表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
序章 エルフの里と不死身の凡人
5/68

森の結界

実際に書いてみると難しいものですね。ほかの投稿者の皆様を素直に尊敬します。

三日ごとの更新を目標にしています。気が向いたらお付き合いください。

 チュンチュンチュン。


 鳥の鳴き声で目が覚めた。


 なんかデジャブーだが、今俺がいるのは森の中ではない。

 納屋の中だ。


 実際に寝てみて思ったのだが、思った以上に寝心地はよかった。


 気候は温暖であるが暑すぎるわけではない。


 寝苦しさも寒さもないので思った以上にどっぷりと眠ってしまった。

 土もやわらかいので敷くように布を一枚用意すれば眠りやすい。

 

 それに地熱もあって十分温かい地面だった。

 韓国でオンドルとかいう床暖房があったらしいけど、こんな感じなんだろうか。

 

 俺の体が強化されているのも関係しているんだろうか。

 

 なんかでたらめに強化されているんだもの。寒さ無効とかいう特殊スキルとかついてたりするのかな?

 

 そんな能力あったらかなり便利な気もするが、昨日の経験からするとそれくらいあっても全然不思議じゃない。

 

 機会があれば、どのくらい強化されているのか試してみるか。

 

 そう思って納屋から出て、昨日見た霊樹が目に入った。

 

 そして改めて霊樹アルミナスに感心した。

 

 東京タワーなんて目じゃない位でかく感じる。

 エルフの里全体を覆うように伸びる枝葉は、里全体を覆う屋根のようにさえ見えてしまう。

 

 エルフの里の大黒柱。

 文字通りそんな感じだろう。

 

 ただ大きいだけで、俺はこんなにも感動を覚えるのだ。

 まるで距離感さえ曖昧になってしまうほどの巨大さからは、すべてを抱擁する雄大さも感じる。

 

 俺が絵本に書いた大男が木になったらこんな感じだろうか。

 

 そんなことをふと思った。


 すると。


「お目覚めですか。マサキ様」


 そういって後ろからアルミナ王女が声をかけてきた。


「ああ、おはようございます。アルミナ王女」


 アルミナ王女は片手にバスケットをもっている。


 もしかして俺の朝飯を持ってきてくれたりしたのだろうか?


 基本的に俺ってほかの連中から排斥される側だもんな。

 あんまり甘え続けるのもよくないような気がしてきた。


「おはようございます。こちら朝食です」


 やっぱり朝食だった。

 ありがたく受け取りました。


 それはそうと。


「ところで、俺に何か手伝えることはありませんか?」


 気が付けばそんなことを口にした。

 しかしそれは当然だろう。


 里の権力者たちから認められているならまだしも、俺を擁護してくれるのは王女様ただ一人で、ほかの連中からは嫌われているのだから。


 俺の問いに対して、王女様は少し考えた後。


「では、ついてきてください」


 と言い出した。


「それで、何をすればいいんですか?」


 アルミナ王女は基本的に寡黙な感じがする。


 言葉を交わすことを嫌っているわけではなさそうだが、座右の銘が沈黙は美徳なりだったりするのだろうか?


「端的に言えば、魔物の討伐に協力していただきたいのです」


 歩きながらアルミナ王女はそう答えた。


「魔物の討伐? そういえば昨日ゴブリンに出会いましたね」


 昨日の戦闘を思い出す。


 俺の体にかかっている強化について自覚した戦闘だ。


「ゴブリンと遭遇したのですか?」


「ええ、返り討ちにしましたけどね」


 するとアルミナ王女はまた何か考えだしたようだ。

 何か事情があるのだろうか?


 幸い今回は沈黙が支配するような胃の痛い状態にはならなかった。


「実は、本来この森には魔物は生息していなかったのです」


「そうなんですか?」


 だったらなんで俺は昨日ゴブリンに遭遇したんだ?


 そんな疑問を持ったのを理解しているように彼女は言葉をつづけた。


「はい。ですが、数か月前から狩りに出た者達から魔物の目撃情報が届けられてきたのです。みな何かの間違いだろうと思っていたのですが、魔物たちはいつの間にか増殖し、ついには結界さえ突破して、里の目前まで現れるようになってしまったのです。」


「結界?」


 結界って何のことだ。


 なんかの結界がエルフの里を覆っていて、魔物たちはそこを超えることができないってことなんだろうか?


