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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
激突・魔王軍
53/68

騒乱の後

 侯爵邸に戻った俺たちは、そのまま泥のように眠りに落ちた。


 執事さんが出迎えてくれたあとで個室に案内されたのでほかの連中がどうしているのかまでは分からないが、とにかく朝を迎えた。


 いつも通り朝食をとるために大広間に集まる俺達。

 しかしそこにはジェストさんもレイモンド侯爵もいなかった。


「やっぱりいろいろごたついているんだろうか?」


 何しろ今まで捕縛されていたお姫様が解放されて、それまで王座が目前まで迫っていた王子を失脚させてしまったのだ。


 混乱が起こらない方がどうかしているというものだ。

 戦闘行動については俺たちが何とかしたといえるが、むしろ重要なのは事後処理の方だろう。


 きちんと管理職の連中を口説き落とせないと、再び政変が起こりかねない。

 それとなく執事さんに聞いてみたところ、やはりそういう目的があって今日はさっさと王城に向かってしまったらしい。


「旦那様から書置きを預かっております。」


 俺の質問に対して、執事さんは手紙らしきものを一枚こちらに差し出した。


『今回の件で協力していただいたことについては感謝の念にたえません。しかし、王子を失脚させただけでいまだにこの国は様々な問題を抱えております。おそらく私も激務に身を投じねばならないでしょう。多少なりとも落ち着いたとき、改めてお礼を申し上げたい。

 それまでの間は、この屋敷を自分の家のように使っていただきたい。引き続き、屋敷の全権は執事に預けてあります。何かあれば、彼に連絡を指定ください』


 と書かれていた。

 やっぱり、そりゃそうもなるよね。


 すし詰めになるであろう侯爵様には悪いが、こちらは思いっきり骨休めをさせてもらうことにしよう。


 そう思い、用意された朝食を平らげた。

 メイドさんたちが食器を下げた後、セルアが俺に話しかけてきた。


「マサキさん。最後に、エシュバット王子を倒したとき、マサキさんどこか変じゃありませんでしたか?」


 セルアがその質問をしたとき、広間に沈黙が下りた。

 執事さんはその場を外した方がいいと思ったのか、「隣の部屋で待機しています。何か御用がありましたら」といって広間を去って行った。

 

 





 セルアの質問は至極まっとうなものだ。

 正直エシュバットの魔力は俺の想像のはるかに上を言っていた。


 強いかもしれないといっても、ゲイル以外に有効打を入れた者がいない俺の無敵っぷりならどうにかできると思っていた。


 しかし現実はそんなに甘くはなかった。

 俺は、エシュバットはおろかその親衛隊たちにさえも敗北しそうになった。


 エシュバットが魔法陣とやらを使った後に至っては、俺自身死ぬかと思ったくらいだ。


 ・・・いや、事実死んだのだ。

 あんな威力の魔法を受けて、俺が無事でいられる道理がない。


 俺にあるのは異常なまでに強化された身体能力。特に、相手の攻撃のほとんどを無効化する不死身ぶりに尽きる。


 それを外せば、俺などどこにでもいるありふれた一般人にすぎなくなる。


 エシュバットは文字通り俺の唯一の長所を封じたのだ。

 その圧倒的な魔力によって。


 火炎弾を数十発まとめて叩き込まれたとき。

 そのあとに放たれた今までに見たこともない威力の一撃を目の当たりにしたとき。


 俺は事実死んだと思った。

 しかし、そのあと俺はまるで自分の体に別の誰かが乗り移ったかのように錯覚するような出来事を体験した。


 基本的に俺の戦い方は力任せ、性能任せの稚拙なものだ。


 だがあの時の俺は全く違う。

 あの時のように、俺の体に宿っている力を正しく使いこなしたなら、化け物のようなエシュバットでさえ秒殺できてしまうのだ。


 そしてその間中、俺の体の主導権は完全にほかの何かに奪われていた。


 今思い返しても戦慄する。

 セルアの質問に答えにくいのは、俺にもまるで理解ができないことだからだ。

 俺の沈黙に、今度はシルバが質問してきた。


「旦那。旦那の強さはよく分かっているつもりでやしたが、王子の魔力を見た時旦那でもまずいと思ったんでやす。ですが、旦那はもともと常識外れの強さからさらにぶっ飛んでいたように見えやした」


 シルバの分析は極めて的確だ。

 いい加減この便利すぎる体に慣れてきた俺であっても驚愕を隠せないような異常な戦闘能力。


 そして、幾度か見てきた夢と同じようなあの感覚。

 一つだけ仮説が成り立つとすれば、あの時俺の体を動かしていたのは、夢の中で出てきた・・・。


 そこまで考えて俺はかぶりを振った。

 そんなことあるはずがない。


 夢の中に出てきたのは、元の世界にいた時に俺が書いていた本の主人公にすぎない。


 そんな奴が俺の体を動かしていたなんて考えられるか?

