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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
激突・魔王軍
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反撃

 ゲイルが槍を突きだす。

 マサキの体に対して多少の攻撃ではまるで効果がないことは百も承知だ。


 そのため今回持ち出したのは、魔王アルベウスから受け取った武器の中でも最高の一品であるこの魔槍だ。


 森の中でマサキ相手に用いた片手剣もかなりの業物ではあるが、今回用意した槍は貫通力に特化している。


 さらにゲイルの魔技である『ダーク・メルティ』を恒常的に発動しているのだ。

 もっとも、全力で発動させ続けるといくらゲイルであっても魔力の枯渇を免れない。そのため槍の穂先という極めて狭い部分だけで魔技を発動させているのだ。


 そのため槍の穂先以外は特殊な強度も攻撃力もない状態ではあるが、ゲイルの技量をもってすればそれだけの攻撃力を持った槍の攻撃で一方的に敵を仕留めることもたやすい。


 今回マサキ相手にゲイルが使ったのはそのさらに応用版。

 槍の攻撃に意識が向いている相手に幻惑魔法『ダスク・レンブランス』をかけることで幻惑状態に陥れるというものだ。


 マサキの場合森の中で『ダスク・レンブランス』を数秒で破って見せた異常な抗魔力があるが、それでも『ダーク・メルティ』を叩き込めるだけの時間は十分に用意できる。


 魔槍、幻惑魔法、魔技、そしてこのように魔法を交えた戦闘方法。

 ゲイルはこれらをアルベウスの側近であるディスバルトより伝授された。

 そのためゲイルはディスバルトとアルベウスを師として、あるいは主として慕っているのだ。


 マサキ相手であってもディスバルトによって組み立てられた先方は有効で、幻惑状態に陥ったマサキに魔技が叩き込まれる。


(獲った!)


 明確な手ごたえと共にゲイルはそう確信する。


 しかし、ゲイルはまだ知らなかった。

 エストワール国内においてマサキは一度死にかけたということを。

 そしてその直後にマサキの身に起こった出来事も。






「これは…」


 ディスバルトの発動した魔法により、5人の周囲は一瞬のうちに暗黒に包まれた。

 突然闇に覆われた空間に、全員が茫然とする。


 そんな中、たった一人の声が響き渡る。


「皆さん! 広域幻惑魔法です! 下手に動かないでください!」


 アルミナの声がそう響き渡る。

 広域幻惑魔法。その魔法の名前を聞きエステルナは戦慄する。


 幻惑魔法は火球などの魔法に比べると相手にレジストされやすいため、習得が困難とされている。

 

 アミュレットを装備して抗魔力が上がっているはずのエステルナの視覚を完全に奪うほどの幻惑魔法となると、どれほどの魔力、あるいは精度が必要なのかは想像もできない。


 しかもそれが広域。

 基本的に広域魔法は魔力が拡散されてしまうため、一人頭の効力は弱まりがちになる。

 広域の幻惑魔法でアルミナやエステルナまで幻惑してしまうディスバルトの魔力量と魔法の練度にひたすら戦慄する。


(もし私がアミュレットを使いこなせたとしても、あの魔族に勝てるかどうか…)


 いずれは消えるであろう幻惑は、しかし幻惑下においてこちらはディスバルトを捉えるすべを失うということにもなる。

 対処方法が思いつかない中、ディスバルトが魔法を発動させる気配を感じ取る。

 

 それは感じ取れるが、だからといって正確な位置までは察知しきれない。

 

 そんな中、再びエステルナの不安を掻き消すように凛とした声が響き渡る。


「やらせません!」


 アルミナの声が響き、空中で魔力が炸裂した。

 おそらくはディスバルトが放った魔法をアルミナが迎撃したのだ。


(な!? アルミナさんは幻惑下で相手を正確に探知している!?)


