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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
第二章 エストワール騒乱編
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セルアの思い出

本編で拾いきれなかったセルアのエピソードです。

拾いきれなかった作者の無能さに目をつぶっていただければ幸いです。


 セルメリア・バレンタイン。


 それが私の本名。


 バレンタイン伯爵の家に生まれた私の家は、流れ者の村の近くの領地を預かっている。


 バレンタイン伯爵家は魔力の適性が遺伝的に弱く、中央の貴族たちから排斥された没落貴族といっても過言ではない存在なのだ。


 しかし没落を良しとしなかったバレンタイン家の人間は、当時魔法大国ではあまり重要視されていなかった剣術に目を付けた。


 優秀な人材を集めることに関しては国のみならず貴族たちにも言えることだ。

 有能な人材を抱え込んでいる貴族は爵位も高くなる。


 そのため公爵たちはこぞって魔力が強い者をはじめとした天才と呼ばれる者達を集めだした。


 そんな中でバレンタイン家は剣術の秀でた者達を集めだしたのだ。


 結果としてその方策は成功。

 優秀な騎士たちを数多く輩出したとして、バレンタイン家は地方領主でありながら王都の中枢に食い込むことに成功したのだ。


 セルアはそんな家に生まれた。


 彼女には魔法の才能があったが、そのような家に生まれ育っていたため、彼女は魔法の教育を施されることは無く、その才能を開花させることができなかったのだ。


 そんなセルアをバレンタイン家は早々に見限り、エドガーを養子に迎え、後継者にすることとしたのだ。


 魔法以外に才能もなく、その才能を開花させることもできなかった彼女は、結局バレンタイン家のお荷物と称されるようになり、政略結婚の道具とされることが決まっていた。


 相手は好色で知られていた貴族だったため、その結婚がどうしても嫌だった私はパーティーの最中その貴族の方にお酒をかけてその場から逃走。

 

 家に逃げ込んだ私は、家族たちが私を奴隷に追いやろうとしていることを偶然耳にする。


 それを聞いたとき、私は家から脱走した。

 それからどうしたのかは覚えていない。

 

 気が付けば家を出て、生まれ育った町を出て、獣たちの生息する平原を抜けて、空腹からもう動けないと思って倒れこみ、次に目が覚めた時には流れ者の村でお世話になっていたのだ。


 それが私の家。

 

 権力に食い込めない者は容赦なく排除する権力の奴隷。

 

 そんな空間で生まれ育った私は、どこかおかしいと思いながらもそのことに対して異常だとは思えなかった。


 でも今は違う。

 

 流れ者の村で、私は人のぬくもりというものを知った。

 人とは、お金や権力などなくとも手を取り合える存在だと知った。


 そして、マサキさんやアルミナさんと出会えた。


 お二人はこの村を襲う山賊たちを退治して、私に魔法を教えてくれて、流れ者の村のけが人たちを癒してくれた。


 その無条件で施された彼らの優しさは、バレンタイン家にいた時には決して感じ取ることができなかった代物。


 彼らの大きな器と、その器からあふれ出す慈愛に触れた時、私は彼らのようになりたいと、彼らについていきたいと、心底そう思った。


 山賊の一人、シルバさんに対してぶつかったのも、手を取り合える道があったと思っていたから。

 現に今こうして、かつて私たちの村を襲おうとしてきたシルバさんと共にこうして肩を並べて歩いていられる。


 エステルナ王女やバシュトシュタイン公と同席できたのは、ひとえに私がマサキさんたちについてきたから。


 そんなマサキさんたちは、この国の在り方に直結する問題にかかわろうとしている。

 それだけの度量のある方だということなのだ。私がついていこうとしている方は。


 兄さん。


 いずれ権力の奴隷となったバレンタイン家の当主となるであろう方。

 バレンタイン家の血筋を引かずとも、権力の虜となったという意味では間違いなくあれはバレンタイン家の人間だ。


 マサキさんたちはおそらくいずれ兄たちともぶつかる。

 

 腐敗をただそうとするのがマサキさんたちなら、そのうち必ず兄たちとも戦うことになる。


 私の身内が、私の人生を変えてくれた人たちの妨げになる。

 そう考えると、私はどうしても我慢ができなかった。



 マサキさんたちは、この国の革命に加わる。 

 

