情報整理
一年ぶりです!
長らくお休みしていてすみません!
物語を再開します!
魔王の脅威は過ぎ去った。
魔物たちも撃退した。
これでエストワール王国の危機は去ったということになる。
だというのに俺の心はさえなかった。
ゲイルは言った。
『今回の大遠征の目的は、貴様を叩きのめすことが目的』だと。
魔王アルベウスと、その配下らしい黒ローブの奴は言った。
『ヘルモスの憑代である俺の存在を確認するために今回の騒動を起こした』と。
あいつらの言葉を鵜呑みにすることはできない。
しかし、だからといってあいつらのことを疑うには、奴らはあまりにもはっきりと行動で示しすぎていた。
俺と戦った直後に撤退した。
その事実が、あいつらが嘘をついていないということを示していた。
つまり、今回の騒動は、エストワール王国付近に俺がいて、そのために魔王たちが攻め込んできたということになる、ということだ。
「…この戦争の原因は、俺か?」
無数の魔物の死体の中で、俺はそう自分に問いかけた。
この惨状を引き起こした原因が自分。
その事実を認めたくなかった。
しかしそれが事実だということも、何となくだが納得してしまった。
俺に向かってくる魔物たちを全滅させた頃、砦の方からも勝鬨が上がっているのがわかった。
それを他人事のように確認しながら、俺は砦の方に戻っていった。
「マサキ殿!」
俺の耳に聞きなれた声が響く。
見れば、ジェストさんが部隊を引き連れ俺のもとに向かってきた。
「…ジェストさん。俺は…」
「話は後程にしましょう。今はエステルナ様たちと合流し、休息を取りましょう」
この騒動の原因みたいです。
そう言おうとした俺に、ジェストさんはそう言い放った。
「…わかりました。そうします」
そうして、ジェストさんと共に砦へと戻った。
「マサキさん! ご無事ですか!」
砦に戻り、エステルナ様が俺を見るやそう問いかけてくる。
「ええ、ごらんの通りです」
そういう俺は、しかし自分でもはっきりとわかるくらい暗い影を落としていた。
「…何か、あったようですね。とりあえず今は休みましょう」
「…ええ」
そういうと、俺は頷き砦内の部屋を一部屋あてがわれた。
基本的に砦の部屋は大人数で寝泊まりするようにできている。
そのため俺達六人はそのまま六人部屋で男女そろって寝泊まりすることとなった。
もっとも、エステルナ様とジェストさんは増援部隊到着受け入れの準備と、情報共有のため席を外している。
そのため、この部屋にいるのはアルミナ、セルア、シルバと俺の四人だ。
「…何も聞かないのか?」
気が付けば、俺はそんなことを口走っていた。
魔王とのやり取り。
それは、俺一人が抱え込むにはあまりにも重い出来事だったからだ。
「マサキさんは、話せますか?」
セルアが恐る恐るといった感じでそう問いかけてきた。
「どういう意味だ?」
彼女にしては珍しいその質問に、俺はそう問い返した。
「マサキさん。さっきからすごく怖い顔をしてます。今まで見たことないくらいに」
俺に向き直り、セルアはそういった。
「…俺、そんなにひどい顔してたのか?」
ため息を吐く。
確かに今の俺の精神状態はめちゃくちゃだ。
「…魔王たちと、何かありましたか?」
今度はアルミナが俺にそう問いかけてきた。
相も変わらず鋭い、というかそのくらいしか思い当たることは無いか。
「ああ、魔王アルベウスの野郎が、わけの分からんことを俺に言ってきた」
「わけの分からんこと、でやすか?」
「…とりあえず、話を聞いてくれるか?」
俺がそういうと、三人はコクリと頷いた。
「魔王アルベウスがこの国に侵攻してきた目的は、俺に遭遇するためだったらしい」
「マサキさんに、遭遇するため?」
セルアが首をかしげている。
その気持ちには素直に同感できる。
「ああ、魔王本人がそう言っていやがった」
「魔王本人って、アルベウスと話をしたんですか!?」
セルアがめちゃくちゃ驚いている。
「ああ、なんでもヘルモスの憑代である俺と会うために今回の騒動を起こしたんだとか」
「ヘルモスの憑代、でやすか!?」
今度はシルバの奴も驚いている。
