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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
激突・魔王軍
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戦後の話

「アルミナ」


 ずっと俺の様子を見てたのか?

 ああ、いや、彼女の場合また気配探知の応用かなんか使ったんだろう。

 ものすごく敏感なんだもんなーアルミナは。


「マサキさん。その本の内容を読んでみて、いかがでしたか?」


 アルミナにしてはずいぶん話を急かすな。

 とりあえず俺が今思っていることをそのまま伝えてみることにしよう。


「まず、俺が夢で見た奴は…たぶんヘルモスで間違いないと思う」


 姿がそっくりというだけでは確信出来はしなかったのっだが、この本に載っている内容の中には俺の夢の中に出てくる事実に合致するものがあった。


 エルフの里にいた時と、その里から出た直後くらいに見た夢には、とんでもない大きさと強さの大虎と戦闘をしていた夢だった。


 あの時、大虎の牙に一瞬移った姿。

 忘れるはずもない。あの姿を。


「そうですか・・・」


 アルミナは何か考え込むように左手を顎に当てている。


「ただ、なんで俺がそんな奴の夢を見るのかとか、俺の体についてはまるで心当たりがないんだ」


 異世界からこの世界に来た時点で分からないことだらけだった。


 なぜ俺がこんなよく分からない世界にやってきてしまったのか?

 なぜこんなとんでもない力がこの身に宿っているのか?


 そしてその謎はさらに深まってしまった。

 俺のぶっ飛んだ身体能力は、かつてヘルモスと呼ばれた英雄が身に着けていた代物らしい。


 俺の返答にアルミナが答える。


「英雄ヘルモスの生涯には、たくさんの憶測がなされています。今現在最も有力視されているのが魔神によって洗脳されていたというものです」


「洗脳…か」


 当時大陸を駆け回り、英雄とまで呼ばれるほどの功績を打ち立てたヘルモス。

 そんな奴がこの世界に魔物を生み出す手伝いをしたといわれれば、確かにどう考えても辻褄が合わない。


(というか、魔物ってのは少なくとも魔神が召喚する前には生息していなかったってことになるのか?)


 そんな疑問が浮かぶが、とりあえず今はヘルモスの事だ。

俺についてもヘルモスについて知っていることなんてこの本で読んだことだけだ。


 英雄譚から一転、世界を支配しようとした魔神の守護者となる。

 確かにそこだけ聞くと


「ヘルモスは、洗脳されて魔神に従っていたってことなのか?」


 ボヤキにも似た俺の一言に、アルミナは


「…私にはわかりません」


 そうつぶやいた。

 うん。俺にもわからない。


「ただ。魔神の守護者として最後まで残った四人は皆魔神に強力な洗脳をかけられていたのではないかという見方が一般的なようです」


「…そっか」


 俺の口から洩れたのはそれだけだ。

 正直色々な情報が俺の頭の中でぐるぐる回っている。

 唐突に異世界に飛ばされて、俺はヘルモスとやらとそっくりの能力を身につけていた。


 さらに俺の夢にヘルモスらしき人物が出てきて、あまつさえそれが俺のデザインした絵本の主人公そっくりだった。

 

 自分の右手に視線を下ろす。


 今この右手は、かつての俺のものとはまるで違う。

 そこら辺に落ちている石ころを握りつぶして粉状にすることもできるだろうし、投擲すれば見えなくなるまで飛んでいくことだろう。


 かつて俺は思ったはずだ。

 この力がなぜ俺に宿っているのかを知りたいと。

 ヘルモス。


 この人物を知ることがそのままこの力のことを知ることにつながるというのなら、俺は、ヘルモスのことを知らなければいけないのだろう。


「アルミナ。ヘルモスについてほかに知っていることは何かないか?」


「大まかなことはこの本に書かれている内容だけです。ほかの本についてはヘルモスの行動について個々人の見解が書かれているだけです」


 アルミナはすでにこの書斎の本のほとんどを読み明かしている。

 そんなアルミナが知らないというなら俺が調べても何かわかるというものではないだろう。


「そうか。残念だな」


「…マサキさん。もう一つ聞いてもいいですか?」


 アルミナがおずおずと俺に尋ねてくる。

 今更そんな行動されるのに対して意外に思いながらも、アルミナを促す。


「ああ。なんだ?」


「マサキさんは、グラングラストについてはどう思われましたか?」


 グラングラスト?

