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いきはよいよい、かえってこない

作者: 篠雨 創

 通りゃんせ、通りゃんせ。行きはよいよい、帰りはこわい。


 誰だって聞いたことはある話だろうけど、この歌は、行くのはいいけど、帰ってこれないかもしれないってことを歌ってるって話があるんだよね。詳しい説明は省くけど、簡単に言えば人為的な神隠しって感じかな。今となっては廃れた風習だし、知らない小学生とかも多いんじゃないかな?


 ところで、これは結構前に聞いた話なんだけど。とある県の片田舎に、ちょっとした名家があったんだって。昔からその土地を管理していたこともあって、その辺じゃ一目置かれる感じのお家だったそうだよ。


 それで、そこの長男さんがお嫁さんをもらうことになって、その辺りじゃちょっとしたお祭り騒ぎになって。まあそれで済んだらめでたしめでたしで終わったんだけど。どうにも現実はそうもいかなかった。


 その後しばらくしても2人には子供ができなかったんだよ。代々続く由緒正しいお家柄だから、跡取りは絶対にほしい。でも2人には子供ができない。原因は夫婦のどちらかなのかはわからなかったそうで、そこで家の人が一つの方法を考えついたんだって。


 それはお嫁さんに犠牲になってもらうということ。秘密裏に、誰かがお嫁さんに乱暴をする。それでもし子供ができたら長男さんが悪かったってことになる。けれど、そんな事実は公表したくないから、そのままお嫁さんには2人の子として産んでもらう。子供ができなかったらお嫁さんにはサヨナラ。不慮の事故にでも遭う予定だったそうだよ。


 幸か不幸かはわからないけれど、それからお嫁さんには子供ができた。秋に生まれたその子はとてもとても可愛い女の子だったそうで、普通に大事に、事実は内緒で育てられたそうだ。


 ただ、さらに幸か不幸かわからない事件が起きてしまった。女の子が小学校にあがってもう大分経った時、夫婦に子供ができてしまった。今度は確実に2人の子だった。お家は騒然となる中、その子は無事に元気な男の子として生まれてきたんだって。


 家の中はキチンとした跡取りに浮き足立って、蝶よ花よと男の子を可愛がって、女の子の扱いは日に日に酷くなっていった。それからしばらくすると、お家の人たちはもう、女の子という存在が疎ましくなってしまった。夫婦は別け隔てなく接していたけれど、家の人たちから見たら何せ自分たちの汚点のような存在だからね。それで、夫婦には内緒で女の子を処分することに決めた。


 子供は7歳までは神様のものっていう言い伝えがあって、でも女の子はもうとっくに7歳を過ぎていて、もうすっかり大きくなって、小学5年生なんていうお年頃だったそうだよ。


 そして、お友達と近くの神社に、毎年楽しみにしていた夏祭りに出かけて、そのまま帰ってこなかったんだって。


 噂では、山で神隠しにあったとかなんとか流れていたそうだけど。真相は藪の中だった。

 夫婦はもちろん泣いて、それでも女の子は帰ってこないから、男の子を頑張って育てることに決めたそうだよ。


 それからまたしばらく経ったある日のこと。村ではこんな噂が流れるようになった。


 夜道を歩いていると『私は要る子? 要らない子? お母さんはどこ?』という感じで、後ろから急に話しかけられる。要る子だというと取り付いて殺される。要らない子だというと『やっぱり』という声と共に殺される、みたいな噂が。そしてちょうどその声が小さい女の子の声で、背丈は小学生の女の子ぐらいだった、なんて話もあったそうだよ。


 実際に殺されたっていう話はなかったみたいだけど、それでもみんな夜道を怖がって歩くようになっていたんだって。


 名家の人たちは騒然として、やれ復讐に来るだ、やれ男の子を守れだ、やれお祓いだとそれはもう慌てたそうで。色々手は尽くしたみたいだけど、結局噂が絶えることはなくて、それどころか外部の地域の物好きにまで広まって、その地域一帯はちょっとした観光客まで来るようになってしまったらしいよ。


 10年前に殺された女の子が、その姿のまま復讐を望んでる。シンプルな分わかりやすく、それでいて尾ひれのつきやすそうな話題に、目がない人は本当に目がないものだよね。


 人の噂も75日って言うけど、その噂はもうちょっと長く続いたみたいで。まあそれでも半年も経てば、たまに人が訪れる、ぐらいの程度にはなったそうで、名家の人たちも少し安心して外を出歩くようになったその日のことだった。


