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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
激突・魔王軍
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一撃決着

 ゲイルを守るように一歩を踏み出した魔王アルベウス。

 

 魔王の進撃を許さぬためにその魔王に立ちはだかるマサキ。

 

 今その二人が対峙する。

 二人は無数の魔物の群れに囲まれているが、魔物たちは味方であるアルベウスはもとよりマサキの方にも襲い掛からない。


 彼らの本能が何よりも雄弁に語っているのだ。

 この戦いに茶々を入れれば、その身は粉みじんになってしまうということを。


「「・・・・・・」」

 

 無言のまま対峙する魔王アルベウス。

 要塞のように動かない魔王を相手に、先に動いたのはマサキの方、いや、マサキの体を動かす何者かのほうだった。


 踏み込んだ足で地面を穿ち、まるで滑空するかのように魔王アルベウスに接近し、手にした大斧を振り下ろす。


 相手が回避することを度外視した、鈍重でありながらも強烈な一撃を、アルベウスは身じろぎひとつせずにたたずむことで応じた。


 大斧が魔王に激突する。

 否、激突するはずだった。

 

 その大斧は、魔王ではなく見えない壁のようなものに激突したのだ。

 

(な!?)


 現状を把握することしかできないマサキは驚愕する。

 魔王アルベウスが何か盾のようなものを用いているのはアルミナたちの魔法で確認していたが、それを目の当たりにするそれは、不可視であり、攻撃するまで感知できない代物でありながらあまりにも堅固だった。


 不可視の壁に阻まれながらも、俺が手にしていた大斧は振り抜かれた。

 結果、大斧はその柄から真っ二つにへし折れた。


(っ!!)


 その事実に驚愕する中、俺の体は魔王から一度大きく距離をとる。

 

 魔王は追撃するでもなく、こちらを睥睨している。

 一度対峙して改めて思う。

 この魔王は出鱈目だ。


 見上げて首が痛くなるようなその体躯は、俺の倍くらいの大きさがある。

 先ほど大斧を振り下ろしはしたが、その大斧も魔王の肩を狙ったものだった。

 単純に相手が大きすぎて、こちらの標的が限定されてしまっている。


 そして改めて対峙してみてわかる圧倒的な威圧感。

 まるではじめて霊樹アルミナスを目撃したときのようにさえ感じる巨木のような存在感は、思わず逃げ出してしまいたくなるほどだった。


(それに、こいつ…)


 マサキが一つのことを考えた時、自分の体が驚愕する行動をとった。


 その全身が、白銀色に光りだしたのである。


(は!?)


 自分の体がやっていることに自分で驚愕するマサキ。

 しかし無理もないだろう。

 低く腰を落とし、今から目の前の相手に拳を叩き込むように構えたマサキの体からは白銀色の魔力があふれ出している。


 その魔力は見る見るうちにマサキの右こぶしに集まっていく。


(これは! 魔技!?)


 それも全身活性化させるほどの魔力を用いて。

 マサキの体は、ただそれだけでまともな魔技を無効化してしまうほどの強度があり、その力を振り回すだけで尋常な相手なら倒せてしまう。

 

 そんなマサキが、今、何の手加減もなく魔技を放とうとしている。

 無論マサキにそんな真似ができるはずもないが、今体を動かしている何者かは何のためらいも戸惑いもなく魔力を右手に収束させる。


 その右手に魔力が集約されたとき、自分の体が少し前かがみになったと思った瞬間、砲弾のごとき勢いを持ってマサキはアルベウスに突撃した。


 マサキの振り上げた拳が、再び魔王の障壁に阻まれる。

 しかし、その障壁は、まるで砕けたガラスのような音を立てて砕け散る。


(行ける!)


 元から化け物じみていた自分が魔義を使ったのだ。

 いくら魔王と言えども、そう思ったマサキは、次の瞬間さらに深く驚愕する。

 

 いつの間に動いたのか、魔王はマサキの右拳を左手の小手で受け止めたのだ。

 攻撃が真正面から受け止められ、その拳に込められた魔力が暴発する。

 


 その時、その一帯に、巨大な爆発が引き起こされた。






 爆炎の中、俺は魔王と対峙する。

 さっきの魔技の一撃で、俺の体の主導権は俺に戻っていた。

 魔王と対峙する俺は、しかしアルベウスに対して、自分でも驚くほどに無警戒だった。


 先ほどの、まるで魂の一遍までも搾り取るような、たった一撃のぶつかり合い。

 それが防がれ、暴走状態ともいえる強化状態が解けたというのに、俺はなぜか本能的に悟った。

 この魔王は、これ以上俺と戦うことは無いと。


 俺と魔王の衝突によって発生した余波は、周囲を取り囲んでいた魔物たちを容赦なく消滅させた。

 唯一無事だったのは魔王の後方にいた連中位だ。

 

