お買い物
「で、でかい……大きい……」
眉間にシワを寄せてポカリと口を開けた零亞が見つめる先は、このショッピングモール内最大の規模を持つ服店だ。全国的に有名な洋服店で、最近漸く自分が住む地域にも出来た新しい店だ。子供服からお洒落な大人服まで色や柄も多く取り揃えてある。余談だが、実は自分もちゃっかりここで欲しい服があったりする。
「えっと、まずは零亞の……下着から……だな」
……いや、自分は変態なんかではない。
ただ女の子の下着を買いに……違う、この言い方では只の変質者だ。知り合い……子供の……違う違う。昨日夜中に出会った迷子の女の子の下着を買いに……結局同じだった。
零亞の手を繋ぎながら下着コーナーへ向かう。
あたかも零亞の兄の様に振る舞いながら。
「零亞、早く選んで好きなやつ、この買い物カゴに入れな」
パタパタと走って行き、自分の下着をゆっくり見て回る零亞。
ーー早く選んでくれ! 零亞がそうこうしている間に自分は周りの女性客から痛い目で見られているんだ! 数万円の下着でも何でも良いから早くしてくれぇ!!
左右をカラフルな色の下着コーナーに囲まれて、目の先で何故かゆっくりと下着を選ぶ零亞を見守っている間、物凄く時間が長く感じた。
「これ!」
零亞が買い物カゴに真っ白の下着を入れたのを確認した自分は、零亞の手を引いて一目散に子供服コーナーへと駆けた……逃げた。
「なんで疲れてるんだ自分は……まぁいい。次は、洋服か。さっきよりはゆっくり選んで良いからな」
激しい運動をした訳でもないのに疲れきった自分が零亞にそう言うと、零亞はまたゆっくりと吟味し始めた。
零亞は目についた服を手に取って、合わないと感じた物は綺麗に畳んで棚に戻す。
(自分の部屋の服の扱いとは大違いだ)
そして、なんとなく零亞を見ていて、不思議な事に気付いた。
さっきの白色の下着を除いて、零亞が選ぶ上に着る服の色が全部黒だということだ。シャツやズボンは全部が黒で統一されていた。ただ単に零亞が黒が好きというのならたいして気にならないが、零亞は黒の服以外見ていない。悪く言うと、黒の服以外関心を持っていない風な感じがした。
「零亞、黒色好きなの?」
「うぅん。黒しか零亞には似合わないんだって」
服を手に取って吟味しながら答える零亞。
頭の中が疑問でいっぱいになる自分。
「に、似合わないって……誰に言われたんだ? ……んな事……」
「ママ」
ーー……ママに……? いや、あんまりよく分からないんだけど、悪く言うと零亞のママさんは……ファッション、とかにあまり関心が無かったのか?
なんだか引っ掛かる内容だったが、自分は大して深く気にしなかった。
「別に、零亞は黒以外着ちゃダメっていうのは無いんだから、似合う似合わない関係無く選んで良いんだぞ。そもそも自分の金だしな。何選んでくれたって構わねぇ」
買い物カゴに入れてある黒の服を眺めながら零亞に言ったが、零亞は目の前の服に取り付かれて聞いてなかった。
自分の話を聞いてくれていたのか、最終的に零亞が選んだ服は、ピンクと白のカラフルでお洒落な洋服だった。ズボンは黒色の様だったが。
ある程度零亞の衣服や下着を買うと、「零亞の用事で来たのに?」と面倒臭がる零亞に対してどうにか説得し、自分の服 (家の部屋着)を探した。自分が服を選んでいる間、零亞はハンガーに吊らされている服の下に潜ったり隠れたり、回転式の陳列棚をグルグル回したり零亞自身も一緒に回ったり、変な暇潰しをしていた。やはり子供は無邪気だ。
会計時、パン屋の時と同様に、また自分の脚に両手を使って取り付いていた。
何が恥ずかしいんだろう。店員さん? それとも、レジが怖いのだろうか? ちょっと分からない。
夕日の眩しい帰り道、河川に沿って零亞を自転車の後ろに乗せて走っていた。
「いっぱい、買ったね」
自分の左手には今晩の弁当や飲み物が大量に。
前のかごには自分と零亞の服が山積みになっている。
そして零亞は、優雅に自転車の後ろで小さいチョコのお菓子を食べていた。
「まったく大出費だよ。まぁ、今こうして零亞が大人しく座ってくれてるだけ、まだマシか……」
「だいしゅっぴって?」
「財布からいっぱいお金が無くなる事……かな」
「大変だね」
「他人事みたいに言うな……」
特にそれ以上は何も話さず、零亞は鼻歌混じりで夕日の河川の景色を眺めていた。
話の途中で出てくる
ーー
という傍線二本は、主人公の頭の中です。
主人公が何を考えているのかは、こうして表現していきたいと思ってます。