 無謀だと思う心と、マサキさんならと思う心。

 その二つが私の中でせめぎ合い、気が付けばその行く末を見届けたくなった。


 ジェストさん達と共にバシュトシュタイン公と対面し、そののちに自分の兄が王子に加担していると知った時、私は自分も戦わないといけないということを悟った。


 いえ、正確には、私も戦ってマサキさんたちの力になりたいと思ったのだ。


 これまで出会ってきた誰よりも強いマサキさんと、これまで出会ってきた誰よりもすごいアルミナさん。

 そんな二人とともに歩みたい。

 

 強く思い続けるうちに私はマサキさんの反対を押し切り、アルミナさんに魔法を習い、ジェストさん達と共に王女様奪還作戦に参加した。


 そして今、目の前に兄が対峙している。

 

 そんな兄に対して、私は気が付けば質問していた。


「兄さん。どうしてエシュバット王子の親衛隊に・・・」


 そう質問するが、答えは帰ってこなかった。

 私のことなどまるで眼中にないと言わんばかりのその態度に、私は一つのことを理解した。


 この人にとって、私はすでに他人なのだと。


 もう、倒すしかない。

 話し合いが通じるとも思っていなかったけど、戦わなければいけないんだ。


 そう思った直後、マサキさんはまるで私の要望を理解したかのように親衛隊たちとの戦いを始めた。

 そしてあっという間に相手の半分を倒してしまった。


 相変わらず頼もしい方。

 

 エステルナ王女はエシュバット王子に何かしらの想いがあることでしょう。

 なら、私も兄に対してぶつけます。私の想いのほどを。


 そう思い、兄に対峙する。


 しかし直後、エシュバット王子アミュレットに触れたかと思うと、突如として兄さんの全身から光が放たれだした。

 

(これは、魔力の光!?)


 ありえない!

 バレンタイン家は魔力に恵まれていなかったため剣術に力を入れている一門。

 そんな家に拾われた兄にもさしたる魔法の素養などなかった。

 そんな兄から目に見えるほどに魔力が放出されるなんて!


 しかしそれ以上に恐ろしいのはその魔力量。

 全身からあふれ出さんばかりの魔力は、まるで洪水のように周囲に放出されている。

 あれではこちらの魔法の効果も半減してしまいかねない。


(なぜ、あんなことが)


 そう思うと同時に状況が絶望的になったといことを私は理解した。


 もともと剣術に長けた兄と私では戦いになどならない。

 戦える部分があるとすれば最近習得した魔法だ。

その魔法も効果が薄くなってしまっては、勝ち目がない…。


 そう思い後退しそうになる私に、しかし一人の力強い声が響いた。


「一つおたずねしたい。今回の魔王討伐軍の総大将になったアルモンド・エシュロス卿にも、そのアミュレットの加護があるのですか?」


 兄の突然の変貌に慌てる私と違って、ジェストさんは目の前の二人に対してまるで気負っていない様子だった。

 

 いや、ジェストさんだけではない。

 すぐ近くで私たちから親衛隊を遠ざけるように戦っているマサキさん。

 城門から味方を引き入れようとしているアルミナさん。

 一人で戦う必要なんてないといってくれたシルバさん。

 肩を並べることなど恐れ多いエステルナ王女様。

 

 みんなが共にいる。

 それが私の心に涼風を送り込んでくる。


 心の動揺が、凪いでいくのを感じた。


 あの時、兄を倒すことを考えていれば、私はみんなの足を引っ張っていたことだろう。

 閃光魔法を用いて皆さんのアシストをするなんてこと、思いつきもしなかったと思う。


 本当に、筆舌に尽くしがたい体験だった。

 これまでの人生の中で、何よりも尊い時間だった。

 

 エシュバット王子を打倒し、侯爵邸に戻ったセルアは、そのまま泥のように眠りに落ちる中で深い感慨を抱いていた。


 その日は、本当に深く眠った。

 たぶん、これまでのどの眠りよりも、深く。


読者の皆様に一つお知らせがあります。

現在作者が多忙、そして体調不良も重なっているので、投稿のペースを大幅に落とすことになるということです。

一時は休載も考えましたが、とりあえず連載だけは続けていけそうです。

これからもよろしくお願いします。

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