカはそれに掴まって昇り、背部から迫り出した足場に降り立つ。目の前に球体状の機械で、中心は出っ張っていた。その出っ張りの一部が口を開くと、下からコップが出て、上からオレンジ色の液体がコップに注がれた。ヨシカはコップを手に取って、液体を一気に飲み干す。


「あ、美味し」


 予想とは違って甘い栄養ドリンクに少し物足りなさをヨシカは感じた。機体を降りると、スロヴァイドはゆっくりと浮かび上がり、湖面へとゆっくり沈んでいった。見届けたヨシカは踵を返して帰路についた。――それを森の中から伺う4人の人影。




「奪還対象が沈んだん(アレ)じゃどうやって奪還()ってく? パイロットいるから脅してみるぅ?」

「情報が少ないから以上了承は出来ない」

「俺が行こう」

「お主自ら?」

「状況が状況だ。単独の方がしやすい。隙を見付けて奪取する」

「ええ~~! 独り占めかよ~~!」

「最善策だ」

「右に同じく」

「という訳だ」

「ちぃえ~」

「祖国の為に使命を遂行しよう」

(俺の為にもな……)

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