初めての街!バイト編
さて、魔王城に勇者達が乗り込んでいた頃、グレア達はようやく街に着いていた。
「さて………金がない訳だが、どこで働く?」
「う〜ん………あっ!あそこにある武器屋さんはどうかな!」
近くにある武器屋を指差すイーレ。
とりあえず行ってみる事にした。
「すみませーん」
「おう嬢ちゃん!武器を買いにきたのか?」
イーレが武器屋に入ると、恰幅のよい店主が出迎えてきた。
「いえ、私達今お金が無いので、どこか働かせてもらえる所を探しているのですが……」
「ん〜?」
武器屋の店主は、まるで品定めでもしているかのように俺とイーレを見比べた。
「……よし、お嬢ちゃんウチで働かないか?かわいいから給料サービスするよ…ウヘヘヘヘ」
武器屋の店主は下心みえみえの笑みを浮かべた。
これはキモい!
これはキモい!!
「……イーレ!ここで働かせてもらったらどうだ?セクハラされた時凶器には困らないぞ!なんたって武器屋だしな!」
「そうだね!剣に斧、槍にモーニングスター、どの武器もすごく攻撃力が高そうだよ!どの武器を使おうかなあ……」
「あの斬馬刀はどうだ?馬だって一刀両断できるぞ?」
「わあ!大きな刀!どんな敵でもイチコロだね!」
「そう、どんな敵でもな…」
俺は武器屋の店主を見た。
イーレも店主を見た。
店主は冷や汗をかいている。
「ひい〜すいません!命だけはお助けを〜!」
店主は店に逃げ込んでしまった。
「……さて、他の店を探すか」
「そだね」
そうして俺達は街中の店を訪ねた。
「………いい所見つからないね…」
「……ああ、就職って難しいのだな…… 」
正確には就職ではなくバイト探しなのだが……。
俺達は仕事探しに疲れて休んでいた。
時刻はもう夕方で、辺りはうっすらと暗くなってきている。
「ん?あれは……」
俺は、近くにあった一軒の酒場が目に止まった。
中は大勢の冒険者達で混雑していて、いかにも忙しそうである。
「イーレ、あの酒場はどうだ?」
「……ZZZ……もう食べられないよ〜……」
「って寝てんじゃねぇ!」
……なんてベタな寝言だ…。
「……おい、起きろ」
「ふえ!?」
俺が起こすと、イーレはなぜかすごい勢いで立ち上がり周りを見渡した。
「…あれ?グレア…?さっきまで緑色だったはずなのに…」
「どんな夢だ!寝ぼけてないでさっさとあの店に行くぞ!」
「は〜い」
「……こんばんは」
俺達は混雑した酒場に入ると、客達にぶつかりながらも何とか店の奥に行く事ができた。
店の奥のカウンターでは店主らしきオヤジが忙しそうに客に酒や料理を出している。
「何だボウズ!客か?」
俺達に気付いた店主が尋ねてきた。
「……いや、俺達は客ではない」
そう言って俺は店主に事情を説明した。
「……つまり、俺達をあんたの店で働かせて欲しいのだが……」
「何だ、それなら大歓迎だ!見ての通りウチは人手が足りなくてな!」
そう言うと店主は俺達を店の奥に入れてくれた。
「とりあえず嬢ちゃんは注文の品を運んでくれ」
「は〜い」
「ボウズは俺の料理を手伝ってくれ」
「…わかった」
店主から仕事の内容が伝えられる。
こうして俺達のバイトが始まった。
「おーいねーちゃん!酒足りねーぞ!」
「は〜い、今用意します!」
「ちょっと!料理はまだなの?早くしてちょうだい!」
「……くっそー!なぜ俺がこんな目に!俺は魔王になる男だぞ!」
「ボウズ!ブツブツ言ってねえで仕事しろ!」
酒場の仕事は恐ろしく忙しかった。
酒場から溢れるほどの客はほとんどが冒険者で、よく食いよく飲む。
なぜこんなにも混雑しているのかというと、近くにこの辺りでは見かけない魔物が出たので、倒してやろうと冒険者達がこの街に集まって来たかららしい…。
噂ではとても珍しい宝を持っているとかいないとか……。
「グレア!とても珍しい宝だって!どんな魔物なんだろう?」
もぐもぐ
「ああ、次はそこに行ってみるか……ってオイ!客の料理を勝手に食うな!」
「ガハハハハ!面白いねーちゃんだな!ホラこれも食え!」
「わーい!ありがとう!」
酔っ払った客となぜか打ち解けてるイーレ。
恐るべしアルコールパワー!
「いや〜助かった!」
店主のオヤジは疲れた顔に笑みを浮かべた。
俺達もすでにクタクタである。
冒険者達は夜遅くなってもなかなか帰ってくれず、酒場が空になったのは深夜になってからであった。
「ホラ給料だ!よく働いてくれたからサービスしておいたぞ!」
『ありがとうございます。』
俺達は店主から給料を受け取ると、酒場を出た。
「疲れたよ〜、宿屋に行こうよ〜」
「野宿でいいだろ」
「え〜!せっかくお金もらったのに〜!」
不満そうなイーレ。
「だからだろ、また金が無くなったらどうするんだ?」
「……わかった、ガマンする……」
どうやら諦めたようだ。
さすがにまた働くハメになるのは嫌らしい。
こうして俺達は一旦街を出て野宿を始めた。
「ZZZ……久しぶりにベッドで寝たかったよう……ぐ〜」
「………」
俺は寝言でも文句を言われるハメになった………。