 少なくとも俺は考えられない。


 しかし俺がかぶりを振った際に、今度はアルミナが声をかけてきた。


「マサキさん。何か思い当たることがあるのではありませんか?」


「・・・」


 相変わらず鋭いアルミナ。

 しかしこのことを話してもいいものかどうか・・・。


「マサキさん。話していただけませんか?」


 ・・・アルミナが食い入ってくる。

 まあ、異世界から来たってことをぼかせば話してもいいか。


「初めに言っておくけど、あの力がなんなのかは俺にもよく分からない。それでもいいなら、俺が知ってることを話す」


「ええ、お願いします」


 アルミナの返答に、セルアとシルバもうなずいた。

 アルミナにしても珍しく興味津々といった感じだ。


「夢を見るんだ」


「夢・・・ですか?」


 セルアが首をかしげる。


「ああ。俺がほかの誰かに憑依して、いろんなところで戦っている夢さ」


 その夢は、普段見る夢などとは比べ物にならない位鮮明に記憶できている。


「その夢と、あの時の力と何か関係があるんですか?」


 セルアが質問を続ける。

 アルミナは要所要所でツボをつくように的確な発言をするが、普段は沈黙を美徳とでもしているのか話が始まれば大体黙って聞いている。

 突っ込んだ質問をするのは大体セルアだ。


「ああ。あの時の感覚は、夢の感覚とほとんど同じだ」


 そして俺は説明した。夢の中では、指一本はおろか、視線を動かしたり、瞬きをしたりすることさえも自由にならないこと。

 それでありながら、意識だけは十分すぎるほど覚醒しているということ。

 夢の中で体験した戦闘は、今の俺では及びもつかないほどに凄まじいものだったということ。


 そして、エシュバットの攻撃を受けて死んだと思った時、その夢と全く同じような状態になったということ。


 それを三人に説明した。


「・・・なんか少し信じられないですね」


「全くでやす。あれが旦那本人の意思で動いていたわけではなかったとは・・・」


 セルアのつぶやきにシルバが合意する。

 俺も全く同じ意見だ。


 だがこればっかりは体験した奴以外に分かるものでもないように思う。

 そんな中で、今まで話を聞くだけだったアルミナが俺に質問をしてきた。


「その夢の中の人は、どんな人なんですか?」


「・・・化け物だよ」


 今でも鮮明に思い出せる。

 化け物のような大虎を相手に真正面から戦いを挑み、正面から打ち勝つ。

 そんな馬鹿げた強さを持つような奴を、化け物以外の何と表現すればいいのかがわからない。


 夢で見た大虎は、ともすれば本気を出したエシュバットよりも強いかもしれない。

 夢だと分っていながらも、あの圧倒的な迫力は俺を心底震え上がらせた。


 だが、夢の中で体を動かしている何者かは、俺などよりもはるかに圧倒的な力で大虎を圧倒していた。


 まるでエシュバットと戦った最後の時のように。


 侯爵邸に来てから見た夢では、とんでもない巨漢と対峙し、無数の兵士に取り囲まれていた。

 もしあれが夢なら笑い話で済みそうなものだが、あの夢から感じる迫力はまるで誰かの記憶を追体験しているようにさえ思える。


「マサキさんから見て化け物ですか・・・」


 セルアから見れば今の俺もかなり人間離れしているのだろうが、夢で見た大男はそんな生易しい存在ではない。


「ああ、エシュバットにやられたと思ったら、いつの間にか夢と同じようなことになっていたんだ。多少違いはあったけど」


 夢の中では、俺の視線はかなり高かった。

 おそらく身長2m近くあるのではないかと思えるほどに。


 そして、二度目の夢の時に虎の牙に移ったあの姿。

 あれは・・・。


「どう違ったんですか?」


 セルアの質問が俺の思考を遮った。

 俺は自分の考えていることをまとめるように話し出した。


「夢の中での俺は、エシュバットの時と違って本当に別人に憑依しているような感じになるんだ」


 別人に憑依。

 そうとしか表現できないが、問題はその憑依している対象だ。


「それってどんな感じでやすか?」


「口では説明しにくいんだが・・・そうだな」


 シルバがそう聞いてきたため、俺は一つのことを提案した。


「とりあえず夢に出てきた奴を描いてみよう」

 






