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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
第二章 エストワール騒乱編
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アミュレットの力3

 エドガーとエシュバットがこちらに視線を向ける。

 親衛隊たちを始末した俺は、悠然と二人に向かって歩を進める。


 やはりといえばそうだが、セルアたち四人ではエドガーはまだしもエシュバット王子の相手は少々荷が重い。


 かくいう俺も、親衛隊たち相手にあれだけ苦戦したのだ。

 セルアが攪乱してくれなければおそらく俺は消耗の末負けていたことだろう。


 これから相手にするのはそこら辺に転がっている親衛隊を化け物に変えた元凶だ。


 いったいどれくらいの力があるのかは正直言って分からない。

 だからといって今更撤退などできるはずもない。

 ここまでやっておいて俺たちを逃がすようなことを相手が許すはずもない。

 ゆっくりと歩み寄る俺を見る敵二人は、まるでセルアたちなど目に入らんといわんばかりだし。


 およそ5m位の距離で足を止め、エシュバットを見据える。


「さっきのはその首飾りが引き起こしたことか?」


 先ほど俺と親衛隊の連中がやりあっていた時に、突然親衛隊連中がパワーアップしやがった。


 俺は詳細を聞いていないが、何かしらの王族姉弟が何か話をしている最中に敵が突如パワーアップしたように感じた。


 侯爵の予測によると、首飾りの効果は所有者の魔力を強化するのみだったはずだが、どうもさっきのそれを見るとそれだけには思えない。


「ふ。さすがに気付くか。その通り、この首飾りの力は、所有者のみならず所有者との契約者にも作用するのだよ!」


 契約者?

 そんなものがあるのか?

 つまりエシュバットと契約をした奴には、さっきのような力がつくってのか?


 俺のみならずほかの四人も険しい表情で見ているのを確認したエシュバットは、満足そうに頷く。


「ふっ。いい顔だな。よかろう。わが親衛隊を倒した褒美に教えてやる」


 そういうエシュバットは、上機嫌そうにして話し出した。


「このアミュレットには、膨大な魔力が常に生成されている。所有者はその魔力を際限なく用いることができる。だが、それだけではない。このアミュレットを持つものは幾つかの固有魔法を扱うことができるのだよ」


 自信と余裕に満ちたエシュバットは、親衛隊がやられたことなどどうでもいいといわんばかりにこちらを見渡す。


「その中の一つに契約魔法というものが存在する。この魔法は、契約したものにこのアミュレットに宿る無尽蔵の魔力を無制限に贈与できるのだよ!」


「な!?」


 その驚愕は、セルアとエステルナ王女の口から洩れたものだった。

 どうも俺にはピンとこないが、魔法使い二人の驚きようからすると、その契約魔法というものはとんでもない代物のようだ。


「分かるか? 私のもとにいる者は皆、さっきのような魔力を用いることができるのだよ。何の訓練も必要なく、絶大な力を持った魔導師たちが、このアミュレットを用いれば無尽蔵に生み出せるのだよ!」


 そこまで聞いて俺は契約魔法の異常さに気が付いた。

 もしそんなことが可能だとすれば、それはどれだけ恐ろしいことだろうか。

 魔法使いが相手というのは、それだけでかなりのアドバンテージを味方にもたらす。


 遠距離から攻撃ができて、小回りが利く上に、大火力。

 そんな奴らの軍隊。

 使い方によってはそれこそ百万の兵にも匹敵することだろう。


 通常の魔法使いでさえそれなのだ。

 もしその魔法使いの軍団が先ほどのように暴走モードみたいになると考えると危険極まりない。


 先ほどの親衛隊たちとの戦闘でさえ、もう数人加わればこちらが全滅しかねない。


 というより初めの奇襲で数を減らしきっていなければそうなっていただろう。

 その事実に背筋が凍る。

 そんなことが現実に起こりえたと思うと、その事実に戦慄する。


 エシュバット王子は事実上、先ほどのレベルの魔法使いを無尽蔵に生み出すことができると言ってのけたのだ。


「そんなものを使って、そのような軍隊を作り上げて、いったい何を求めるというのです!」


 エシュバット王子の言葉に、エステルナ王女が問いをかける。


 確かにその通りだ。

 そんな過剰なまでの戦力をそろえていったい何をしようというのだ?

 そんなものまでそろえなければ魔王アルベウスは倒せないとでもいうのか?