 魔族を束ねて世界征服をしようとして、それが失敗して何を思ったのか魔物をこの世界に召喚し、世界に天変地異を起こして魔神と呼ばれた奴の事か?


「……どうといわれても」


 正直ヘルモスの事だけでお腹いっぱいで魔神の事なんて考える余裕がない。


「…いえ、余計なことを聞きました。忘れてください」


 そういうとアルミナはあっさりと引き下がった。


「いや。気にしなくていいよ。他には何かある?」


「いえ。他には特に」


 そういうとアルミナは書斎を後にした。

 今更気が付いたことだが、セルアとシルバの二人はずっと別の本とにらめっこしていたようだ。


 俺が立ち寄ると、二人とも本から目を離してこちらを向いた。


「マサキさん! 本読み終わったんですか!?」


 セルアが早速食いついてくる。

 さっきアルミナと話していたのにまるで気が付いていなかったのか?

 そんな疑問が浮かんだが飲み込む。


「ああ、さっきの本は一通り」


「で、どうだったんでやすか?」


 シルバの奴まで食いついてくる。


「どう、と言われても、二人は何が知りたいんだ?」


「マサキさんが何者かってことですよ!」


「でやす!」


 息ぴったりでそう俺に言い寄ってくる二人組。

 どうやらこの二人の中で俺は相当人間離れしているカテゴライズらしい。


「俺が何者かって…普通の人間じゃあないのか?」


「普通の人が魔法を受けたら重傷です!」


「そうでやすよ! 切られても切り傷が付かないなんてどう考えても普通じゃないでやす!」


 相変わらず息ぴったりな二人組に半分呆れながら聞いてみる。


「いったい俺が何者だと思ってたんだ?」


 俺の何の気なしの質問に足して、セルアが待ってましたとばかりに目を輝かせた。


「例えば英雄ヘルモスには隠し子がいて、マサキさんはその末裔で、そのせいで英雄ヘルモスの力を受け継いでいたとか!」


 む?

 セルアにしてはいいところをついている…ような気がする。


 伝承にはヘルモスが誰かと子を成したということは記されていない。

 そのため隠し子が現在まで受け継がれ、そいつがヘルモスの不死身ぶりを受け継いでいた。


 話の筋は通っている。

 が、だ。


「セルア。俺はまず間違いなくヘルモスの末裔ではないぞ」


 そうバッサリと切り捨てた。


「あり得ないって言いきれますか!?」


「ああ、間違いなく」


 なおも食い下がるセルアに容赦なく事実を突きつける。

 なんて言ったって生まれ育った世界がまるで違うのだ。

 どうやって俺の家系にヘルモスの血が混ざる可能性がある?


「でも、でもー」


 なおも自分の説(願望)を押すセルア。

 俺が異世界から来たということを説明してやってもいいのかもしれないが、話がさらにぶっ飛びそうなのでやめておく。


「別に証拠があるわけではないから、もしかしたらその可能性もあるかもしれないけどな」


 俺がさりげなく前言を撤回してやると、セルアは突然目を輝かせて


「で、ですよね! ですよね! 可能性はありますよね!」


 とか言って飛びつかんばかりにこっちの顔を覗き込んできた。

 サンタクロースを信じたいお年頃なのだろう。


夢は壊さないでいてあげよう。


「結局旦那は、あの本の話を知らなかったんでやすか?」


 セルアの陰からシルバがそう話しかけてきた。


「ああ。さっき初めて知った」


「…英雄ヘルモスと、初代エルトワール国王。それに魔王や魔神の存在は、あっしみたいな田舎者でも知ってるような有名な話だったんでやすが、まさか旦那が知らなかったとは…」


 へー。

 そんなに知られているのか。


 シルバはあまり文字が読めないににもかかわらず知っていたということは、口伝か何かで伝えているということになるな。


 そうまでして伝えられるほど重要なことだってことか、英雄ヘルモスってのは。


 だったら疑問はさらに深まる。

 なんだってそんな奴の力が俺に宿っているってんだ?


 それに、エシュバットとの最後の戦いで体の主導権を奪われたようなあの感覚。

 アルミナが何かしてくれなければまず間違いなくエシュバットを絞め殺して・・・。


 そこまで考えて俺はふと思い返した。

 アルミナはあの時、明らかにほかのみんなとは違うものの捉え方をしていた。


 彼女がエシュバットのアミュレットに触れたかと思った直後、そのアミュレットはひとりでに浮き上がり、そののち俺の体は元通りになったのだ。


(あの時のことをアルミナにきいておく必要があった!)


