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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
第二章 エストワール騒乱編
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目くらまし

 エドガー兄さんが目の前で激怒している。


「王子。この者達の始末は私にお任せください」


 エシュバット王子に向かってそんなことを言っている。

 シルバさんに手傷を負わされたことがよほど頭に来ているだろうか。


「エドガー。落ち着け」


 エシュバット王子の方は極めて冷静なようで、そんな指摘を兄さんにしている。

 その一言に兄は多少冷静さを取り戻したらしく、一つ大きく息を吐いた。


「貴様ら。覚悟はできているんだろうな」


 全身から放たれている緑色の光は、兄が常に大量の魔力を放出し、さらにそれに倍する魔力が体内を駆け巡っていることを意味している。


 私はすでにアルミナさんから魔法の基礎を一通り習ってはいるが、さすがに今扱えるのは基本的な魔法だけ。


 魔力の上乗せ位はできるようになったが、だからといって目で兄が放っている魔力には到底太刀打ちなんて出来そうもない。


 これはいくらなんでも・・・


「大丈夫でやすよ。セルア嬢」


 不安に駆られそうになる私に、シルバさんがそういってきた。


「シルバさん?」


「セルア嬢一人であいつを相手にする必要なんてないんでやすよ」


 あくまでも敵を見据えてナイフを構えるシルバさんが、振り向きもせずに私にそう言ってくる。


 独りで戦っているわけではない。

シルバさんに指摘されて分かったが、随分と気負っていたようだ。


「・・・そうですね。よろしくお願いします」


「へい。お任せあれ」


 こんな時でもいつも通りのシルバさん。


(ある意味では大物なのかもしれないですね)


 そんな感慨を持ちながら、セルアは右手に魔力を集める。


「シルバさん。あれをやります」


「あれ・・・でやすか。わかりやした」


 シルバさんはそういうと、隣に立っている王女に軽く耳打ちをした。

 王女は少し目を丸くしていたが、すぐに頷いた。


 準備は整ったようだ。

今ジェストさんと対峙している兄に、私が身に着けた力を見せてみよう。


「ジェストさん!」


 そう叫ぶと、ジェストさんは兄さんと自分の間から移動した。

 魔力を右手に集め、右手が赤く発光する。


「ほう。お前が魔法を習得しているとは、何の才能もないやつだと思っていたのだがな」


「先生がよかったもので」


 そう返事をするが、兄は私が魔法を習得したことに対して驚いただけで、私の魔法に警戒しているわけではなさそうだ。


「だがそんなものは無駄なことだ。学習能力がないのは相変わらずのようだな」


 そういって兄は余裕を見せつけるのが何よりもそれを証明している。


(兄さんらしいですね。でも)


 右手に集約された魔力を火球にして打ち出す。

 兄はその弾道を正確に見切っていたのだろう、充分に余裕をもって躱そうとしている。


(でも、それは想定済みです)


