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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
激突・魔王軍
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英雄ヘルモス

「大英雄ヘルモス?」


 俺がデザインしただけのキャラクターが、異世界に存在していた?

 それもその昔、大英雄として名をはせたような人物として?


 あまりに唐突な事実を突き付けられたせいか疑問以外何も湧いてこない。

 混乱する俺にセルアとシルバが追い打ちをかける。


「この絵見てください。さっきマサキさんが書いたのとおんなじでしょう?」


「そうでやすよ。いきなり旦那が英雄ヘルモスの肖像画みたいなの描きだすからいったい何事かと思いやしたよ」


 俺はライブで何事かと思っているのだが。

 セルアとシルバが俺を質問攻めにしようとするすんでのところでアルミナが話を切り出した。


「マサキさんは英雄ヘルモスを夢に見るといっていましたよね?」


 うん。まあそういった。

 あれを夢とカテゴライズしていいのかは、はなはだ疑問ではあるが。


「ああ、まあそうだ」


「だとするといろいろ納得できることもあります」


「というと?」


「旦那の不死身っぷりとかでやすか?」


 アルミナが答える前にシルバがそう切り返した。


「はい。その通りです」


 アルミナがシルバの問いを肯定する。

 つまり俺が不死身なのはヘルモスと何か関係があるってことか?


「ヘルモスってのは、そんなに撃たれ強い存在だったのか?」


「勿論ですよ!」


 つい口を出てしまった質問に返答したのはセルアだった。


「大英雄ヘルモスは、別名不死身の英雄と呼ばれいる超人です。もともとすごく強かったのに、不死身になってからのヘルモスは村ひとつを焼き尽くすようなドラゴンブレスや、大地を穿つ流星をその身に受けても生き延びたんですから!」


 と自信満々に説明するセルア。

 彼女はどうも強いやつとか、すごいやつとかが琴線のようだが、それは過去の人物にも該当するらしい。


「ってそりゃ伝承だろ?」


 と俺が空気を読まない返答をすると。


「・・・それはそうですけどー」


 ほほを膨らませてそんなこと言いかえすセルア。

 今の世界地図がどんなのかは知らないが、大陸が一つだったといえるほどに昔の話が誇張されていないわけがない。


 それが大英雄とかほのめかされているならなおさらだ。

 隕石がぶつかっても平気ってどんだけだよって感じだ。


「英雄ヘルモスについてはこちらに詳しく書かれていますから、後程読まれてみてはいかがですか?」


 アルミナはそういうと、本棚から取り出してきたらしき本を一冊渡してきた。


『大英雄と呼ばれた男とその最後』


 なんとも御大層なタイトルがついている。

 とはいっても今から読み始めては文字通り日が暮れてしまう。

 アルミナも後程読むことを薦めてきているので、とりあえずいま読まないといけないというものではない。


「アルミナ。この本には、その、英雄ヘルモスのことが書かれているんだよな?」


「ええ。かいつまんで説明すれば、ヘルモスが大英雄と呼ばれるにいたった偉業の数々を記した前編と・・・」


 アルミナは少し言葉を濁したのち説明を続けた。


「魔神の守護者となる後編に分かれています」


「魔神の守護者?」


 魔王という存在なら聞いたことがあるが、魔神というやつは初耳だ。


 というかさっきから寝耳に水な話がどんどん流れ込んでくる。

 ヘルモスってやつは世界中を旅して大英雄と呼ばれるくらいの偉業を何遂げた後、魔神とかいうやつの守護者になったと?