「結界って何のことですか?」


 またやってしまった。思ったことをすぐ口にするのは俺の悪い癖だ。

 しかし癖というものは治しにくい。


 特に困る類の癖ではないが、学生時代に友人から忠告されたことがあったので、何となく見栄を張りたい相手の前では反省してしまうのである。


 しかし彼女は特に気にしたふうでもなく説明してくれた。


「結界というのは、霊樹アルミナスがこの森に張り巡らせているものです。効果としては認識攪乱というもので、霊樹の加護を受けていない者は、霊樹がある方に向かうことができないのです」


 へー。


 そんな結界をこの霊樹様は張っているってのか。


 もはやそういうものと納得してしまった方が早いと心が判断したんだろうか。


 存外受け入れが早い自分に少々戸惑うが、まあいいだろう。


 王女の話は続く。


「そのため、この霊樹には、エルフ族の者しか近づくことができないのです。それが動物であっても魔物であっても人間であっても関係はありません」


 へー。そうなんだ。

 

 あれ?

 じゃあなんで俺はここにいることができるんだ?


「あの。俺には結界とかいうのが働いてなかったみたいですが?」


 至極まっとうな疑問をぶつけてみた。


「それは私にもわかりません。ですが、魔物たちはどうやってか結界を突破し、里の近辺にも出没しています。ですから、我々の中で魔法や狩りを得意としている者達で結界付近を見張っていたのです。そこに、あなたが現れたということなので、おそらく魔物かそれに携わるものであると思われたのでしょう」


 なるほど。

 話に筋は通ってる。


「確認したいのですが、本当に結界には引っかからなかったのですか?」


「ええ、全く」


 ゴブリンたちを倒した後、何となく歩いていたらエルフの弓使いたちに攻撃された。


 それくらいのものである。


 結界にぶつかったとか、引っかかったとか、突破したとかそんなこと一切なかった。


「そもそも結界に引っかかるとどうなるんですか?」


「結界に方向感覚を狂わされて、何の違和感なく結界の外に向かうようになります。存在そのものを感知されることがない結界なのです」


 なるほど、そんな便利な結界なのか。


 いや、霊樹アルミナスが張っているってことは一種の自然現象みたいなものなのかもしれないな。


「なるほど。だとすると、なおさら俺がここにこれたわけがわからないですね」


 そうなのだ。

 迷いの森みたいなダンジョンを地図もコンパスもアイテムもなしに踏破してしまうとこんな気分になるのだろうか?


「それについては、本当にわからないんです。ですが、マサキ様のお力から見れば、それも不思議ではないように思います」


 はて?


 俺の体がわけの分からん強化がされているのであれば、幻惑無効みたいな特殊能力がついていたりするのだろうか?