「何のため? それを姉上が私に問いますか? 決まっているでしょう。この大陸も、世界も、これだけの力があれば何でも自由にできるのですよ! 素晴らしいではありませんか! 父上さえ知らないこの力でもって、世界のすべてをこの手に収めるこれ以上明白な目的などどこにもありはしないでしょう!」


 狂ったように歌い上げるエシュバット王子。

 この男は、アミュレットに秘められた無尽蔵の魔力を用いて無敵の軍隊を作り上げ、その力で正解を征服するといったのだ。


 エシュバットの演説は続く。

「まず手始めに、この東の大陸の魔族をすべる魔王を始末する。親衛隊たちの中でも、有数の腕利きたちを送り込んだためそのくらいはたやすいだろう。この騒動を平定したのち、お前たち反逆者を始末すれば私の王座は確約される。そうすればもはやこの大陸に私の敵はいなくなる。お前たちが倒した兵力程度ならば、すぐにでも補充が効くのだからな!」


 なるほど。

 確かにこいつが国のトップに立ってはことだろう。


 権力というものは、謙虚なものが扱えば万民に施しが行えるようになる半面、強欲なものが扱えば際限なく不幸になる人々を生み出す。


 そんな事例は、元の世界で嫌というほど知っている。

 そして、そんな俺の言葉を代弁するかのようにエステルナ王女が口を開いた。


「あなたを説得しようとした私がおろかでした。エシュバット。あなたに王座を渡すわけにはいきません」


 エステルナ王女の言葉に、エシュバットは演説をやめ、口元を歪めた。


「まさか親衛隊を倒した程度で私に勝てるとでも? まだエドガーも残っているうえ、私を相手に勝てる算段など付いていないのではありませんか?」


 エシュバットの言葉に対し、王女は


「ええ。ですが、あなたに王座は渡せない。国が滅びゆく姿など、民が苦しみあえぐ姿など見たくはない。そのためにあなたを倒すことが必要なら、賭けましょう。この命のすべてを」


 その宣言とともに、エステルナ王女の全身が輝きだす。

 それを見た王子は、両手を広げ宣言した。


「承知しました姉上。あなたのすべてを奪いつくして差し上げましょう」


 その言葉を紡ぐと同時に、エシュバットの全身が赤く輝きだした。

 こうして、国をめぐる姉弟の、最後の戦いが始まった。






(ようやく、ここまで来れたのですね)


 全身の魔力を活性させながら、エステルナ王女はそんな感慨を抱いていた。

 もっと早く、こうして弟と向き合っていれば、正面から心の内をぶつけ合っていれば、父が危篤状態になることも、このような騒乱を起こすことも、弟がここまで道を踏み外すこともなかっただろう。


 そう思うと、今でも忸怩たる思いがある。

 当時、この王宮の魔導師たちさえ上回る魔法使いだった私は、どうしようもなく傲慢だった。


 その傲慢が、今回の騒動まで問題をこじらせてしまった最大の原因だと私は思っているし事実そうだろう。


 あの時、貴族たちが血判状を持ち出した時点で決起していれば、弟はまだアミュレットを手に入れていなかったから絶対に勝てた。


 弟に時間を与えたのは、貴族たちの無策ではない。


 あの時、首を縦に振らなかった自分だ。


 牢獄に閉じ込められている間、どれほど後悔したことだろうか。

 そして、何度やり直したいと思っただろうか。

 やり直すことはできない。

 過去には戻ることなんてできない。


 だからせめて、次に弟向き合える機会が与えられたら、その時はすべてをぶつけ合いたい。


 弟が弱いと思い込み、水面下で動く彼の動きにまるで気が付けなかったのだ。

 野放しにしておいても問題などないという慢心が、弟を助長させた。

 弟の中に渦巻く野心は、私という存在に押し付けられて日々ましていった。

 私の思い上がりが、今回の事態を招いたのだ。


 しかし今、私はこの国の王女から、反逆者となった。

 エシュバットは、すでに城内の権力のほぼすべてを手中に収めている。

 そんな中で弟に刃向うのは、国家に対する反逆といってもいい。

 王女の立場をかなぐり捨てるような選択だったかもしれないが、だからといって後悔は微塵もない。


 あの時、弟を侮っていた私は、この国で最高の魔法使いである力を使えないまま敗北してしまった。

 今のエシュバットはそんな私でも滋賀にかけないかもしれないが、弟と戦える。それだけでも心の奥の楔がほころぶように感じるのだ。


 この機会を与えてくれたマサキさんたちには感謝の言葉もない。


(エシュバット。あなたをこの手で倒します)


 そう覚悟を決め、全身の魔力を両手に集める。

 その魔力が両手を白く輝かせる。


 その白い魔力が込められた両手のうち左手を弟に向ける。


 弟も全身をつつむ赤い魔力、火属性魔法をこちらに向けて放とうとしている。

おそらくその無尽蔵の魔力でもって、高等魔法に必要な工程の一つである魔力

の活性が弟には必要ない。


 初等魔法であれば魔力を手に集めるだけで十分な威力が期待できるが、高等

魔法になるとその魔力の使用量を増やすために全身の魔力を活性させる必要が

ある。


 その膨大な魔力を圧縮して打ち出すことが高等魔法の極意なのだ。

 しかし弟は無尽蔵の魔力が勝手に溢れ出している。

 つまり、意識しなくとも全身の魔力が活性化しているということだ。

 魔法使い同士の戦いで、これほどのアドバンテージはない。


(でも、だからといってそれだけで負けるほど私も弱くはない!)