(暴走状態の俺が放った魔技を正面から受けてなお健在、か)

 

 しかしさすがに完全に無傷ではない。

 その巨大な小手のところどころに多少の傷がついていることは確認できた。


 しかし逆を言えばそこまで。

 俺たちで言えばせいぜい擦過傷としか言えない程度のダメージしかないだろう。


(こいつの鎧は…あのよく分からない光の壁よりも頑丈ってことか)


 俺はアルミナやエステルナ女王の魔法を正面から受け切った魔王アルベウスの防御力を支えているのが、大斧での一撃を受け止めた不可視の盾のせいだと思っていた。


 しかし、俺(の体)が放った魔技はその盾をあっさりと打ち砕いたにもかかわらず、魔王の体を覆う鎧に阻まれた。


 体を動かしているのは俺ではない。

 しかし感覚はある程度共有されている。

 

 その感覚が俺に事実を教えてくれた。この魔王には、あの不可視の盾は必要ない。

 その身を覆う鎧は、そんな代物よりもはるかに頑丈なのだ。


「…なぜ、突然王国に攻め込んできた?」

 

 唐突に、俺は対峙するアルベウスに対してそんな質問をした。

 どういうわけか、爆煙に包まれているアルベウスには先ほどまで放っていた威圧感も存在感も感じ取れず、俺は疑問に思っていたこと(おそらくエストワール王国に住む者たち全員の共通の疑問)を投げかける。


「…お前という存在を確認するためだ。ヘルモスの憑代よ」


 まるで地の底から湧き上がるようにその声が響いてきた。

 マサキは知る由もないが、アルベウスが言葉を発したということを魔族が聞けば両目を見開いて驚くことだったことだろう。

 しかしマサキもそれとは別の理由で驚愕していた。


(なんでこいつが俺とヘルモスをつなげる? あれはアルミナたちの憶測だったはずだが…)


 しかし目の前の魔王は、さも断定するかの如く俺がヘルモスであると言い切った。いや、正確には憑代といっていた。


「ヘルモスの憑代ってのは、どういうことなんだ?」


 俺の問いに、不動の魔王はしばしの沈黙ののちに答えた。


「…まだ時ではない。お前に話せることは無い。が」


 一度言葉を切り、アルベウスは再び地の底から響くような声を発する。

 

「西大陸に封印されている心臓の封印を解くがいい」


 一言、そう言い放つと、魔王アルベウスは俺に背を向け、歩き出した。


「待て!」


 戦いは終わりだといわんばかりの魔王アルベウスの行動に、俺は追撃を掛けようとした。


 しかしその直後、アルベウスと俺の間の空間がゆがんだ。

 そしてその空間の中から黒ローブをまとった何者かが現れた。


「こちらの用件は終わりました。勝手な言いぐさかもしれませんが、我々は撤退させていただきます」


「…なんだと?」


 アルベウスに突撃しようとした俺は、しかし目の前に現れた得体の知れない相手とアルベウスを同時に敵に回すという状況を良しと出来ずたたらを踏んだ。


「…お前らの目的ってのは、なんだったんだ」


 答えが返ってくるとは思えなかったが、黒ローブの何者かは口を開く。


「ヘルモスの復活。それを確認するためですよ」


「…なんだと」


 その一言に、俺は言いようのない疑問を覚えた。


「お前らは、俺と戦うためだけにこんなことをしたってのか?」


「正確にはあなたと会うためですがね。まあ、本来ならアルベウス様と私だけで赴くつもりだったのですが、配下である魔物たちが勝手についてきて今回の騒動になってしまったわけですが」


 目の前の黒ローブの説明に、俺は強く反発した。


「そんな理由で、俺に用があるってだけでこんな騒動を起こしたってのか!」


「あなたたちにとっても必要な事だったのでしょう?」


 俺の激情は、しかし黒ローブの一言にさえぎられた。

 まるで芯を突いたような一言に、俺は口を開けなかった。

 確かに俺たちは魔王軍進撃に便乗してエシュバットを倒したのだ。


 しかし、なぜこいつらがそのことを知っているんだ?

