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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
第二章 エストワール騒乱編
43/68

玉座にて

「何の騒ぎだこれは」


 深夜にたたき起こされたエシュバット王子は、目の前にいる自分を叩き起こした張本人である親衛隊副隊長エドガー・バレンタインに対してそう問うた。


「陛下の予想が当たったようでございます」


 眠りを妨げられた怒りを真っ直ぐに向けていたエシュバット王子は、エドガーの報告を聞くやいなや口元を歪めた。


「ついに来たか?」


「はい。反乱分子がいぶりだされた模様です」


 こみあげてくる笑みが抑えられない。

 反乱分子が現れるとしたらこのタイミングしかないだろうと思っていたがまさか本当にあらわれてくれるとは。


 ここで反乱分子をたたけば一気に私の玉座が見えてくる。

 魔王アルベウスを討伐し、反乱分子を片付ければ、もはやだれも私が王になることをとがめることは出来まい。


「エドガー。敵の数と状況は?」


「現在数名の者が牢獄に囚われている姫様を救出しに向かっている模様です」


「たったそれだけか?」


 いや、そんなはずはないだろう。

 仮に今回の目的が姉上の解放だったとしても、そんな少数人数だけで何もかもを決行するはずがない。


 必ず裏で糸を引くものが存在するはずなのだ。


(私があぶりだしたいのは裏で糸を引く存在だ)


 だとしたらこの場ですべきことは決まっている。


 黒幕にとっての最優先事項は王女の奪還だ。であれば、それを防ぐだけで相手は尻尾を出す可能性がある。


 もっとも、王女を奪還することなどこの国の者には不可能だ。

 いや、世界中探してもそうそういるものではないだろう。


 ゆえに襲撃者が王女の奪還をあきらめなかったとすれば、その者達は全員牢獄に閉じ込めることができるということになる。


 さて、ネズミを捕らえるべきか、あるいは泳がせるべきか。

 そう考える私のもとに、一人の伝令兵がやってきた。


「エシュバット王子様!!」


「何事だ?」


 伝令の様子を見る限りだとただ事ではなさそうだが。


「侵入者がエステルナ王女を牢獄より救出し、取り押さえることに失敗し逃走を許しました!!」


「なんだと! あの結界を破ったものがいたというのか!?」


 その伝令の報告に、エドガーが激怒していた。

 気持ちは分からなくもない。


 あの結界は、アミュレットの力を注ぎこんで作り上げた至高の一品。

 断じて簡単に解けるようなものではないし、もし解けたとしても中にいる姉上はただでは済まないようにできている。


 激高するエドガーを手で制して伝令に先を進ませる。


「逃がしたというのは? 姉上はどうなったというのだ?」


「エステルナ王女は健在! 現在侵入者たちと同行し、こちらの手の者達と交戦しながら逃亡中とのことです!」


 その報告にはさすがに驚くしかなかった。


 内部に拘留されていた姉上を傷つけずにあの結界を解くなど、アミュレットの加護を受けている私でもできるかどうかは分からない。


 無論、結界の所有者である私ならそのくらい訳はないが、他者があの結界を張った場合だと力ずくで突破するくらいしか方法が思いつかない。


 その場合、結界内部にいるものには深刻な障害が残ることはほぼ間違いない。

 そのような離れ業をやってのけるものが侵入してきたということか。


「エドガー。残った兵士を全員叩き起こせ。親衛隊の半分は城壁を固め、残りで姉上の捕縛に回せ。私は玉座の間に向かう」


「は!」


 あの結界を破る者がいるというなら、油断してかかっては足元をすくわれるやもしれん。


 もっとも、向こうもこちらの手札を完全に把握しているわけではないだろうから条件は五分五分、いや、こちらが有利といっていいだろう。


「なにしろ、父上はこのアミュレットの真の力にまるで気づいていなかったからな」


 エシュバット王子はそうつぶやくと、ほくそ笑んだ


 父は。いや、代々の国王の中でも、自らが継承してきた魔力増幅のアミュレットに隠された真の力に気づいている奴はいったい何人いるだろうか?


(この私に、もはや敗北することなどあり得ない)


そのようなことを思いながらエシュバット王子は服装を整え、玉座の間へと歩みだした。

 





「さて、これからどうしよう?」


 牢獄から脱出して、敵を撃退したのはいいけどこの後どこに向かえばいいのかなんてまるで見当がつかない。


 俺は土地勘なんて働かないし、アルミナのような気配探知力があるわけでもない。


 下手に動いてもドツボにはまるだけ。ここはほかの誰かに指示してもらうのが一番いいだろう。


「アルミナ。エシュバット王子の位置は分かる? なんかというか、魔力が強そうな奴の気配とか・・・」


 自分で言っててしどろもどろになってきた。

 なんだよ魔力が強そうな奴の気配って?


