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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
第二章 エストワール騒乱編
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アミュレットの力

 不意打ちとはいえ部下が四人屠られた。

 その事実にエシュバットは狼狽こそしなかったが、深く驚愕した。


 先ほどの尋常ではない突撃だけでも相当なものだったが、自分の親衛隊の魔法の集中砲火を受けているにも関わらずまるで効いていないという事実。


 あれが何かのトリックならまだいいのだが、もしも馬鹿げた耐久力が生み出した結果であるなら、あの男は極めて危険だ。


 そう判断し、エシュバットは残った親衛隊たちに指示を下した。


「全員、手加減はするな。全力でもってこの者たちを仕留めよ!」


 エシュバットの指示を待つまでもなく、エドガーを含めた全員が相手を軽んじていたことを悟っている。


 あの男は、あっという間にこちらの配下を屠ってくれたが、一つミスをしている。


 それは、あの者が倒した相手がこの中でも指して強くはない者達だということだ。


 無論ここにいるものは精鋭の中の精鋭ではあるが、上位陣はまだ欠けていないからだ。


 残った六人が、正体不明の男を取り囲み、交戦を始めた。

 全員でことに当たった方がいいと考えたのだろう。


 その考えに異はない。しかしそうなれば、ほかの4人の相手は私とエドガーでしなければならないということになる。


 先ほど姉上の前で啖呵を切ったが、どうやら早速反故しなければならないようだ。


(ただの猪武者かと思ったが。なるほど。何の勝算もなしに挑んできたわけではないという言葉は正しかったようだな)


 そう思うエシュバットは、しかし自らの勝利をまるで疑っていない。


 彼には存在するのだ。

 今、親衛隊に取り囲まれているあの者の言うような確たる勝算が。


 そんな中、私のもとに残った四人が歩み寄ってくる。


 わが姉上エステルナ・ファム・エルトワール。

 その側近らしき武人。

 エドガーの妹と名乗る小娘。

 ・・・どこの馬の骨ともわからん冴えぬ男。


 何ともちぐはぐとしか言いようがないメンツだが、たった一人で親衛隊を相手取る者も交じっていたのだ。油断はするまい。


 そんな中で、先頭を歩く姉上がこちらに話しかけてきた。






「エシュバット。あなたは、何のために父の玉座に座るのです?」


 マサキさんが親衛隊を引き付けてくれたおかげで、私は弟と対峙することができた。


 マサキさんが隣で戦っている以上、すぐにでも戦わなくてはならないかもしれないが、それを差し置いてでも確認しなくてはいけないことがある。


 というより、今は何よりもまず弟と向き合わなければならない。


 今思えば私は弟と向き合ったことなどほとんどなかったように思う。

 成長が遅かった弟のことを、心の奥底で見下し、触れ合うことを拒んできたのかもしれない。


 ほとんどの人は私の言葉に耳を貸すし、王女という立場を振りかざせばそれだけで大概の話は受け入れてもらうことができた。


 それが私の過ち。


 いつの間にか私にとってエシュバットは弟ではなくその他の大勢となっていて、話をすればそれだけで納得してくれるなどという都合のいい考え方をするようになっていた。


 私は実の弟のことを何も知らなかった。

 いや、知ろうとしてこなかった。


 だからこそ、今からでも向き合い、今まで知らなかったことを知らなければならない。


 たとえそれが、遅すぎたとしても。

 たとえそれで、どんなひどい事実を知ることになろうとも。


「知れたことを。国王が倒れた今、人の上に立つものがいなければ、愚かなる民衆たちは混乱に陥る。誰かが束ねなければならないなら、その誰かが玉座に座るのは当然の事だ」


 弟の返答は、予想できたものだった。

 だからこそ、こちらの答えも決まっている。


「玉座に座っていいのは、現国王である父上ただ一人。代理であるあなたが座っていい場所ではないでしょう?」


「それも所詮時間の問題に過ぎないのですよ。父上が崩御するのも時間の問題なのですからね」


「・・・なんですって?」


 父が崩御するのが時間の問題?

 なぜ弟にそんなことが断言できる?


 いや、違う。

 考え方が違う。

 弟がそれを知っているのではなく、弟がそれを仕組んだとしたら?