 混乱する俺に、黒ローブはさらに一言発した。


「いずれにせよ、あなたはアルベウス様の言う通り西大陸へ行き、その心臓の封印を解き放つ必要がある。そのことを肝に銘じておきなさい」


 そういうと、黒ローブの魔族も踵を返し魔王アルベウスに追従する。

 その魔族たちを、俺は見送るしかなかった。

 なぜなら、魔物たちが俺に襲いかかってきたからである。


「この!」


 大斧を失い、ゲイルからぶんどった片手剣しか残っていない俺は、しかしその片手剣を魔王アルベウスに向けて力任せに投げつけた。


 ゲイルの話を信じるなら、俺があれを持っていると魔王に現在位置を知られてしまうということになる。

 そんな話を聞いてその剣を使い続けることなどできるはずもなかった。


 魔王に向かって投げつけた剣は、黒ローブに難なく掴み取られてしまった。

 俺の身体能力任せの投擲だったにもかかわらずだ。やはりあいつも只者ではない。

 

「…いいぜ。徹底的に相手してやるよ」


 俺は周囲から迫ってくる無数の魔物たちに拳を振るった。

 頭の中にこびりついて離れないもやもやを振り払うように。






 魔物たちの群れのど真ん中で大爆発が起こったのち、ディスバルトは現れた時と同様に忽然と消え去った。


「アルミナさん。彼の魔族は…」


 エステルナ王女のその質問に、アルミナは首を振る。

 

「少なくともこの砦の付近ではないですね」


 アルミナはそういうと、たった今爆発が起こった方を向く。

 そこにあるのはただひたすらに立ち込める煙だった。


「あの煙…」


 セルアがそうつぶやく。

 そうつぶやいたセルアに、アルミナが首を縦に振る。


「魔力と衝撃波によって引き起こされたものですね。あの中で何が起きているのかは、さすがにわかりません」


 アルミナの気配探知力は出鱈目といっていいレベルではあるが、だからといってさすがに魔力の奔流が引き起こっている個所を遠目で見ている状態では探知できない。


「一体、なんであんな大爆発が起こったんでやしょう?」


 シルバの問いに対して答えたのはジェストだった。


「…マサキ殿が、魔王アルベウスに魔技を放ったように見えました」


「マサキさんが、魔技ですか!?」


 ジェストの説明にエステルナが悲鳴のような声をあげる。

 それも無理はないだろう。もともとの身体能力だけでも飛びぬけているマサキが放った魔技となればその威力がどの程度のものになるなど想像もできないのだから。


「それであの爆発ですか……これほどの威力であれば、いくら魔王であっても」


 そうつぶやくエステルナは、しかししばし後にその考えが甘かったことを思い知る。


 煙が晴れた時、魔王アルベウスは健在であったのだ。

 ただし、どういうわけかこちらに背を向け砦から去っていくように歩んでいる。そしてその近くをディスバルトらしき人物が歩いていた。


「…まさか、あの一撃を受けてなお平然としているなど」


 煙が晴れたことで全員がその光景を確認したのだろう。ジェストがそうつぶやいた。


「あれは、撤退していると考えていいのでしょうか」


 魔王がこちらに背を向けて離れていく。

 そんな想定外といっていい状況に疑問を抱くエステルナだったが、直後そんなのんきなことを考えている場合ではないと考え直す。


 マサキとアルベウス。

 二人の衝突によってその近辺の魔物たちは一掃されたが、再び魔物たちがマサキに群がっているのを確認したからだ。


「全員、魔王と打ち合ったあの者を援護しなさい!」


 とっさにそう声を張り上げるエステルナ。

 その声に呼応し、砦に残っていた魔導師たちが魔法を放つ。


「我々も打って出ます!」


「お願いします!」


 そういうと、ジェストは前衛部隊を率いて砦の下方に向かっていく。

 部隊を整え次第開門し、魔物たちの群れに打って出るつもりなのだろう。


「アルミナさん!」


「はい。魔物たちを倒しましょう」


 そういって、エステルナとアルミナも魔物の殲滅に移る。

 セルアとシルバも、魔法と弓矢でもって魔物たちを砦の上から攻撃している。

 

 ほどなくして城門が解放され、現れた前衛部隊の攻撃により魔物の群れは壊滅した。

 もとより魔王や魔族がいなければ第二砦で魔物たちを殲滅できていた戦力なのだ。魔王や魔族が撤退した今なら負けることなどないと断言できることだろう。


「…勝鬨をあげましょう」


 近くにいたクランに、エステルナはそう告げた。


「よろしいので?」


 クランの疑問に、エステルナは首を縦に振る。

 

「魔王は撤退し、魔物たちは殲滅しました。確かに不安な要素はありますが、この戦いそのものは私たちの勝利です」


「分かりました」


 そういうと、クランは兵士たちに向かって宣言する。


「魔王の脅威は去った! 配下の魔物たちも滅ぼした! この戦、我々の勝利だ!!」


 その宣言に、砦で戦い抜いた者達が勝鬨を上げる。

 砦が揺れんばかりの歓声に、エステルナは自分の中の不安が解けていくのを感じた。


(とりあえずは、これでいいのでしょう)


 そう思い、エステルナは魔王が去って行った方を見た。

 その視線の先には、魔王と戦い、なぜ魔王が去って行ったのかを知る唯一の人物であるマサキが、自分と同じく魔王が去って行った方を見ていた。


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