 今私の両手は白色に光っている。

 治癒魔法の光にも似てはいるが、これはそれとはまた別物。


 エステルナ王女はこの国最高峰の魔法使いにふさわしく、様々な属性を持つ

魔法を習得している。

 その属性魔法の一つの到達点とされるのがこの白い魔力。


 この魔力は、放つ瞬間に属性を付与させることができる。

 つまり、今から放たれる魔法の弱点を突くことができるのだ。


 エシュバットが魔法を放つ。

 火球を越える豪火球とも呼べるその代物に向けて、エステルナは右手を向

ける。


 直後、その右手から水弾が撃ち出される。

 高速で飛来する魔法同士が衝突し、水弾が掻き消され、豪火球がエステルナに向かって飛来する。


 しかし水弾にその威力のほとんどを相殺されているため、簡単に回避できる。


(それにしても出鱈目な魔力ですね)


 火属性は水属性に弱い。

 同じ魔力量でぶつけ合えばまず間違いなく水属性が打ち勝つものだ。


 エステルナ王女の魔力量はこの国で国王を除けば間違いなくトップクラス。

 そんな彼女の魔法に対して相性の悪い魔法で打ち勝つというのは、彼の魔力量が尋常なものではないことの何よりの証左だ。


 続いてエシュバットが全身を輝かせる魔力を緑色に変化させる。


(風魔法!)


 単調な魔法の発動のさせ方だ。

 見切ってくれといっているようなものといっても差し支えない。

 すかさず左手に集めていた魔力を開放する。

 おそらくエシュバットはこの玉座の間全域を巻き込む竜巻を起こそうとしているのだ。


 そんなものを発動させないためにはこちらから攻撃するしかない。

 あんな魔法が発動すれば、エドガーやマサキさんならいざ知らず私を含めるほとんどの者が戦闘続行困難になる。


 あちこちで気を失っている親衛隊たちに至っては命の危険さえあるが、弟はそんなことを感知することなどあるまい。


 エシュバットに向けて火炎が放射される。

 火属性の魔法は、風属性の魔法とぶつかった場合その魔力の一部を吸収してさらに燃え上がる特性がある。


 しかしそんなことお構いなしにエシュバットは風魔法でこちらの火炎を打ち消しにかかる。


 その手から放たれる突風により火炎が掻き消え、そのままこちらに突風が向かってくる。


 とっさに土魔法で目の前に簡易的な防壁を造ったが、とっさに込めた魔力量などたかが知れているうえ、風は土を風化させる性質を持っているためあっという間に崩れ去ってしまう。


 それでもある程度相殺することができたようで、どうにか踏みとどまることに成功する。


 火炎を風魔法で掻き消すなどということができるとは。

 そんなことができるとすれば、エシュバットの魔法から見れば私の起こす炎など文字通り吹けば消える程度の威力しか持たないということになる。


 いかに炎が風魔法の魔力を吸収できるといっても、吸収できる魔力量は炎の大きさや火力に依存する。

 そして吸収できる限界を大きく上回るような魔法を用いられた場合、文字通り蝋燭の火のように簡単機消えてしまうのだ。


(だからといってそんなこと、私の風魔法でも初等魔法相手にできるかどうかという難易度なのですけどね)


 先の魔法の衝突でエシュバットの風魔法の威力は減衰させることには成功した。しかしそこまでだ。


 エシュバットの全身が再び赤く光る。

 あれほどの魔法を何度も多発しておきながら魔力が一切衰えていない。


 その事実に戦慄する。


 当然以前のエシュバットにはこんなことできるはずもない。

 これがアミュレットの加護の力。


 努力や、才能さえ嘲笑うような理不尽な力。

 迎撃用に魔法を発動するには圧倒的に時間が足りない。

 白い魔力もほかの魔法と同様に発動させるのにそれなりの時間が必要になる。


「さすがは姉上。親衛隊の者達でも私の相手は務まらないにもかかわらず私と魔法戦ができるとは。惜しい気もするが、ここまでだ」


 そういってエシュバットが魔法を放とうとしたとき。エシュバットに剣が一本とんできた。


「チッ!」


 エシュバットは悪態をつくやいなやその剣を迎撃する。

 剣を投擲した本人はマサキさんだった。


「私と姉上の一騎打ちの邪魔をするとは、いい度胸だな貴様」


「何が一騎打ちだ。ここは戦場だぞ? そんなぬるいこと言うものじゃあない」


 マサキさんのその言葉に、エシュバットはあからさまに不愉快そうに眉をひそめたが、私に向き合うのをやめ、マサキさんの方を向きなおった。


「よかろう。貴様から先に始末してやる」


「できるもんならやってみろ」

 

 そして、この国で頂点の魔力を持つものと、不死身の男が対峙した。


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