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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
激突・魔王軍
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砦の攻防2

「なんだ、あいつ?」


 砦の上から、俺は魔物の群れを見渡した際にたった一人の存在から目を離すことができなくなった。


 魔王アルベウス。

 その姿は、いつか侯爵邸で見た夢の中で出てきた奴と瓜二つだった。

 

 遠目からしか見ていないので断言はできないが、おそらく出で立ちのみならず身長や体格までそっくりだ。


 そんな魔王の周りを無数の魔物たちがひしめいているが、アルベウスの身長が頭二つくらいとびぬけているためとんでもなく目立っている。


 いや、目立っているのは確かだがそれは単純にでかいからではない。

 その存在感が桁外れなのだ。

 ただ目を向けるだけで視線をずらせなくなるほどに。


 俺がそんなこと考えている間に、エステルナ女王が魔法を放った。

 魔王アルベウスの近辺は魔物たちの密度が最も高い。

 そこを中心に大爆発が引き起こされる。


「な!? ちょ!?」


 その爆発の規模に唖然とする。

 魔物たちを撒きこむ大爆発は、まるで隕石でも落ちてきたのではないかといえるほどの衝撃を放った。


 さっきのアルミナといい、今の女王といい、本気で魔法を使ったらこんなバカげた威力があるのかよと絶句する。


(あんなの喰らったら俺でも無事に済む保証はないな)


 親衛隊の魔法でも危険だった俺だ。

 やっぱりというか、本気を出したアルミナと、アミュレットで強化されたエステルナ女王はエシュバットなんぞよりも強いくらいなんだろう。


 そんな感想を持ちながら戦況を眺める俺の耳に、一つの音が響いた。


 ズシン、ズシン。


 大地が揺れるようなその音は、先ほど女王の魔法が穿った方から聞こえてくる。


「…マジかよ」


 俺はその光景に絶句した。


 さっきアルミナとエステルナ王女が放った魔法は俺が食らっても無事で済むとは思えない程の威力があった。


 広範囲に拡散する魔法だから致命傷を負うまでは至らないだろうが、だからといって無傷とはいかない位の手傷は負ったことだろう。


 遠方からやってくる要塞野郎は文字通り無傷。

 あいつ、もしかして俺よりも頑丈だったりするのか!?


「女王様!」


 先ほどの魔法が効かないと分かった途端、アルミナが右手に魔力を集めながらエステルナ女王の名前を呼んだ。


 すると女王も右手に魔力を集めだす。


 なんかすごく嫌な予感がする。

 ゲイルが魔技を放った時や、エシュバットが魔法陣を張った時と同じくらい危険な感じが俺の頭に響き渡る。


 魔力がどこまでも右手に収束される。

 少なくとも訓練中にアルミナがあそこまで魔力を集約させたことは一度もない。

 

 あんな量の魔力をあそこまで圧縮したら、一体どうなるんだ!?

 そんなことを思いながら、俺は事の成り行きを見守る。


 次の瞬間、俺はわが目を疑う光景を目にすることになる。


 アルミナとエステルナ女王の右手からビームのような何かが発射されたのだ。

 

(な、なんじゃそりゃ!?)


 魔力を極限まで圧縮して、それを直線状に発射した。

 うん。説明してしまえばそれだけだけど、これまで見てきた魔法とは速さと威力が段違いだ。


 多分俺が万全の状態で警戒してても回避できないし、まともに受ければ防ぎきれんぞ!?


 そんなビームが魔王アルベウスに直撃する。


 そこで俺は息が詰まるんじゃないかと思うような光景を目にすることになる。

 魔王はこともあろうにそのビーム(みたいな魔法)を無防備に受けたのだ。


 しかしその魔法はアルベウスにたたらを踏ませるのみで、肝心の魔王そのものには一切のダメージが届いていないのだ。


 否、そもそも魔法が魔王の体に届いていない。

 今もなお放たれ続けている光線魔法(実際には風属性と火属性の魔力を圧縮しているようだが)が魔王の鎧にぶつかる直前で何かに阻まれているのだ。


 あんなに圧縮された魔法であれば城壁でも平然と風穴を開けそうなものだが、アルベウスはその魔法を正面から受け止めている。


 さすがに歩みを止めて踏ん張っているようだが、貫通力の高そうなあの魔法を受けて防ぎきっている。

 その防御力の高さに唖然とするしかない。


 あれでは俺でも歯が立たない可能性の方が高すぎる。


 アルミナとエステルナ女王も放っている魔法の効果が薄いと分かったのか、いったん魔法の発動を停止する。


「…どうやら魔法の攻撃ではアルベウスに有効なダメージを与えることはできないようですね」


「そうですね。私もまだ弟が使っていたような魔法陣は使えませんし…」


 そんなこと言いながら、魔法使い二人がこちらを向く。

 

