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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
第二章 エストワール騒乱編
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王女奪還

 アルミナが結界を書き換えるなんて離れ業をしてくれたおかげでエステルナ王女の救出作戦は成功した。


 なぜか王女は目パチクリさせながらこっちを見ていたが、すぐに態度を改めこちらに向き直った。


「いったいあなたたちは何者なのですか?」


 王女のその疑問に真っ先に答えたのはジェストさんだった。


「私はジェスト・アイスバルド。このたびは、レイモンド・バシュトシュタイン侯爵の命により、王女救出作戦を担当することになりましてこの場にはせ参じました」


 片膝をついて恭しくジェストさんがそう述べた。

 王女様が聞きたいのは俺たちの能力の方かもしれないが、まあこの場はジェストさんに任せておこう。


「バシュトシュタイン公が? いったい何の目的で私を救出するというのですか?」


「バシュトシュタイン様は、エシュバット王子が政権を握れば、最悪の独裁国家となり、国家の破滅になると考え、エステルナ王女様に即位していただくためにこのたびの騒動を起こした次第です」


 ジェストさんがあらかじめ用意していたのであろうセリフを並べていく。

 王女はその言葉を聞き、一つため息をついた。


「私を担ぎ上げるということは、弟を敵に回すということです。脱獄した王女の味方になり、あなたたちに何の得があるのですか?」


「この国が生きます」


 ジェストさんは何の迷いもなくそう言い放つ。


「エシュバット王子はすでにこの国の軍を掌握し、実権を握りかけています」


「ならば、戦って勝ち目のない話なのは分かっているでしょう?」


「ええ、ですが千載一遇の好機に恵まれました。魔王アルベウスがこの国に向かって進軍してきたのです。我が国の主力はほとんどがそちらの迎撃に向かいました」


 ジェストさんの言葉にエステルナ王女は息をのんだ。


「詳しく申し上げる時間がないため、充分に説明できない無礼をお許しください。王女様のおっしゃる通り、初めから勝ち目の薄い作戦であり、失敗すればすべてを失うでしょう。そして、私たちはそれを覚悟の上でここに来ました。エステルナ・ファム・エルトワール様。どうかご決断ください。国のために、あなたの命運をかけることを」


 ジェストさんの言葉に、エステルナ王女は俯き唇をかみしめた。

 彼女の内心は分からない。


 だが、ここで彼女に旗印になってもらえなければ俺たちの計画の前提が成り立たなくなってしまう。


 しばし俯いた王女は、しかしすぐに顔を上げた。


「分かりました。この国と、私の命運を、あなたたちに託します」


 確かな決意とともに、王女はそう決意した。


 さすがだな。


 俺は内心そう思った。

 何の覚悟もなく戦場までのこのこやってくる俺だったら決断を下すまでにはるかに長い時間がかかったことだろうし、同じ決断を下せたとも思えない。


「ジェストさん。これから次の目的地に向かうんですか?」


「はい。ですがその前にエステルナ王女を安全なところに逃がします」


 確かにそれは必要な行動だ。

 しかしすでに騒ぎが起きている現状それが可能だろうか?


「待ってください!」


 ジェストさんの言葉を遮ったのは、エステルナ王女だった。


「王女様。何か?」


「あなたたちは私を逃がした後、弟を捕えるつもりなのですか?」


 …王女にはそこまで伝えてなかったはずだが、さっきまでの会話で予想したってのか?

 王女様はかなり頭の回転が速そうだ。


「そのつもりです。私たちは王女様の安全を確保し次第エシュバット王子の捕縛任務に移ります」


「では今すぐにそれを行いましょう」


 王女の提案に俺たちは呆気にとられる。


「何をおっしゃるのです王女様! あなたの身に何かがあれば、取り返しのつかないことになります!」


「ですが、今から私を逃がすよりも、直接弟のもとに向かった方がよほど早くこの騒動を抑えることができます」


 ジェストさんはすかさず反論したが、王女様に引く気はないようだ。


「私を守ろうとしてくれることには感謝します。ですが、騒乱が長引けば、それだけたくさんの命が危険にさらされます。加えて、今私を逃がすということは弟に時間を与えることにもなりかねません」


 王女の論に、俺たちはなんの反論もできなかった。

 王女が現状を正しく把握しきっているとは思えない。


 にもかかわらずここまで的確な判断を下せるということに、俺はただ驚くしかなかった。


「弟は狡猾です。時間を与えるようなことがあれば、捕縛をすることは困難になるでしょう。今すぐに動かなければ、好機を失ってしまいます」


「し、しかし」


「あなた方がここに来たのは何のためですか? この国の未来を憂い、破滅の未来を回避するためにここに来たのではないのですか? 今が千載一遇の好機なら、その好機を最大限に生かさなくてどうするというのです!」