 その事実に驚愕するエステルナだったが、盲目である現在は完全に足手まとい。その事実を認め、エステルナは思案する。


(ディスバルトとか言った魔族の相手はアルミナさんに任せるしかありませんね。なら、私はチャンスを逃さないようにしなければ)






 この感覚。覚えている。

 すでに夢で3度、そして数日前に1度、俺はこの感覚を味わっている。


 エシュバットとの戦いで致命傷を負ったと思った時にもなったこの状況。

 いまだにゲイルの黒槍に貫かれたままの胸から煙が立ち上がる。

 同時に俺の意識は俺自身の体から離れ、体の主導権はほかの何者かに移る。


「なに! 貴様!?」


 俺の手がゲイルの槍を掴み、一気に引き抜く。

 そこにあるべき傷も、あっという間に修復されていく。

 

「あり得ない! いくらなんでもそんなに出鱈目な回復力など、あってたまるか!?」


 俺の目の前で困惑するゲイル。

 そんな抗議を無視するように俺の体を動かす何者かはそのまま片手で斧を振り回す。

 

 その一閃は俺のものに比べてはるかに速く鋭かった。


「くっ!」


 そんな一閃をゲイルは紙一重で回避する。


 しかし今俺の体を動かしている何者かはそのさらに上を行っていた。

 起用にも振り抜いた斧の反対側の柄でゲイルを殴打したのだ。


「が!?」


 芸当のようなその一撃は、しかし俺の身体能力から打ち出されている。


 その一撃に弾き飛ばされそうになるゲイルだったが、さすがに今の一撃では完全に倒しきれないようだ。

 決して槍を話そうとしないその姿勢は、俺に槍を奪われればこちらにダメージを与える手段がなくなってしまうということを理解しているせいだろう。


 体をほかの誰かが動かしているおかげで、俺は思考に集中している。

 というより目線ひとつも自由に動かせない俺には考えることと現状を把握することしかできないのだ。


 しかしその最中、俺の体が掴んでいた槍が黒く光りだした。


(魔技!?)


 槍を掴まれたままそれを使おうとするということに思い至らなかった俺は完全に意表を突かれ、槍を掴まれたまま槍がこちらに放たれた。


 強化された俺の腕力であってもさすがに完全に止めることができないほどの一撃、しかし俺の体を操っている何者かはそれを予見していたように体を半身にして回避してのけた。


「な!?」


 ここ数度の攻防の中で幾度となく驚いたゲイルに、攻撃を回避した俺は膝蹴りを叩き込んだ。


「かっ、は」


 今度こそ踏ん張りが利かなくなったゲイルが横一直線に吹き飛ぶ。

 どこまでも飛んでいきそうな勢いで吹き飛ぶゲイルは、しかしその最中とある人物に受け止められる。

 

 否、人物ではない。

 俺たちの戦いを少し離れたところで見届けていた異形の存在、魔王アルベウスであった。


「・・・・・・」


 寡黙な魔王は、いたわるようにゲイルを地面に横たえ、ゲイルをかばうように一歩前に出た。

 

 その一歩は、再びその場に地響きを引き起こし、まるでこれ以上ゲイルに手を出すことを許さないといっているようにさえ見えた。


「・・・・・・」


 そんな魔王を相手に俺も、いや、俺よりも俺の体を使いこなしている何者かも無言で対峙した。






「ふむ。もう幻惑魔法が切れたわけでもないでしょうに、信じがたい探知能力だ。もはや疑うまでもなくあの者はエルフの女王。どうやら時は満ちたようだ」


 ディスバルトは一言そうつぶやく。

 幻惑下でありながら自らの魔法を迎撃してのけるその能力、たたきつぶすつもりがないとはいえこうまで見事に防がれては全力で戦っても苦戦は免れないと断言できる。


(まあ、小手調べにはちょうどいい)


 そう考え、再び両手に、いや全身に魔力を駆け巡らせる。

 飛行魔法を発動しながら魔力を走らせるという芸当を自分があっさりやってのけているように、アルミナと呼ばれているエルフは幻惑下でこちらを探知しながら魔法を発動してのけるくらいのことはできるだろう。


