表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
序章 エルフの里と不死身の凡人
9/68

推測

 エルフの里に帰る道中で、俺はメルビンさんに里の防衛に協力させてほしいとお願いした。

 それに対してメルビンさんは眉をしかめた。


「やはり、私が護衛を務めるのは問題ですか?」


「ええ、マサキ殿の実力ならこちらからお願いしたいくらいですが、ほかの里の者はいい顔をしないでしょう」


 そう。

 そこが問題なのだ。


 現在私はアルミナ、メルビンという理解者を得ることはできたが、里のエルフたちから歓迎されてはいないのだ。


 この問題を解決する方法としては、俺も里の防衛に協力することが一番現実的ではあるのだが、それは出来そうにない。


 無理に割り込むとかえって問題が発生してしまううえ、メルビンに対して迷惑をかけることになる。


 ダメもとの提案だったが、案の定駄目だった。

 ほかに提案できる内容があるわけではないので、残りは取り留めのない会話をしながら里に戻った。


 そんな会話をしながら、ふと頭によぎったことをメルビンさんに質問した。


「そういえばメルビンさん。結界っていうのはどこから張られているんですか?」


「マサキ殿には結界の中に入ったということは分からないのですか?」


 アルミナの話だと、この結界に入ったものは気づかないうちに結界の外に向かうように方向感覚が攪乱されるらしい。


 俺の場合は攪乱されなかったが、霊樹の方向に向かったのはたまたまだ。


 攪乱された結果、たまたま霊樹の方向に向かったのかとも思ったが、あの結界に攪乱された場合は間違いなく結界の外に向かってしまうようになるらしい。


 メルビンさんは結界に攪乱されないばかりか霊樹の位置まで特定できる。

 加えて、結界の境界線を探知することもできるそうだ。


「はい。どこからが結界なのかは分からないんです。教えてもらってもいいですか?」


「ええ。大体この辺りから結界ですよ」


 この辺りから結界の範囲内?


 相変わらず俺にはちっともわからない。

 エルフ族だからわかるのなのか?


 いずれにしても、かなり高度な結界なのは間違いない。


「そういえば、アルミナが魔物でも結界を越えることはできないといってましたね」


「? 彼女がそんなことを?」


 ん?

 メルビンさんが今まで聞いたことないという顔をした。


「あれ? メルビンさんは知らなかったんですか?」


「ええ。我々は魔物だから結界を突破できるものと思っていました」


 そうなのか?

 アルミナとほかのエルフとでは認識にものすごい差がある。


「では、アルミナは間違った認識をしているってことですか?」


「王女が? いえ、おそらくそちらの認識が正しいでしょう。彼女は霊樹から生まれた精霊の化身。この里で、彼女ほど結界に精通している存在はいません。我々の考えは、もともと魔物がこの森に存在しないためにそう考えられるというものですから」


「……アルミナと、ほかのエルフ族は、そんなに会話をしないんですか?」


「しないなどというものではありません。基本的に、彼女は族長たちのいる中央の建物から出ることも、里の者達と会話することも許されていませんので」


「はあ!?」


 なんて返事をしても許されるよね。

 彼女を飼い殺しにした方がエルフ族にとって都合がいいのはわかったつもりだったけど、飼い殺しの度合いが完全に俺の常識のそとだった。


 メルビンさんの話が確かなら、彼女はほかのエルフ族たちの意向を無視して俺に合いに来たのだ。


 いったい何が彼女をそうさせたのだろうか?

 俺がいかれたパワーアップしてたのと何か関係があるのだろうか?


 加えていうと、彼女はそんな軟禁状態の中で俺が結界の内部にいることを感知し、そのうえで俺を迎えに来たのだ。


「彼女は、今回のことがあるまでずっとそうしてきたんですか?」


「はい。その通りです。ですから、彼女が誰に断わるでもなく出歩き、マサキ殿を里に連れてくるという行いを里の者、特に里長たちは由々しく思ったはずです。」 


 それはそうかもしれない。

 保守派の連中からすれば、彼女がとる行動はそのまま変革につながってしまう可能性が高いのだ。


 それはそれはおもしろくないだろう。


 なぜ、彼女はそこまでして俺に近づいてきたのだろうか?

 俺が異世界人だからか?

 といってもそんなこと気が付くものなのだろうか?

 

 それとも俺が持っている力のせいか?

 そもそも俺ってどういう存在に認識されているんだ?


「メルビンさんは、俺をどう思ったんですか?」


「この里に、必要な人物がやってきた。そう思います」


 この里に必要な人物だぁ! 随分とまあ過大評価されたものだ。


「彼女の、勘違いかなにかではないのですか?」


「彼女は本来、我々よりもはるかに素晴らしい能力を持った存在です。彼女はいたずらに混乱を起こすことを好まないために、我々に従ってきたのでしょう。ですが、あなたに出会うことは、彼女にとってはそれよりもはるかに重要だったということでしょう」


「・・・・・・」


 彼女がハイ・エルフである以上、俺の存在を探知できたことについては驚きはするが納得できる。


 ただ、俺の存在が特別であるなんて思えない。


 である以上、俺にあるのは強化された肉体だけだ。

 しかし、それだけで納得できるものではない。


 今までほとんど里の中央にある里長たちの家から出たこともない彼女が、そうまでして会いたがった。

 その意味を、曖昧にしてはいけないように思う。

 

 そんなことを考えているうちに里についた。


「今日はありがとうございました」


 いきなりメルビンさんがそんなこと言ってきた。


「いえ、どうも」


「ではこれで、私は里の警備に戻ります」


 そんな無難な会話をしたのち、メルビンさんは森の近くの小屋に向かった。

 俺も納屋に戻るとしよう。

 