 セルアが放ったのは火球によく似ているが、その実はまるで別物。

 エドガーに向かって飛んで行ったその火球は、ただの火球ではない。


 兄が回避しようとする直前、その火球は爆ぜ、周囲に閃光をまき散らす。


「な、目が!」


 兄が驚愕の声を上げる。

 今回の火球は攻撃目的というよりも、閃光による目くらましが本命。


 アルミナさんと一緒に、マサキさん相手に魔法の練習をした後、マサキさんとアルミナさんは魔法の研究のようなこともするようになっていった。


 二人がやっていることに興味を持った私も混ぜてもらったが、さすがに二人がやっていることが難しすぎて途中からはついていけなくなった。


 でも二人がやっている研究の中で、自分にもできそうなものがいくつかあった。


 その一つがこれ。

 魔法の性質変化。


 アルミナさんが水魔法を用いた際に、その水を氷に変えたり、水蒸気(?)とかいうものに変えたりしていた。


 そもそも水魔法が使えない私には無縁の話ではあるが、火魔法でいろいろ応用が利くのではないかと思い、マサキさんに無理言っていろいろ考えてもらった。


 この魔法はその中の一つで、魔力を調節することで、爆音と閃光だけを強くする魔法。


 そんなものに何の意味があるのかとも思ったが、アルミナさんが使って見せるとその爆音と閃光でしばらく身動きが取れなくなった。


 わずか数日間ではあったが、何とか習得できた魔法だ。


 この魔法の存在は、もちろんジェストさんとシルバさんには伝えてある。

 王女様には伝える余裕がなかったが、先ほどシルバさんが伝えてくれた。


 知らないでこれを受ければしばらく目がチカチカして何も見えなくなるのはまず間違いないだろう。


 案の定。

 この隙を逃すまいとシルバさんとジェストさんが兄に突撃していく。


 兄の視力はまだ回復しないようで、未だに両手で目を覆っている。


「私がいることを忘れてもらっては困る」


 しかし兄さんに迫ろうとする二人に王子が魔法を放ってきた。


(そんな! 見切られていた!?)


 あの魔法に対処するなんて、一体どうやって。

 そう思ったが、対応されているという事実は変わらない。


 エシュバット王子の手が緑色に光っている。


 おそらく風属性。


 王子はそれを、弾丸ではなく、散弾のように放ってきた。

 魔法で散弾を放つということ自体は私でも出来る簡単な魔法だ。


 しかしそれでは魔力が拡散してしまい、一撃一撃がとても軽いものになってしまう。


 それこそ突風が吹き付けるくらいのものだ。

 そのため私はもとより、アルミナさんも使うことなどまずない非効率な魔法なのだ。


 だというのに、エシュバット王子の散弾にはかなりの魔力が込められている。

 兄さんに肉薄していた二人が思わずたたらを踏むくらいに。


 王子の放った風の散弾は当然兄さんも巻き込んでいたが、大量の魔力を放出し続けている兄さんにはあまり効果が無いようだ。


「エシュバット!」


 隣のエステルナ王女がそう叫ぶと、王女の左手が黄色くひかり、その手から石の弾丸が王子に向かって飛来する。


 私の火球と同じくらいの魔力がこもっているであろうその石つぶては、しかしエシュバット王子が巻き起こした風により軌道を逸らされた。


「その程度の魔法が、私に通用するとお思いか?」


「くっ!」


 悔しそうに歯噛みをする王女。

 今の魔法は決して弱いものではない。


 しかし王子の放つ魔力が圧倒的すぎるせいで王女の魔法がまるで届かない。


「姉上。すでに私はあなたの想像のはるかに上を行く存在となった。あなたではどうあがいても私には勝てないのですよ」


 わずか数回の魔法でこちらのチャンスがつぶされてしまった。

 それはエシュバット王子が言っていることが正しいということを如実に証明していた。


 さらに間の悪いことに兄さんも目くらましから回復したようで、目を抑える手を放したかと思ったら鬼のような形相でこちらをにらんできた。


「貴様らあぁぁぁ!! こんな真似してタダで済むなどと夢にも思うなあぁ!」


 言っていることは小物そのものではあるが、状況は最悪に近い。

 こちらの手の内は明かしてしまったし、エシュバット王子の実力はまるで底が見えない。


(ここまでなのでしょうか)


 諦めがよぎりそうになる。

 でも、目に映る誰もがいまだに立ち向かっている。


 ジェストさんも、シルバさんも私たちに背を向け兄さんと対峙している。

 エステルナ王女様もエシュバット王子に立ち向かおうとしている。


(・・・私だけが、弱腰になってはだめですよね)


 そう思い、笑いそうになる膝を叱咤する。

 兄さんがこちらに歩み寄ってくるのを確認し、ダメもとでもう一度攪乱魔法を使ってみようとしたその時。

 

