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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
激突・魔王軍
60/68

砦にて

 時は数日前にさかのぼる。

 第一砦にはとんでもない数の魔物たちが群がっている。


 人海ならぬ魔物海といった様相だ。

 本来であれば数に圧倒されていずれこちらが疲弊してしまうだけだろう。


 だが。


 ドゴオォォォォォォン!

 ドカアァァァァァン!


 砦の各所では間断なく魔法が炸裂する音が響き渡っている。

 エストワール王国には1000名に至ろうかという優秀な魔法使いたちがいる。

 その魔法使いたちの魔法は、今のように敵が大量にいるという状況でも問題にならない。


 否、むしろ的が多いため大規模魔法が使える者達にとっては格好の的といってもいい状況だった。

 エシュバット王子親衛隊の隊長であるアルモンド・エシュロスはその戦場を睥睨する。


「ふむ。圧倒的だな」


 魔王アルベウスは、これまで魔族たちを束ねておきながら我々人間の領地に攻め込んでくるようなことは無かった。

 今回なぜその暗黙の了解ともいえるようなそれを破り人間界に攻めてきたのかは知らないが、砦にへばりついてくる魔物たちは次から次へと竜巻や水弾。投石や豪火炎弾の餌食となっている。


 本来であればあのような魔法を次から次へと放てばすぐに魔力切れになってしまうのは間違いないが、今その魔法を放っているのはエシュバット王子の加護を受けた親衛隊たちだ。


 あの者達は、今の自分と同様に無尽蔵に魔力を消耗しても問題ない。

 そのため魔物たちの数がいかに多くても問題にならないのだ。

 今の我々に敵の数は問題にならない。


 問題があるとすれば魔王アルベウスをはじめとする魔族の者達位だろう。


 目の前の魔物の群れは多種多様な魔物たちが群がっている。

 ゴブリン。オーク。リザードマン。そしてゾンビのような亜人種。

 猪や鹿、虎のような動物のような魔物たち。

 さらにはスライムや植物、岩としか表現できないような魔物たちまでいる。


 そんな魔物たちは、我々がいる第二砦に向かっては魔法によってズタボロにされておしまいという光景が延々と繰り返されている。


 魔物たちには死ということに対する抵抗があまりないように思え、いつまでも学習能力のない一方的な行軍を繰り返している。


「いつでも来るがいい。返り討ちにしてくれる」


 いまだに見えぬ魔王と魔族たちに向かって、つぶやくようにそう口にするアルモンドは自らの勝ちを決して疑っていない。


「ならば返り討ちにしてもらいましょうか?」


 すると突如アルモンドの隣からそんな声が聞こえた。

 振り向くとその先には全身にローブを身にまとった一人の男らしき人物が立っていた。


「…貴様、何者だ?」


 いつの間にか自分の後ろを取られていたことに対して屈辱感のようなものを感じ歯噛みをしながらも、目の前の男の異質さについそう質問してしまった。


「申し遅れました。私は最古の魔王アルベウス様にお仕えするディスバルトと申す者です」


「…魔族か?」


 魔王アルベウスに仕える者。

 その単語から真っ先にそう連想するのが普通だろう。


「まあ、そうなりますね」


 なんとも呑気としか言いようのない返答をするが、この男からは不気味さのようなものをひしひしと感じる。


「取り囲め!」


 そう指示を下すと、アルモンドの部下たちがディスバルトを取り囲んだ。

 近接戦闘に長けた者達だ。

 目の前の魔族の実力は未知数だが、この戦力差を覆せるものではあるまい。


「かかれ!」


 その合図に合わせて全員が一斉にディスバルトめがけて襲いかかった。

 全方位からの同時攻撃、回避も防御もできないだろう攻撃が目前に迫っている。


 にもかかわらず、目の前の魔族はまるでうろたえていない。

 

 ヒュン! 