 眉をひそめた私が答えを掴んだことを悟ったらしき弟の口元が大きくゆがむ。


「フフフ。フハハハハハハハ! ようやく気が付いたようですね。そう。父上が突如病床に伏したのは、私の差し金なのだよ! 料理人たちを抱き込み、父の食事に毒を盛り続けて!」


 私の様子から察しがついたことに気が付いた弟は、得意そうにその事実を口にした。


「ああ。今まで本当に気付いていなかったのですねぇ。あるいは、うすうす気が付いていたにもかかわらず目を背け続けていたのですか? 姉上は才能こそ一流であるというのに、人を見る目はまるでないのですねぇ?」


 弟の言葉に、私はまるで反論できなかった。

 今思えば薄々おかしいと思えることがあったのだ。


 日々やつれていく父上の姿。医療を施しても、魔法を用いても回復しなかったという事実。


 なぜ、今まで気が付かなかった?


「・・・では、王座を簒奪するために、父に毒を盛ったというのですか?」


「今更気が付いたところで意味などない。あなたの命運はここで果てる。この国を率いるのに、私以上にふさわしいものなどいない」


 エシュバットはそういうと、今自分の首に着けている、かつて父が肌身離さずつけていた首飾りに触れた。


「父上はこのアミュレットのことを何も知らない。姉上はご存知ですか?」


「・・・そのアミュレットの所有者には、膨大な魔力が宿る。でしょう?」


 エルトワール王国の王位を継承するものは、必ず絶大な魔力をその身に宿すようになる。


 即位する前がいかに凡庸であったとしても。


 一度や二度ならいざ知らず、それが代々続けばいぶかしむ者達も当然のように現れる。


 いつしかこの国の国王という座には特殊な何かがあるという噂が流れ始めた。

 おそらく貴族の中にも私と同じ見解をしている者はいるだろう。

 国王が、代々受け継いできたエルトワール王国の秘宝であるアミュレットに、魔力を増強させる力があるということを。


「ククク。クハハハハハハハ」


 私の回答に、しかし弟は心底おかしいというようにおなかを抱えて笑い出した。


 一通り笑い終えた後、こちらを向いた弟は


「そこまでは気が付いたか。だが所詮はそこまでか?」


 などと言い放ってきた。


「・・・どういうことです?」


 いつの間にか言葉遣いが変わっている。

 化けの皮がはがれ、本性が出始めているのだろうか?

 だとすれば、この先の言葉が嘘であるはずはないだろう。


「ふん。聡明な姉上に一つだけヒントを出すとしよう。初代国王のグリモール・ダベル・エルトワール王の伝承はご存じでしょう?」


「・・・ええ。圧倒的な魔力で東大陸を平定したという話でしょう?」


 この国でもっとも有名な逸話。いや、神話とさえ呼んで差支えないほど有名な物語だ。


 しかし、私の回答に対してエシュバットは小さくかぶりを振った。


「私が言いたいのはその先の逸話の方でね」


「その先?」


 グリモールの逸話の中でもっとも有名な逸話は、先ほどあげた及ぶ者のいない絶大な魔力だったはず。


 ほかの逸話といえば・・・記憶の糸を手繰っている最中に一つ引っかかる部分があった。


「まさか、グリモール王の親衛隊・・・」


 私の推測に、弟は満足そうに頷いて見せた。


「その通り。グリモール王の親衛隊たちは文字通り一騎当千の魔法使いたちだった。グリモール王がこの東大陸を平定し、エルトワール王国を作り上げることができたのは、本人の力もそうだがその親衛隊たちの働きも大きい」


 確かにその通りだ。

 単純に力が大きいものがいるだけであれば、その力を持つもののいない戦場を選ぶなり、戦わせないように策略を回すなり方法はいくらでもある。


 個人の強さと軍の強さとは戦力の規模が違うため単純に比べられるものではないが、無敵の軍を保有する国が強国になるのは明白なのだ。


 しかし、この場でその話を上げるということは…まさかアミュレットの本当の力というものは。


「どうやら姉上も理解できたようですね。論よりも証拠だ。今お見せしよう」


 そういうと弟は右手をアミュレットにあてる。

 突如、アミュレットが輝きだしたと思った時、エシュバットの隣に立っていたエドガーの全身が緑色に輝きだした。


(これは! 魔力!?)


