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出合い

深夜、机に頬杖を突きながらパソコンを見ていた。

見つめる先にあるのはネット掲示板。自分が働くバイト先の後輩から教えてもらったこのサイト。なかなか面白い話もあったり、脳裏に焼き付く様な怖い話まで、見てて飽きない。


ある程度話を読んだ自分は椅子の背もたれに仰け反り、項垂れる。


「眠い……」


椅子にもたれたままの格好で反転した視界のまま壁に取り付けてある時計に目をやる。時刻は夜中の3時を過ぎていた。

だらだらと脱力した身体と共に、声にならない様な声でただ呟く。


「明日から5連休か。どうせすることないし、積みプラの消化かオンラインゲームだろうなぁ……」



特に意味も無く部屋を見渡す。

夏の終わり。部屋の網戸を全開にし、羽の部分をガムテープで何度も補強した扇風機の音が無機質に音を立てて部屋に響いている。

ここは自分の部屋。おんぼろアパートのとある1部屋だ。

高校を卒業した自分は教育を終えた暁と評して親から家を追い出され、バイトでなんとなく生計を立てている半ニートだ。

今の自分は、正直言って何の為に生きてるのか分からない。


中学・高校の頃は恋もした。

ただ、それもほんの少しの間だけだった。

自分みたいな飽き性・三日坊主な男に興味なんて持つ訳ないだろう。おまけに変にマイペースで、金使いも荒い。自分でもどうやったらこんなひねくれた性格になるのか分からないから、もう笑える。


そんな自分の名前は、(たちばな)大一(だいいち)。20歳。趣味はもっぱらインドアなものが多い。

このアパートは実家から小一時間の場所、大きい河川の横手にある古いアパートでその2階に自分の部屋はある。部屋の壁は薄く、隣に住んでる住人のテレビの音が微かながら聞こえるような、そんなボロいアパートだ。


重い頭を起こす。

立ち眩みが自分を襲った。

ポーっと放心状態になった後に、なんとなく呟く。


「……寝よ……」


先ほど見ていた掲示板を閉じてからパソコンをシャットダウンし、洗面所に向かう。

歯を磨き終わり洗顔に移る。顔を洗い終わり、タオルを手にして顔を拭く。

鏡に目をやったその瞬間。


バンッバンッバン


音の出所は玄関だった。

顔を拭いていたタオルを頬に押し当てたまま「こんな夜中に誰なんだ」と、そんな風に思った。


バンバンバンバン……


また玄関を叩く音が聞こえた。


少々怯えながら早歩きで玄関に向かう。

唐突にドアを開けそうになったが気付けば夜も夜。変な奴だったら……と思った自分は一度冷静になり、ソッと覗き穴で外を視る。玄関の手前近くに黒い何かが突っ立っていた。一瞬驚いたが不思議になって目を凝らすと、それは人だった。


それは幼い子供だった。

小さい身体に見合わないダボダボの黒いパーカーを全身に身を包み、床に向かって虚ろな雰囲気で俯いていた。


そんな光景を目の当たりにして自分は呆気に取られていた。


ーー何故、こんな子がこんな時間に外にいるのか


それを頭の中で理解するのに頭が一杯になっていた。

兎に角玄関を開ける事にした。


「おい、大丈夫か? こんな場所で何してる?」


自分はそう言ったが、子供の反応は無かった。

子供の視線に入ろうと自分は膝を下ろして姿勢を低くした。

ここでまた自分はあることに気付く。翌々考えてみても、まずこんな時間に子供が此処に居るという事で、少しおかしいなと思ったのだが、姿勢を下ろして更に分かった。


靴を履いていなかった。

外が暗くて分からなかったが、段々と目が慣れ始め、自分の部屋の明かりで漸く見えた。両足とも靴を履いていないし、土や泥やらで茶色くなっている。それに、足の爪はあちらこちら小さく欠けていた。


何かが自分の胸を締め付けた。

何が自分をそうさせたかは分からない。ただ、自分の爪が掌に食い込む程握っていた拳が、訳もなく震えていた。


「……けて……」


そんな時、子供が何か呟いた。

しかし、初めてその子が発した言葉は、まるで古いラジオの様に渇れた声をしていた。


少女はフラフラとおぼつかない足で、こちらに向かってきた。

そして気を失ったかの様に、フラッと自分の膝に乗っかってきた。


「お、おい……」


その子は微かに息をしていた。

それに、体は汗でグッショリと濡れていた。

仕方ない。こんな夏の熱帯夜だ。汗ぐらい掻く。


「なぁ、おい。 大丈夫?」


「……」


返事が無い。

自分は心配になって、子供が羽織っていたパーカーのフードを自分は取った。


そこでまた自分は驚いた。

フードを取ると、それは腰辺りまで伸ばしたサラサラと長い白い髪だった。

顔を覗くと、幼い顔立ちをした夏の季節には珍しい雪の様に白い肌の少女だった

しかし、顔には無数の細かい切り傷があった。そして顔の所々には、土や何やらで汚れている。


気付けば少女は膝の上でぐったりと気を失ったかの様に眠ってしまっていた。


「……」


急な少女の訪問で少しパニックになっていた自分だが、夜中の睡魔のせいで冷静な判断が付きにくいなかとりあえず誰かに連絡するには携帯が必要だと思った。

携帯は寝る用意をしていたベッドの横の棚の上にある。


外に寝かせておくのもどうかと思って、少女を背中でおぶってから部屋に入り、扇風機で多少涼しいソファに横になって寝かせてから少女に毛布を一枚掛けておいた。


時刻は3時を過ぎていた。

睡魔のなか、携帯から掛けた警察へのコールの音が妙に遠ざかっていった。

※誤解を招いてはいけないと思うので取り合えず言っておきます



何の気なしに少女を自分の部屋に入れてる描写がありますが、1話の終わり辺りで主人公は「助けなきゃ」と思っています。


外は夏といえども冷えますし、それを加味した上で守ろうという判断のなかで主人公は行動しています。主人公がただの悪い人というわけではありません。



そういった点をおさえて今後の話を見て下されば幸いです。。。

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