第12廻 6月24日の狼鳥
~6月24日 土曜日 20:45 スペースコロニー〝ノア〟 72番モジュール ライブ会場~
如月レイアを救出した琳桐ヨシカ。しかし慰安ライブを襲撃した正体不明の敵の攻撃は終わらなかった。
〝スロヴァイドⅢマワル〟の胸部コックピット。ヨシカは自身の左側にあるディスプレイに目を向ける。左ディスプレイはレーダーを映し出していた。宙に浮く自機を周辺に半径約8km。その前方に浮かぶ赤い光点が敵だ。スロヴァイドの直径約16kmのレーダー索敵範囲。これでも広範囲を索敵出来る方だ。欧州合衆国連合の主力機〝F-150〟は更に短い半径約5km。
宇宙進出を果たし、大気圏内外を簡易に行き来出来る様になった2057年現在、 向上したのはなにも宇宙関連の技術だけではない。高出力広範囲に展開可能なジャミング装置が開発された事により、長距離へ向けての兵器はジャミングにより入力された座標への確実な到達が出来なくなった為に実質使用不可能となった。
それを補う様に機動兵器が発達。索敵範囲を絞り、機体側から常に誘導する事で、ジャミング下でもより確実に目標を補足出来る機械を始め、F-150に関しては腕状のマニュプュレーターを装着して汎用性を高めている。
スロヴァイドは〝トレフォイル・ブーメラン〟を装備して迎撃体勢に入る。まずスロヴァイドを襲ったのは無数のミサイル群。ヨシカは右操縦桿のダイヤルを回して〝20mm近接防御機関砲塔〟と〝トレフォイル・ショットガンランチャー〟の2つを選択。目標はミサイル群。照準を合わせてロックし、人差し指と中指のトリガーを同時に引いた。
両側頭部から弾道修正の為の曳光弾と共に放たれる弾丸と、太腿部側部に取り付けられた6門、計12門の発射口から幾つも放たれる無数の十字の小さな刃の弾幕がミサイルと衝突。爆発したミサイルに誘爆して、周りのミサイルも爆音と共にその身黒煙に身を包んだ赤い一等星と化して夜空を照らし出す。
全方位スクリーンモニターが光に染まり、スピーカーから発せられる爆音がコックピット内で充満する一方、爆音をかき消す様に、レーザー照準のロックオンを関知した警告アラームがけたたましく鳴り響く。
『直上と直下から敵機接近、数4』
「ちぃッ!」
AIのサクの美しい声での可愛げの無い冷静な状況説明と警告。ヨシカは何も言わず、左操縦桿を引いた。ウィングバインダーの先端を前方へ向け、バックしながら緊急回避。しかし爆炎を乗り越える戦闘機達はスロヴァイド目掛けて何かを射出した。それはワイヤーを通して戦闘機に取り付けられている。ヨシカに当たる直前、4方向から来るそれは亀裂が入って炸裂。中からなネットが飛び出した。
「――!?」
ヨシカは予想だにしないそれによって反応が一瞬遅くなる。ネットはそれぞれの四肢に絡み付き、それをF-150が牽引するかの如く引っ張ってスロヴァイドを拘束した。操縦席の前方ディスプレイに映し出される簡略的なスロヴァイドのアイコンは四肢が赤くなり、それぞれに〝操作不可〟と文字が出て、コックピット内では悲鳴の如くアラームが泣き叫ぶ。
更にはスクリーンの前方に映し出されるF―150は、その右手には巨大なボウガンを思わせる銃を携えている。その銃口から顔を出しているのは、鋭く尖った2本の矢。その切っ先は周りの少ない光で煌めいた。
(このままじゃただの的にされる……!)
危機を感じたヨシカは操縦桿を前後に動かすも、機体は動かない。
「――ック! サクさん、出力を上げ――」
出力の限界値を上げるよう、サクに指示を出す直前だった。
――矢は放たれた。闇夜を切り裂き、何人たりともその姿を捉える猶予を与えず、一瞬でスロヴァイドのコックピットに突き刺さった。だがヨシカは捉えた。彼方で豆粒の如き矢は一瞬で目の前を横切ると、全方位スクリーンモニターのを突き破って飛び出し、ヨシカの右真横を横切った。
「きゃああっ!」
少女は身を屈めて叫んだ。ヨシカは振り返るも、彼女は怪我を追っ手はいない。続けて第2射、今度は前を向いたヨシカの左真横を通って側頭部をヘルメットごと抉った。