 そんな音が響いたと思うと、その場にいた魔族は突然アルモンドの後方に移動していた。


「何!?」


 あわてて剣を向ける。

 その剣先にはディスバルトと名乗った魔族がいた。


「貴様。今何をした?」


「何? ただ普通に移動しただけですが、見えなかったのですか?」


 なんでもないことのように告げるディスバルトに、アルモンドは戦慄した。

 部下たちも口々に疑問を口走る。


「馬鹿な! ただ移動しただけだと!?」


「ありえん! あの包囲をただ移動するだけで突破するなど!」


 そういって剣を構える。

 しかし目の前の魔族はまるでこちらのことなど意に介していないようだった。


「いいのですか? 私などにかまけていて?」


「…どういうことだ?」


 自分の回答に目の前の魔族はクスクス笑っている。


「私などにかまけていて、魔王様に対して何も対処しなくていいのですかといっているのですよ」


「…なんだと?」


 ディスバルトがそういうと、アルモンドの耳に異質な音が響いてきた。


 ズシン! ズシン!

 

 軽く地面が揺れるような音が響き渡る。


「なんだ、これは…」


「ご自分で確認なさってはいかがで?」


 そういうとディスバルトと名乗る魔族は魔物たちの軍勢の方を向き直った。

 まるでこちらのことなど眼中にないといわんばかりの行動ではあったが、そんな中であってもまるで隙を見出すことができない。


 そして今何が起こっていることを確認しなければならないと思い地響きが鳴り響く方向を自分もむいた。


 その先に、化け物がいた。


 魔物たちの中に一匹。いや、一人だけほかの魔物たちとはまるで違う巨漢がこちらに向かって歩んでくる。


 全身を鎧でおおわれているその姿は異形の一言。

 遠目で見る限りだと要塞そのものが動いているようにさえ錯覚してしまうような威圧感すら感じる。


「あれは…」


「お姿をご覧になるのは初めてでしょうね。あの方こそこの大陸の魔族を支配するお方である魔王アルベウス様ですよ」


 となりでディスバルトがそう説明する。


「…ふん。あのように鈍重そうな輩が貴様らの仕える魔王だと? 残念だったな。貴様らの主はここで死ぬことになるぞ」


 あの姿に威圧感を覚えたのは事実だが、だからといって怯むつもりは毛頭ない。


「全隊! あの巨漢の鎧を狙え! あれが魔王だ! 全力を持って仕留めろ!」


 ディスバルトに警戒しながらそう指示を下すと、親衛隊をはじめとする魔導師たちが自らの持つ最大威力の魔法の準備に入った。


 あの魔王は見るからに鈍重だ。

 回避することなどできはするまい。


「放て!!!!」


 合図に従い、千人にも達する魔導師たちの魔法が炸裂する。

 火の矢が、水の弾丸が、風の刃が、土の塊が、無数の軌跡を描きながら魔王に向かって飛来する。


 千人分の魔力が激突し、尋常ではない魔力の奔流がすべてを飲み込んでいく。


 魔力の奔流に飲み込まれた魔物たちはその身を粉々に砕かれていた。

 奔流の中にいる魔物たちはおそらく影も形も残しているまい。


「見たか? 貴様の主の最後を」


 剣を構えながら魔王の方を向いている魔族に告げる。

 しかし解せない。


 1000人からなる魔法の集中攻撃は、たった一人で魔導師をいくら屠っても発動を阻害できる類のものではない。


 しかしだからといって目の前の魔族は自らの主が狙われているのに全く気にしたそぶりも見せていない。


「ふふ。大した威力ですね。魔物たちが木っ端微塵だ」


 あまつさえそんなことを口にする始末だ。

 いったい何を考えている。


「何を笑っている。お前の親玉はたった今始末したぞ?」


「…なにをおっしゃっているのやら」


 こちらが剣を向けているにもかかわらず、目の前の男はまるで動じない。

 今目の前で魔王が滅ぼされたにもかかわらず、まるで気にしていない。

 直後、アルモンドはその余裕の意味を知ることになる。


「あの程度の魔法で、本当にわれらの王を滅ぼせるとお思いか?」


「……なんだと」


 ディスバルトの言葉に、思わず先ほど魔法を叩き込んだ場所を振り向く。

 魔力の奔流は収まっているが、土ぼこりが激しく視界が悪い。

 しかしそんな中で、耳に響く音があった。


 ズシン! ズシン!


