偽りの気持ち
「なんだよ、それって……」
零亞が口止めされているという事実を知って、自分は動揺を隠せないままだった。
何せ零亞は正直な子だ。うんと頷いた以上、それが何より零亞の正直な答えだと自分は思った。
だが、仮にだ。
もし零亞か、はたまた自分の手違いで口止めなんて云うのは元々無かった、という風な間違いだったら勘違いにも甚だしい。
そもそも、自分は人を何かで疑うのは好きじゃない。が、さっきの零亞の反応からして【口止め】という事実を突き立てる。
「なぁ、零亞。 本当のこと教えてくれないか?」
不安を押しきって、どこまでが嘘か本当かの零亞の想いを聞きたくて自分は零亞の目を見つめた。
「……」
だが、零亞は目を自分に1度合わせ後に俯いた。
「……言っちゃいけない事は、言っちゃいけないから……」
零亞が微かな声でそう呟いた。
自分は何となく思ったのだが、口止めというよりかは、それとはまた別に何かを隠している様だった。
ただ、零亞が【何を何処まで隠していいの?】という風に、何処までが言う言わないのボーダーラインかを理解しきってないのだと思った。
自信が無いような声で話す零亞は、昨日の時点では見たことが無かった。
そもそも、零亞とはまだ会って1日と数時間程。零亞がどんな子なのかを自分は全部が全部知っているわけでは無いが、1つはっきりと言えるのは零亞は明るい子だということ。
無理にでも零亞に何かを隠させたりしない様なら、零亞がここまで深刻になるのもおかしい事じゃない。
それに、零亞はまだ幼い。
何が良くて、何が悪いかなんていう区別がつく最中、重い心の十字架か何かを背負わせているのというのは、零亞にとって耐えきれるものなのか。
不安げな零亞を見つめていて思うのは、自分が独りでに走った妄想、勝手な推測だったのかも知れない。
だが、どこか零亞に守ってあげたいという想いが急激に込み上げてきたのだ。
今まで自分の中では、零亞は単に親戚の子で、早いうちに両親の元へ返してあげようと思ってばかりいたが、今は違う。
必ずとは言い難いが、零亞とその両親の間のトラブルに積極的になって絡まった糸をほどいてやろうという想いの方が大きい。
それに加えて、零亞を守ること。それが今の自分の中で一番に解決しなければならないことだと感じている。
「零亞……」
俯いたままの零亞に、自分はソッと話し掛ける。
「自分は……鈍感で、気付いてやれない事も多いかも知れないけど……」
どこか感情的になった自分は、無理にでも零亞の目線に入る様な姿勢になった後、素直な気持ちを零亞に告白した。
「どんなことでも、頼ってくれて良いから!!」
その時、零亞は驚いたのか、目を見開いていた。
「何があっても、絶対に! お兄ちゃんが守ってやるから!!」
気付けば自分は零亞を抱き締めていた。
台所の前でただ立ち尽くしたままの零亞を、両手で覆うようにして。
「お兄ちゃん……?」
僅かに慌てる零亞をお構い無しに抱き締めていると、そのうち大人しくなってから、小さな手が自分の背中をギュッと掴んできたのが分かった。
その時、耳の横で啜り泣きの声が漏れているのが分かった。