 それは奇しくも夏祭りの日だったそうだよ。夫婦はその帰りの夜道を歩いていた。男の子は友達と遊びに行ってしまったから、2人っきりで。


 真っ暗なあぜ道。そしたら後ろから、どこかで聞いたことのあるような声で、


『私は要らない子? 本当のお父さんとお母さんはどこ?』


 って。2人はビックリして言葉も出なかった。なんとか言葉を絞り出そうとするけど、喉が震えてうまく喋れない。きっと、夫婦も女の子も、薄々気づいていたんだろうね。夫婦は女の子が殺されたのかもしれないこと。女の子は自分は望まれて生きてきたんじゃないのかもしれないっていうこと。


 それでも2人恐る恐る、勇気を出して振り返った。すると、そこにはいたのは、













「ごめんね。お父さんお母さん。バイバイ」


ってあの日出かけていった浴衣姿で涙ぐんで笑う娘の姿だったそうだよ。そしてそのまま消えるようにいなくなってしまったんだって。


 夫婦は沢山泣いて、それからどうなったのかはよくわからないけど、噂はぱたっと止まり、名家からは沢山の人がクビになったそうだよ。それと同時に悲しい女の子の話が広まるようになったんだって。そして、それから毎年夏祭りの頃になると、少女の悲しい死を悼んでか、お祈りが行われているそうだよ。




 ああそう、それとは別に。


 とある男達が夜道を歩いていた。不幸な少女の境遇に惹かれて、観光がてら立ち寄ったその地域では、楽しく、どこか静かで物寂しい感じのお祭りが行われていたんだって。それでその帰り道。


 突然後ろから声をかけられる。


『私は要らない子?』


 ってね。男達はもちろん笑顔で振り向きながら答えた。


「君のような子を待っていたんだ!」


 男達はアイドルのプロデューサーだった。そしてロリコンだった。そんな男達の前に現れたのは、10歳から成長が止まった天使。しかも実物を見たらこれがまた可愛いときた。つぶらで溢れそうな瞳。さらりと風になびく黒髪。大きくない身長。最高だ。全身を駆け巡る血潮が駆け巡り、一点に集まる感じさえした。これなら売れる。トップを狙える。しかも、君臨し続けるトップに。


 男達は興奮した。彼女が身につけている浴衣は、その平らな胸、くびれの少ない腰。未熟で、かつ完成された独特の魅力に溢れるその体躯は数々の男を魅了するに違いなかった。綺麗にまとめて結われて垂れ下がった髪の毛から垣間見えるうなじは男達にとって魔の領域だった。見つめられて恥ずかしそうに揺れる小さな身体からチラリと鎖骨がのぞけば、男達はなぜかいけないことをしている錯覚に陥った。


「私、要る子なの……? 必要としてくれるの……?」


 男達は強く首を縦に振った。


「ああ! 僕らとトップアイドルになるぞ!」


 こうして各地で集められた精鋭達がユニットを組んだ。プロジェクト名はウラメシヤガールズ。決して色褪せることのない青春の輝きは、数々の男共を虜にし、彼女たちは瞬く間に伝説となった。


 デビュー作の「のろっちゃうぞ☆KAERIMICHI」を始め、「君の後ろで らぶ♡ゴースト」等数々のヒット作を生み出した。


 また、異例の、視聴者が歌を作り、視聴者が振り付けを作るというプロジェクトも始まった。何せ彼女たちには多くの時間があった。それらは色褪せることのない幸せな時間だった。彼女たちは「全ての人を幸せにしたい」という願いの元、頂点に輝き続けた。その中で、満たされていったものたちは、成仏そつぎょうしていった。ファンはとても悲しがったが、彼女たちがくれた希望を胸に生き続けることができた。与えられたものは多かった。あとは自分が一人で頑張る番なのだ。何より去っていった子が幸せなら、それでよかった。やがて世界から憎しみが消え、争いが消えた。役目を果たしたように少女たちはまた一人、また一人と成仏そつぎょうしていった。


 不幸から生み出された少女達が幸せを届ける。そんな世界が幸せにならない方が嘘なのだ。


 人々は忘れない。伝説を。悲しい過去を背負った少女達がいたことを。


 今日もステージに声が響く。


「メンバーは1人になってしまいましたが、聴いてください。『good-bye, unhappy days』」


 今度は生きている人々に、幸せな日々を託して。

 なんて言いますか、ある意味でホラーとか、途中までホラーテイストというだけのお話だったので、ジャンルをどうしようか大変悩みました。もしお気になさる方がいらっしゃいましたら、遠慮なくお申し付けください。変更します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 純粋なホラーものだと思って読み進めてましたが、これはなかなかに良い裏切り方だと思います。私は面白かったです。 [気になる点] たぶんジャンルはホラーで大丈夫だと思います。後はタグで調節する…
2015/07/08 21:12 退会済み
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