 アルミナも少々困惑している。やはり無茶な要望だったか?


「・・・このお城の中に、多数の強力な魔力の持ち主が散在しています。ですから、どれがエシュバット王子なのかがはっきりとわかりません」


 魔力の探知はできるってか!?

 さすがはアルミナ。底知れぬハイスペックである。


「アルミナ殿。あちらの方に魔力の気配は感じますか?」


 ジェストさんがアルミナにそう尋ねると、指である方向を指した。


「・・・います。強力な魔力を持った人たちが、少なくとも10人ほど」


 膨大な魔力。アルミナはそういった。


「アルミナ。その強力な魔力っていうのは、さっきの奴らよりも上ってこと?」


 俺の質問にアルミナは少し考えた後


「はい。間違いなく上手だと思います。魔法の習得状態までは分かりませんが」


 魔力が高い連中が待ち受けているところか。


「ジェストさん。そっちには何があるんですか?」


「玉座の間です。謁見の間とも呼ばれていますが、自尊心の強い王子が我々の襲撃に気づいたのなら、寝室で待機しているよりもそこで指揮を執っている可能性が高いと思ったのです」


 ジェストさんの仮説が正しければ、王子はすでにこちらの襲撃を察知しているということになる。


「ちなみに寝室はどっちですか?」


「あちらの方角になります」


 そういってジェストさんは斜め上の方を指さした。


「アルミナ」


「あちらの方には、誰もいないようです」


 ということは、エシュバット王子は迎撃態勢を整えたうえでこっちの出方をうかがっているということになる。


「・・・では、これから玉座の間に向かいましょう」


 俺がそう指示を下すと、ジェストさんは頷き先導してくれた。

 途中で何人か敵兵と遭遇したが、俺が先陣を切っている以上、魔法も武器も効果などない。


 相手が自信満々に放ってくる一撃を避けるでもなくそのまま受け、ラリアットの要領で敵を巻き込む。


 それだけだが、魔法も剣も効かない俺がやればそれだけで足止めにもならなくなる。


(まさか俺がリアルで無双することになるとはね)


