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珍しい名前

ここは自分のアパートの近所のショッピングモール。

そのショッピングモールの中にある小洒落たパン屋に自分達は足を運んだ。

何故パン屋なのかと言うと、朝早くなのだから仕方の無いことなのだが、零亞の服を買おうとしていた服屋がまだ開店していなかったのだ。


それと、少々……いや、色々危険だが、零亞にはパーカーのみで外出する事になった。要するにパーカーの下は裸である。仕方がない。少女用の服や下着が無いのだ。まぁ、零亞が平然を装ってくれる事を願う。

ただ、いくらパーカーで視線をガードしたとしても零亞はサラッサラの白髪だ。何もしていなくても目立ってしまっているのが少し恐ろしい。



「パンなんか食うの久し振りだなー。自分いつもカップ麺ばっかだったし」


そんな独り言を垂れながら、まずは零亞と朝食をとる事にした。

こじんまりとした店内には色々なパンが置いてある。棚に陳列されたパンはどれも美味しそうで、独特の薫りを放っている。

自分はトレーにパンを乗せていく。少女も美味しそうにパンを見つめていたが、「これが良い」と、パンをせがむ様子は無かった。


「どれ食っても良いからな。好きなの選んで」


自分はそう零亞に話し掛ける。

しかし、零亞はパンを見つめたまま、小さく呟いた。


「……お腹、空いてない……」


小さい溜め息を吐き、昨日の様に、腰をを降ろして零亞に話し掛ける。


「ちょっとでも食いな。朝抜くと、体に悪いから」


そう言ってやると渋々零亞が指差したのは、可愛い感じの袋に包装してあった甘そうな小さいクロワッサン (3個入り)だった。

レジでの会計の間、零亞はずっと自分の足下にいた。自分の部屋にいる時とはまた違う、モジモジとした様子だった。


会計後、パン屋のすぐそこに隣接してあったテラスへ移動した。

案外、土曜の朝であってもテラスを利用している人は多かった。世間では夏休みだからか? その為か、零亞は少し気恥ずかしそうだ。人見知りなのだろうか。そして自分は席に着くやいなや飲み物が無いことに気付いた。


「あ、そうだ。飲み物、何が良い? 牛乳とか?」


「……お水で良いよ」


「……え、水!?」そう思わず声を出しかけたが、零亞は至って普通な様子。

牛乳やオレンジジュースなんて物もあるぞと説明してやると、渋々牛乳を選択した様子だった。


コーヒーと牛乳を購入しようとレジで並んでいる間、零亞のいるテラスが見える店の大きい窓ガラスから零亞を眺めていた。

ブッカブカなパーカーという、変な格好で少し周りからは浮いていた。長髪の白髪というのもあるのだろうけど。一人ぼっちの時の零亞はとても内気で、下を見つめて椅子に座ったまま両足をブラブラさせていて、何だか少し寂しそうだった。

途中、零亞がくしゃみをした。

当然、周りの客が零亞の事を見る訳だが、見られた本人は凄く顔が赤くなっていた。

どれほどシャイなんだと、遠くから自分は仄かな笑みを浮かべていた。それを前に並んでいたオバサンに見られた。自分の頬が熱くなるのを感じた。


「ほい、食べよ!」


テーブルの上に紙パックの牛乳を置いてやると零亞は嬉しそうに、笑顔を浮かべて牛乳を受け取った。


久しぶりに温かいパンを頬張る自分。

ネコみたいな小さい口でクロワッサンを上品に、一口サイズにちぎってから頬張る零亞。お行儀良いな、と自分は思った。


「あ、そだ、自己紹介まだだったよな。 自分の名前は黒型(くろかた) 大一(だいいち)っていうんだ。 宜しくな」


パンを口に含んだまま自分の目を見つめていた零亞。

口に含んでいた食べ物を飲み込むと、零亞は言った。


「だいいち、おにい……ちゃん……」


正直痺れた。

お互いに名字で呼び会うのも変だし。まだ下の名前で呼ばれた方が周りからみても自然だ。


「そう、大一。 ……やっぱり、零亞って名前……なんか珍しいな」


特に理由は無いが、何となく零亞にそう聞いてみた。


「私、零亞(れあ)っていうの。 珍しい?」


「まぁ、少なくとも今時の子の名前にはいなさそうな名前だもんな」


そんな他愛も無い話をしながらパンを食べていたが、ここで自分は気になることを零亞に聞いた


「ママやパパって、どんな風な人?」


ママとパパ、という単語を聴いた瞬間、零亞が異様に反応を示した。目が泳いでいて、まるで焦点が合っていない様な。それに、さっきまでブラブラと振っていた零亞の両足がピタリと止まった。

早く両親に会いたいのだろうか。そんな風に自分は思った。


「早く、会いたい?」


正直自分は零亞に何を聞いてるんだと思った。

零亞を両親の元に返そうとしているのに。


「……」


クロワッサンを見つめながら零亞は黙っていた。


「ママやパパとは、何処ではぐれたか分かるか?」


何故か話さない零亞。

もしかして、自分は色々と掘り下げ過ぎてはいないのだろうかと感じ始めた。

零亞自身も親と離ればなれになったのは痛いほど分かっているだろうし、勿論親が何処に居るなんてのはわかってなどいない筈だ。


「まぁ、今は細かいこと話さなくて良いかもな。このあとパン喰って服買いに行ったら、零亞の事を詳しく調べたいから、一度自分の実家に行くぞ」


「……じっ……?」


「そう。まぁ、零亞みたいな関係ない子が行くとこでもないけどな」


クロワッサンを食べ進めながら話を聞く零亞。

というか零亞の食べているクロワッサンはまだ三個中の一個目だった。喰うのが遅い。零亞の新たな発見だった。

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