 …まあ、魔法が効かないなら物理攻撃って考え方は分からなくもないんだけど…。


「…俺が行くしかなさそう?」


「…お願いできませんか、マサキさん」


 エステルナ王女が俺にそう問いかけてくる。

 正直言ってあんな化け物と戦いたくないんだが…仕方ないか。


「…行ってくる。二人は援護と砦の防衛を頼む」


「「分かりました」」


 二人がそう返事をするのを確認して、俺は砦から身を投げ出す。

 砦の上から飛び降りた俺は、魔物たちの群れと対峙する。


 俺が着地したとほぼ同時に魔物の群れが俺に飛びかかってくる。

 

「邪魔だ!」


 背負っていた大斧を手に取り、大きく振り回す。

 魔物たちの大半を一蹴し、残った魔物たちの攻撃を受けることになるが俺の体には当然ノーダメージだ。


 振り回した斧を反対方向にもう一度振り回す。


 まとわりついている魔物たちはほとんど無視。

 こちらに向かってくる魔物たちを大斧で屠る。


 こちらに向かってくる魔物たちは数がしれない。

 もともと砦に群がっていたばかりの魔物たちだが、突然降ってきた獲物にご執心なのか、連中の大半が俺に向かってくる。


 しかしそれは悪手だ。


 魔物たちが俺に向かってくるということは、それだけ密度が増すということ。

 そして魔物が密集すればそれは彼女たちの独壇場だ。


 右から俺に迫ってくる無数の魔物の群れの中心に、突如巨大な竜巻が発生する。

 左から来ていた魔物の群れについては、先ほど魔王の周囲にいた魔物たちを一掃した大爆発が巻き起こる。


 無論、こんなことできるのはアルミナとエステルナ王女の二人くらいのものだ。


「やっぱすごいな、あの二人」


 そんな感想をもらしながら、俺は群がってくる魔物たちを蹴散らす。

 正直放っておいてもいいんだが、まるで蟻の群れに群がられるように気分が悪いので、振り払いたくなるのだ。


 さっきから俺の警戒心は魔王ただ一人に向けられている。


 無数の魔物の群れに阻まれてすぐにはたどり着けそうもないが、あいつからは一瞬でも目を離してはいけないと思えてならないのだ。


 そうこうしていると、今度は俺と魔王の間にいる魔物たちの群れを烈風が切り裂いていった。


 何をしたのか詳しくは分からないが、アルミナあたりが魔王と俺が対峙するためにお膳立てしてくれたのは確かだ。


「正直言って、あんま相手したくないが、仕方ないな」


 そういって俺は魔王アルベウスに向かって一直線に駆け出す。

 途中で魔物たちが何匹か足止めしようとしたようだが、ダンプのように突っ込む俺にひかれて吹っ飛ばされる。


(小手調べなんて必要ない。全力の一撃を叩き込むのみだ)


 全力で加速し、思いっきり大斧を叩き込む。

 おそらくそれが今の俺にできる最大威力の一撃だ。


 魔王アルベウスまで、あと数メートル。

 そこまで接近したとき、魔王の影から何かが飛び出してきた。


 その飛び出してきた何かが、俺に対して尋常ではない速度で一撃を叩き込んで、俺の突進を止めてしまった。


「痛っ、お前は!?」


 その相手に、俺は深く驚愕した。

 

「久しぶりだな。あの一撃をまともに受けて無事とは、相も変わらず出鱈目な奴だ」


 そんなことを口にするのは、しばらく前にアルミナと出会った森の中で対峙した魔族。ダークエルフのゲイルだった。

 あの時とは違い、今回は薄手の金属鎧と、身の丈と同じくらいだろうと思える禍々しい意匠の槍を手にしている。


「おまえ…」


「ふん。改めて名乗るとしよう。わが名は激槍のゲイル。東大陸を統べる最古の魔王アルベウス様の忠実なる僕だ」


 最古の魔王?

 初耳だ。アルベウスにはそんな二つ名があったのか?


 最も、ゲイルにとってはただの通過儀礼のようなものだったのだろう。

 俺の疑問になど興味はないとばかりに槍を構え、俺と対峙する。


 正直言って目の前にいるゲイルも強敵なのは間違いないが、その後方に立ちはだかる巨漢の魔王アルベウスの方に対しても警戒を緩めることは到底できない。


 そんな俺の内心を知ってか知らずか、ゲイルはアルベウスに一言言い放つ。


「アルベウス様。この者の相手は私にやらせてください」


 ゲイルの言葉に、アルベウスは軽くうなずいた。

 アルベウスに背を向けているはずのゲイルは、しかしアルベウスが頷いたことを察したように笑みを浮かべ、その口元を歪めた。


「マサキ。いざ、勝負!」


 そう言って、槍を構えたダークエルフと俺の戦いが始まった。







 ドゴオオォォォォン!


