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ある日不死身になりまして・・・  作者: 黒々
第二章 エストワール騒乱編
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パワーバランス

主人公たちが出撃するまでのお話です。


 セルアが俺に向けて火球を放ってくる。


 ここ最近熱量がますます上がってきたせいで、火傷をするようなことはないが、俺にぶつかるたび地下室に熱波が吹き荒れ爆音が響き渡る。


 彼女は火魔法しか使えない(使わないだけかもしれない)が、その火魔法がはっきり言ってシャレにならないくらいの威力なのだ。


「セルア。そんな威力の攻撃を一般兵士相手に使うなよ?」


 一応釘を刺しておく。


 初めてこの火球を使った時、セルアは汗だくになって息を切らせていたはずだが、もう慣れたのかほとんどノーモーションで火球を放ってくる。


 とはいえ、大技に頼りすぎるのも問題だろう。

 相手に必要以上のダメージを与えてしまうのもあるが、それ以上に彼女の消耗しすぎてしまうほうが問題だからだ。


「勿論ですよ。マサキさん以外にこんな攻撃使えませんよ」


 なんてことを口走るセルア。

 俺の頑丈さを信用しているからなのか、俺が相手だから使っているのか判断に困る表現だが、まあいいか。


 今のセルアの火魔法の威力は、火傷こそしないものの、棒立ちで受ければバランスを崩してしまうくらいの威力がある。


 一般人には明らかにオーバーキル。物理攻撃に換算すると、オーク・ジェネラルの全力攻撃をも上回るだろう。


 最近になって分かってきたのだが、俺の特異体質は攻撃の種類に関係なく一定レベル以下の攻撃を無効化するようなのだ。


 魔物や獣の攻撃は論外。


 ジェストさんの攻撃でも身構える必要はなく、ゲイルの通常攻撃と同程度の威力だった。


 俺が踏ん張る必要があるくらいの攻撃といえば、メルビンさんの魔技や、アルミナとセルアの魔法。それとオーク・ジェネラルの渾身の一撃位のものだ。


 勘違いしそうだが、これはジェストさんとオーク・ジェネラルが戦えばオーク・ジェネラルの方が強いということではない。


 ジェストさんは重戦士というよりは、技量の高い軽装備の戦士なのだ。


 そのため、俺にダメージを与える方法がないというだけで、俺の見立てでいえばセルアやオーク・ジェネラルとジェストさんが一騎打ちすればまず間違いなくジェストさんが勝つと思う。


 また、セルアは本気で俺に魔法をぶち込んできているが、アルミナは気遣って魔法を放っているように思える。


 彼女がこの地下で本気の魔法を放つと、俺たち全員が生き埋めになってしまう可能性さえあると考えているのだろう。


 それに俺に本気で手傷を負わせようなんて思っているわけでもない。

 そのためアルミナの魔力は未だに底が見えないのである。


「次はアルミナさんの番ですね」


 一通り魔法を試し終えたセルアが、アルミナにバトンタッチする。


「では、マサキさん。行きますよ」


 そういってアルミナの右手が赤く光る。

 セルアと同程度の火球を放ってくるが、アルミナの方がややタメが短い。


 セルアは一度緋色に腕を光らせてから赤色に変化するのに対して、アルミナは初めから赤色で魔法を放つことができる。


 それだけでも練度の違いがありありと伝わってくる。

 受ける衝撃もほぼ同程度で、地下室に爆音が響く。


 煙が立ち上がるわけではないので、いくら火球を放っても問題はない。

 アルミナは続いて左手を薄緑色に光らせる。


 風魔法だ。


 そう思い、全身に力を込める。

 ハンマーでたたかれたような衝撃が俺の体をくまなく打つ。


 以前魔物たちを全滅させた鎌鼬を使ってもいいのかもしれないが、それをすると俺は大丈夫でも新しい服が必要になるため、今は自重してくれている。


 続いて水魔法が飛んでくる。

 水弾に合わせて右手を振るい叩き落とす。


 最後に石つぶてが飛んでくる。

 これはエルフの里で初めて戦った奴が使っていた魔法だろう。


 以前は散弾のように使っていたこともあったが、今回はこぶし大の大きさの石が一つだけだ。


 左手を握りしめて飛んでくる石に叩き付ける。

 案の定、石は木っ端みじんに砕け散る。


 アルミナは火、水、土、風の四つに加えて癒しの魔法も使えるといっていたが、とりあえず戦闘に用いれる魔法の練習を行っているというわけだ。


 魔法に関してセルアとアルミナでは、やはりアルミナの方に一日の長があるようだ。


 そもそも種族が違うので、前提がいろいろ間違っているかもしれないが。


「やっぱりアルミナさんはすごいですね!」


 そういってセルアがはしゃいでいる。

 誰であれ自分の最大威力の魔法を連発することはできないので、セルアの最大威力の魔法と同規模の魔法を連射し、その上でさまざまな属性を使い分けているアルミナのことを師事するのも当然と言える。