 こちらに向かってくる王子と兄さんに、親衛隊の人たちが飛来してきた。






 右手が焼けるように熱い。

 いや、実際に火傷をしている。


 左わき腹からも軽く出血している。

 親衛隊があからさまに怪しい状態になってから、俺は連中に真綿で首を絞められるようにじわじわと削られている。


 近接戦闘であればこちらに分があるが、一人を相手にすればほかの奴に背後から魔法を叩き込まれる。


 普段であれば問題にならないが、今のこいつらが放ってくる魔法について言えば俺に有効なダメージを与えることは十分に可能なのだ。


 結果として俺は削られるだけとわかっていてもひたすら敵の攻撃を避けることだけだ。


 先ほど啖呵を切ったとはいえ、そう都合よく敵を倒せるほどうまい話はない。

 それでもかろうじて俺が敵の攻撃を捌いていられる理由はこの世界に来てからの俺の特異体質もそうなのだが、その特異体質の新たな一面が現れだしたからだ。


(・・・傷が回復しているな)


 魔法によってつけられた傷や火傷が、見る見るうちに治っていくのだ。

 どうやら俺はまだ自分の体に起こっている現象のすべてを把握していなかったようだ。


 ゲイルにつけられた傷は、剣を抜いた直後にアルミナが治療してくれたが、もしかすると俺の体はあのまま放置していても問題なく回復したのかもしれないな。


(ほんと、いったい何なんだよこの体は)


 あまりにも出来すぎている強化に、驚き戸惑いうんざりするのはいったい何度目だろうか。

 あまりにも謎に満ちている。


 しかし、だからといって痛覚までは遮断されていないようだ。

 風の刃が俺にかするたびに、火炎が付近と通過するたびに、俺の体には一つ、また一つと生傷が増えていく。


 そのたびに痛みが走り、俺の動きを鈍くする。

 いくら治るからといっても、直撃すれば無事では済まないのは確かだ。


 結果。俺は際限ない消耗戦を挑まなくてはならなくなっている。

 先ほど一人減らすことができたといってもまだ五人も残っている。


 しかし時間を稼ぐことは決して無駄ではない。

 少なくとも、俺がここでこいつらの足止めをしていることで、セルアたちはエシュバット相手に人数の上で有利な戦いを挑むことができるのだ。


 もちろんベストを言えば俺が加勢することだが、こいつら相手に下手に攻勢に移ればその時点で俺がこんがり焼きあがりかねない。


 相手をけん制するための攻撃ならいざいらず、敵を倒すための攻撃ではどうやっても防御がおろそかになってしまう。


 これまでであれば俺は自分の特異体質がすべての攻撃を無効化してくれたため、俺は防御を捨てて攻撃に注力することができ、素人であっても互角以上に戦うことができた。


 しかし、今俺はそのツケを払わされている。

 防御のやり取りについてはジェストさんから軽く手ほどきを受けてはいたが、実際に俺に有効な攻撃を捌くとなると話が全く違ってきてしまう。


(訓練と実践は別物ってことか)


 消極的な方法かもしれないが、こいつらを足止めするしか俺にできることはない。


 せめて、せめてアルミナがいてくれれば、こんなことにはならなかったかもしれないが・・・


(・・・未練だな。アルミナに頼ってばかりでどうする)


 これだけ出鱈目な力を持ってなお無いものねだりをするとは、俺も知らず知らずのうちに贅沢になっていたものだ。


 とにかく現状で俺にできるのは時間稼ぎ。

 それが今俺にできる最善策。


 そう思い音を上げたいような消耗戦を続行しようとしたとき。

 玉座の間が閃光に包まれた。


(これは、セルアの!)