「……馬鹿な」


 土煙の中から、魔王が現れたのだ。


 周囲にいた魔物たちは一匹残らず掃討されている。

 魔法が不発に終わったなどということはありえない。


「われらの魔王アルベウス様を、あの程度の魔法で仕留めようとは片腹痛い。今目の前にいるのは、我ら魔族同士の抗争に終止符を打ち、その力でもって1000年もの間我々の王として君臨されたお方なのですよ?」


 ディスバルトと名乗った魔族はそう歌い上げるように告げる。


「ちっ! 全軍! 魔王に向けて攻撃を続行しろ! 奥の手を使っても構わん! 最優先目標だ!」


 そう叫ぶと、親衛隊たちの全身が色とりどりに輝きだした。

 距離が離れていてもアミュレットの加護は健在。

 そのため親衛隊たちは魔法を無尽蔵に使うことのできる状態になり、魔王を数と力で圧倒してしまえばいいという結論になるのだ。


「ほう。これはこれは」


 ディスバルトも目の前でおこっている現象に感心している。


「余裕を見せていられるのも今のうちだけだ」


 部下たちに続き、アルモンド自身もアミュレットの加護を開放する。

 全身に赤色の魔力が放出され、周囲にいる部下たちもそれぞれが得意とする属性の魔力光に従い全身を輝かせる。


「仕留めろ!」


 そう合図をしたと同時に、ディスバルトに向かって魔法が炸裂する。

 点ではなく面。

 今度は城壁の上で、ディスバルトのいたところを中心に魔力の奔流が巻き起こる


 魔王アルベウスにはどういうわけか効果がなかったが、ディスバルトとやらにまで効果がないはずはない。

 そう思った時。


「見事な魔力ではありますが、力の使い方はお粗末の一言ですね」


 また後ろから声が聞こえた。


「なに!?」


 そう驚愕したとき、後方で先ほど魔法を唱えた部下たちの数名が糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。


「…まさか、空間転移!?」


 アルモンドの言葉に目の前のローブの奥にある口がにやりとゆがんだのが見えた。


「ようやく気づかれたようですね」


 肯定を示すその言葉にアルモンドは絶句する。

 空間転移魔法。

 そのあまりの難易度ゆえに習得不可能とまで言われる禁術。


 アミュレットの加護を受けた自分たちでさえ再現するのは不可能。

 魔力の消耗もそうだが、発動難易度そのものが高すぎるため、魔力任せに発動することは不可能な魔法なのだ。

 それを単身で、何の苦もなく行ったという事実に幾度目かの戦慄が走る。


「ふふふ。驚かれるのも結構ですが、よいのですか?」


 ディスバルトそういうと魔王アルベウスの方を向いた。

 隙としか言えないその瞬間を、しかし狙うことができず、言うアルベウスの方に視線を動かしたアルモンドは、そこでさらに深く言葉を失った。


 全身を輝かせる親衛隊たちが、全身からあふれ出す魔力を高等魔法に乗せ魔王に叩き込み続けている。。


 そんな魔法を連続で受けているのにもかかわらず魔王には足止めにもなっていない。


 いや、そもそも魔法が魔王アルベウスに届いてさえいない。

 まるで見えない壁にぶつかって阻害されているかのように、親衛隊たちが放つ魔法が魔王に激突する直前で炸裂している。


 そしてその魔法は、余波に至るまで魔王の元には届いていないのだ。


「き、効かない!?」


 兵士たちの中からそんな悲鳴が聞こえる。

 そしてそれはアルモンドから見ても同じ感想となる現象であった。


「あれは…一体」


 魔王の歩みそのものは遅いものではあったが、その防御力は凄まじく、あの魔法の集中攻撃を受けても一切歩みが緩まない。


 そのまま城壁付近まで歩み寄り、魔王はそのまま突き進む。

 