 騒乱の直後ということもあって、そんなこと放っておいてさっさと休んでしまった上に、今なおヘルモスの話で盛り上がってしまったためすっかりそのことを忘れていた。


「あー。二人とも。少し野暮用ができた。俺は席を外す」


「えー。野暮用ってなんですかマサキさん?」


「野暮用だそうでやすよセルア嬢。詮索しないほうがいいでやす」


 セルアが俺に食い下がってくるのをシルバが制した。

 なんだかんだでこいつ色々空気読めるよなーなどと思いながら


「まあそういうことだ。失礼する」


 と一言残して俺はアルミナに割り当てられた部屋に向かった。






「ふう」


 王城にてエステルナ王女は貴族たちとの対談を繰り返していた。


 今はその休憩時間だ。

 マサキさんたちの協力のおかげで、エシュバットは捕縛され、アミュレットは父の首にかけなおされた。


 いまだに意識は戻らないが、主治医の話では数日中に目を覚ますだろうとのこと。


 あのアミュレットは、所有者の体力を回復させるような力さえあるのだろうか、まだ一晩しかたっていないというのに父の呼吸は落ち着き、顔色がよくなっているのだ。


 そのため父の看護はほかの人に任せて、現在は騒乱の後片付けをしている最中だ。


 弟に組していた貴族たちのほとんどはすでに捕縛され、バシュトシュタイン侯爵をはじめとする反エシュバット派の貴族たちが中心となって新しい国政の方針を決めているところだ。


 以前、血判状を集めてきた貴族たちもその改革派のメンバーなので、正直彼らを疑うつもりはない。


 今私がやっているのは、バシュトシュタイン公がまとめてきた稟議案について目を通しているというだけ。


 バシュトシュタイン公は相当いろいろな部分を手まわしていたようで、今朝登場するやいなや、エシュバット派の貴族たちを捕らえ、私を次期女王にするという方針を固めるという離れ業をやってのけた。


 いったいどれだけ入念に準備していたのかまるで見当がつかないが、今回の騒乱で最大の功労者は間違いなくバシュトシュタイン公だろう。

 それこそ侯爵から公爵に格上げしてもいいくらいの功績があるが、父が危篤である現在では私に貴族任命の権限はない。


 しかしエシュバットに加担していた貴族の中には公爵家も含まれていたので、必然的に誰かを公爵に任命しなければならなくなる。

 とはいっても、今私がするべきことなど父が目を覚ますまでにこの国を少しでも安定させることくらいのものだ。

 数日中には王である父も目を覚ますだろう。


(ここでも、私は皆さんに頼りっぱなしですね)


 この国最高峰の魔法使いと呼ばれていながら、先の騒乱ではマサキさんたちにおんぶにだっこだった。


 そして騒乱が収まった今でもなお、貴族たちが陰で準備を進めておいてくれたからここまで持ち直すことができた。


 何一つ、自分ではやっていない。


 そのことを思うとやはり心が重たくなるが、それでも休まずに侯爵がまとめてくれた資料に目を通す。


 それが、今私がするべきことだからだ。

 しかし執務に励みながらも、エステルナはその執務に完全に集中することができなかった。


 一つは自らのための騒乱で活躍してくれたマサキ、アルミナ、セルア、シルバの四人に対して、まともにお礼の一言も言えていないということ。

 そしてもう一つが


(魔王が、動き出した)


 1000年の沈黙を打ち破り、ここ東大陸の魔族を統べる魔王がこの国に向かって動き出している。


 その期に乗じて自分を助け出すという離れ業をやってのけたバシュトシュタイン公だったが、弟が派兵した軍隊が今どうなっているのかはまだ伝令が飛んでこないので何とも言えない。


 その二つが心に残り、公務に集中しきれないでいる。

 今心配しても仕方がないと分かっていてもだ。

 そんな中、エステルナの部屋の扉が叩かれた。


「どうぞ」


 そういうと、召使の一人が入ってきた。

 こちらに向かって深くお辞儀をする召使は


「エステルナ王女様。国王様が目を覚まされました」


 という話を持ってきた。


「それは本当ですか!」


 思わず手に取っていた羊皮紙を手じかな机に置いて立ち上がる。


「はい。そして国王様は王女様との面会を強く希望しておられるようです」


 召使からの言葉に、エステルナは二つ返事で頷いた。


「今すぐ向かいます」


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