 そんな感慨を持ちながらも敵を薙ぎ払う。

 ほかのみんなは俺の後ろにいるだけで何の問題もない。


「本当に、すごいですねマサキ様は・・・」


 後ろで王女様がそんなことをつぶやいた。


「全くです。彼が味方に付いてくれたことは、私たちにとってこの上ない僥倖だったといえます」


 後ろでそんなこと言われると照れる。


 しかしここは気張らねばなるまい。

 仮にも命のやり取りをしている戦場なのだ。照れている場合ではない。


「それにしても、魔法使いたちは遠征に出ているはずなのにどうしてこんなに多いのやら」


「全くです。城の中にはもうめぼしい魔導師はいないはずだと思っていたのですが・・・」


「現在、王宮内の魔導師たちはどこに?」


 ジェストさんと俺とのやり取りを聞いた王女が尋ね返してきた。

「はい。王国軍は、現在魔王軍の迎撃で大部分が出撃しています。そのため現在対応できる兵士の数は限られているのです」


「魔王アルベウス。長年静観に徹してきた魔王が、なぜ今になって…」


 エステルナ王女にとっては寝耳に水の話だったのだろう。

 しかし今現在それは考えるべきことではない。


「エステルナ王女。今はエシュバット王子の捕縛に全力を尽くすべきです」


 そういってジェストさんは玉座の間に向かおうとした。

 しかしそれをアルミナが遮った。


「待ってください!」


「どうしました?」


 アルミナの制止に、ジェストさんが歩みを止めた。


「城門付近に、たくさんの人が集まってきました! おそらくレイモンドさんたちの兵士です」


「作戦が始まったということですね」


 アルミナの言葉にジェストさんがそういった。


「作戦? 何のことですか?」


 この中で唯一作戦内容を知らない王女様がそう尋ねてきた。


「私たちが王女様を救出するのと同時に、王宮を侯爵たちの兵士が包囲。その混乱に紛れエシュバット王子を捕縛するというものです」


 すかさずジェストさんが説明する。

王女様は少し俯いたが、すぐに顔を上げた。


「そうですか。では、私たちは弟の捕縛に向かいましょう」


「はい。急ぎましょう」


 そういってジェストさんたちは玉座に向かおうとした。が、


「待ってください!」


 それをアルミナが止めた。


「どうしました?」


「いま、城壁の付近に魔法使いたちが集まっています! おそらくこのままでは、今こちらに向かってきている方々が全滅してしまいます!」


「な!?」


 アルミナの説明に全員が絶句した。

 いくら数で勝っているとはいえ、相手は城壁の上から敵を狙えるというアドバンテージがあるのだ。

 投石や、弓矢での攻撃でも絶大な効果があるのは間違いないが、それが魔法となればさらに顕著だろう。


 さっき俺たちが相手をしたような奴が大した脅威にならなかったのは、単純に俺たちが相手だったからであり、普通の兵士が戦えばまず間違いなく勝負にならない。


「しかし、こちらにも戦力を分散させる余裕は・・・」


 ジェストさんが言葉を漏らす。

 確かに。エシュバット王子がどれほどの力を持って居るのかは分からない。

 だが、だからといって味方を見殺しにするのはあまりにも後味が悪い。


「マサキさん・・・」


 アルミナが何かを訴えるような目でこちらを見てくる。

 おれも、助けに行けるならそうしたい。


 しかし俺の体は一つしかない。同時に複数個所でことが起こった場合、対処できるのは一か所だけしかないのだ。


 味方を助けるべきか、敵を排除するべきか。

 くそ! 物語の中ではよくある選択だが、実際に自分がするとなるとどうしてこうも迷うんだよ!


 そんな俺に、アルミナが一つの提案をしてきた。


「マサキさん。私・・・・」







 玉座の間にて、エシュバット王子は不敵に笑う。


「やはり襲撃が来たな」


「はい。兵士たちを尋問すれば、必ずや黒幕のしっぽをつかむ事ができるでしょう」


 彼の隣にいるのは当然親衛隊副隊長のエドガー。


 そして玉座に座る王子を守護するように並ぶのは親衛隊の中でもより精強な者達が10名。


 王女が奪還された時点である程度予想はついていたが、やはり襲撃者が現れてくれた。


 あとは襲撃者たちを返り討ちにし、黒幕を引っ張り出し、貴族たちの目の前で処断し、私に逆らうことの愚かさを知らしめるのだ。


(そのためにわざわざ城の中の警備の人数を減らしておいたのだからな)


 自らを守る兵士の人数が少ないにもかかわらず、エシュバットは自らの勝利を決して疑わない。


 玉座の間につながる大扉が開かれ、伝令がやってくる。


「現在、城門付近で反乱が発生。現在魔導師部隊が迎撃に向かっています」


「うむ、それでいい。ただし皆殺しにはするなよ。相手から情報を引き出さなければならないからな」


「は!」


 伝令との応対はエドガーに一任している。


 必要なことはすでに打ち合わせ済みだし、部下に話を通させるのはエドガーの方が私よりもうまい。


 指示を聞くやいなや、伝令は直ちにこちらに背を向け扉より外に出る。


 扉をあけっぱなしで出て行っが、現在は緊急事態のため、いちいちくだらないことでタイムロスをすることは断じて避けなければならない。


 そして駆け出す伝令兵。

 しかし、その伝令が届かないとはっきりわからせる事態が発生した。


 扉から出て右に曲がって駆け出した伝令兵が、扉を横切るように吹き飛ばされたからだ。


 どこかのサーカスでもあるまいし、伝令兵がそんなことをする意味などない。


「侵入者か」


 まさか向こうから来てくれるとは。

 可能性として考慮していなかったわけではないが、姉上を救い出して一目散に逃げ出すとふんでいたため少々以外ではある。


(だが好都合というものだ。こちらから出向く手間が省ける)


「エドガー」


「は! お任せください!」


 エドガーがそういうと、私の周りを守っていた者達も臨戦態勢に入る。

 目の前扉をくぐり、五人の敵がこちらに入ってきた。


 伝令は侵入者の人数も詳細も一切報告してこなかったが、この者たちが侵入者であることは一目でわかる。


 なぜなら自分から見て右手側にいる一人の女。その姿を間違えることは決してありえない。


「これはこれは姉上。獄中生活でもお変わりないようで何より」


「自らの手で牢屋送りにしたものの言う言葉ではありませんね」


 ひと月ぶりに牢から出たというにも関わらず、記憶の中にある姿と寸分のずれもない凛々しい姿の姉にたいして、浮かんでくるのはこみあげる笑いのみ。


「しかし悲しいですな姉上。牢破りは重罪だ。そのような罪を犯した以上、たとえ姉上であろうとも無罪というわけにはいきませんな」


「白々しい言葉を紡ぐのはよしなさい。どの道放置しておくつもりもなかったのでしょう?」


 ふっと笑いが込み上げる。

 さすがは姉上。こちらの考えていることなどお見通しというわけだ。


「全てを理解したうえでこちらに来られたということは、たとえ逆賊として磔になろうとも構わないととらえてよろしいのですね?」


 いやといったとしてもこちらがとる行動が変わるというわけではないがな。


「そうなったとしても構いません。ですが、今のあなたに国を預けたまま死ぬわけにはいきません」


「よくおっしゃられた。では姉上、悲しいですが、この場でその身の命運が果てることをお覚悟ください」


 そして、戦いの火ぶたは切って落とされた。

 それは、国を思う姫君と、己の欲に狩られた王子による、国をかけた騒乱最大の衝突となる。


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