 そして、魔王が触れた城壁は、まるで砂糖菓子か何かのようにあっさりと崩れ去った。


「馬鹿な!?」


 その魔王がこじ開けた穴から無数の魔物たちがなだれ込む。

 魔王の進行を阻止するために魔導師たちは尽力しているため、穴に向かう魔物たちを阻止するには完全に戦力が足りていない。


「この砦は落ちましたね。では、これで失礼します。もうこちらに用はないのでね」


「ふ、ふざけるな!」


 アルモンドは全身からほとばしる炎の魔力を右手の剣に集める。

 魔技『炎剣』


 アミュレットの加護を受けた今、その威力は城壁さえ砕くほどの威力がある。

 親衛隊たちの中でも間違いなく最大規模の威力を持った一撃だ。


「この場で、貴様だけでも」


 そういってアルモンドはディスバルトに切りかかる。


「…あなたは多少使えるようですが、私が相手をするまでもない。その者の相手は任せましたよ。ゲイル」


 ディスバルトがそういうと、突如一人の槍使いが現れ、アルモンドの炎剣を受け流した。


「なんだと!?」


 突如現れた相手にも驚愕したが、魔技を受け流されたということに対して、アルモンドはより強く驚愕する。


 突然現れた槍使いの姿を確認する。


 その手には漆黒の禍々しい意匠が施された長槍を手にしたその男の姿を確認したとき、アルモンドは思わず問いかけた。


「ダークエルフ…また魔族か」


「だったらなんだ?」


 そっけなく返事をした目の前の魔族に対して、アルモンドは再び剣を構える。


「なに。倒す相手が二人になっただけの話だ」


 そういってアルモンドは全身から赤い魔力を放出する。

 アミュレットの加護は当然アルモンドにも健在。

 これにより、アルモンドの剣には常に魔力が宿り、魔技を常に発動させることができるようになる。


 その様子に、目の前のダークエルフは顔をしかめる。

 当然だ。本来なら一度発動させることさえ困難を極める魔技が常に発動するのだ。

 手練れであればその厄介さがよく分かることだろう。


 しかし次の瞬間ダークエルフが口にした言葉は予想外の一言だった。


「お前、そんな下らん魔力の使い方をして俺に勝てる気でいるのか?」


「何を! なら、その身で試してみるか!」


 そういってアルモンドはゲイルに対して突撃する。

 それに対してゲイルは槍の矛先に魔力を集めだす。


(なるほど。こいつも魔技を使えるというわけか。しかし浅慮! こちらは無尽蔵の魔力を持つがあいつはそうではあるまい。魔技同士で打ち合い続ければ、すぐにでも奴の魔力が切れる!)


 魔技というのは一度発動すると広域魔法並みの魔力を消耗する。

 そのため、アミュレットの加護なしではアルモンドもそう何度も使うことができないのだ。ゆえに魔技を使い続けられるこちらの勝利は動かない。

 そう確信するアルモンドは、しかし次の瞬間に自分の浅はかさを思い知ることになる。


 ゲイルの長槍の間合いに入った瞬間、電光石火と呼ぶしかない速さでゲイルの槍が突きだされたのだ。


(な、速い!)


 とっさに剣で防ぐアルモンドだったが、ゲイルの攻撃は当然止まらない。

 剣の間合いに入ることもできず、アルモンドは槍の攻撃をひたすら受けるのみだった。


 そして打ち合ってわずか数合。

 アルモンドの持っていた剣が鈍い音を立ててへし折れた。


「ば、馬鹿な!?」


 驚愕の声をあげるアルモンド。

 魔技の発動により、剣の強度そのものも増しているはずなのにもかかわらず剣はあっさり取れてしまった。


 そんなアルモンドの様子に、ゲイルが槍を構えて一言口にした。


「やはり力の使い方がまるでなっていない。魔技で重要なのは武器の性質をどこまで強化できるかであって、魔力を垂れ流せばいいというものではない。魔力量では貴様の方が上だが、矛先に集約された魔力密度は俺の方が上だった、というだけだ」


 そういうと、ゲイルはアルモンドの咽元を槍で一突きし、その命を奪った。


「ヒッ、ヒイイィィィィイ!」


「そ、総隊長!」


 周りにいた者達はその惨状を目にして完全に取り乱している。

 ゲイルの後方で様子を見ていたディスバルトはその者達に向き直り宣言する。


「別に我々に刃向わなければ手を出したりはしませんよ。さて、行きましょうか、ゲイル」


 そう言い放つと、ローブの魔族は槍を持った魔族と共に再びその場から掻き消えた。

 空間転移による移動である。


「た、助かった、のか」


 親衛隊の者達はそういってひざを折る。


 しかし彼らは気づいていない。


 魔族たちは彼らを狙わなかったが、今この場には、話し合いの通じない魔物の群れたちが無数に存在していることを。

 





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