 執事さんにお願いして、絵を描ける道具をそろえてもらう。


 俺が愛用しているペンとかとはまるで違うが、まあ描けないこともないだろう。

 普通なら薄らぼんやりと映った姿を正確に模写などできはしないが、あの夢で見た男だけは例外だ。


 何しろ俺がデザインしたキャラクターに瓜二つだったのだから。

 そう思いながら、俺は自分が作ったキャラクターをそのまま描きだす。


 大柄で、長身で、野性味があふれるような男。

 伸びるに任せた髪は腰までとどきそうだが、そこに艶の類は存在しない。むしろ毛根がしっかりしているせいで長鬣のようになっている。


 顔つきはかなりいかついが、笑うと実に愛嬌のある顔をする。

 感情を出るに任せているということなのだろう。

 俺の中でこいつに対して持っているイメージをそのまま映し出す。


 強靭で。力強く、身長は2m少々、体重は120キロくらい。

 生ゴムを圧縮したような筋肉は、生半可な刃物では傷一つつけられないくらいの強度があって、その心臓は止まっても再び動き出すくらいに強く脈打っている。


 そんな化け物そのものを描き上げ、一息ついたとき、セルアとシルバがまるで食い入るように俺の絵を見つめていた。


「?? どうかしたか二人とも?」


 気になって質問してみた時、予想通りといっていいのかどうか知らないが、セルアが俺の方を向き質問してきた。


「マサキさん! この絵が誰なのか知らないんですか!?」


 予想以上に切迫した声でセルアが俺に質問してくる。


「ああ、セルアは知ってるのか?」


 というかシルバまで食い入るように見ている。

 俺の返答に対して、セルアもシルバも完全に絶句しているし。

 そんな二人を尻目に、アルミナが話しかけてきた。


「マサキさん。少し場所を変えましょう」

 





 アルミナは場所を変えるいい、俺達を侯爵の書斎に連れてきた。

 ここで話した方が都合のいい話ということなのだろうか?

 そんな疑問を持つ俺を尻目に、アルミナは書斎の本棚の中から本を取り出した。


「マサキさん。この本を見てください」


 そういって、一冊の本をこちらに渡してきた。

 その本のタイトルは『魔界を生み出した者』

 以前俺が読んでみようと思いながらも、結局いろいろあって読めなかったものだ。


「これを読めと?」


 突然そんな本を渡されて、いざ読んでみろと言われてもアルミナのように速読ができるわけではない俺から見ればこの本もかなりのボリュームがある。

 そんなものを読んでいたら文字通り日が暮れてしまうというものだ。


 しかしそんな俺の内心を見抜いたかのようにアルミナが捕捉をした。


「挿絵だけで結構です。それを見れば私たちの言いたいことがわかると思います」


 む?

 そんなことを言われると気になってしまう。

 とりあえずページをぺらぺらとめくっていく。


 アルミナの言った通り、この本には挿絵のようなものが多少なりとも含まれていた。


 内容を読みたいとも思ったが、とりあえず無視して挿絵のみに目を通し、本の中ほどまでページをめくった時。


「な? え!?」


 俺はアルミナが何を見せたかったのかを理解した。


 なぜならそこには俺がデザインした大男そのものが描かれていたからだ。



 なぜ!?



 そんな疑問が俺を占める。

 この大男は、俺が元の世界にいた時に絵本の主人公として描いただけのキャラクターだったはずだ。


 だというのになぜそれが歴史書のようなものに記録されている!?

 先ほどセルアやシルバ達が絶句したのと全く同じことが俺に起きたことを自覚する。


 アルミナが見せたかったものとはこのことか。

 そう思い彼女の方を向くと、アルミナはその絵について説明をしてきた。


「そこに描かれている人物の名は大英雄ヘルモス。不死身の英雄とも呼ばれ、世界中を旅しながら人々を助けて回った存在です」


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