 しかもこれは高等魔法を発動させる際に全身の魔力を活性化させるときにおこる全身発光現象。


 しかしこれはそれとは明らかに違う。


 なぜなら全身発光現象は、そののちにすぐさま体の一部に集約させないと霧散してしまうのだ。


 いや、魔力が霧散するよりも大量の魔力を放出し続ければできなくはない。

 しかしそれはあくまで理屈の上の話。


 この国で最高の魔法使いであるエステルナでさえもそんな真似をすれば数分で魔力が枯渇してしまう。


 いわば魔力の垂れ流しにも等しい行為で、本来ならば何の生産性もない行いだ。


 しかし、今目の前でおこっている事態はそんな常識には明らかに外れている。

 平然としているエドガーからは、まるで自然に漏れ出した結果そうなっているとでもいうように落ち着き払っている。


 あんな真似をすれば全力で踏ん張るような状態になるのが普通であるにもかかわらずだ。


「それは・・・一体・・・」


 戸惑いを隠せないのは私だけではない。

 私の後ろで待機しているジェストはもとより、セルアとシルバも同様に驚愕している。


 その様子に心底満足したようにエシュバットが話し出した。


「なぜグリモール王の親衛隊だけが人外の魔力を持っていたのか。それは魔力が強いものがグリモール王の傘下に下ったのではなく、このアミュレットの加護を受けた者は、その身に膨大な魔力を持たせることができるということなのだよ!!!」


 そういうと、アミュレットが再び輝きだした。


 かと思うと、今現在マサキさんと戦っていた六人の親衛隊の全身がそれぞれ違う色彩ではあるが輝きだしたのだ。


 エドガーと同じ全身発光現象。


「たった今、この城内にいる親衛隊たちの制限を解除した。どうも城壁付近の者達も苦戦しているようなのでね」


 エシュバットがそういうと、エドガーが今まで右手で持っていただけの剣をこちらに向けて構えた。


「さて、それではさっさと覚悟を決めてもらおうか」


 そんなエシュバットの声が広間に響いた。






 視界の端でエシュバット王子とエステルナ王女が何か言い合っているように見える。


 まあいきなり戦う必要があるわけではないし、俺がこいつらを始末して加勢することができれば一気に有利になるのは目に見えている。


 そう考えれば時間稼ぎをしてもらっても何の問題もない。

 しかしこいつらの練度はかなりのものだ。


 残った六人は魔法だけでなく近接戦闘もかなりのもので、こちらも攻めあぐねている。


 一人一人が一、二合程度は俺と切り結びあえているのだ。


 今俺は力任せにぶつかって行く事しかできない。だからといって普通の敵では反応することもできないくらいの速さはある。

 そんな俺の攻撃を、やっとの事ではあるようだがきっちり捌いている。


 そして厄介なのは、一撃を捌かれた際に生じるわずかな隙を魔法で確実についてくるというものだ。


 俺が不意打ちをかけた際に使った魔法は相当手加減されていたようで、今使っている魔法はダメージこそ受けないものの、一撃を受けるたびにわずかに体勢が崩される。


 そのわずかな隙に追い打ちをかけようとした相手は後退し、ほかの相手が俺に攻撃を叩き込んでくる。


 見事な連携としか言いようがない。


 一対一だったら六連戦でも問題なく勝てていたとは思うが、六人全員を敵に回すとなるとさすがにかなり厳しい。


 相手の練度が高いならなおさらのことだ。


(早いところこいつらを片付けたいっていうのに)


 幸いなことは、向こうも俺に手傷を負わせることができるような攻撃手段を持っていないということ。


 そのせいで辛くも戦い続けることができているが、被弾数だけなら完全にこっちが負けている。


 相も変わらず身体能力に任せきった戦いかたしかできていないが、そうでもしなければとても戦えない。


 肝心なのは勝つことで、スマートに戦うことではない。

 だから現状切り結んでいられるだけで十分といえなくもない。


 しかしその最中、目まぐるしく戦う中で視界の端に奇妙な光景が飛び込んできた。


(なんだ?)


 突然エドガーとかいう男の全身が緑色に輝きだしたのだ。

 あれは、アルミナが以前エルフの集落を防衛する際、魔物の群れに竜巻を放った時に酷似している。


 まさか、ここであの規模の魔法を発動しようとしているのか!?

 親衛隊と戦いながらも、俺はそちらの様子に気を取られてしまう。


 いつアルミナが使ったような鎌鼬が起きるのかと。

 しかしいつまで待っても鎌鼬は起きなかった。


 しかしそれは事態がいいということを意味しているわけではない。

 なぜならエドガーの体からは未だに緑色の発光が続いているからだ。


(なんだ? あれはいったい何が?)


 エドガーの身に起こっていることがなんなのかが理解できない。

 一つだけ言えることは、激しく嫌な予感しかしないということだ。


 そして、その予感は的中することになる。


 いつの間にか俺はエドガーの様子をうかがうだけになっていた。

 親衛隊の連中がこちらへの攻撃の手を突然止めたからだ。


 そして、それもまた俺にとって好機ではない。


 なぜなら、俺を取り囲んでいる親衛隊たちも全員突然全身を発光させだしたからだ。


(何が起こっているんだ?)


 俺の困惑に、しかし答えてくれる者はいなかった。


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