 なおも食い下がるジェストさんに、エステルナ王女はぴしゃりと言い放った。

 さすがのジェストさんも返す言葉をなくしたようだ。


「…分かりました。王女の身は、この身に変えてもお守りします」


 どうやら話はまとまったようだ。

 こっちとしては壊れ物を運ぶようなものだが、仕方がないといえば仕方がない。


「よし。じゃあさっさと作戦を進めようか」


 そう俺が言った時、アルミナが突然叫んだ。


「敵が来ました!」


「敵が? 数は?」


「はい。人数は10人ほどです」


 それなりに時間がたっているにもかかわらずまだ突入してこないところを考えると、相手は入り口を固めるつもりか、あるいは人数を集めていたと考えるべきだろう。


「まあやることは変わらない。突破しよう!」


 俺がそういうと、ほかの五人もコクリと頷いた。

 

 地下牢を脱出するためには、当然来た道を戻るしかない。

 勿論、待ち伏せがいるだろうが、正直そんなことはどうでもいい。

 俺が先頭を走って階段まで問題なくたどり着いたので、そのまま上りだす。


「上から3人ほどこちらに向かってきます」


 アルミナがそういうと、俺はその場に立ち止った。


「分かるのですか?」


 エステルナ王女はただ一人戸惑っているようだった。

 まあ無理もないだろう。


「アルミナが気配を読み違えたことはありませんよ。まず間違いなく三人ほど敵が来ます。ここで迎撃しましょう」


 三人程度なら俺一人でも十分だろう。

 牢屋で見張り番をしていたやつ程度なら、三人といわず三十人でも何の問題もない。


 そう思って提案したのだが、


「いえ、止まらずに突破しましょう」


 こともあろうにエステルナ王女がそういってきた。

 いや、セルアあたりがそういう提案をしてきそうだなと思っていたんだけど。


「そうですよマサキさん。ここで時間を消費している場合じゃありません!」


 と思ったらセルアも賛成のようだった。

 この二人案外気が合うんじゃないか?


「だけど敵が魔法を使ってくるかもしれない」


「「そのくらいならどうとでもなりますよ!」」


 と口をそろえて俺に反論する二人。

 正直、今から戦う敵兵よりも迫力がありそうだ。


「…わかりました。でも俺から離れないでください」


 そういって俺たちは再び階段を駆け上がった。

 石造りの地下室は、当然であるが足音がよく響く。


 アルミナが気配探知をしてくれているため、こっちが奇襲を受ける可能性はほぼ皆無だが、隠密行動を放棄しているためこちらの気配も相手に筒抜けと考えていいだろう。


 案の定、俺でもわかるくらいはっきりした足音が響いてきた。


「行くぞ!」


 そういって俺は一気に走り出す。

 視界内に、アルミナが言った通り三人の男が現れる。

 驚いたことにすでにそれぞれの右手が薄緑と赤色に光っている。


「魔法が来るぞ!」


 俺がそう叫ぶと同時に、敵の手から魔法が放たれた。

 風魔法二つと火魔法ひとつが弾丸のような勢いでこちらに飛んでくる。


 とっさにかばおうとしたが、正面から風魔法、さらに両側面からカーブの軌道で飛んでくる風と火魔法は、俺一人では全部を防ぎきれない。

 どうすれば…。


 そう混乱する俺は、しかし次の出来事でさらに意表を突かれることになった。

 右から飛んでくる火球が、水の弾丸らしきものと衝突し、突然消えてしまったのだ。


 現在アルミナは俺の後方にいるため、角度的には魔法で迎撃できない。

 それはセルアも同じことだ。


 ということは水弾を放ったのはエステルナ王女ということになる。


 さらに驚いたことに、火球を放った魔法使いは突如何かに殴り飛ばされたかのように後方に吹き飛んでしまった。


 これは、風魔法か!?