「黒旋風」


 そう唱えたディスバルトは、全身の魔力を右手に集約させ、そのまま漆黒の旋風を開放する。


「ウィンディア・ストリーム!」


 凛とした声が響くとともに、ディスバルトが放った旋風を中和するように竜巻が発生する。

 威力がほぼ拮抗している中で、お互いの竜巻を相殺しながら無色と黒色の風が周囲に拡散していく。


(威力を落としているとはいえ、こうも見事に相殺されるとは)


 再び全身に魔力を集める。

 次に放つのは収束魔法。

 全身にみなぎる魔力を右手に。否、右手の人差し指に集約させる。

 

 それを感知したのだろう。

 まだ目が見えないのは間違いないだろうに、エルフは正確にこちらを狙ってその手に収束魔法を発動させる兆候を見せている。


「漆黒の瞬き」


「ウィンドウ・スピアー!」


 二人の収束魔法が正面から衝突する。

 収束された漆黒の魔力と風の魔力が再び衝突する。

 数秒間ほど相殺したのちに、再び攻撃が相打ちに終わる。


(ほう?)


 しかしそこでディスバルトは眉をひそめた。

 エルフと同等の魔力を持つエストワール王国の魔法使いが、自分に向けて魔法を放ってきたからである。


(これは…幻惑下にあるのは間違いないのですが、なるほど)


 先ほどから自分はエルフの女王と幾度か魔法を打ち合った。

 その際に、自分が魔力を発生させるのを察知したあの者が半分あてずっぽうにこちらを攻撃しているということに気が付く。


 しかしその攻撃はまるで散弾のように広範囲を連続で狙っているのだ。

 威力そのものはそうでもないが、無視できるほど弱くもないため、どうしても対応しなくてはいけなくなる。


 散弾状に魔法を放ってこの威力。

 いくらエステルナの魔力量が高いといっても無理があるはずなのだが。


(だが、これは一本取られました)


 どうやら幻惑下で身動きが取れない中で魔力をゆっくり時間をかけて溜めていたことにディスバルトは気が付く。


 幻惑下にあることでこちらが不意打ちを掛けれるはずが、幻惑下にあることで逆にこちらが意識の不意を突かれるとは思っていなかった。

 長年の戦闘の中で、自分が幻惑魔法を使うことそのものが珍しかったが、それを用いたうえで対抗されるのはさらに珍しいことだった。


(私もまだまだ精進が足りない、ということか?)


 もちろん自分に土をつけた者は過去にもいる。幻惑魔法を受けながら、こちらの攻撃をすべて無効化してのけたアルベウス様などがいい例だ。


 そんなたわいもない思考をしていたディスバルトは、直後もう一度驚くものを目の当たりにする。


(む? なんと!)


 エステルナに対応している間に、アルミナの全身を白色の魔力が包み込んでいた。

 その白い魔力が解き放たれ、アルミナは今後こそ完璧にディスバルトの方を向いていた。


「私の幻惑魔法を破るとは…」


 本来なら幻惑魔法は時間の経過で回復する。

 しかしそれを治癒魔法で治すとなるとよほど魔法を理解していないとできるものではない。

 幻惑魔法は解けた直後、同様の幻惑魔法に対して抗魔力がかなり高くなってしまう。


 つまり、この戦いではもう幻惑魔法は彼女には効果がないということになる。

 そして彼女の魔力が解き放たれたということは。


「あ、見えます!」


「治ったでやす!」


 と、能天気な声が響く。

 その声に連動するように、魔法使いの女と剣士がこちらを向く。


「…驚いた」


 幻惑魔法を破られたとあっては再び集中砲火を受けかねない。

 そのため飛行魔法を解除し、落ちるように城壁の上に戻る。


 そんな自分に、目の前の五人は再び対峙する。


「見事なものです。あなたたちは。特に…」


 そういってアルミナとエステルナを見る。

 

「しかし、どうやら私の仕事は終わりのようだ」


「…どういうことです」


 女魔法使いが私に問いかける。


「こちらの目的が果たされた、ということですよ」


 そういった瞬間、砦から少し離れた場所で、アルミナとエステルナの二人が魔法を放った時をはるかに上回る爆発が発生した。


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