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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
激突・魔王軍
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魔族の猛攻

 こちらは相手の攻撃が効かず、向こうにはこちらの攻撃が当たらない。


 前回森の中でゲイルと俺が戦った時の戦闘の内容をまとめると大体そんな感じだ。


 しかし何事にも例外はある。

 俺はからめ手を使ってゲイルに一撃を掠らせたし、ゲイルは魔技を用いて俺の防御を突破した。


 ゆえに、魔王が手を出さない現状でゲイルと対峙したとき、俺は再び森の中でおこったような戦いになるのだろうと思っていた。


 しかしその予想は大きく外れていた。


 突き出される槍を紙一重で回避する。


 魔王アルベウスが観戦し、無数の魔物たちに取り囲まれる中で俺はゲイルの槍攻撃を回避し続けている。

 理由は簡単。俺はすでにゲイルの放つ槍を幾度かその身に受け、その個所を負傷しているからだ。


 さっきから連続で打ち出される突きを紙一重で回避し続けているのだが、ゲイルの攻撃を反射神経任せで避けるとどうしても紙一重になってしまうのだ。


 反射神経任せだとどうしても必要以上に回避してしまう。

 そのためその隙をついてさらに次の一撃を放たれるという悪循環が出来上がっているのだ。


 ゲイルの攻撃は俺には効かない。

 そうそういう認識をしていたが、それは甘いの一言だった。


 今ゲイルが持っている槍は、その先端部分から暗い闇色の魔力が常に放出されている。

 さっきから何度かゲイルの攻撃が俺をかすめたのだが、その攻撃は俺にきっちり手傷を与えているのだ。


(こいつ、常に魔技を発動してやがる!)


 槍の穂先に集まる漆黒の魔力からは森で初めてゲイルと戦った時に魔技を使われたときと同じくらいの危険度があると俺の本能が訴える。


 間違いない。

 先ほど俺に激槍のゲイルと名乗った時点で見当はついていたが、こいつの得意武器は剣ではなく槍だ。


 さっきから放たれ続ける連撃の前に、俺は防戦一方になっている。

 大斧片手に、防ぎ、躱し、ゲイル相手に肉薄するチャンスを伺ってはいるのだが完全に防戦一方だ。


 さっきから大斧で攻撃もしているのだが、苦し紛れに放たれる攻撃はゲイルにあっさりと回避されてしまう。


 ジェストさんとの組手である程度戦術的な駆け引きを身に付けていたつもりだったが、それも所詮は付け焼刃。

 幾度となく繰り出されるゲイルの攻撃が態勢を崩した俺にいくつもの手傷を負わせてくる。


 それでもなお俺が戦い続けていられるのは、ゲイルの攻撃の直撃を受けていないということと、ゲイルから受けたダメージが急速に回復しているからだといってもいいだろう。


 息つく暇もなく繰り返される攻防。

 その最中、ゲイルが放った突きが俺の体制をひときわ大きく崩した。


(ヤバイ!)


 どうにかしなければと思ったが、ゲイルがこの隙を逃すはずなどあるはずもない。

 俺の左胸。おそらく心臓を狙って放たれた一撃の回避が無理と悟った俺は、とっさに体をひねって槍の矛先から心臓を外した。


 しかし無理な回避だったため、槍は俺の左腕の上腕部に刺さった。


(痛っ!!)


 激痛にのた打ち回りたくなるが、咄嗟に体に力を込めてそれを押しとどめる。

 ゲイルが俺の左腕に刺さった槍を引き抜こうしたが、俺がとっさに力を込めたせいなのか引き抜くのに少々梃子摺っている。

 

 チャンスだ!