 以前アルミナと魔法の研究(というか検証)中に、セルアにせがまれて考案してみた閃光魔法。


 それにより親衛隊たちが発動しようとしていた魔法を中断し、両手で目を覆い軽く蹲る。


 火薬を調整することで、爆弾はただ爆発するだけではなく、閃光、発煙、音響に特化させることができるらしい。


 そのため、魔力の込め方次第でそういった現象を引き起こすことができないだろうかとアルミナに試してみてもらったところ出来上がった閃光魔法。


 これは戦闘にも有効に用いれると思い、セルアもアルミナから学びだしたのだ。


 アルミナは音響と閃光の両方を持った魔法を発動させていたが、さすがにセルアには難易度が高かったようだ。


 しかしセルアもさるもので、数日間の特訓の末、閃光魔法だけは修得したのだ。


(初めて使った時は加減を間違えて、しばらく目が見えなくなったな・・・)


 今回は偶然にも俺が背を向けている最中だったため俺の被害は最小限で済んだ。

 それに、ゲイルが放った目くらましも俺には数秒程度しか効果がなかった。


 セルアが放った閃光魔法に同じことが言えるのだろう、初めて使った際も、俺はほかのみんなに比べて早く視界が回復した。


 セルアの閃光魔法が、誰に向けて放たれたものかは知らないが、そのおかげで千載一遇のチャンスが生まれた。


 ここを生かさない理由はない!


 セルアに背を向けていた連中は比較的被害が少なそうだが、直に受けた親衛隊の被害は甚大だったらしく、未だに両目を抑えて蹲っている。

 後先考えずに、目の前で蹲っている親衛隊に突っ込む。


 後方から魔法が飛んでくるが、どうやら正面から受けていなくても視界に多少の影響は受けているようで狙いが甘い。


 とはいってもかすっただけでそれなりのダメージが入る。

 だからといってそんなものに構っていられない。


 セルアが作ってくれた好機を、逃すわけにはいかない。


 五人がかりで防戦一方になっているということは、ここで数を減らせれば俺にも勝機が出てくるということになる。

 裂傷も、火傷も、水弾や岩弾による弾痕も、後方から飛んでくる魔法によって与えられる影響のすべてを無視して目の前の敵に肉薄する。


 拳を振るい、蹲る親衛隊の片方の腹を殴る。

 殴られた親衛隊は、口から吐血しその場に倒れこむ。


 すかさずもう一人を蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされた方は手じかな石造りの柱に激突し、同じく気絶する。


 後方から飛んでくる魔法を回避し、体勢を立て直す。

(これで、少しはマシになるな)


 遠距離攻撃を主としてる親衛隊たちにとって多少でも視界が奪われるのは致命的だろう。


 俺もようやく視界が完全に戻ってきた。

 そのまま敵の一人に突撃する。


 狙いが甘いまま俺に魔法を放ってくるので、俺は体勢を大きく沈めて回避。

 そのまま懐に入り、アッパーを叩き込む。


 正直あまり加減はしていないため、親衛隊は派手に上方に飛ばされて、先ほど蹴り上げた親衛隊同様に天井に激突した。


 俺は追撃をするために残り二人の親衛隊相手を見据えた。

 その時、セルアたちに迫るエドガーとエシュバットの姿が目に移った。


(セルアたち。追い詰められているのか?)


 セルアが俺の思いついた魔法を身に着けていてくれなければ、今回の戦いで俺はこいつら相手にやられていただろう。


 彼女にもさっきの閃光魔法で借りがある。

 いや、貸し借り以前に、仲間に手を出されるのは心底気に食わん。


 親衛隊二人に真正面から突撃する。

 敵も迎撃用の魔法を放ってくるが、いくら二人分の魔法であっても来ると分かっていれば避けられる。


 さっきまで苦戦していたのは逐一後方から魔法を放たれたからだ。

 さっさとこいつらを始末してみんなを援護する。


 相変わらずとんでもない威力がありそうな魔法を放ってくる親衛隊だが、その魔法を回避し懐に入る。


 そして、その二人の頭を掴み、そのままエドガーとエシュバットに向けて力任せに投げつける。


 エドガーもエシュバットも寸でのところで打ち払っていたが、その目には驚愕が浮かんでいる。

 何はともあれ、これで助太刀することができそうだ。


 玉座の間で寝転がっている親衛隊から剣を一本拝借し、残り二人の敵のもとに向かう。


 これで残りは2人だ。


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