 そう思ったが、それと同時にさらに驚くことが起こった。


 左から飛んできていた風の弾丸が、俺の後方から放たれた火球によって消滅したのだ。


 しかもその火球は、風魔法を消滅させるだけにとどまらず、そのまま風魔法を放った魔法使いに高速で飛んでいき、魔法使いに直撃した。


 もはや残ったのは俺の正面から来る風の弾丸ただ一つ。それならもう問題などない。


 風魔法を素手で打ち払い、そのまま真ん中に残った魔法使いの懐にめがけて突撃する。


 敵の魔法使いは、味方二人がやられて狼狽していたようだが、迎撃のための魔法を放とうとしていた。


 しかしその行動は遅すぎた。そのまま俺のタックルをもろに受け、階段を上るように吹き飛んだ魔法使いは、数メートルほどバウンドして止まった。


 当然のように意識は残っていない。




「マサキさん。とおっしゃいましたか?」


 戦闘終了後。階段を駆け上りながらエステルナ王女は俺に話しかけてきた。

 その話かたから、そういえばまだ自己紹介していなかったなと思いだす。


 というか、さっき結界を破るときにアルミナが俺の名前を呼んだが、それを覚えていたのか。


 人の顔と名前を覚えるのが苦手な俺にとっては驚くようなことなのだが、王女ともあれば、一度あった人の顔と名前は覚えておかないといけないものなのかもしれないと勝手に納得する。


「はい。なんでしょうか?」


「先ほど魔法を受けていたようですが、何ともないのですか?」


 さっきの戦闘中に起こったことが気になるようだ。

 この世界に来て何度目になるかもわからない説明を繰り返す。


「ええ。あの程度の攻撃なら何回受けても何の問題もありませんよ」


 その説明にエステルナ王女はわずかに絶句したが、ほかの人と違ってすぐに次の言葉を紡いだ。


「そうですか。それで離れないように言ったのですね?」


「はい。その通りです。ですから、王女も敵が現れたら迷わず俺を盾にしてください」


 その俺の説明に、王女はわずかにためらったようなそぶりを見せたがすぐに頷いた。


「分かりました。本当に頼もしい方々が助けに来てくださったものです」


 感心したようにエステルナ王女はそうつぶやいた。


 しかし感心するのはこちらの方でもある。頭の回転の速さが人並み外れていたし、さっきは敵の魔法使いを魔法で圧倒して見せた。


 その際に水魔法と風魔法を扱ったように思えたのだが…


「エステルナ王女。先ほど敵の魔法使いの火球を撃ち落としたのはあなたの魔法ですよね?」


「ええ、もちろんそうです」


「そのあと風魔法を打ったのもあなたですか?」


「はい。そうです」


 なんでもなさそうにそういうが、魔法の連射というのはセルアではまずできないだろう高等技術だ。

 魔法の扱いにかけては間違いなく一流だ。


 もっともセルアの場合は火魔法の威力ひとつで突破してしまっていたが。


「王女様こそ頼もしいですよ」


「そうですか? あなたたちの方がよほど強いと思いますが?」


 俺の意見に対して王女様は首をかしげた。


 しかしレイモンドさんの話では王女はこの国でも屈指の魔法使いだったはず。

 これで俺たちのメンバーは前衛三人(おれ、ジェストさん、シルバ)後衛三人(アルミナ、王女、セルア)でバランスが取れる。


 そんなのんきなことを考えながら階段を上る。そして階段から通路につながる扉を目の前にして、俺たちは一度停止した。


「アルミナ。扉の向こうの状態は分かる?」


「はい。複数の人がここを取り囲んでいます。おそらく迎撃をするつもりなのでしょう」


 さっき俺たちと交戦した奴らは偵察か何かだったのだろう。

 そいつらの帰りを待っているのか、俺たちが出てくるのを待っているのか。

 おそらくは両方か。


「なら、俺が飛び出して囮になります。敵の攻撃がやんだら、全員で出てきて敵を制圧してください」


「…わかりました」


 エステルナ王女がそう返事をし、ほかの四人はコクリと頷いた。


 スゥっと息を吸い込み、扉を開け、目の前の空間に踊りでる。

 出てきたのが味方ではなく俺だと分かったのだろう。扉を半円状に囲んでいる連中が、一斉に魔法を放ってくる。


 同士討ちになってくれればと、とっさに身をかがめてみたが、敵もそこまで鈍くは無いようで、火球が一斉に俺の方に飛来する。


 ドコオォォォン!!!

 

 いくつもの火球が同時に破裂し、俺を起点に熱波が吹き荒れる。


 しかし残念。

 そのくらいの威力では当然俺にダメージを与えるなんてことは不可能。


 熱波が収まったのを見計らって、扉から残りのメンバーが飛び出してきた。

 魔法使い三人組が右翼を向き、残りの二人が左翼に突っ込んだのを確認し、俺は正面を担当する。


 俺に魔法が効いていないのと、更なる増援に気が動転したのか、相手の対応が遅れている。


 俺が正面の三人。ジェストさんとシルバが左翼の三人。残りの右翼の全員をアルミナたちが魔法で片づけ、奇襲は俺たちの成功に終わった。

 


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