宝箱……許さない!(byイーレ)
「おおー!街だ!」
山を越えた俺たちは、遠くに街の姿を見る事ができた。
「よし、早く街に行って装備を整えるぞ!」
俺の現在の装備は魔王城から抜け出してきた時の服だけで、武器は何も持っていなかった。
俺はモンクでも武闘家でもないので、素手で戦い続けるのはいくらなんでも無理だ。
おまけに今の俺は呪いで弱体化している…。
一刻も早く装備を整えておきたい。
「……グレア、お金持ってる?」
イーレが心配そうに聞いてきた。
「当然だ!冒険に出る前に俺の貯金を…………ってあれ?財布がないぞ?」
慌てて財布を探すが、見つからない…。
「……しまった!もしかして海で漂流した時に無くしたのか!」
気付いて落胆する俺。
「う〜ん、私もお金持っていないから貸してあげられないし…」
……冒険者であるお前が金を持ってないのもどうかと思うぞ……。
「……そうだっ!」
何かに気付いた様子のイーレ。
「お金がないなら、宝箱を探そう!」
「宝箱だと?そんなもの現実にあるわけないだろ!」
……ったくいきなり何を言い出すのだこいつ、昨日のスライム鍋で頭がおかしくなったのか?
……思い出したら気持ち悪くなってきた………。
「バカヤロー!」
ばちーーん!
「いってぇぇぇ!」
トラウマに苦しんでいた俺を、当然ひっぱたくイーレ。
「何しやがる!」
「探してもないのに無いなんて言うなーっ!君には冒険のマロンが無いのかーっ!」
「うるせぇ!常識で考えてそこら辺に宝箱が置いてある訳がないだろ!あとマロンじゃなくてロマンだ!」
「………そうとも言う」
「言わねーよ!」
しかし二人共金が無いのは事実なので、とりあえず何か落ちていないか調べてみる事にした。
「グレアーっ、ちょっと来てーっ!」
「……何だ?何か見つかったのか?」
「ほらほら!カブトムシ!大きいでしょー!」
「……………」
ごんっ!
「痛いよー!」
「真面目にやれー!」
「はーい」
「グレアーっ、ちょっと来てー!」
「…………何だ」
「ほらほら!クワガタ……」
ごんっ!
「……さっさと逃がせ」
「………うう、殺気が怖いよぅ…」
「グレアーっ、すごいの見つけたよーっ!」
「…………また虫だったら覚悟しろ……」
「違うよーっ!怪しい洞窟があったんだよーっ!」
「何っ!すぐに行くから待ってろ!」
俺がイーレの所に行くと、そこにはあからさまに怪しい洞窟があった。
「えへへーっ!偉いでしょ!」
胸を張るイーレ。
……今気付いたがこいつ地味に胸でかいな……宝の持ち腐れってやつか……。
「よくやった!中に入るぞ!」
これだけ怪しいと、中に本当に宝箱がありそうだ。
しかし……
「えっ?私も入るの?」
イーレの笑顔が凍り付いていた。
「………怖いよーっ!私暗い所ダメなんだよーっ!」
「やめろ!くっつくな!」
松明で洞窟を照らしながら進んでいると、イーレがしがみついてきた。
普通ならとてもうれしいシチュエーションなのだが、こいつにくっつかれても全くうれしくないのはなぜだろう…?
「キキキィ!」
「キャーッ!こうもり!こうもり!」
ぎゅーっ!
「ぐえぇぇぇ!首を絞めるなぁぁぁ!」
………俺が死んだ時は、絶対イーレの前に化けて出てやる!
そうして俺は酸欠で死にそうになりつつ、イーレは俺の後ろで怖がりつつ、洞窟の奥へと進んだ。
「ん?あれは……」
俺は洞窟の一番奥らしき所で、何かを発見した。
グレア達 は 宝箱を 見つけた。
「やったー!宝箱だーっ!」
「……まさか本当にあるとは……」
喜ぶイーレと、ただ驚く俺。
「グレア、早く開けなよ!」
宝箱の中身が気になるのか、目が輝いているイーレ。
……しかたがない。
「イーレ、お前が開けろ」
「えっ?」
「この洞窟を見つけたのはお前だ。お前がこの宝箱を開ける権利がある」
「……いいの?」
「早く開けろ、俺の気が変わる前にな」
「わかった、ありがとう!」
「……フンッ!感謝するなら早く俺の呪いを解いてくれ」
イーレがそろそろと宝箱に近付く。
俺も中身が気になるので宝箱の方を見る。
緊張する……早く開けてくれ!
「ていっ!」
イーレが豪快に宝箱を開けた!
さて……中身は?
「……………」
「……………」
そう……。
宝箱には……。
「………ハズレ……だな…」
何も入ってなかった。
ただ一つ……。
「ハズレ」と書いてある紙以外は………。
「………その……残念だったな……」
俺は悔しいのかブルブル震えているイーレに声をかけた。
その時
俺は確かに聞いた。
ブチン!
イーレの何かが切れる音を……。
「――――――!」
ピロピロピロ!
イーレ は 呪文を唱えた!
イーレが突然声にならない叫びをあげると、天井が崩れて宝箱は大きな岩の下敷きになってしまった。
「ハズレだと!ケンカ売ってんのか箱のくせに!箱のくせに!」
「イ、イーレ!落ち着け!」
イーレはこなごなになった宝箱をさらに踏み付けている。
よほど頭に来たらしい…。
ゴゴゴゴゴ!
俺達の立っている地面がまるで地震のように揺れだした!
「ヤバい…洞窟が崩れるぞ!」
どうやらイーレが呪文で洞窟の天井を落としたせいで、洞窟が崩れかかっているらしい。
「早く逃げるぞ!」
「まだまだ!こいつに生まれてきた事を後悔させてやるんだから!」
「このままじゃ俺が後悔する事になるんだよ!いいから来い!」
俺はイーレの手を掴むと、洞窟の出口に向かって走った。
「……何とか、無事だったな」
俺の目の前には、崩れて完全に埋まってしまった洞窟があった。
「あ〜あ、お金見つからなかったね」
イーレはがっかりしている。
宝箱が見つかっただけに、中身が空だったのがショックなのだろう…。
「……しかたがない、街で働くか?」
「……うん」
こうして俺達は、金が無いまま街に行く事にした。