 いい加減自分がなんでこんな力を持っているのか、この力はどの程度のものなのかをはっきりさせたいのだが。


「そういうものですか」


「私にもよく分からないのです。申し訳ありません。マサキ様」


 ……


「あの、アルミナ王女」


「はい。なんでしょう」


 前々から思っていたことを口にする。


「俺に対して堅苦しすぎはしませんか? もう少し砕けた言葉遣いの方がありがたいのですが」


「私の態度のことですか?」


 いや、そこで(何言っているのこの人?)みたいな表情されても。


 しぐさが上品だから嫌味な感じはまるでしないんだけどね。


「いや、だから、もう少しフランクにというか、今の言葉遣いが堅苦しいというか」


「私の話し方が堅苦しいですか?」


 どうもこっちの意図が全く通じていないみたいだ。


 間違いない。

 このお姫様は箱入り娘だ。

 無理に要求してもこっちが疲れるだけだ。


「いえ、何でもありません。気にしないでください」


「? よく分かりませんが、私の態度がマサキ様に不快な思いをさせているなら教えてください!」


 なんかすんごい食いついてきた。


 とはいっても一から言葉遣いを改めさせるにしても、手間もかかるし、必要もない。


 だったら


「せめて、マサキ様じゃなくて、マサキさんって呼んでほしい」


 と、間をとったような言葉を口にした。


「マサキさん……ですか」


 彼女は何回かそれを口ずさみ。


「わかりました。改めてよろしくお願いします。マサキさん」


 そういってまたにこりと微笑んだ。


 これだ。

 俺はこの王女様の笑顔に弱い。


「ええ。こちらこそよろしくお願いします。アルミナ王女」


 すると、アルミナ王女は不思議そうな顔をして


「マサキさんは、私の言葉遣いが堅苦しいと思いますか?」


 と聞いてきた。


「ええっと……うん。少し。でもいいと思うよ」


「そうですか。でも、マサキさんまでそれに合わせる必要はありませんよ」


「そうはいっても、あなたはエルフの王女ですし」


「そう。それです」


 そういって彼女はいきなりまた食いついてきた。


「マサキさんも私のことをアルミナ王女なんて呼ばないでほかの呼び方にしてください!」


 なんてこと言ってきた。


 俺はといえば彼女の勢いに負けて


「参りましたね。ではどう呼びましょう」


 なんて深く考えずに返答してしまった。


「マサキさんの呼びやすいようにお願いします」


 そういわれてもなー。


 アルミナ様、アルミナさん、アルミナちゃん


 だーどれもしっくりこない。


 どうも一番初めに耳にした彼女の呼び名がエルフの弓使いがつかっていた『アルミナ王女』だったからそれが定着してしまっているようだ。


 しかしほかの呼び方となると何がいいのやら。


 アルミナ、アルミナ。アルミナ・アルミナの後につける一語が王女以外に思い浮かばん。


「アルミナ」


「はい!」


 あ。しまった。考えてたら口に出てしまった。


 それに加えて、どうも呼び捨てされたことが気に入ったのか、箱入りお姫様は目を輝かせて


「ではその呼び方でお願いします!」


 なんてことを言ってきた。


「いやちょっと待った。これは手違いというか、勘違いというか」


「でも、マサキさんにとってそれが一番呼びやすそうですよ?」


 いや、確かにそうなんだけど……


 それにしてもアルミナさん。なんかキャラ変わっていませんか?


「だけど、あなたはエルフの里の王女様でしょう。なんというか、敬意をもって接さないとまずいんじゃないんですか?」


「そんな決まりはありません。いいじゃないですか!」


 なんか引き下がりそうにない。


 俺は考えるより先に動く性格上、面倒事がこじれるのが嫌いで、そういう場合は速やかに身を引くことを良しとしている。


 そんな俺が現状で取れる方策などただ一つ。


「わかりました。アルミナ」


「はい。マサキさん」


 そういって、彼女はまた微笑んだ。


 全く。ラブコメとかの主人公の心労が少しわかった気がする。

 もとをただせば俺が呼び方を変えさせたのが原因だ。


 地雷とはどこにあるのか分からないものだということを今知った。


 ついでに、俺の中でアルミナに対する印象に、箱入り王女とお転婆が加わった。

 



 さて、思いっきり脱線してしまったが話をもどそう。


 まず俺の異常体質については放置。


 ここでうだうだ悩んでも回答が得られそうにない。

 かといって試す方法も思いつかない。


 というわけで、魔物の件まで話をもどすことにした。


「ところで、魔物も結界を越えてくるという話でしたね」


「ええ、そうです。魔物たちがこの里の近くまで出没し、目撃されているのです」


 ふむ、結界は人魔問わずに発動すらしい。


 そう考えると魔物たちは結界を無効化する何かを持っているということになる。


 これまで魔物のいない森に生まれ育った人たちから見ればそれは異常事態としか言えないだろう。


「つまり魔物たちは、何らかの方法で結界を突破しているってことですね」


「はい。マサキさんに手伝っていただきたいのは、結界を越えてきた魔物たちの討伐です」


「わかりました」


 なんかノリで了解してしまった、

 元の世界では喧嘩なんてしたことのない俺だが、この世界では尋常ではない強化が施されているからたぶん大丈夫だろう。


 とりあえず、手伝うことがあるのはいいことだ。


 働かざる者食うべからず。

 ただ飯ぐらいでは居心地が悪いくらいの良心は俺の中にも当然ある。


 ただ、少し疑問に思う。


 アルミナの話では、魔物が現れたのも、魔物が結界を突破したのもごく最近の話だという。


 そして、さっきの口ぶりではその原因について調べているわけではなさそうだということだ。


 もっとも、こっちもこの世界についてはわからないことだらけなので、まずは先達者の指示に従うべきだろう。


「それで、魔物はどのくらいの頻度で結界を越えてくるんですか?」


「それほど頻繁ではありません。1時間に一度といったところでしょうか。夜間はほとんどないので、結界を越えて、里まで近づいてきた魔物だけを討伐すればいいので」


「それは、そうですね」


 この森の結界というものは里に近づこうとする者の方向感覚をかく乱する類のものだ。


 そうなると結界内に入った魔物の大半は結界に惑わされて里には近づけなくなる。


 しかしその中で(偶然か必然か分からないが)一部の魔物たちは結界内で里(正しくは霊樹)の方に向かっていくことができているらしい。


 となると、まっすぐに霊樹の方に向かっている奴だけを仕留めるのが一番効率がいいということになる。


 それはそうなんだが……どうやって?


 それについて質問してみると、アルミナは


「私には魔物の位置がわかるんです」


 なんていいだした。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