 そう思い、俺はゲイルに向かって右手でもっていた斧を振りぬく。

 片手で扱っているため、多少大振りになるのは否めない。それでもまともな魔物には反応さえ許さない程度の速度を持った一撃だったのだが、ゲイルはとっさに身をかがめて回避した。


 そして俺の攻撃を回避した直後、ゲイルは俺の左腕に刺さっていた槍をあっさりと引き抜いた。


 驚いたことに引き抜く際にほとんど抵抗も痛みもなく槍が引き抜かれる。

 無論、槍が刺さっていたところは激痛が走るが、森で戦った時に片手剣を引き抜いた時と比べると引き抜いたときの痛みがまるでない。


 何か特殊な引き抜き方でもしたのだろう。ゲイルが俺の知らない戦闘技能を持っていても何の不思議もないのだから。


 槍を引き抜いたゲイルは、一度大きく後退し俺から距離をとる。

 先ほどゲイルに貫かれた左腕はさすがに一瞬で治るとはいかないが、出血そのものは少しずつ収まっている。


「…相も変わらず出鱈目な奴だな」


 少し離れたところで、槍を構えながら俺の様子を確認したゲイルが忌々しそうに口走る。

 

「何がだ?」


「森での戦闘ではこちらの攻撃がほとんど効かなかったからな。それを踏まえてお前にダメージを与えることができるこいつを持ってきたってのに、ダメージを与えられれば今度はそいつがたちどころに治っちまう。これを出鱈目と呼ばずになんといえばいい?」


 俺に向かってそういうゲイルだが、こちらとしては戦闘技術で圧倒しているうえに俺の防御力まで貫いてくるゲイルのスペックの方に感心する。

 実際、ゲイルの槍捌きも相当なものだが、あいつの持っている槍も凄まじい業物なのは言うまでもないことだろう。


「俺に効く槍を持ってきただと? まるで俺と戦うことがわかってたみたいな口ぶりだな」


 左腕回復までの時間稼ぎのつもりでそう軽口をたたく。

 しかし俺の回答に、ゲイルはわずかに口元を歪めて予想外のことを口走った。


「それはそうだろうよ。今回の大遠征の目的は、貴様を叩きのめすことが目的なんだからな」


「……は?」


 ゲイルの言葉に俺は文字通り目を点にする。

 魔王の目的はエストワール王国ではなく、俺だってのか?

 

「ちょっと待て。なんで俺が森から出たってことを知ってる?」


 ゲイルと戦ったのは森の中だ。

 その後の俺たちの行動などこいつに分かるはずなどない。


 そう思ったのだが、ゲイルは視線を少し落として話を続けた。


「お前が俺からぶんどったその剣。そいつはアルベウス様から賜った眷属武器だ。アルベウス様はたとえどこにあろうとも眷属武器の所在地をすべて把握することができる。そいつが森からエストワール王国に移動していたからお前がこっちにいるってことがわかったんだよ」


 ゲイルの言葉に、俺は完全に言葉を失った。


 つまり何か?

 今回の騒動はそもそも俺一人を狙って行われたものだってのか?


 俺のいるおおよその位置に見当がついたから、戦争でも起こせば俺と遭遇できるとでも思って国に喧嘩を売ったと?

 何百年も沈黙を守ってきた魔王が、俺をつぶすためにこんな戦争を引き起こしただと?


 混乱する俺に、ゲイルが槍を構えたまま腰を落とす。


「話はここまでだ。お前相手に持久戦は正直きつい。一撃で仕留めさせてもらうぞ」


 思考が定まらない俺の眼前で、ゲイルの矛先に魔力が集まる。

 あんなものが直撃すれば俺の体でも貫くことができるのは間違いない。


(回避しないと…)


 そう思って身構える俺は、しかし直後槍から放出された魔力に視界を覆い尽くされた。

 

「これは!」


 森の中で使われたこの魔法は、ダスク・レンブランスとか言ったか。

 ゲイルの槍に警戒するあまり、こいつに使われた幻惑魔法について完全に失念していた。


「覚悟しろ!」


 俺の耳にゲイルの声が響き、苦し紛れに後方に下がろうとする俺の体を、今度こそゲイルの槍が貫いた。






 アルミナのことをエルフの女王と呼ぶディスバルトと名乗る魔族とアルミナが対峙する。


 アルミナは空間転移という規格外の魔法を使って現れたゼストに対し。

 ゼストはそんな規格外の魔法での出現を探知されたことに対し、お互いが目の前の相手が難敵であると認識し、警戒心を最大限まで高めている。


 そして魔法使いであるエステルナとセルアも、目の前に突如現れた魔族に対して魔法の発動を構える。


 ジェストは剣を構え、シルバは弓を放り出して短剣を構える。


「これはこれは、かなり楽しめそうですね」


 そういうディスバルトは、口元を歪めたかと思うと突如その場から消えた。


「そこです!」


 ディスバルトが消えたと思ったその瞬間、アルミナがエステルナの後方に向けて風弾を放つ。

 風の弾丸がエステルナの後方で何かにぶつかり再び爆ぜる。

 