 ジェストさん、シルバさんの二人と共に遅れて砦の上部に上ったセルアの眼下には、アルミナと王女様という強大な魔法使い二人によって蹂躙されていく魔物たちの姿が目に映っていた。


「スゴイですね…」


 セルアの言葉にシルバもとよりジェストさんも同意のようだ。

 エシュバット王子の一件があったため、エステルナ様についてはある程度予想がついていたのだが、まさかアルミナさんの全力がアミュレットで強化されたエステルナ様と同等とは思っていなかった。


 そんな二人の放つ広域魔法に巻き込まれ、魔物たちの群れは見る見るうちにその数を減らしていく。


 この砦にいた魔法使いの数もかなりのもののはずなのだが、二人の放つ魔法は彼ら放つ広域魔法とはその範囲も威力も段違いで、しかもそれを連発しているのだ。


「マサキ殿は?」


「今、魔王と戦っています」


 ジェストさんの質問に、アルミナさんが返答する。

 

「あれが、魔王、でやすか…」


 シルバさんが唖然としたような声をあげる。

 そしてそれは私も同じだ。


 魔物の群れの中に一か所、明らかに他とは違う場所がある。

 すべてを飲み込まんとせんばかりの魔物の群れの中において、たった一か所だけ四方八方から押し迫る魔物たちが飲み込めない場所がある。


 言うまでもない。

 あんな魔物の群れの中で戦える人など、私は一人しかいない。


「マサキさん」


 魔物の群れの中にたった一人で乗り込んでおいてなお、マサキさんの強さは圧倒的だ。

 そんなマサキさんめがけて魔物たちが集まってくる。


 そうして魔物たちが集まれば集まるほどアルミナさんたちの魔法によってまとめて粉砕されるということに魔物たちは気が付かない様子だ。


 このままいけば魔物の群れの襲撃は十分に阻止できる。

 そう思えるのだが、しかしどうしても不安がぬぐいきれない。

 

 理由はただ一つ。

 マサキさんと対峙している魔王が放っている圧倒的な存在感ゆえだ。


 まるで見ているだけで震えが来そうなほどの威圧感を放つ巨漢の魔王は、たった一人だけでも戦況をひっくり返しかねないような凄みを持っている。


「でも、マサキさんなら」


「ええ、やってくれます」


 私のつぶやきを聞き取ったアルミナさんが不安を掻き消すように力強く肯定してくれる。


「そのためにも、私たちは私たちにできることをやりましょう」


「はい!」


 アルミナさんに言葉にそう返事をして、私も魔力を右手に集める。


 城壁にへばりついている魔物たちを火球で撃ち落とす。

 ジェストさんとシルバさんは、私たちが持参した弓を用いて魔物たちを攻撃している。

 

 アルミナさんと女王様の魔法は攻撃範囲が広い代わりに、味方を巻き込まないようにするとどうしも討ちもらしが出てきてしまう。


 そんな魔物たちを私たちが仕留めているのを見て、もともと城壁を守っていた兵士さんたちも同じように魔物たちへの攻撃を再開する。


「この調子なら…」


 勝てる。

 ジェストさんが言おうとしたことをその場の全員が思った時、右手に魔力を集めていたアルミナさんが、当然魔法の発動を中断した。


「? アルミナさん?」


 今まで攻撃の要だったアルミナさんが魔法の発動を中断したことに対して女王様も魔法の発動を中断させる。

 あれだけの魔法を連発したのだから疲れたのかと思ったが、アルミナさんの様子を見る限りだとそういうわけでもなさそうで、何かに警戒しているように見える。


「どうかしたんですか?」


 そう質問する私に、アルミナさんは突然左手に魔力を集めだし、エステルナ様に向けてかざした。


「な、何を!」


 驚愕する王女様が防御のための魔法を発動させようとするが、突然の出来事で完全に後手に回ってしまっている。


 アルミナさんの手から風弾が放たれる。

 彼女ほどの魔法使いなら、基礎的な風弾など手が光ったのと同じタイミングで放つことができる。


 その手から放たれた風弾が、エステルナ様に向かい、その右肩をかすめるように通り過ぎた。

 かと思うと、その後方の何もない空間で何かにぶつかったように爆ぜた。


 何が起きたのかとその場の全員が風弾が爆ぜた場所を注視すると、その空間が突如として歪み、その歪みの中からローブを身にまとった者が現れた。


「いやはや全く、空間転移を見切られるとは恐れ入りました」


 細身をローブで覆ったその人物は、何もないはずの場所から突如として現れた。

 そのあまりに得体の知れない相手に、アルミナさんが話しかける。


「空間転移魔法はすでに失伝して久しい魔法のはず。それを扱えるとは、さぞ高名な魔法使いであるとお見受けしますが?」


「その空間転移の座標を見抜くあなたもなかなかに非常識ですね。…そうか、あなたがエルフの女王ですね?」


 その言葉にアルミナさんが珍しく眉を寄せる。


「…あなたは、一体」


「申し遅れました。私は魔王アルベウス様に仕える者の一人、ディスバルトと申します」


 と、さも当然のように目の前の魔族は自らの立場を口にした。


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