 ん? と思いアルミナに声をかける。


「アルミナ。二つの魔法を同時に発動するっていうのはできないの?」


 彼女は両手で交互に魔法を発動させていた。


 ともすれば彼女は両手で別々の魔法を発動させることも可能なのではないか?


「両手で同時ですか?」


「ああ、右手に炎、左手に氷みたいな?」


 メ○ローアみたいな? 言ってる俺の方が疑問形だ。


「……そういう発想はありませんでした。面白そうですね」


 形のいい顎に人差し指を当てて考えるアルミナは、内心ノリノリのようだ。


「というか魔法の本にはそういうことは書かれていなかったの?」


 百冊近い魔法書を読んでいながらそういう概念はまるで記載されていないとでもいうのだろうか?


「ええ。魔法書に書かれていたのは、魔力とは何かという内容や、魔法をいかに使うかというものばかりで、魔法を使った応用などといったことはほとんど書かれていませんでした」


「…そんなんで魔法大国と名乗っていいのか?」


 俺のささやかな疑問に、近くで俺たちの訓練を見学していたジェストさんが答えてくれた。


「魔法というものは、使えない人の方がはるかに多いですからね。このエルトワール王国内にもそう多くはいませんよ。この国が魔法大国と呼ばれているのは、魔法使いの数がほかの国に比べて多く、魔法の研究に携わる人もまた多いからなんです」


 なるほど。

 魔法使いというのはとても希少で、その魔法使いがある程度保有できている国がここくらいということか。


「ちなみにこの国ではどのくらいの魔法使いがいるんですか?」


「約千人です。そのほとんどが、エルトワール王国軍の精鋭として、この国の城下町に住んでいます。本来なら彼らが最も手強い相手になったでしょうが、今回の遠征でほぼ全員が出撃しています」


 確かにセルアくらいの魔法使いなら俺達が遭遇した山賊よりは強いだろう。


 それで魔法使いのほとんどは国に徴兵されるということか。

 ついでに魔王の対処に駆り出されて国を開けてしまったと。


「ちなみに私だったらその魔法使いたちの中に入れますかね?」


 セルアがジェストにそう質問する。


「まず間違いなく引き抜かれるでしょうね。セルア殿ほどの腕前ならば、魔法使いの中の精鋭百人以内に入るのは間違いないと思われます」


「本当ですか!」


 セルアは心底嬉しそうにそういった。

 セルアでそれならアルミナだったらどのくらいになるのか興味はあるが、まあとりあえずは置いておこう。


「じゃあアルミナ、やってみる?」


「ええ。やってみましょう」


 アルミナがそういうと、彼女の右手が緑色に、左手が黄色に光りだす。

 風魔法と土魔法だ。


 そう思い、腰を落として身構えた。

 アルミナが両手を俺に向けて突出し、魔法が放たれた。


 ドゴオォォォン!!!