「その魔神ってのはいったい何者なんだ?」


「魔神ってのは、その昔この世界を支配しようとして、その野望が阻まれて、今度は世界を滅ぼそうとしたこの世界の歴史上最悪の存在でやす」


 俺の質問に答えたのはシルバだ。

 方言は相変わらずだが、的確な説明だ。


 しかし。


「ええっと?? 大英雄と呼ばれたヘルモスが、そんな奴の配下になったっていうのか?」


 どうも情報が断片的すぎて話の全体像が見えてこない。

 このまま話をしても混乱するだけに思えてならないな。


「なあ三人とも。話の続きは俺がこの本を読んでからでいいか?」


 俺の提案に対して


「そうですね。その方がいいでしょうね」


 とアルミナ。


「分かりました。お待ちしてます」


 と、これはセルア。


「へいでやす」


 んでシルバも了承。


 俺についてもあの謎めいた夢と、このわけの分からん体の手がかりになるというのなら読み込んでみる価値はある。


 俺はアルミナより手渡された『大英雄と呼ばれた男とその最後』を読みだした。






 ヘルモス。

 かつて大陸が一つであった時代。

 そのエストハイムと呼ばれる大陸の東の果ての小さな村で生まれた大男。

 ヘルモスは生まれつきほかの者達よりも力が強く、村人たちからはとても重宝されていたらしい。

 幼少期の彼ですら馬二頭で引っ張るような馬車を一人で軽々引っ張ってのけるような体力の持ち主。

 そんなヘルモスは、成人したころから明らかに人間離れしていくようになる。

 ほかの者達よりも頭二つ分は高い身長に、鋼のような肉体。

 もはや村人という枠には収まりきらなくなった彼は、自然とその足を世界へと向けることになった。


 そして彼は世界を知ることになる。


 辺境の村にいた彼は知らなかったが、当時の大陸エストハイムでは、魔族と人、人と人、あるいは魔族同士が果てのない殺し合いをしていたのだ。

 そんな中、村という狭い空間の中では生かしきれなかった彼の力は、世界に触れたことで開花する。

 果てのない殺し合いに巻き込まれるだけの力ない人たちに、ヘルモスは躊躇うことなく手を差し伸べた。

 魔族たちの侵略から、盗賊たちの略奪から、権力者たちの暴政から、その手を血に染めながらもヘルモスは戦った。

ヘルモスは戦うばかりではない。

町と町をふさぐ山にトンネルを掘り、湖の主を仕留めて安全に漁業ができるようにしたり、彼は行く先々で様々な問題を解決していった。

 人々から頼まれ、自分にできることであれば何でも二つ返事で引き受けた。

 そうして彼は世界をめぐる。

 行く先々で、その力を行使しながら。

 そんなヘルモスは、いつしかエストハイム大陸のほぼすべてを横断していた。

そのため、並みの者とは比べようもないほど見聞を広めてもいた。

 ヘルモスは決めた。

 もう一度世界を回ろうと。

 そしてヘルモスは英雄となる。

 人の常識をはるかに超えた身体能力と、世界中を見て回った深い見識。

 その二つに加え、一度目の大陸横断で得た絶大な名声。

 そんなヘルモスの名は、あっという間にエストハイムに広まっていった。

 





 大雑把に前半をまとめるとこんな感じだ。


 もともとただの村人だったヘルモスは、生まれつき強大な力を持っていた。

 そして、その力を惜しむことなく周りの者達のために使った。


 ここだけ読めばまるで俺が執筆した絵本の主人公そのものだ。

 キャラクターデザインだけではなく、生まれ育った経緯までそっくりとは、いったい何の偶然だ? としか思えない。


 しかしここまで読んだだけではヘルモスが不死身という描写は一切出てこない。


 三人は俺の不死身っぷりがヘルモスと似通っているといっていたが、今のところそれらしい記載はない。


 だとすると後半、アルミナが言っていた、魔神の守護者になったあたりの話になるってことか?

 疑問たっぷりのまま、本の続きを読みだした。






 ヘルモスは大陸二度目の横断の際に、様々な変革をもたらしていった。

 一度目の時は力任せに解決することが多かったため、二次災害や弊害が起こることもあった。

 経験を積んだ二度目の旅ではそれがない。

 また、人々の嘆願以外にもたくさんの業績を上げだしたのもこの時期からだ。

 狂暴な動物たちが村を襲う原因が、近くの平原にいる突然変異した巨大虎だということを自ら突き止め、その虎を仕留めるために単身その化け虎の住む平原に向かったりしたらしい。


 ってもしかして夢の中で見たあの馬鹿でかい虎ってこいつの事だったりするのか!?


 さすがに虎の挿絵まではないが、ヘルモスが戦利品でとってきた虎の牙が大人の腕ほどの大きさがあったというからまず間違いあるまい。


 なんかいろいろ信憑性が出てきた。

 とりあえずもう少し読み進めてみよう。

 

