魔王城より中継です。
「魔王め!覚悟しろ!」
入口の扉を剣で切り裂き、勇者達が魔王城に乗り込んできた。
勇者達は三人組で、先頭から戦士、魔法使い、僧侶の順番で一直線に魔王のいる玉座の間に向かっている。
どの顔もまだ若いが、全員すでに一人前の顔である。
これまでに相当の数の戦闘と試練を乗り越えてきたのだろう。
魔王城に乗り込んでいるというのに、その表情には怯えがない。
バンッ!
勇者達が玉座の間の扉を勢いよく開けると、そこには彼らの最後にして最強の敵、魔王グラムがいた。
「魔王!お前の支配も今日で終わりだ!」
場の空気は極度まで張り詰めている。
戦士が剣を抜き、魔法使いは魔導書を開き、僧侶は杖をかまえた。
世界の命運をかけた戦いが、今まさに始まろうとしていた…………
………が、
「…………はぁ………グレアはワシの事が嫌いになったのかなぁ…………あぁ………死にたい………」
肝心の魔王のテンションが、どん底まで低かったのだった………。
「ねえ、なんだか魔王の様子がおかしいわ」
勇者達の一人、魔法使いらしき女が、そっと戦士に相談した。
「なんだかスキだらけだから、今の内にサクッと殺っちゃおうか?」
僧侶が戦士にとんでもない事をサラリと提案した。
………こいつ本当に僧侶か?
「いや、我々は誇り高き勇者だ!そんな卑怯なまねは絶対にできん!」
どうやら戦士は熱い人らしい。
それに彼らのリーダーのようだ。
「邪悪な魔王よ!破壊と混沌を何よりも望むお前が、一体どうしたというのだ!話だけなら聞いてやろう!」
勇者達の代表として戦士がグラムに尋ねた。
「………ワシが望むのは家族全員が元気で仲良く暮らす事だけだ………」
……ずいぶんと家族愛に満ち溢れた、平和的思考の魔王である…。
「勇者達よ……ワシの話を聞いてくれないか……」
魔王はポツポツと勇者達に話し始めた。
……なんだかすごい光景である。
「………という事で、ワシのかわいいグレアが家出してしまったのだ……もうワシはどうすればいいのだ………」
「………なるほど、それは大変だな!人生そんな事もある!元気だせ!」
「……うう、ありがとう、ありがとう」
優しく魔王の肩を叩く戦士。
「……何で打ち解けてるわけ?」
「……さあ?」
その後ろでは魔法使いと僧侶があきれ顔で立っていた。
「ありがとう戦士よ、お前とは出来れば違う形で会いたかったぞ!」
「ああ……俺もだ魔王!もし出会えた場所が違ったなら俺達いい友になれたかもしれないな!」
熱い抱擁を交わす魔王と戦士。
「……何やってんだろ……二人とも……」僧侶が男の友情で結ばれつつある二人を冷めた目で見つめていた……。
「しかし!我々は敵同士!所詮は戦って憎みあう運命なのだ!」
「ああ、悲しいがこれも運命!魔王よ!いざ勝負!」
『えっ!?このタイミングで戦うの?』
ノリノリの二人に完全に乗り遅れた魔法使いと僧侶であった……。
「ふっ、その程度の力ではまだワシを倒す事はできん!」
グラムの目の前には、力尽きた勇者達が倒れていた。殺してはいないが、もはや指一本動かせないだろう。
ピロピロピロ!
グラムは勇者達に近付くと呪文を唱えた。
すると、勇者達の身に付けていた武器や防具が全て外れ、勇者達は光に包まれて消えてしまった。
別に殺した訳ではない。勇者達の今までの記憶を奪い、魔王城から遠く離れた所にワープさせたのだ。
彼らは自分達が勇者であった事すら忘れているだろう…。
「……グレア、お前は今どこにいるのだ………」
一人になった魔王は、ポツリと独り言をもらすのだった……。
さて、そのころグレア達は……。
「おーいねーちゃん!酒足りねーぞ!」
「はーい、今用意します!」
「ちょっと!料理はまだなの?早くしてちょうだい!」
「……くっそー!なぜ俺がこんな目に!」
………バイトしていた。
今回は空白部分をいつもより少なくしてみましたが、いかがでしょうか?