 そんな音が地下室に響き渡った。


 音の発生源は、俺に拳大の岩石が当たり、そのまま吹き飛ばされて背後の壁に衝突してしまったからだ。


「マサキさん!!」


 アルミナが俺に駆け寄ってくる。


「…大丈夫だよアルミナ。吹き飛びはしたけど、体に異常はないよ」


「本当ですか?」


 上目遣いに俺の様子をうかがうアルミナ。

 ヤバイ。かなり可愛い。


「大丈夫だって。ほら、どこにもけがはないだろ?」


 そういって両手を広げる。

 一通り確認したアルミナは、ほっと一息ついた。


「本当に申し訳ありません。まさかこんなことになるとは思わなかったので…」


 かろうじて俺が見て取れた光景は、アルミナが放った『岩弾』が風魔法に乗って高速で飛来したということだった。


 風魔法は、不可視に加えて高速なので、回避するのが極めて難しい。

 しかし威力だけで見れば質量がある土魔法の岩弾の方がはるかに上回る。


 その二つは両立させることができないはずだが、今回アルミナが使った魔法の場合、岩弾に風魔法のブーストが加わってこのような結果になったのだ。


「それにしてもすごい。アルミナ、これはなんて魔法なの?」


「この魔法の種類ですか? …すみません。本で読んだこともない魔法なので」


 そう言葉を切ったアルミナは、ふと思いついたように俺を見た。


「マサキさんの発想でできた魔法なので、マサキさんが呼び方を決めてはいかがでしょうか?」


「へ?」


 かなり間抜けな声が出たと思うが、アルミナがあんまりにも目を輝かせてこっちを見てくるため断るに断れない。


「そうだねー。属性を混ぜるから、混合魔法かな?」


「なるほど。それはいいですね」


 俺が適当に決めたカテゴリーがお気に召したのか、アルミナは上機嫌だった。


「ところでアルミナ。さっきの魔法は、威力をさらに上げることはできる?」


「はい。やろうと思えば」


 らしい。

 となるとアルミナが本気を出せばおそらく俺の防御を突破するな。


「……このような魔法があろうとは」


「……アルミナ嬢、とんでもないお方だったんでやすね」


 さっきアルミナが使った魔法にジェストとシルバが放心している。


「さっきの魔法は、この国では使う人はいないんですか?」


「…使える人はいるかもしれませんが、表立って使っている人は見たことはありません」


「使える人はいるかもしれない?」


 俺のそんな疑問に、ジェストさんは我に返ったのか説明を始めてくれた。


「この国では、優秀な人材ほど重宝されます。ですがその反面、優秀さを演出するために、自らの研鑚の成果を秘匿するものが多いのです。魔法使いたちはその傾向がさらに顕著です」


 …つまりあれか、企業秘密的な何かを個人個人がやっているってことか?


 俺のいた世界が発展しているのは、突き詰めてしまえば情報の共有化が進んでいるからだ。


 情報の受け皿を作るために教育を施し、情報を共有することで様々な発明がなされてきた。


 情報の共有の度合いは、そのまま文明の発展に直結するのだ。


 技能の秘匿とは、そのまま周囲に対する不信を意味している。


 例えば戦国時代では、武器の象徴ともいえる刀を造るための技術はそのまま戦力に直結してしまう。


 戦う相手よりもいい武器を持っているというアドバンテージは、戦時下においては何よりも重要なものだったため、実の息子が相手であってもその技能の欠片さえ教えることが無かったらしい。


 ちなみに現代科学が合金製の刀を作った場合は、歴代の名刀よりも頑丈かつ鋭い切れ味を持つらしいが、俺は剣士ではないからよく分からん。


 ……かなり脱線したが、要はこの国は秘密主義であるってことか。


「となると、この国にもアルミナくらいの魔法使いがいるってことですか?」


 そんな奴がいるとすれば今回の一戦は相当気を引き締めてかからないといけなくなる。


 しかしジェストさんの回答はあっさりしたものだった。


「いないとは言い切れませんが、アルミナ殿ほどの魔法使いを王宮が見つければ即座に筆頭魔導師にすると思います」


「というと?」


「あれほどの魔法を憚らずに使うような魔導師は王宮にはいないのですよ」


 なるほどね。


 秘匿している連中よりもあけすけにとんでもないことをやってのける奴の方が重宝されるのは当然だろう。


「なるほどね。アルミナレベルの魔法使いがいないならそれに越したことはないな」


「そうですね。もっとも、エシュバット王子は未知数ですが」


 そうなのだ。

 懸念材料があるとすればそこだ。


 とは言っても、すでに作戦に参加してしまっているため、これ以上何をどうするつもりはない。


「まあ、こっちは戦いに備えるだけですよ」


「そうですね。では、一手お手合わせ願います」


 そういうとジェストさんが木刀を構える。


「マサキの旦那。あっしも一緒に相手してもらっていいでやすか?」


 最近模擬戦にも慣れてきた俺の相手はジェストさんでも厳しくなってきたためシルバと二人掛りでやることも多くなってきた。


「ああ、やろう」


 セルアも魔法を習得しつつあるし、アルミナは出鱈目だし。


 今度彼女に物理とか科学とかをわかる限りで教えてみるのも面白いかもしれないな。


 そんなことを考えながら、俺は二人の攻撃を捌くのだった。

補足説明。

魔法使い。世間一般的な呼び方。

魔導師。王宮が召し抱える魔法使いの呼び方。魔法使いとなんら変わる者ではない。役職名と言い換えてもいい。


本文中にうまく説明できなかったのであとがきに書かせてもらいました。

自分の編集力のなさが恨めしい。

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