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慰め

自分は夜中に目が覚めた。

ジャバジャバと、何か水が跳ねる様な音がした。


眠気を押し退け、シパシパのまぶたを持ち上げて周りを見回してみると、寝る前まで自分の横で寝ていたはずの零亞の姿が無く、掛け布団が無造作に散らかっている光景が目に入った。

不思議に思った自分は携帯の明かりを点けて部屋を見てみるが、やはり零亞の姿は見当たらなかった。


「……トイレ……か……?」


幾つか家のなかで零亞が行きそうな場所を探したが、そのなかでふと頭に過った場所がトイレだった。

だが仮にそうだったとしても、疑問が一つ浮かんだ。


この実家は夜になると、部屋と部屋を繋ぐ廊下はとても暗くなる。電気を点ける為のスイッチも大人でいう肩の高さにあるので、零亞のような小さい子供がスイッチを押す事は出来ない。


何故こんな事を思うのかというと、自分も小さかった子供の頃、実家の廊下は凄く怖かった。もしかしたら零亞は小さい頃の自分と一緒で「廊下は怖くて一人でトイレに行けない」のかと思ったが、零亞が部屋にいない時点でトイレに行っていない説は潰えた。

因みに幼少の頃の自分が女の子である零亞以下のビビりだということが分かった。



とにもかくにもトイレに行ってみると、そこには誰も居なかった。

一応、トイレの横にある風呂も見てみたが、案の定零亞の姿は見当たらなかった。


「零亞、どこに行った……」


すると、またさっき目覚めた水の音が台所の辺りから聞こえてきた。

あそこに零亞が居るなとホッとしながら台所に向かう。そして台所の部屋から明かりが漏れていた。


「零亞ーいるの……うおっ!」


一番に自分の目に飛び込んで来たのは椅子の上でバスタオルを全身に巻き付けた零亞の姿だった。台所のシンクの近くに椅子を置いて、その椅子の上に零亞が乗っかっている形だった。


ついで奥に目をやると、シンクで何かを洗っていた。シンクの中には零亞が穿いていた寝間着とパンツだった。


「……おにい、ちゃ……」


零亞がこちらを振り向きながら、顔を真っ赤にして細い声でそう言った。


「なにしてんだ零亞?」


「これ、これは! 違う! なんにもない!」


目が泳いだままで少しうつむき気味の零亞は、下唇をギュッと噛んだまま動かなかった。


そして何となくだが、状況が理解できた。

多分お漏らしだろうと思った。夜中にひっそりと台所に行って、寝間着やパンツを洗っているなんて、大体そうじゃないかと推測出来た。


「……起こしてくれても良かったのに」


そう零亞に言ってから、ぐっしょりと濡れた寝間着を洗った。


自分が寝間着を洗っている間、零亞はずっと申し訳なさそうにもじもじしていた。それと、わざわざ見たわけではないが、零亞は静かにすすり泣いていた。それに、息が粗かったから何となくそう思ったのだ。


「泣かなくて良いよ、零亞。零亞はなんにも悪いことしてないから」


寝間着を洗いながらそう言った。


「でも、零亞……悪いことしたもん……」


「そんなもん、これくらい何て事ないし、迷惑でもなんでもないよ」



「零亞が勝手にここに来たことも?」


ピタっと寝間着を洗う手が止まった。

蛇口から出る水の音だけが響く。


「迷惑だよね……零亞って……」


「れ……零亞?」


今まで暗い話題を話した事のない零亞が自分からそういった話題を出してくることに自分は唖然としていた。


「……ごめんなさい……なんにもない……」


「え、なんにもないって、気になるだろ!?」


「ううん……本当に何にもないよ! あ、ほら、零亞も手伝うから!」


その時、零亞に理由を聞き出そうとしたが、必死に零亞が自分の手を持って寝間着の洗濯を手伝ってきたので、聞き出すのはやめにした。

よく分からないが、よっぽど触れられたくない話なのかも知れないと思ったし、あまり掘り下げてはいけない様な気がした。


「でも、取り合えず言っておくけど、困ってる事とか心配な事とかなんかは何でも聞いても良いからな?」


まだ零亞と出会って丸一日しか経ってないが、いまだに何故零亞が自分のアパートに来たのか分からない。知り合いの子が迷子になっていたというだけだと初めは思っていたが、わざわざ自分のアパートを選んで来たのには何かしらの訳があると思えば思うほど、自然と不安になってくる。


ただ、今すべきは零亞の保護だ。

余計な事を考えてる暇があるなら早いとこ、手紙が送られてきた以降、音沙汰の無い零亞の親に連絡を取って零亞を帰してやりたい。何より、零亞自身もそれが本望だと思うし。


「うん……ありがと」


洗濯をする自分の腕の中で、零亞は小さな笑顔で返事を返した。

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