というかセルアの奴は驚きすぎて口を開けたまま絶句している。
「なあ、これはいったいどういうことだと思う?」
二人のことを無視して俺は冷静に話を聞いているアルミナに問いかける。
「…さすがにそれだけでは何とも。
ですが、マサキさんと英雄ヘルモスに何かしらのつながりがあるのではないかというのは、私たちの憶測にすぎませんでした。しかし…」
「…魔王アルベウスは、何の予備知識もなく、俺とヘルモスを繋げていた。か?」
「はい」
俺の返答にアルミナは首を縦に振る。
「…やっぱりマサキさんはヘルモスの子孫なんでしょうか?」
フリーズから立ち直ったセルアが俺にそんなことを問いかける。
「…」
その一言に、俺は返答できないでいた。
異世界から来た俺がヘルモスの子孫。
まず間違いなくそんなことはありえないと断言できるが、俺の能力がヘルモスとあまりにも類似しているうえ、初対面の魔王アルベウスにまでそんなことを言われて、はっきりと否定できなくなっていた。
「…魔王は、ほかに何か言ってなかったでやすか?」
シルバの一言に、俺は次の言葉を口にするのをためらいそうになったが、話さないでいいことではないと思い口を開いた。
「魔王アルベウスは、どうやら俺を狙ってここまで攻め込んできたらしい」
「「は?」」
セルアとシルバは俺のセリフに目を点にして驚いている。
そんな二人に構わず、俺は次の言葉を紡いだ。
「魔王が口にしたのは、俺がヘルモスの憑代であるってことと、西大陸に封印されている心臓の封印を解けってことの二つだった」
「西大陸に、ヘルモスの心臓が?」
俺の言に、今度はアルミナが反応した。
「ああ、魔王は確かにそう言っていた」
俺がそういうと、アルミナは顎に手を当てて考えるようなしぐさをした。
「…なにか、思い当たることでも?」
「…ええ。マサキさんは、魔神の最後を覚えていますか?」
魔神?
グラングラストの事か?
思わぬ人物の名前が上がったから少し戸惑ったが、首を縦に振る。
「たしか、魔物を召喚してそれに成功したって話だったな。
その時、ヘルモス達4人の守護者は逃走した。って話だよな?」
「そして、魔神は大陸を5つに分断するような災害を引き起こし、この世界に魔物たちを呼び出した」
「それが、どうかしたんでやすか?」
その逸話を知っているシルバが、俺の想像を余所にアルミナにそう質問した。
「…その時の大陸分断によって、世界は中央、東、西、南、北の5つの大陸に分断されたのですが、その中でヘルモスが最後に目撃されたのが…」
「西大陸だってのか?」
俺は思わず口を挟んだ。
そしてアルミナは静かに首を縦に振った。
「…魔王の言葉を鵜呑みにするべきではないでしょうが、だからといって頭らか否定するにはいろいろと気になることが多すぎますね」
アルミナのその一言に、その場は重い空気に包まれ、そののち誰もが言葉を発せられずに沈黙が流れた。
「……俺は西大陸に、行ってみるべき、なのか?」
その沈黙を、俺はあえて破ってみた。
なにか、西大陸に行けば何かが起こる。
そんな気がしての提案だった。
「結論を急ぐべきではないでしょう。
まずは王都に戻り、エステルナ様とジェスト将軍に話をするべきと思います」
「そうですね。私も、王女様に……じゃなかった。女王様に頼みたいことがありますし」
「……」
シルバはなぜか無言を貫いている。
まあ、こいつにはアルミナやセルアのように分かりやすい縁があったわけではないからな。
「分かった。なら、とりあえずはゴタゴタが片付くまでは待機ってことでいいのか?」
さすがにエステルナ王女とジェスト将軍の二人は今非常に忙しいだろう。
何しろ魔王の侵攻と王位の簒奪が同時に起こったのだ。
内乱騒動もまだひと段落していない現状、二人の忙しさは筆舌に尽くしがたいものがあるだろう。
「なら、とりあえずは休むか」
「ええ。そうしましょう」
「さすがに私も疲れました」
「でやすね」
そう言って、俺たちはそれぞれのベッドに横になった。
この数日戦いに移動を繰り返していたため、さすがにめちゃくちゃ疲れた。
緊張の糸が切れた俺は、気が付けば眠りに落ちていた。