 風弾の炸裂した地点に、再びローブをまとった魔族が姿を現す。


「全く。これでは空間転移を使った奇襲ができませんね」


 そんなことを口にするが、ディスバルトの口調は淡々としており、一切の焦りもいらだちもない。


「エステルナ様から離れろ!」


 そう叫びながらジェストが剣を抜いて横薙ぎに切りかかる。

 その一撃を、ディスバルトは跳躍することで回避した。


「今です!」


 ディスバルトが跳躍し他のを確認したエステルナが右手に魔力を集める。


 魔力の色は青色。

 ほとんど瞬間的に水弾を放つ。


 その水弾がディスバルトに直撃するかと思った時、目の前の魔族は跳躍したその場からさらに上空に浮かび上がった。


「な!?」


 驚愕の声は誰のものだっただろうか。

 ローブをまとった魔族はそのまま空中に浮きあがっている。

 ローブが全身を隠しているため、まるで実態を持たない幽霊のようにさえ見える。


「まさか!?」


 その光景にエステルナが驚愕の声をあげる。

 空間転移魔法に加えて、目の前の魔族は飛行魔法、あるいは浮遊魔法と呼んでいい魔法を使っているのだ。


 しかも無詠唱。

 強大な魔力と、その強大な魔力を完璧にコントロールできる技量がなければできない芸当である。


「さて、今度はこちらから行きましょうか」


 そういうと、ディスバルトは両手をこちらに向けた。

 その両手に黒い魔力が集まる。


「闇魔法!?」


 再びエステルナが驚愕の声をあげる。

 しかしそんなものにいちいち取り合うディスバルトではなく、その両手から漆黒の弾丸が発射される。


「させません!」


 漆黒の弾丸が発射されたとき、その場に凛とした声が響いた。

 声の主はアルミナ。

 彼女も両手から風弾を放ち、迫りくる闇の弾丸を叩き落とした。


「ほほう。さすがにやりますね。しかし」


 ほぼ間髪を入れずに空中に浮遊する魔族の両手に漆黒の魔力が集まりだす。

 自らを空中に浮かせたまま魔法を連発するという荒業をいともあっさりやってのける目の前の魔族の潜在能力は底知れないものがある。


「アルミナさん。私も!」


 エステルナがそう宣言し、アルミナ同様に両手に魔力を集める。

 アミュレットによって強化された彼女も、ほとんどノーモーションで水弾を放つ。

 

 アルミナの風弾、エステルナの水弾、そしてディスバルトの闇の弾丸が衝突し相殺する。


 そして手数の関係から水弾と風弾がディスバルトに向かって飛来する。

 その二つの魔法に対し、ディスバルトは空中にて少し位置を変えるだけで回避した。


「まだですよ!」


 直後、ディスバルトに火球が迫ってくる。

 

「む?」


 そう声をあげたディスバルトは、咄嗟に右手に魔力を集め、迫りくる火球を弾き、軌道を逸らした。


 しかしその直後、火球の後方から一本のナイフが飛んでくるのを確認する。


「…」


 無言でそのナイフを回避する。

 ただし連続で意表を突かれたためか、飛行魔法で回避するのではなくとっさに体勢を変えることによっての回避ではあった。


 ナイフを回避したのち、ディスバルトは追撃を中止し下方を観察する。


 火球を放ったのはセルア。そしてナイフを投擲したのはシルバである。


「ふむ。こうまで遠距離攻撃を得意とする者達がそろっていては空中にいても的になるだけですね…」


 ディスバルトはそういうと、今度は全身から漆黒の魔力を放出しだした。


「させません!」


 その様子にエステルナが水弾を放つ。

 しかしこともあろうにディスバルトは全身の魔力の活性を一瞬で終わらせ、その魔法を発動させた。


「無明の空間」


 その一言が放たれた瞬間、周囲が闇に包まれた。


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