 二度目のエストハイム横断の際に、ヘルモスはそれまでの生き方を一変させる出来事が発生する。

 のちに魔神と呼ばれる男、グラングラストとの遭遇である。

 その当時、グラングラストは世界中の魔族たちを力でもって束ね、その当時最大規模の軍事力を保有していた。

 そんなグラングラストとヘルモスとの間にどのようなやり取りがあったのかは分からない。

 ただ、そののちヘルモスの人生は一変する。

 何思ったのか、ヘルモスはグラングラストの軍門に下り、その中にあって頭角を現し、グラングラストの十二の守護者の一人になる。

 ヘルモスはその際、グラングラストより加護を受け、その身に不死性を宿したらしい。

 そののちのヘルモスは、グラングラストの魔族統一計画の先兵となる。

 セルアが言っていた、ドラゴンやら隕石やらはこの辺りに軽く書かれている。

 魔族を統一する過程でドラゴンを服従させている魔族や、巨大な隕石を生み出せる輩と戦うこともあったらしい。

 弱肉強食を是とする魔族たちは、己よりも強いものに対して服従する傾向にある。

 ヘルモスは持ち前の怪力に加え、加護によって不死身となったため、さっき挙げたような魔族たちであってもまるで歯牙にもかけず次から次へと勢力を拡大していった。

 ヘルモスの活躍も相まって、グラングラストは世界中の魔族たちをほぼ完全に掌握した。

これに伴い、魔族同士の覇権争いに終止符が打たれた。 

 魔族たちを束ねたことにより、事実上世界で最も強い軍事力を持つグラングラストを、人々は畏怖を込めて魔神と呼ぶようになった。

 その後、エストハイムの戦争は人対魔族の戦いに絞り込まれていくことになる。

 魔族を束ね、戦闘員の質という面で完全に人側を圧倒する魔族。

 対して数と工夫でもって戦う人々たちは徐々に追い詰められていくことになる。

 しかしその中で一つの変化が起こりだす。

 グラングラストの圧政にたえかねた魔族たちが造反したのである。

 もともと数で勝っていた人の軍は、戦闘能力に優れる魔族たちを味方に加えて戦争を盛り返した。

 そして魔神は大陸エストハイムの中央に築き上げていた自らの居城まで追い込まれる。

 弱肉強食を旨とする魔族たちは、一人、また一人と魔神のたもとを分かち、最後に残ったのは元々12人いた守護者の4人だけだった。


 ヘルモスはその四人の中の一人で、最後まで魔神に従っていた。

 ヘルモスを引き抜こうとする者達は無数に存在していたが、彼は頑として魔神の元を離れようとはしなかった。

 その真意は定かではないらしい。


 物語はここから一気に佳境に入る。


 追い詰められた魔神は最後のあがきに魔物たちを召喚するという暴挙に出た。

 この本によれば、それまで魔物と呼ばれる存在はいなかったとされている。

 魔物を召喚されれば、魔神は無数の兵を手に入れることになる。

 それを阻止するために人々は魔神の居城に総攻撃をかける。


 しかしその時、魔神を守護すると思われていた4人の守護者たちは魔神の居城から四方に逃げ去ったのだ。

 魔神の守護者たちにも追っ手を差し向けられはしたが、本命である魔神をおろそかにもできなかったため、結局追ってはふりきられてしまう。

 最終的に、ヘルモスを含む四人の守護者はエストハイム大陸の各地でその姿を見たと報告されたが、その消息は分からなかったらしい。


 最後を確認されているのは、魔神ただ一人だけ。

 

 魔神は最後に魔物をこの世界に生み出す秘術の発動を成功させた。

 しかもそれは本来この世界に存在するはずのない存在を生み出す禁術であったため、世界にも甚大な影響を与えた。

 具体的には世界に天変地異を引き起こした。

 それも尋常な代物ではない。

 天候の異常だけに飽き足らず、巨大大陸エストハムそのものを五分割してしまうような規模のものだった。

 二次災害も含め当時の人々はその過半数以上が死に絶えたとされている。

 そんな災害を生き残った人々と魔族は、決して同じことが起こらないようにとこの事実を歴史に深く刻み込むことを誓った。





「ふう」


 一息つく。

 俺の不死身に何かしらのかかわりのある(かもしれない)ヘルモスのことを知るはずが、最後の方に至っては魔神についての内容ばかりであった。


 しかしそれだけ魔神という存在はヘルモスを、いやこのエストハイムとかいう世界を語るうえで必要不可欠な存在なのだ。


 後編の話をまとめてみよう。


・ヘルモスは魔神の傘下になり、その時受けた加護によって不死身となった。

・魔神のもとで魔族たちの征服に尽力したヘルモスは、さらに世界征服に乗り出す魔神に協力した。

・配下の魔族たちが魔神を裏切る中、ヘルモスは最後まで魔神の守護者だった。

・最後は消息不明となる。


 これがすべて。

 いったい彼に何があったというのだろうか?

 英雄と呼ばれるに足りる偉業を果たした彼に、いったい何があって世界に魔物を生み出してしまうような魔神に協力するようになったというのだろうか。

 

 そんな疑問が俺を埋め尽くす中、まるで俺が本を読み切ったのを見計らってきたかのようにアルミナがやってきた。


「いかがでしたかマサキさん?」


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