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有名になりたい男

作者: 豚猫まん

 男は大手動画投稿サイトを閲覧していた。観ているのはグロテスクな衝撃動画や神技スーパープレイ集などだ。他人に対し、何一つ誇れるものを持たない男にとって、こういったスターの様な人物は憧れの的である。自分も有名になりたい!有名になって賞賛を浴びたい!男はなんとか自分が有名になる方法を考えた。だが、いくら考えても良い案は浮かばない。これらの動画の主みたいに何かの才能があれば良いのだが、自分には特技も何もない。何か特別な事をしなくても有名になる方法を考えなくては。彼は脳味噌がメルトダウンするほど考えていた。


 数十分後、駅周辺を散歩している男の姿があった。特に何をしに行く訳ではなかった。有名になる良い案は浮かばなかった。そんな事を考えるより喫茶店でカフェオレでも飲みながら優雅なティーテイムを過ごしたい。男は比較的冷静だった。この時までは。

 歩いていく内に妙な歌声を耳にする。声の主は、駅周辺の場所を借りて歌う駆け出しのミュージシャンだった。何となくその歌声に耳を傾ける男。その時、何を感じたのか彼の脳内にイナズマが走った。閃いた。素早く走り出し、駅で最も通行人の多い通りに向かった。

 駅近くのスクランブル交差点。その中央に男は立っていた。これから何かする。そんな雰囲気を醸し出していた男は早速注目の的になる。


 「皆さん、観て下さい!!!」


 そう叫んで尻を丸出しにする男!そこから放たれる茶色い汚物!ブッ、ブチャ!ブリュブリュブリュブリュブリュユウウゥウウ!!

 周りは騒然としていた。いきなり交差点の中央で大量のウンコをしている男。ボケ老人と呼ぶほどの年齢にも見えない。何か重い障害を抱えているのではないか。人々はそう思いながらも、ケータイを片手にパシャパシャと写真を撮っていた。

 男は途方もない快感に酔いしれていた。みんなが自分を見ている!みんなが自分の写真を撮っている!私はスター!スターは勝ち誇った表情で駅を後にした。


 自宅に帰り早速大手動画投稿サイトをチェックする男。サイトには○○駅で野糞をする男というタイトルの動画がアップロードされていた。再生数は10万を超えている。男が待ち望んだ光景がそこにあった。10万を超える人間が自分の雄姿を目にしている。コメント欄は見るに堪えない暴言が多数書き込まれていたが、そのマイナスイメージでさえも自分が有名になった証だと捉えていた。

 だが、その動画には決定的な欠陥があった。それは男の顔にモザイク処理がされているというもの。プライバシーを考慮してそういった処理がされているのだろう。だが、自分の姿を不特定多数の人間にさらけ出したい男にとって、そんな事余計な事でしかなかった。男に次第に怒りの感情がこみ上がってくる。何故こんな馬鹿な事をしたんだ。100歩譲ってウンコにモザイクを掛けるのは良い。だが何故私の顔にまでこんな余計なモザイクまでかけたりする。これではこの人間が誰だかわからないではないか。極度のストレスに襲われる男。それに耐え切れずその場で下痢便を垂れ流した。


 翌日、憔悴しきった表情で朝を迎える男の姿があった。頬は痩け、目の下には大きなクマが浮き出ている。

 結局、何をやっても自分がスターになる事など出来るはずが無いのだ。どうしてあんな馬鹿な事をしてしまったんだ。あんな人の多い場所で糞を垂れ流すなんてどうかしていた。私は馬鹿だ。なんであんな事をしてしまったのだ。あそこであのミュージシャンの歌を聴かなければこんな馬鹿な事はしなかった。あのミュージシャンの歌さえ聴かなければ。あのミュージシャンさえいなければ。憎い!あのミュージシャンが憎い!私をこんな目に遭わせておいておいてのんきに歌など歌っているあのミュージシャンが憎い!!


 その後数日間、一日中駅の近くを徘徊する異様な男の姿が目撃されるようになった。右手には金槌、左手には包丁が握られている。ぐるぐると同じルートを徘徊する顔色の悪い男は、いつの間にかゾンビというあだ名が付けられ、駅を利用する人々の間ではちょっとした有名人となっていた。自分を奇行へ走らせたミュージシャンへの復讐心のみで駅周辺を歩き続ける男。自分が不審者として有名になっていようがそんな事どうでもよかった。今は有名になんかなりたくもない。私の人生を狂わせた糞ミュージシャンへの復讐の為に私は今生きているのだ。

 

 トイレにも行かず、糞を垂れ流しながら駅周辺をうろつく男。すると、どこからか下手糞な汚い歌声が聞こえてきた。間違いない、あのミュージシャンだ。武者震いしてきた。これからあいつを殺すんだ。うきうきが止まらない。男は全速力でミュージシャンに向かって走った。


 異変を察知したミュージシャン。よだれ・小便・大便を垂れ流しながら自分の方に突っ込んでくる不審者!その両手には凶器!!臨戦体制を取ろうとしたところ、阿修羅の様な表情をした不審者の叫び声が響いた。


 「おめえええええええええ!!!!!!!!!!おめぇえのせいだあああああああああ!!!!!!!!!殺すううぅぅぅううううううううう!!!!!!」


 不審者は右手の金槌を自分の頭部に向けて振り下ろす!ミュージシャンは自らのギターを犠牲にしてこの攻撃を防いだ。不審者は素早く体制を立て直し左手に持つ包丁の乱れ突きを繰り出す!避けきれない!ミュージシャンは包丁の連続攻撃を次々と身体に喰らっていた。


 「ぶおおおおおおおおおおお!!!!!!!がぅおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 ゲロを吐きながら苦しむミュージシャン!うずくまったミュージシャンの頭部に向かって振り下ろされる金槌!!これも避けきれない!金槌が頭部に直撃したミュージシャンは大量のゲロ・小便・大便を吹き出し、絶命した。


 勝った!私は勝った!私の人生を狂わせたこの憎き糞ミュージシャンに勝った!頭の中でファンファーレが流れる。復讐は成功した!


 仇を討ち、幸せいっぱいのまま男は帰宅した。いつものように大手動画投稿サイトを閲覧する。すると何やら不審な動画がアップされている。○○駅の不審者に殺されるミュージシャンというタイトルだ。R18指定になっている。早速動画を再生した。

 すると出てきたのは先程殺したチンケなミュージシャン。汚い面で汚い歌を歌っている。公害であろう。それに向かって勇壮に走っていく素敵な男。素敵な男はミュージシャンの下品なギターを金槌で破壊したあと、華麗な手さばきで包丁攻撃を繰り出す!全てクリーンヒットする!汚い男は汚い顔を歪ませ、ゲロを吐きながら苦痛にのたうちまわっていた。その脳タリンな頭に繰り出される必殺の一撃!戦慄の金槌攻撃!ミュージシャンは攻撃をくらい、糞を垂れ流しながらボロ雑巾のように死んだ。そこで動画は終わっている。


 モザイク処理もなく音声も加工されていない、流血描写も酷い、いわば衝撃動画であった。これは素晴らしい。私の素晴らしい活躍を存分に伝えられる最高の動画ではないか。男は先程の自分の雄姿を思い出し、悦に入っている。この動画は世界中に公開されている。世界中の人間が私の素晴らしさを知ることが出来る。男は興奮し、ウンコを漏らした。途方もない快感が彼を襲う。


 その後、男は次々と衝撃動画を生み出し続け、ネットでは知らない者のいないカリスマ衝撃動画配信者となるのだった。



   完 



 

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