 納屋に戻ろうと思ったが、いろいろ気になることがあるため、里の周りを1周することにした。


 この森の結界は、おそらく非常に優秀だ。


 何しろ相手は何も気づいていない状態で結界の外に向かってしまうのだ。


 実際にあるのかどうかは知らないが、結界内に入れない結界とか、入った相手を迎撃する結界とかだと、存在を感知されるのは当然だし、突破しようとする者達も出てくるだろう。


 そんな奴らの中に実力者がいれば、結界は突破される、あるいは破壊されるだろう。


 しかし、この結界について言えばそもそも気付くことさえできないのだ。

 存在が知られなければ突破することも、破壊することもできないだろう。


 何しろ対策さえすることもできないからだ。

 例えば、幽霊がいようがいまいが、見えない聞こえない感じ取れない、そんな相手には対策の仕様がない。

 結界に惑わされていることに気付けないようであれば(いるのかどうか知らないが)結界を感知できるような一握りの実力者にしか察知されない。


 それは相当なアドバンテージだ。

 この結界があるからこそ、エルフ族は独立していられるのだ。


 他種族は、エルフの里に対して襲撃はおろか訪問することも迷い込むこともできないのだ。


 絶対的に干渉することのできない結界。

 それだけでも相当なものだが、加えてここは霊穴という生命力に満ちた場所にいるためなのか、農作物がよく育つ(らしい)。


 元から排他的な習慣のある種族にとってはこの上ない生活空間というわけだ。結界の外に出たことがあるのは、メルビンをはじめとした狩人などだけのようだ。


 その結界の絶対性が、いま突然揺らぎだしたのだ。


 突如として発生した魔物たち。

 その魔物たちの中には、さらに結界を突破する者達も現れた。


 さらには俺という他種族の人間までやってきた。

 俺はエルフの里に入った最初の人間ということになるみたいだ。


 それが異世界人とは、エルフの里も大変だな。

 さて、そんなことは置いておいて。


 アルミナの話だと、本来であれば魔物も結界を突破することはできない。


 霊樹アルミナスから生まれた彼女は、霊樹が張っている結界について最も詳しい存在なのだろう。


 メルビンさんにとっては寝耳に水の話ではあったようだが、彼女の意見について疑う必要はないそうだ。


 つまり魔物たちは、本来できないことをやっているのだ。


 結界が効かない俺に言われたくはないだろうが、迷いの森を迷わずに突破できるなど、ゴブリンやオークみたいな低能には無理があるだろう。


 となれば、誰かが手引きしていると考えるのが一番自然だ。

 魔物たちの親玉みたいなやつが、霊樹だか霊穴だかを狙っていて、それに対して結界が邪魔となっている。


 そのため、魔物たちを使って結界を調べ上げ、結果として魔物たちの一部に結界を突破させることに成功した。


 とりあえず、いま思いつくのはこんな内容の予想だ。


 状況からの予測だが、これが一番しっくりくる。

 そうなると、最も有効なのは魔物たちの親玉を討伐することだ。



 こうなったらやることは一つ!

 どこかの神罰の地上代行者よろしく森の中の魔物たちを殲滅する!


 といいたいところだがそれは無理があるだろう。


 ゴブリンやオークの大部隊が俺に向かって突撃してくるなら問題ないだろうが、分布もあいまいなうえ広範囲だと殲滅のしようがない。


 黒い悪魔同様に1匹見れば30匹はいる可能性があるので殲滅以外は有効とは言えないだろう。


 エルフの里にはローラー作戦が展開できるほどの戦力や人員はいないだろう。


 エルフ族の探知能力ならあるいは可能かもしれないが、それにしても寡兵で用いれる作戦ではなさそうだ。

 

 頭をたたくのが一番有効だろう。


 しかしこれにしても魔物の親玉がどこにいるのかがわからないとどうにもならない。


 アルミナは俺のことを里にいながら探知したみたいだが、いくらなんでも魔物の親玉みたいなのを探し出してくれって言っても…。


 いや、出来るのか?


 もしかしてできるかもしれない。

 彼女は俺が思っているよりもはるかにすごい存在だ。

 初めて会った時にも感じた存在感に加えて、彼女はハイ・エルフという常識外れの存在なのだ。


 いや、出鱈目具合で俺に言えたことではないかもしれんが。


 とにかく彼女に聞いてみるか。


 もしかしたら一発で問題が解決するかもしれないし、ダメでも何か問題が発生するわけではないだろう。


 もし彼女に聞いてみてダメそうだったらどういった作戦に出ようか。


 ほかに思いつく作戦は、せいぜい魔物のボスが攻めてくるまで里の防衛の手伝いを陰ながら行うことくらいだろうか。


 もし俺の推測が正しいのであればこの作戦も有効だが、まず間違いなく後手に回る。いつ来るのかもわからない敵におびえながら日々を過ごすのは厳しいだろう。


 もっと言うと、おそらくその襲撃の際には敵は大挙してくることだろう。


 だとすると里への侵入を完全に防ぐことはまず不可能だ。

 そうなれば、エルフ族は間違いなく巻き込まれるだろう。


 これは下策だ。


 やはり結界より出て、調査を行うほうが利口だろう。

 今のところエルフ族の防衛は問題なく行われている。


 寡兵とはいえ個々の練度が高いうえに索敵能力に長けている。

 俺がいなくても防衛については問題なさそうだ。


 さて、そうなるとやはり俺が里の外に出て調査するのが有効策だな。

 下手な攻撃では傷ひとつつかないし。


 そんなこと考えていると、里を囲む森を1周していた。

 いい加減、納屋に戻るか。


 そう思っていると、アルミナがこっちに向かってきた。


「アルミナ!?」


 なんか無茶苦茶都合よく遭遇するものだ。

 だが好都合だ。彼女には聞きたいことがある。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